ツボカビに両生類が大きな被害を受けたときに、私たちは気づくべきだった。
微生物と生物の依存関係ががらりと変わりつつあることに。
新型コロナ・パンデミックは始まりに過ぎない。21世紀は感染症の世紀だ。次は
菌との戦いである。そして頼りの抗生物質は、耐性菌の登場とともに終わる。
なす術はないのか。いや、あると私は考えている。植物のチカラの利用である。

[前編]知っておくべき新型コロナウイルス感染症のリアル
[中編]知っておくべきウイルスとの戦い方
[後編]微生物との戦争――ヒトと動物、環境と微生物の葛藤


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「致死率が低い」と報道され、マスク着用が個人の判断となり、5類になることも決まったいま、世の中はすっかり楽観ムードとなっている。しかし、ウイルスの病原性が変化し、感染しても問題がなくなったから5類にするわけでも、5類にするから問題がなくなるわけでもないことは、改めて確認しておきたい。

国はオミクロン変異体の致死率の低さを根拠にして政策を決めているようだが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は死亡だけがリスクなのではない。脳を含む全身の臓器に感染し、損傷を与える。軽症でも脳が10年分の老化をするという研究も出ている。
cf.
Even a mild case of COVID can shrink your brain the same as aging 10 years, study shows
https://fortune.com/well/2022/03/08/long-covid-brain-aging-damage-smell-study-mild-symptoms/

感染による免疫不全も厄介だ。私たち人類はいま、新型コロナウイルスがフォワード、菌がバックスという微生物混成チームに押しまくられている状況である。新型コロナウイルスという強力なフォワードに体内に侵入され、免疫系を蹂躙され、疲弊し、外敵への抵抗力を失ったところに、連鎖球菌やアスペルギルスなどの菌がかろやかなステップできりこんできて、トライを決めている(→詳細は「知っておくべき新型コロナウイルス感染症のリアル」を参照)。

主として犠牲となるのが、子どもと高齢者である。すでに国民の大半が感染している国においては、アスペルギルスや溶連菌に感染するケースが増えており、劇症化している例も多い。菌感染症が劇症化すると新型コロナよりはるかに致死率が高い点が要注意である。

死亡リスクを判断基準とするならば、新型コロナより、その合併症とでも言うべき菌感染症を恐れるべきなのだ。とくに体力のない子どものリスクが高い。ワクチン未接種のまま、新型コロナウイルスを何度も何度も体内にいれて増殖させるのは、本当に避けたほうがいい*1

一方、感染者が国民の多数となった国では、18‐64歳の現役世代の心臓疾患による突然死も目立つ。アメリカの保険会社の統計では、この世代の死亡率が40%も上昇している。新型コロナウイルスが体内で好き放題増殖すると、心血管系にダメージを受けるからだ*2。このウイルスを呼吸器ウイルスだと決めつけてはいけない。心血管ウイルスである。

「感染したけれど、軽症だった。こんなの風邪以下」という人も多い。そう考えて安心したい気持ちもわかる。しかしながら、感染者の多い欧米で目立つのが、複数回の感染での健康リスク増だ。

このグラフがわかりやすい。横軸が感染回数である。3回目の感染で、イッキに後遺症/合併症リスクがあがっている。やはり感染しないこと、少なくとも複数回の感染は避けるべき病気だ。対策をして時間稼ぎをしている間に、医学の進展を待つほかない状態である。

なかでも心配なのが、獲得免疫のつきにくい子どもたちが、ノーワクチンのまま2度3度と感染しはじめていることである。菌感染症も心配だが、体内の毛細血管がダメージを受けるという話もあるし、軽症でも心臓に異常が見られることも判明しているので*3、部活動などには細心の注意を払う必要があると思う。

子どもも大人も、病み上がりに無理はさせないことだ。3か月くらいは徐々に運動負荷を増やすといった対応が必要だと思う。そしてスポーツ関係者は、AED(Automated External Defibrillator. 自動体外式除細動器)の使い方を再度確認し、いつでも使えるようにしておくことを勧める。

接触感染対策・飛沫感染対策・空気感染対策のミックスが基本

ここで話はがらりと変わる。私は新型コロナウイルスとパンデミックについて研究しているうちに、当然のことながらこのウイルスと感染様式に詳しくなり、自然と周囲から相談されるようになったため、仕事として感染対策のアドバイスもするようになった。

感染力の強いオミクロン期になっても、お礼のメッセージを多数いただいている。

「感染した家族を自宅で看病しましたが、家庭内感染は防げました」
「ここまで感染することなく、保母の仕事ができています」
「産婦人科クリニックです。これまできっと感染者が多数いらっしゃっているのだけれども、スタッフに感染者は一人も出ていません」
「介護施設に外からきた食事介助者が陽性! 食事を介助された人を中心にしたクラスターを覚悟したけれど、誰にもうつりませんでした」

なかでも、濃厚接触を避けられない状態にもかかわらず、感染を防ぐことができたというお便りが最もうれしい。宿泊療養という制度もなくなったこれからは、自宅療養における感染対策が最大の課題となることは明らかだ。

でもこれ、けっして自慢ではない。新型コロナウイルス対策の根幹は、接触感染対策・飛沫感染対策・空気感染対策のミックスである。つまり、手指衛生・マスク(またはフィジカルディスタンシング)・換気であり、私はこれを徹底するように助言しただけだ。その具体的なノウハウは記事「知っておくべきウイルスとの戦い方」にまとめて公開している。

ただ、とある植物エッセンスを活用すると、対策がラクになることは紹介しておきたい。「グレープフルーツ種子抽出物」である。Grapefruit Seed Extractを略して「GSE」という。無臭で扱いやすく、ヒトにも動物にも安全であることが確認されており、海外ではサプリメントとして飲む人!も多数いる植物エッセンスだ。それでいて、多くの菌・カビ・ウイルスを抑制する機能性をもつ(科学的エビデンスは付記にまとめておく)。とても有用だと私は評価しているが、ほとんど知られていないので、今回はこれについて書く。

菌やウイルスを抑制する機能をもつ植物エッセンスは珍しくない。緑茶フラボノイドやヒノキチオール、ティーツリーオイルなども効果がある。日本人は昔からこの事実をよく知っていて、寿司を柿の葉や笹の葉で包んだり(奈良・柿の葉寿しや富山・ますの寿しなど)、おにぎりを竹の皮で包んだり、弁当の仕切りにハランを使ったりした。いわば自然派の微生物対策だ。

緑茶フラボノイドやヒノキチオール同様、GSEもウイルス抑制効果がある植物エッセンスである。ただし、最初にお断りしておくが、これさえあれば大丈夫だとか、新型コロナの特効薬だとか、そういう類のものではない。手指衛生をはじめとする感染対策の補助として位置づけられるものである。

つまり、併用すると「対策がラクになる」というだけのことだ。この点は誤解のないようにお願いしたい。そもそも手指衛生/マスク/換気という基本がしっかりできていれば、併用する必要もないだろう。

また、書き進める前に、読者に対してCOI(Conflict Of Interest. 利益相反)情報を開示しておく必要がある。私は新型コロナ・パンデミックを前にして、GSEに着目し研究する一方、身近にGSEを気軽に使える環境がなかったため、GSEを活用するシステムと薬剤を自ら製品化したからだ。

つまり、私はGSEが注目され、関係する商品が売れると利益を得る立場でもある。ぜひ、「自分が儲けたいからいろいろと煽っているのではないか」という疑いをもちながら、読み進めていただきたい。もちろん、その疑いが晴れるように、あくまでも科学的エビデンスに基づいた情報を紹介するつもりである。


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注記

*1 ワクチンの役割は、抗原を何らかの形で体内に入れ(mRNAワクチンの場合は、抗原の設計図を入れて体内で作らせる)、ヒトの免疫に予行演習をさせることにある。これで獲得免疫がつき、a)ウイルスを水際で撃退できる可能性と、b)体内での増殖を抑えこむ可能性が高まる。
このaが感染予防、bが重症化予防である。新型コロナウイルスの場合、変異するたびに免疫を回避する能力が高まる上、時間経過とともに抗体(水際で侵入を防ぐ武器)が減衰するため、ワクチンを接種していてもaの効果は限定的だ。
しかしbについては、効果を認める研究報告が多数出ている。事実、オミクロンからの致死率の低下はbによるもの、つまりワクチン接種効果であると判断してよい。オミクロン変異体の病原性は、ワクチン未接種のヒトにとっては、デルタ変異体に迫るものだということがわかっているからだ。
獲得免疫がない場合(感染歴もなく、ワクチンも未接種の場合)、ヒトの自然免疫でのウイルス対応となるが、この場合は起動が遅れる(数日かかる)ため、この間にウイルスにいいようにされてしまう。
また、これまでに経験のないウイルスへの対応となるので、免疫がまごつくと重症化あるいは重篤化の可能性が高くなる。下手をすると免疫が過剰反応して、逆にそれが死につながることもある(サイトカインストーム)。
重症化を回避できたとしても、体内でウイルスに好き放題増殖させることは好ましくない。Sタンパク質が体内で大量につくられてしまうし、体内の複数の臓器に持続感染したり(これがLong COVIDの原因だという説も出ている)、免疫不全となったりする可能性が高まる。
この研究がわかりやすい。感染者のその後のリスクを追って研究したものだが、ワクチン未接種で感染した人のLong COVID率は、接種して感染した人の7倍近い。歴然とした差だ。感染中に獲得免疫でウイルスを叩けた人と、そうでない人の違いと理解していいだろう。
cf.
A prospective cohort study assessing the relationship between long-COVID symptom incidence in COVID-19 patients and COVID-19 vaccination
https://www.nature.com/articles/s41598-023-30583-2

以上の理由から、私はワクチン未接種の子どもに複数回感染させるのは、その後に健康を損なう可能性が高くなるだけだと考えている。感染経験がある場合も、それで安心せず、接種したほうがいい。子どもにとっての感染の脅威は主として、免疫不全で菌感染症にかかりやすくなることであるが、他にも自己免疫疾患が増える可能性も指摘されており、健康を損なうリスクが高まることは間違いがない。
cf.
SARS-CoV-2 infection of thymus induces loss of function that correlates with disease severity
https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(23)00147-1/

新型コロナウイルスが胸腺に感染し、機能を低下させることを示した。胸腺の機能が阻害されると、免疫で重要な役割を果たすT細胞が暴走し、自己免疫疾患が増える可能性も出てくる。専門家の解説はこちら

よく「オミクロンでただの風邪」というが、「ただの風邪」の条件は二つある。第一は、上気道のみに感染すること、第二は、重大な疾患にならないということだ。新型コロナウイルスは脳を含む全身の臓器に感染しうるし、死亡・後遺症・合併症リスクを高めるので、到底、「ただの風邪」にはあてはまらない。

*2 この記事によくまとめられている。心臓の動きを司るカルシウムの働きがおかしくなるという話も出ている。
How COVID-19 Changes the Heart—Even After the Virus Is Gone
https://time.com/6256674/covid-19-affects-heart/

*3 毛細血管が減少しているのは、この研究による(プレプリント)。
Post-COVID syndrome is associated with capillary alterations, macrophage infiltration and distinct transcriptomic signatures in skeletal muscles
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2023.02.15.23285584v1

感染後のLong COVIDの症状のひとつに倦怠感があるが、それは毛細血管が減少しているからかもしれない(代謝が進みにくい)。

また、軽症で済んだ子どもも心臓に異常が残っている件は、この研究による。
Mid- and Long-Term Atrio-Ventricular Functional Changes in Children after Recovery from COVID-19
https://www.mdpi.com/2077-0383/12/1/186


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