科学的事実に基づくマスクのFAQ

Q01: もう4年目ですよ。まだマスクに効果があるとかないとかでモメているのはなぜですか。
A:
マスクをしたくない人が屁理屈をこねるからだね。「だったら一生マスクしてろ」と捨てセリフを吐くし、メンタリティは小学生レベル。科学的事実に基づく議論ができない。たとえば、今年に入ってからも世界中の病院で、マスクの義務化を解除したら新型コロナクラスターが増え、再び義務化したらおさまるという事実が観察されているのに、それを認めようとしない。これだけでも効果は明らか。アメリカの小児科病院でユニバーサルマスクを廃止し、面会する人のみマスクにしただけで、RSV、インフルエンザ、COVID-19、ライノ/エンテロウイルスなどの呼吸器感染症が5倍も増加したという。
cf.
Healthcare-associated respiratory viral infections after discontinuing universal masking
https://www.cambridge.org/core/services/aop-cambridge-core/content/view/E3B1E21AFB9D9BA4C535F7BB810A3D1C/S0899823X23002003a.pdf

国内でも精神科病院にはマスクをつけられない集団がおり、このノーマスク集団でクラスターが起きても、同じ施設内のマスク集団には起きないという相違が観察されている。
2023年夏秋、日本中の学校がインフルエンザクラスターを起こして学級閉鎖・学校閉鎖が頻発したが、教師も生徒もマスクを続けている学校は無風だ。事実が有効性を示している。

Q02: そうはいっても、「マスクの目の隙間よりウイルスのほうが小さいから素通りする」という意見は説得力があります。ふるいと同じで、目が粗ければ通してしまうじゃないですか。
A:
そう主張しながら、「酸素が通らず酸欠になってバカになる」とも言っているよね。酸素分子のほうがウイルスより小さい。ウイルスを素通しするのに、酸素は通しにくいって、どんなトリックだよ。
素通り説が間違っているのは、空気中にウイルスしかないと暗黙のうちに仮定していることだ。事実は違う。空気中には酸素分子も窒素分子もホコリも無数にある。高校の化学でmolを習っただろう。摂氏0度/1気圧で22.4Lの気体(1mol)には、6.02×10の23乗個の分子がある。6020垓個だ。マスクの目にさまざまな物質の分子やホコリが殺到するんだよ(注:垓(がい)は億・兆・京の次の数詞)。
しかもそれぞれが振動しているから、おいそれとは通りぬけられない。群衆事故と話は同じ。韓国の梨泰院の事故(2022年)や明石花火大会歩道橋事故(2001年)がなぜ起きるのか。通りも歩道橋も人が十分に通れる広さだ。しかし、そこに人々が殺到すると通れない(犠牲者のご冥福をお祈りします)。

実際に新型コロナウイルスを対象にしたマスク単体のフィルタリング性能評価を、東京大学医科学研究所が行って論文にしている。これを見ると明らかにウイルス吐出を抑止する効果はあるし、ある程度は防御力もある。あとはこれをどうみんなが着用するかによって結果が変わるというだけだ。
cf.
新型コロナウイルスの空気伝播に対するマスクの防御効果
https://www.ims.u-tokyo.ac.jp/imsut/jp/about/press/page_00042.html

Q03: ギシギシに詰まった満員電車からすんなり降りられるかというと、たしかに通り抜けるのが難しいのはわかります。それでも、数個のウイルスなら通り抜けるのでは?
A:
可能性としてはもちろんあるが、現実は厳しいよ。そもそも不織布でしょ。不織布は織っていないから目は不規則にあいている。これを3枚から5枚ほど重ねているのが不織布マスクだ。イメージ図を出しておこう。じつは通り抜けられる隙間などあいていない。
「ウイルスは小さいからマスクをすり抜ける」というけれど、誰もすりぬける瞬間の観察に成功していないでしょ。それを証明した研究も見たことはない。ま、ウイルスを相手にそれを検証するのはかなり難しいけれどね。電子顕微鏡でないと観察できないし。

Q04: 「新型コロナは空気感染するから、防げない」という意見もよく見ます。
A:
そもそも、「空気感染」という用語を正しく理解している人なのかが問題。「空気で感染する」という理解をしている人だと、「空気を通す限りは感染する」と思っていたりするからかなわない。
さすがにここまでセンスがないのはどうかと思うが、「窓をあけるな。危険だ」と部下を叱った上司がいたらしい。「空気感染するのだから、外から空気をいれると感染する危険が増す」という思い込み。
この人はCO2にウイルスが付着して大気中を漂っており、それを吸い込んで感染するという理解をしていたようだ(爆)。空気の清浄度をはかる指標として、CO2濃度を測定するのが定着していることから「CO2を通すと感染する」と誤解したらしい。ネコの背中にライオンが付着してこっそり部屋に入ってくるから危ない、というくらい荒唐無稽。
「新型コロナは空気感染する」を正確に言うと、「新型コロナは飛沫核感染をする」だ。飛沫の水分が乾燥すると、むきだしのウイルス(飛沫核)になる。飛沫核は軽いのでブラウン運動し、空気中を浮遊する。この状態だと感染力がなくなっているウイルスが多いのだが、新型コロナウイルスは乾燥後も3時間くらいは感染性を保つようだ。そして吸い込んだ人が発症する。
もちろんこれがウイルスそのものなので、不織布マスクだったらブロックできる。ただ鼻のまわりの隙間などから吸い込んでしまう可能性はあるから、防ぎきれない可能性があることも事実だ。換気などで空間中のウイルス量を減らしながら全員でマスクをするのが正解。

(2024/4/21追記)2024年に麻疹騒ぎがあったため、また「空気感染するからマスクでは防げない」という人が大量に発生した。医療の専門家でさえ、そう主張する人がいるが、「防げない」のではなくて「防ぎにくい」であり、それでもウイルスを吐出する人がマスクをすれば、「高い確率で防げる」というのが科学的事実である。口元のマスクが「ウイルスを含む飛沫」の拡散をとめてくれるからだ。空間中に排出されるウイルス量をマスクで減らし、換気や空気清浄機で減らし、自分もマスクをして吸い込む量を減らす。このやり方で医師たちは、麻疹や新型コロナのように空気感染する感染症の患者を相手に、自らの感染を防ぎながら治療している。

Q05: でも、だったらなぜ日本人はあれほどマスクをしていたのに感染が拡大したりしたんですか。
A:
マスクをとったら、もっと拡大していただろうね。第9波で目立つのは、通勤電車や新幹線など、「電車で感染したとしか思えない」という人が増えていることだ。第8波までは、こんな声はほとんどなかった。電車内ではマスクをするのが当たり前だったからだ。
そもそもこれは反証にもなっていない。特定場面での効果と社会全体での結果を混同しているからだ。「傘をさしても濡れることあるから、傘に意味はない」とか、「夏になれば水の事故は増えるから、ライフジャケットに意味はない」と言っているようなもの。
ライフジャケットの効果は説明するまでもないだろう。同じくらい、電車内や会議室で全員がマスクをすると効果がある。これを疑う余地はない。局面での全員マスクの有効性は立証されている。一方で、じつはマスクって、必要な場面で外さざるを得ないことが多い。会食が典型例だね。あるいは家庭内もそうだ。家庭内感染が多いことがわかっていても、親子で家でもマスクというのは、それこそ発達にかかわるだろう。親子でお風呂なんてシーンではマスクをするのも無理だ。
つまり、ライフジャケットを脱いで、ウイルスまみれの海に飛びこんでいることも多いわけ。これがマスクをしているのに感染拡大してしまう理由だよ。往々にして必要なところで外さざるを得ないのがマスクだ。だから社会全体でみると、結果が見えにくい。部分と全体の話を混同してはならない。24時間、マスクをし続けている人はいないだろ。

Q06: それでも「マスクをしていても日本が感染世界一」だったんでしょ。それで本当に意味があると言えますか。バカみたいだなと思うんです。
A: それは事実誤認。日本が感染ワースト1になったと報道された2022年の夏は、他国がもう感染者数をまじめに数えるのをやめていた時期だ。たとえばこの研究は、アメリカのその時期の本当の感染者数を分析している。なんと実際は公表値の約25倍の感染者がいたという。「ワースト1」がデマだよ。
cf.
The prevalence of SARS-CoV-2 infection and long COVID in U.S. adults during the BA.4/BA.5 surge, June–July 2022
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0091743523000415

Q07: マスクをしていたのに感染した例もあるようですよ?
A:
理由は二つある。第一はマスクの限界。第二は、それくらい新型コロナウイルスの感染力が強いということ。まずマスクは攻撃力を効果的に奪う一方で、防御力には限界がある。鼻の周囲などに隙間をつくっている人が多いからだね。下手すると鼻だしマスクだ。これで感染を防ぎきるのは無理。これがマスクの限界だ。
そしてこのウイルス、本当に信じられないほど感染力が強い。感染者と同じ部屋に15分間いるとして、互いに不織布マスクをしていても、換気が悪いとクラスターが発生するという。CO2濃度770ppm以上になるとリスクが高まる。互いにノーマスクの場合、外気と同じレベルにCO2濃度を抑えないと、感染拡大待ったなしだ。
cf.
SARS-CoV-2 airborne infection probability estimated by using indoor carbon dioxide
https://link.springer.com/article/10.1007/s11356-023-27944-9

新型コロナウイルス感染症が5類になって初めての2023年夏。「新幹線や特急などは感染リスクが高い」と帰省ラッシュ前に警告をしたが、それは以下の理由からの論理的帰結だ。

  • 新幹線や特急のCO2濃度実測値をみると、770ppmの数倍高い
  • しかも新幹線や特急は閉鎖空間に滞在する時間が長い。2時間以上がザラ
  • 5類になってから感染者がノーマスクで乗車するケースが増えた

少なくとも、感染者がマスクをしてくれないと、このリスクは軽減できない。感染したくない人がN95マスクのような医療用高性能マスク(規格はJISやEN規格などで定められている)を着用したとしても、長時間になると厳しい。

Q08: でもどうやって、感染者にマスクをしてもらうんですか。新型コロナは発症前からウイルスを吐出するので、見た目が元気だというだけではわからない。全員に都度、検査をしてもらうのは無理でしょう?
A:
難しくない。その場にいる全員がマスクをするという習慣にすればいい。これをユニバーサルマスクという。検査をして感染者を特定し、その人にマスクをしてもらうより、はるかにコストが安い。検査の偽陰性問題も関係なくなる。
電車やバスなどの公共交通機関、感染弱者が多数いる病院や介護施設、スーパーマーケットやデパートなどの買い物場面や学校で全員がマスクをすることを継続していれば、第9波の感染者数も入院者数も抑えられた可能性が高い。
その効果は、スイスの学校で実測されている。空気中のエアロゾルも計測しての実証研究だ。全員がマスクをすれば、教室内のエアロゾルは69%減少する。ここまで減らせるなら、あとは換気や空気清浄機の併用で、感染リスクをぐっと小さくすることが可能だ。
cf.
SARS-CoV-2 transmission with and without mask wearing or air cleaners in schools in Switzerland: A modeling study of epidemiological, environmental, and molecular data
https://journals.plos.org/plosmedicine/article?id=10.1371/journal.pmed.1004226

Q09: いくら効果があるといっても、酸素不足や二酸化炭素の過吸引でバカになるとか、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなるものなんか、つけたくないですよ。
A:
どちらも個人の想像でしょ。食品工場とか半導体工場はマスクをしっかり着用して働くのが普通で、それを30年も40年も続けている人たちが大勢いる。もしもそれが事実なら、とっくに「日頃からマスク着用で仕事をする人たちの健康問題」が労働災害として議論になっているでしょう。
根拠なくそんな言い方をするのは、この方々に失礼過ぎる。「お前の父ちゃんも母ちゃんも、マスクして仕事してるから、もうバカになってるよな。だからお前もバカなんだな。マスクしてるし」というイジメが起きたりする可能性を少しは考えてみたらどうだ。
だいたい外科医は手術中ずっとマスク。思考力が落ちるなら、手術ミスが頻繁に起きているだろうから、マスク禁止になっている。「マスクで免疫力が低下する」と言いながら、「菌だらけで汚い」と培養した写真を見せるんだから、もはや意味不明。帰宅したらマスクをとるし、ノーマスクで風呂に入り、寝ている人が大半だから、菌・ウイルスと接する機会はいくらでもある。当然、免疫が落ちるなんてこともない。もしもそうなら、食品工場や半導体工場は従業員の全員が免疫不全となっており、病欠だらけのはずだ。到底、経営が成り立たないだろう。

Q10: いや、でも、あの、その、シャーレでわんさか菌が繁殖した写真を見てしまった以上、マスクは汚なすぎて無理です。
A:
それは栄養たっぷりの培地をいれたシャーレで培養したからだろ。「マスクで菌やウイルスが増える」という驚きの主張も見かけるが、菌は水分と栄養と温度と時間が揃わないと増えないし、ウイルスは宿主にとりついて間借りしないと増殖できない。マスク上では菌もウイルスも増えません。条件が揃っていないからね。風通しのいい、よく乾いている表面にカビが増えているのを見たことある? むしろその写真は、それだけの菌をマスクがとめた、という証明。「マスクにセレウス菌がついている」と騒いでいるが、ついているから安心できるんじゃないか。マスクをしてなきゃ、それを吸い込んでいるってことだ。
まじめに、子どものオムツ交換のときなど、マスクしたほうがいいよ。糞便中に感染性のある菌・ウイルスがいるからね。病気から治った子どもの便にも一か月くらいは排出され続ける場合もある。オフィスのトイレや公衆トイレを使うときもだ。私はマスクした上で、手指衛生を頻繁にやる。

Q11: でも保育士や教師がマスクだと、発達に問題が出るのでは? 口元が見えないと言語の習得は無理でしょう。
A: 「生まれつき盲目の人は言語を習得できない/NHKラジオ英会話は学べるはずもないので詐欺/口元が見えるといっても人形がパクパクするセサミストリートは言語道断」と言っているに等しいんだが、大丈夫か?
もちろん負の影響がゼロだとは言わない。ただ、だからこそ、マスクをとる家庭でそれを補ったらどうなの。ダイソーで売っている「変顔マッチ」のような表情を読むゲームとかをやるのもいいと思うよ。

Q12: それはわかりますが、じゃあ子どもたちはずっとマスクをとれないってことになりませんか。あまりにもかわいそう。
A:
だったら逆に、どうやったら感染リスクを大きくすることなくマスクをとれるかを真剣に考えたらいい。保育園児や小中学生がそのへんの社会人とどう違うか、考えてみたことあるかい? 接する大人が極めて限定されているんだ。銀座で飲み歩いたり、遠方からくる旧友と会食したりしないだろ。
ならば、接する大人がマスクをして、子どもたちを守ればいいじゃないか。外部との接点での感染を防げば、保育園でも小中学校でも、マスクを外すことができるだろう。なのにいまやっていることは正反対で、子どもに接する教師などの大人が「率先してマスクをとってお手本を示せ」と言っている。ナンセンスすぎる。やるべきことは逆だ。大人たちがマスクをして子ども集団にウイルスを持ち込まなければ、子どもがマスクを外せるんだ。
最低限、以下の条件を整えてあげるべき。いまは無策なままノーマスクを主張する大人のせいで何度も感染させられる子どもたちが、一方的に不利益を被っている状態だ。

  • 子どものワクチン接種率の向上(目標95%)
  • 換気や空気清浄機等の活用で教室内の空気の清浄度を保つ(目標CO2濃度600ppm)
  • 感染増加期は接する大人がマスクをして子どもを守る

Q13: 通常授業での感染リスクはそれで低減できるでしょうけれど、合唱コンクールとか修学旅行とかはどうするんですか。ノーマスクで歌いたいし、旅行に行きたいでしょう。
A:
そういう行事の場合、事前準備をしっかりやることだ。ただマスクをとらせただけで何もせず、合唱や旅行をしていれば、新型コロナやインフルエンザのクラスターが出るのが当たり前。
まず、保護者にも呼びかけて、行事の一か月前から感染対策を家族ぐるみ地域ぐるみで強化する。その上で、行事の3日前と当日の2回、家族も含めた関係者全員が抗原検査キットで陰性を確認するなどすればいい。これはお祭りなどでも一緒。ノーマスクで阿波踊りを楽しむなら、事前準備をしっかりやる。これでクラスターは高い確率で防げる。検査をうまく組み合わせると、地域全体の感染制御にもなる。

Q14: 子どもが一方的な不利益を被っているということでしたが、そもそも子どもは感染しにくいし、感染してもたいていは軽症です。感染を繰り返して免疫をつけていけばいい。そもそも子どもに感染対策など不要じゃないですか。
A: 驚いた。いつの知識で語っているんだよ。そんなのデルタ変異体まで、つまり2021年までの常識。オミクロン変異体からがらりと事情は変わっている。たしかに多くは軽症だが、新型コロナもインフルも脳症を起こして重篤化する子も死亡する子もいる病気な上に、何度感染してもロクな免疫はつかない。こんな病気に積極的にかかりにいくなんて狂気の沙汰。
そして新型コロナには子どもにとって不都合な話が三つある。第一は、感染によって免疫が攪乱されるため、他の感染症にかかりやすくなることだ。英米でも日本でも溶連菌感染症やアデノウイルス感染症(いわゆるプール熱だが、プールに行かなければ感染しない、という誤解を生んでいるので、プール熱という呼称には反対する)などが爆発的に増加しているのがその証拠。
なかでも厄介なのが菌感染症で、その余波で世界でも日本でも抗生物質が足りなくなっている。抗生物質が足りていないのに劇症化するとかなりマズイ。致死率も高く、助かったとしても指や手足の切断など、厳しい結果になることが多い。

第二は、Long COVIDになる子どもが多いということだ。これまでのところ、研究にもよるが、おおよそ5人に1人の子どもがLong COVIDになっている。咳や頭痛が続いたりするだけでも、著しく集中力はそがれる。気分も落ち込む。新型コロナの後遺症問題は本当に長く続くだけに深刻だし、そうなる確率もきわめて高い。
「子どもは感染するたびに強くなる」なんていうのは、感染させてしまい、後悔している親をなぐさめるだけの言葉で、実際は「強い子だけが生き残る」という過酷な世界だ。ワクチンのなかった時代の平均余命をみるとわかる。あるいは七五三の意味を調べてみると理解できるだろう。感染症に負けることなく三歳・五歳・七歳になれたことを祝ったんだよ。

そして第三は、子どもへの影響が小さくても、親の被害は大きいということだ。アメリカの大規模な研究で、新型コロナ感染の70.4%が「子どもが親にうつす家庭内感染」であることが明らかになっている。そして親は重症化もするし、Long COVIDで働く健康を失ったりもする。子どもの感染を防ぐのは子どものためというだけではない。親を守る方策でもある。
cf.
Smart Thermometer–Based Participatory Surveillance to Discern the Role of Children in Household Viral Transmission During the COVID-19 Pandemic
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2805468

「子どもの笑顔のためにマスクを外そう」と言うけれど、その引き換えに本人が受験を諦めたり、部活動を辞めざるを得なくなったり、指や手足を切断されたり、大きくなってから心臓突然死するリスクが増えたり、あるいは父母が死んだり、車椅子生活になったり、失業したりするリスクを背負う。これではあまりにも割にあわない。結果によっては、笑顔は一生、失われたままになるだろう。随分と残酷なことを平気で主張するんだな。
アメリカでは親を失った「コロナ孤児」(ユニセフの定義では片方の親もしくは両親または保護者を失った子ども)が28万人もいる。子どもの感染に手をうたなければ、日本でも今後は増えるよ。なにしろ子の親の世代(20代~40代)は最初の2回のワクチン接種だけで、ブースターを接種していない人が約40%もいる。じつは子どもたちの親こそ、重症化しやすい集団だ。
cf.
COVID-19–Associated Orphanhood and Caregiver Death in the United States
https://imperialcollegelondon.github.io/orphanhood_USA/

Q15: 新型コロナ感染で免疫が攪乱されて他の感染症にかかりやすくなる? ワクチンで免疫低下したせいじゃないんですか。
A:
またデマに毒されているね。あなたの周囲にいる「接種しているが、新型コロナに感染したことのない人」が、次から次へと菌やウイルスの感染症にかかって悩んだりしている? ワクチン接種で免疫低下が起きるなら、のべ4億回も接種している日本人のほとんどが毎週のように病院にかけこんでいなきゃおかしいでしょ。
アメリカの0-5歳の小児を対象にした研究が出ている。オミクロン感染歴のある子とそうでない子を分けて、RSウイルスへの感染リスクに相違が出るか調べたもの。228,940人のRSV感染歴のない小児を対象として調査した結果、新型コロナ感染歴のある子どものほうがRSV罹患リスクが高かった(6.40%と4.30%)。新型コロナウイルスが免疫系に感染しダメージを与えることも判明しているし、これも疑う余地はない。ワクチンではなく、新型コロナ感染で免疫が攪乱される。子どもたちを何度も感染させてしまうと、他の感染症による発熱などに悩むリスクが高くなるということだ。
cf.
Association of COVID-19 with respiratory syncytial virus (RSV) infections in children aged 0–5 years in the USA in 2022: a multicentre retrospective cohort study
https://fmch.bmj.com/content/11/4/e002456

Q16: とはいえ、子どものアンケート結果をみると、「恥ずかしくて外せない」という返答が多い。もはや精神病となっているのでは?
A:
軽々しく人を精神病扱いするもんじゃない。そもそも、そのアンケートの回答欄に「恥ずかしい」があり、それに子どもがマルをしているんでしょ。大人がその回答を誘導していると思うよ。
「恥ずかしいからと給食の時間もマスクを外さず、まるで食べない子が多数いる」とか、「帰宅しても外さないし、寝るときも外さない子が多数いる」という状況になってから、また言ってくれるかな。

Q17: 要するに、ずっとマスクをしていなさいよ、ということね。あなただけ一生マスクをしていればいいのでは?
A:
違う。「いつでもどこでもずっとマスクをしよう」という主張をしているわけではない。まず子どもの場合は、大人がしっかり環境を整え、ワクチンで感染リスクを下げ、ウイルスを子どもから遠ざけてやることで、外す機会を増やしていけばいい。何の工夫もしないで、無策なまま単に「マスクを外して正常化しよう」と言っていることに反対しているんだ。ただマスクをとるだけで正常化するなら、欧米でいまさらながら再度の感染増・入院者増・死者増・失業者増が問題になったりしない。
大人の場合は、周囲を見渡して感染リスクが高い場面ならマスクを着用し、そうでなければ外すという至極当然の判断をしようと言っているだけ。国は「着用は個人の判断」という表現をしている。これは判断の責任をとれ、ということでもある。けっして「着用は自由」ではない。

具体的には、「感染弱者もいる閉鎖空間ではマスク着用を原則とする」でいい。電車・バスなどの公共交通機関、病院、スーパーマーケットなどの買い物の場面だ。判断の大きな鍵は選択肢があるか否か。免疫抑制剤を飲んでいる人は感染を絶対に避けたいが、電車に乗らないと通院できなかったりするし、食料品を購入しないと食事もできない。ほかに選択肢がない以上、その場にいる人たち全員が配慮するのが「新型コロナと共存するためのマナー」だろう。
一方で、ノーマスクしか入店させない飲食店やマスク着用禁止のライブがあってもいい。それには反対しない。リスクを避けたい人は他の店、他のコンサートを選ぶことができるからだ。

Q18: 電車やバスはわからないでもない。隣の人がずっとコンコンと咳をしているのにノーマスクだと気になりますからね。しかし、スーパーマーケットなどでもマスクをする必要がありますか。
A:
新型コロナは空気感染する、という話に気をとられて忘れているのかもしれないが、飛沫感染もするんだよ。しかもいまは感染者も普通に外出をしているし、買い物もしている。5類になったから行動制限がまったくない。この人たちがノーマスクでクシャミや咳をすると、その一発で数100万~数1000万個のウイルスが飛沫とともに拡散される。ウイルスが多数降りそそいだパンとか惣菜とかを食べるの? マスクさえしてくれたら、ここまで気にする必要はなくなる。飛沫は確実にマスクでとまるからな。

Q19: でもウイルスは胃液で不活化するから、別に食べても平気なんじゃないですか。
A:
それがそうでもない。口腔内でも咽頭でも感染するから、咀嚼している間に感染リスクがある。そして胃液もじつは頼りにならないことがわかっている。pH. 2くらいの強酸性だからウイルスは胃で不活化すると言われているんだが、食事中は食べ物と反応するから、酸性度がpH. 3-4くらいまで落ちているんだ。この程度ならウイルスは生き残って腸に行く。腸にはACE2受容体が多数あるから、そこで感染してしまう。下水サーベイランスが機能するのは腸で感染しているからだ。

Q20: なんかいろいろ言ってるけれど、かの権威あるコクランが出したメタアナリシスがマスクの効果を否定しています。それに文句を言うんですか。アンタはナニサマ?
A:
論文は批判されるために出すものだ。論文発表はゴールではなくて、そこが出発点であり、ナニサマだろうと批判するのは自由。既に多数の人たちからコクランレポートは批判されている。
そもそもあなたは当該論文を読んだの? 論文著者自身が、最後にこう書いているじゃないか。
“There is a need for large, well‐designed RCTs addressing the effectiveness of many of these interventions in multiple settings and populations, as well as the impact of adherence on effectiveness, especially in those most at risk of ARIs.”
「大規模で、適切に設計されたRCTが必要だ。それは、さまざまな環境の集団を対象にこれらの(非医学的)介入の有効性を素直に確認するものであって、とりわけARIのリスクが高い人に対する能動的介入遵守(アドヒアランス)の効果もみるものでないといけない」と言っている。
何を問題視しているかは、コクランレビューがとりあげたマスクの論文をみるとわかるよ。つけたい人だけが着用して観察し、つけない人と感染率を比較して、「あまり変わらない」というものが多いんだ。その着用組がどの程度マスクをつけていたのか(アドヒアランス)が不明。街を歩くときは着用していても、感染者と宴会していたら無意味だから、「こんな研究ばかりでは、マスクの効果はわからない」と言っているわけ。
cf.
Physical interventions to interrupt or reduce the spread of respiratory viruses
https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD006207.pub6/

私たちは2020年から2022年にかけて、大きな発見をしたんだよ。その場にいる全員がマスクをすれば、感染リスクを下げられる。インフルエンザくらいなら完封できる(撲滅できるわけではないが)ということを経験した。その場に紛れこんでいる感染者がマスクをすることに大きな意味があったわけ。だからマスクの効果を研究するなら、ユニバーサルマスクの効果に絞るべきなんだ。
余談だが、忽那医師がYahoo!にマスクの効果を否定する記事を書いているため、矛盾したことを言っていると揚げ足をとる投稿を見かける。なんといってもこれは2019年の記事であり、その時点でユニバーサルマスクは誰も経験していない。個別マスクの効果はイマイチで期待できないと書いているのみで、全員マスクの効果がわかったのはその後のこと。科学は新しい知見が得られるたびにアップデートされていくものだ。この揚げ足とりはみっともないね。

Q21: では、ユニバーサルマスクというか、その空間にいる全員がマスクをすれば効果があるというのは、確認されているんですか?
A: されている。最初に言ったように、病院でノーマスクが交じるとクラスターが起きてしまうことも、全員がマスクをするとクラスターが減ることも経験済みだし、このアメリカの論文では「マスク着用義務」を指標とせず、実際の着用率(アドヒアランス)を調べて、「人口の75%以上がマスクを着用している州は、翌月のCOVID-19感染率が低い」ことを確認している。
cf.
Mask adherence and rate of COVID-19 across the United States
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0249891

Q22: とはいえ、マスクをしていても感染することもあるというなら、いろいろ我慢してマスクをするだけ損をする気分にはなりますね。
A:
正直だね。台風のときなど、濡れ始めたらイッキだから「もういいや」と雨具を捨てるような気分な。その気持ちは理解する。ただね、同じ感染するにしても、マスクをしての感染と、そうでない感染とでは、重篤度に差が出る可能性が高いんだよ。
動物実験ではウイルス曝露量で重篤度をコントロールしているし、クラスター対応をしている医師が「違う」と体感している。マスク着用グループのクラスターのほうが、総じて症状が軽いそうだ。当然、そのぶん後遺症になる可能性も小さくなる。だから損はない。
理由はおそらく、ノーマスクだと大量にウイルスを吸い込むことになるからだ。体内で免疫がウイルス退治に頑張るが、多勢に無勢だと追いつかず、ウイルスに好き放題やられてしまう可能性が高まるのだろう。感染時のウイルス曝露量の多寡が、その後の人生まで決めてしまうかもしれないからね。面倒でも、ずぶ濡れになるのはやめておけ。
ノーマスクの感染者が空間内にいると、どんなふうにウイルスが広がっていくのかは、この動画をみるとイメージがわくだろうから、見ておくといいよ。

Q23: ああ、そうなの。でももう、世界中でマスクをしなくなっているよね。日本だけ遅れてる。海外の観光客にマスク姿を見せるなんて、私は恥ずかしいよ。
A:
情報が古い。2023年夏にはまた感染者が増えてきたので、欧米の病院や大学などでマスク着用義務を復活させる例が出ている。そもそも台湾やタイなど、アジア圏はマスクを手放してもいない。
2022年に欧米がマスクを外したのは、ほぼ全員が感染したからだよ。ワクチンをうって感染もすると、いい免疫がつくこともわかった。これをハイブリッド免疫という。「よし、集団ハイブリッド免疫がついたぜ。もうこれで新型コロナ禍も終わりだ」とマスク着用義務をゆるめた。そのタイミングが2022年ワールドカップ・カタール大会あたり。
しかし、現実は甘くなかった。そこから約1年で、再び感染者も入院者も死者も増えている。本当に新型コロナウイルス・オミクロン系統は手ごわい。感染の波のたびにLong COVID患者も増えており、健康を損なって失業する人も急増。「これはa mass disabling eventだ、マスクして感染を防げ」と警鐘を鳴らす専門家が多数いる。
そもそも「マスク姿を海外からの観光客に見られるのが恥ずかしい」とか「日本は遅れている」とか言い出す意識が信じられない。実際、日本は欧米に比べるとはるかに死者数を抑えこんでいるんだから、むしろ誇っていいことだ。入国時にアニメのキャラクターをプリントしたマスクをプレゼントし、出国時にそれを売店に並べておいたら、いい外貨稼ぎになるさ。
ハイブリッド免疫のメッキが剥がれ、また欧米も新型コロナ被害に悩まされているんだから、日本はユニバーサルマスクに換気と手指衛生でなるべく感染経験者を増やさない努力をし、時間稼ぎをするほうがいい。失敗した前例を踏襲するのは最悪だ。
いや、もっと悪いな。欧米がハイブリッド免疫を経験したのは2022年。日本政府は急にマスクを個人の判断とし、5類化し、学校の感染対策をゆるめたから、1年遅れでハイブリッド免疫獲得の真似をしようとしていると思われるのだが、この1年の差が大きいことに気づいていない。
ワクチンの効果は日数とともに落ちる。現時点で、2021年が最後の接種だった人(2回接種のみの人)は、20代:43.8%/30代:41%/40代:34.5%(2023年11月7日時点)もいる。この世代に、過去とは違う被害が出ることが危惧されるな。該当する人は、ブースター接種をしておいたほうがいいよ。電車の隣に感染者が乗っている日々なんだから。

Q24:マスクメーカーが発表している数値で、ほとんどのマスクは漏れ率が80%~100%というのがあった。こんなにダダ漏れなら、効果があるはずないじゃないか。フィルターの性能はJIS T 9001/9002規格で保証されているようだが、漏れが多いなら関係ない。騙されてるよ。
A24:おそらくご覧になったのは、次の表だろう。これは2020年2月23日にFLASHという雑誌が公開したテスト結果だ。

この表自体は正しいのだが、じつはあまり参考にならない。理由は三つ。第一は、漏れ率というのは粒子を対象にしたテストであるということ。それよりはるかに小さい、電子顕微鏡でないと見えないウイルスとは挙動が違う。ウイルスを対象にすればこの数字も大きく変わるだろう。
第二は、マスクの着用の仕方を知らされていない一人の女性がルーズな装着でテストした結果であるということ。もちろん、鼻の間などに隙間をつくっている人は、空気の大半を隙間から吸っており、マスクの効果がうすれることは事実だが、そのために不織布マスクにはノーズフィットが仕込まれており、曲げて密着性を高められるようになっている。この表の数字はマスクの漏れ率を示しているのではなく、ルーズフィットマスクの漏れ率であるにすぎない。
そして第三は、これが最も重要なのだが、マスクに期待される効果は、ウイルス吐出を防ぐ効果だということだ。口腔や鼻腔の中でウイルスが単独で浮遊していることなどない。唾液や鼻水に含まれているから、つまりはツバが飛ぶのをとめるだけで、ウイルスの拡散を防ぐことができる。したがって、ウイルス拡散を防ぐという目的においては、漏れ率はさほど影響しない。隙間からツバが飛び出ることなど、まずないからだ。
なお、感染者にマスクをしてもらって検証した研究(プレプリント)によれば、N95マスクはウイルス98%カット、布マスクでも87%カット、不織布マスクは74%カットという結果だ。これだけ吐出をとめるなら、マスクには大きな効果がある。換気や空気清浄機の併用で、空気中のウイルス浮遊は100%近く減らせるだろう。つまり漏れ率の高いマスクだとしても、その場の全員がマスクをするなら、空気感染を防げるということである(N95マスクのような密着度の高いマスクなら、吸い込むのも高い確率で防ぐことができる)。
cf.
Relative Efficacy of Masks and Respirators as Source Control for Viral Aerosol Shedding from People Infected with SARS-CoV-2: A Human Controlled Trial
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4631479

追記

2023/12/3
マスクの性能を実証した最新の論文がこちら。
The filtration efficiency of surgical masks for expiratory aerosol and droplets generated by vocal exercises
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/02786826.2023.2267689
要約より抜粋
<粒子径に依存したマスク透過濾過効率は、粒子径0.5~2μmで高く(80~95%)、マスクはより大きな粒子径をより多く濾過した。(中略)サージカルフェイスマスクは、すべての呼吸活動から放出される粒子数を有意に減少させた>
つまり、「素通りする」と言われているウイルスの大きさのものを、よく捕集する。感染者が着用すれば、空間中のウイルス量が激減する。