放置国家と分断された私たち

2023年5月8日に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は感染症法の5類に分類された。私自身は5類化に反対する立場ではない。しかし、5類化にともなう国の情報発信はひどいものだった。結果として、現在の日本はひとりひとりが「神頼みのサバイバル」をするほかない放置国家になってしまっている。

「放置国家」と表現する理由

現況をクルマ社会にたとえて説明する。感染を交通事故にみたててみる。

  • 交通事故死者(感染死者)が減ったことから、国は道路交通法違反の取締りをやめ、交通マナーの啓発もやめ、交通事故は自己責任とした。ゆえに、暴走する人や信号無視をする人がいても誰もとがめない。
  • 交通事故死はたしかに減ったがゼロになったわけではなく、しかも命に別状なくても後遺障害(Long COVID)が頻発している。にもかかわらず、国の情報開示は遅く、マスコミも報じず、事故はなかったことにされている。
  • 気づいた人が交通ルールの遵守を呼びかけ、「せめて通学路だけでも徐行を」という至極まっとうな意見を言っても、
    「子どもは何度も事故にあってこそ強くなるんだ」
    「徐行は子どもたちの笑顔を奪う」
    「いろんなスピードのクルマを見せてあげないと、発達が遅れる」
    という謎の理論で否定される。
  • 一方で、現に発生している事故の被害者についてはすべて自己責任であるとされ、保険もなく補償もない。

とんでもない状況である。まさに放置国家であるしか言いようがない。

唯一、これが正当化されるとしたら、すべての事故がかすり傷で済む場合だけである。だから「オミクロンで弱毒化し、致死率はインフルエンザより低くなった」というプロパガンダが広められたのだろうと邪推してしまう。

現実の数字を見てみよう。下のグラフの青線がインフルエンザによる死者数、赤線が新型コロナによる死者数だ。人口動態統計によるものだから、医師の死亡診断書からの集計であり、「事故死でも陽性なら報告」という速報値とは異なる。つまり水増しなどない確実な数字だ(ゆえに2023年10月までの数字しかない。集計に時間がかかるため、2023年11月以降は未発表)。

「インフルエンザより致死率が低くなった」と言われても、これほど死者数が多いのだから、なんの意味もない。致死率がインフルエンザの1/2だとしても、感染力が強く、4倍の感染者が出れば死者数は2倍になる。疫病の影響は致死率だけではなく、致死率×感染者数でみなければいけない。

つまり、いくら新型コロナを無視しても事故は頻発しているし、それで亡くなる人も、後遺症に悩む人も増え続けている。これが現実だ。マスクをとって気にしないようにしたらおさまる、という発想は雨乞いの儀式と変わらない。

深刻な分断が起きている

日本は死者が増える一方だということも、このグラフから実感できるだろう。しかも、減りきらないうちに次の波がやってくる高潮状態だ。「新型コロナでも死者数を抑え込んだ日本」「ファクターXのある日本」はもう過ぎ去りし過去の思い出である。2022年以降は感染死を抑え込めていない。

問題は、この事実が共有されていないということだ。マスコミがとりあげないからである。それどころか、感染者増が続き、救急車逼迫アラートも出ているのに、ことあるごとに「コロナも明けて」を連呼している始末。呑気なものである。その後も豪雨が続いているのに「台風は通りすぎました」と言い続けているようなもの。現場の医師たちが「新型コロナです」と伝えると、「えっ、まだ新型コロナが流行っていたんですか」と驚く患者がけっこういるそうだ。

いま日本社会は、以下の2グループに分断されていると言っていい。
A)新型コロナの感染状況とリスクを正しく把握し、感染対策を続けている群
B)上のグラフを見せても「亡くなっているのは高齢者だけでしょ」と気にすることなく、A群に「いつまで怖がっているの?」と嘲笑をあびせる人たち
である(B群には単に「もう終わっている」と思い込んでいる人も含まれる)。

B群の典型的な言い分は、
「ただの風邪なのにまだ怖がっているのか。もう新型コロナは終わったんだ。それでもそんなに感染するのがイヤなら、自分たちだけ感染対策をしていればいい」
である。一方、A群の典型的な言い分は、
「味覚嗅覚がなくなるだけで失業する可能性もある。絶対に(再)感染したくないから、電車・バスの公共交通機関やスーパーマーケット、病院では全員がマスクをして欲しい。マスクをとったところでウイルスは容赦してくれない」
である。一言でまとめると「周囲に第三者がいる空間では、みんなマスクをしてくれないか」だ。なお、「PrecautionとDefensive formation」で指摘したように、いまA群が主張しているのはPrecaution(用心)であって、行動制限限に代表されるDefensive formation(防御)ではない。

デマに踊らされた義憤は迷惑なだけ

分断されてしまうのは、ABどちらも義憤を抱えているからである。A群はB群に対して、基礎疾患のある人や高齢者やワクチンをうてない乳幼児など、感染症に脆弱な人たちへの配慮が足りなさすぎるという義憤をもつ。

B群はA群に対して、「いつまでもお前らがマスクなんて言っているから、コロナ禍が終わらないんだ」という義憤をもっている。そして、この感覚をブーストしているのが、「空気感染はマスクでは防げない」というデマである。

やっとみんなが新型コロナのことを忘れて、マスクをしない2019年までの生活に戻りつつある。そもそもマスクなんて、まるで意味のないものだった。いつまで「感染対策ごっこ」をやっているんだ? という怒りだ。だから病院の受付でも騒ぐ人が出てくるのである。「いつまで意味のないマスクを強要するんだ。オレが糾してやる」と正義の味方となって騒ぐ。

ここでは短く結論だけ書いておく。その場の全員がマスクをするなら、マスクはとても有効だ。ウイルス吐出を防ぐからである*1。詳しくはこの記事を参照していただきたい。
cf.
科学的事実に基づくマスクのFAQ

それにしても、「新型コロナは高齢者だけが死ぬ病気」というデマを広めたのは誰だろう。日本の統計をみると、2020年1月から2023年10月までに0‐19歳が116人も亡くなっている。これを「少ない」と感じてはいけない。2023年春までは学校でもマスクをして子どもへの感染をなるべく防いでいたのに、116人もいるということだ。感染対策をやめて学級閉鎖が多発している今後は、もっと増えるだろう。

アメリカでは、新型コロナが最も子どもの命を奪う感染症となっているし、20歳‐64歳の現役世代の死者も多い。2020年3月からの1年間に104,042人が、2021年3月からの1年間に146,896人の現役世代が死亡している。体質的に日本人は強いという根拠のない妄想(ファクターX)が、昨今の死者増で打ち砕かれているわけだし、今後、日本でも何度も感染する人が多くなるにつれ、現役世代の死者数が目立つようになる可能性が高い*2。父や母を病気に奪われる新型コロナ孤児も増えるだろう。悲劇である。

Long COVID経験者の声を聞け

死亡リスク以上に、確率が高いという意味で注意をしなくてはならないのは、多くの人に後遺症が残る点だ。しかも長く続くことから、Long COVIDという名前がつけられた。原因も判明しつつある。現時点でわかっていることは、新型コロナウイルスは身体中で炎症を起こし、血栓をつくり、脳と心血管系に大きなダメージを与えるということだ。

大変深刻なことに、Long COVIDは発生率が極めて高い。10万人に1人とかいうレベルならあまり警戒しなくてもいいかもしれないが、10人に1人か2人という高い率である。しかも若い人に多い。アメリカのCDCの統計では、最もLong COVIDを発症しているのが30歳から39歳。次いで多いのが40歳から49歳である。その前後の世代にも多く、現役世代を直撃している*3

Long COVIDを訴える人に多いのは味覚・嗅覚障害や記憶障害、謎の倦怠感、頭痛や息切れなどである。経験した人の証言を紹介しておこう。現役世代バリバリのフルタイム勤務の女性である。

<急性期は42度まで熱があがって大変だったけれど、症状は5日間くらいでおさまりました。でもふと気がつくと、味覚・嗅覚がおかしい。ラベンダーオイルをかいでも味噌ラーメンのような匂いがする。味がわかったのは辛いものだけです(注:辛さを感じるのは味覚ではなく痛覚だからかもしれない)。マイ一味を持ち歩いて、いろんなものを辛くしてしのいだ感じです。
困ったのは倦怠感。いつもは15分で歩くところを休み休み30分以上かけて歩く感じ。記憶が落ちたのも仕事には響きましたね。ファイルを開いても、なにをしようとしてPCに向かったのかさえ忘れる。これではいけないとメモを頻繁にとったのですが、どこにメモしたのかもわからなかったりする。
驚いたのはスケジュール管理です。今日がいつなのか忘れるから、予定が頭に入ってこない。幸い、会社の人たちに理解があったので、なんとか仕事を続けられましたが、もしも無理解なら、いまごろ辞めさせられていたと思います。
なかなか倦怠感も消えず苦しんでいましたが、3か月目くらいで急によくなりました>

感染を繰り返すたびに、社員が10%ずつくらい不健康になっていく。ひどいと仕事をするどころではない。この体験談がすばらしくまとまっているので、紹介しておこう。上の女性は結果として3か月で軽快したからまだよかった。もっと長く続く人も少なくない。以下の「熱病日記」のケースはきわめて重いLong COVIDが長く続いた患者の体験談である。一読を勧める。夫でも妻でも、片方がこの状態になると家庭は詰む。
cf.
熱病日記
https://note.com/l_a_j_natsume/n/ncd838bacc840

じつは感染した後のほうがよほど大事

後遺障害に続いて、もう一つの問題は、新型コロナ感染の「後」にまた別の健康リスクがやってくることである。新型コロナウイルスがヒトの免疫系にダメージを与えるからだ。感染後は、他の感染症に弱くなる。

圧倒的にわかりやすいグラフがあるので出しておく。東京都の咽頭結膜熱(アデノウイルス感染症)の患者数だ。2023年秋冬の赤線が突出している。過去に例をみない感染者数になっている。明らかに異変だ。そしてこの異変が、新型コロナウイルスによる免疫のダメージだと言われているのである。

もちろんほかにも、インフルエンザ/猩紅熱/RSウイルス感染症/胃腸炎などが同じように急増しており、「マルチデミック」という表現まで生まれた。複数の感染症が爆発的に増える現象のことである。

当然、医療は基本的に崩壊状態が続いている。最も目立つのが、医薬品の枯渇だ。咳止め薬や解熱剤、そして抗生物質などが不足している状態が続いている。2023年夏からずっとこんな調子だ。救急車逼迫アラートも出ているし、なにより全国の学校で学級閉鎖が多発している。

そして、感染が蔓延するようになって、はっきりわかったことがもうひとつある。新型コロナには何度も感染するということだ。麻疹のように、一度感染したらもう滅多なことでは感染しない免疫がつく病気もあるが、新型コロナウイルスは風邪のように何度もかかる病気だ。

しかも、感染を繰り返すたびに、Long COVID率があがる。
Let’s make the first infection the last infection.
(最初の感染を最後の感染にしよう)
という標語が出てくるほど、複数回感染はダメージが大きい。「私は既に一度感染したから」という理由で、感染対策をやめてしまっている人が多いが、それではいけないのだ。他の感染症に弱くなる意味でも、Long COVID率が高くなる意味でも、感染した人こそ、マスクをはじめとする感染対策をするべきなのである。

ウイルスにすっかり騙されているB群

新型コロナウイルス・パンデミックは5年目を迎えているが、はっきりと書いておく。現時点で「いい話」はなにもない。感染被害は続いており、死者は減りきらないし、Long COVID問題は深刻だ。イギリスでは長期的な病気で失業する人が2020年から66万人も増えた。現在、18‐64歳の15人に1人が病気失業中という状態だ。

この状況をまとめたのが「パンデミック 2.0が始まった」という記事である。そして2023年から、日本は英米の後を追っている。これから同じような状況になっていくだろう。気になるのは、この現実をしっかり報道するマスコミが見当たらないことである。もう学術的には膨大な研究によって結論が出ている新型コロナワクチンの有効性には目もくれず、相変わらずアンチワクチンな言説をとりあげて耳目を集めているが、こんな呑気なことをやっていられるのも、日本は2020年‐2022年に国民がしっかり対策をして貯金をつくったからである。

もうその貯金は使い果たしつつある。そして複数回感染者も珍しくなくなってきたいま、英米の被害状況を正視する必要がある。「もう欧米では誰もマスクをしていないし、新型コロナ感染を気にしている人などもういない」という人が多いが、これは事実と異なる。欧米にも高性能マスクをし、部屋に空気清浄機を置くA群と「こんなの風邪」といって無視するB群がいるというだけのことだ。

あえて言う。B群はウイルスに騙された暴走車である。
「感染したけれど、たいしたことなかったよ。こんなのインフル以下。いや、風邪より軽い。怖がるような病気じゃない」
と言い歩くのがその証拠だ*4。軽症で終わっても安心できるわけではないし、実際の統計をみると感染を繰り返すたびに後遺症(Long COVID)を発症する確率が高くなる。初回がたいしたことなかったからといって、次回もそうなる保証はどこにもない。

加えて、軽症でも感染した人はIQが落ち、記憶力が落ち、全身の血管に炎症を起こし、急性期が過ぎたあとの死亡リスクがはねあがる。軽症でも約10倍、入院するほど重いと約118倍である*5。しかし、この変化に本人が気づけることは稀だ。「感染してもたいしたことなかった」という判断をするのは早計に過ぎる。

Long COVIDを認めない人もいる。心因性だという医師までいるのが現実だが、血液や組織中に新型コロナウイルスが2年も生存している例や、体内に残るウイルスのカケラが炎症を起こし続けることが明らかになっている*6。影響が長く続くことはもはや明らかだ。本当に厄介なウイルスなのである。

「そうは言っても、『オミクロンで弱毒化し、重症者はすごく減っている』とテレビで医師が言っていたよ。弱毒化していて、重症化しないなら感染しても問題ないじゃない」
という意見を聞くたびに、またか、と思う。医師たちの「重症者」の定義は、私たちが想像するものと違うのだ。新型コロナの場合、人工呼吸器やECMOを外すと死ぬ人のことを重症者と定義している。自発呼吸では生命を維持できない状態の患者が、重症者である。

そしてたしかに、ワクチン接種が進むにつれ、重症患者は減った。現場の医師もそう言っているし、統計にも出ている。だからといって死者数が激減しているかというと、そうではない。死者数グラフの通り、増え続けているのである。にもかかわらず、重症者が減ったことで、私たちはウイルスへの警戒感をゆるめてしまった。ウイルスの戦略に敗北したと言っていいのではないか。

感染サバイバルは待ったなし状況

誰もが信号や一時停止などのルールを守って注意深くドライブすれば、交通事故はまず起きない。新型コロナウイルス感染症も同じだ。全員が注意をすれば、感染拡大はかなり抑えられる。そして、どうみても、換気してマスクして、感染を予防しながら活動するほうが経済は回る。急がば回れだ。全員で信号を守って事故をなくすほうが、結果的に荷物は早く届く。

問題はB群である。「ぶつけても、どうせたいしたことない」と思いこんでいるから、感染暴走族化している。信号を守らず、一時停止もせず、「こんなザコな事故が怖いなら家にひきこもっていろ」と我が物顔で走りまわる。迷惑な話だ。怖いのは病気というよりは、暴走するあなたたちと、それに釣られて満員電車にもノーマスクで乗る人たちですよ。

そして、「まだ新型コロナなんか気にしているの? 大丈夫?」という無神経さ。大丈夫じゃないのは、この病気の深刻さを知ろうともしない人のほうだ。どうみても、「明日は我が身」な感染症である。突然、味覚嗅覚がおかしくなり、倦怠感に苦しみ、短期記憶をなくして仕事のポカが増え、心筋梗塞や脳梗塞などに見舞われる。家族の誰かがLong COVIDになるだけで詰む。しかも、2024年4月からは医療費の公費補助もなくなる。丸損だ。

このリスクを理解しようともしないB群については、正直、「知らぬがほっとけ」という気分にもなるのだが、なにしろ新型コロナは感染力が強すぎる。そのままでは巻き添えをくらうばかりだ。

なかでも最もサバイバルが難しいのは、新幹線や特急のような1)換気もイマイチで、2)かつ乗車時間の長い公共交通機関とともかく人の多い時間帯の通勤電車である。私は公共交通機関に強く対応することを求めたい。乗客を安全に輸送するのが事業者の義務だろう。せめてマスク専用車両を設定してもらいたいものだ(個人でやれるサバイバル対策は、次の記事にまとめてみる)。「ミモザ車両」を指定したら、マスクすることが乗車の条件、という感じだ。ミモザの花言葉は「思いやり」である。

昭和20年代までの日本の子どもたちは、容赦なく感染症で命を奪われ、5人兄弟で成人したのは2人か3人という状況だった。この頃の平均寿命は65歳以下である。といって、この数字は誰もが60歳前後で亡くなっていたことを意味しない。乳幼児の死亡が多かったからの数字だ。私も伯父にあたる人物が七五三の七を迎えられず、疫痢で命を落としている。

令和4年版高齢社会白書より

そして、子どもの感染症死の半分は麻疹とその合併症であった。平均寿命がぐっとのびたのは、麻疹ワクチンのおかげであるといってもいい。2024年に入り、新型コロナとの関連性は明らかではないが、ともかく世界的に麻疹が流行を始めている。日本も例外ではなさそうな状況だ。この脅威に対抗する意味でも、その場の全員がマスクをする車両の設定を望む。「麻疹はマスクで防げない」とよく言われるが、全員がマスクをするなら別。空気中を飛びかう麻疹ウイルスを減らすことに意味がある。

注記

*1 プレプリントだが、この研究による。2020/6-2022/5の患者44名を対象に、複数の種類のマスクを着用しての呼気サンプルで分析したもの。全種類のマスクで排出されるウイルス量は有意に減少している。N95マスクの優秀さは当然として、驚くべきは布マスクで、87%と不織布マスクの74%を上回っている。飛沫を止める効果は布マスクでも十分にあるということだ。
cf.
Relative Efficacy of Masks and Respirators as Source Control for Viral Aerosol Shedding from People Infected with SARS-CoV-2: A Human Controlled Trial
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4631479

*2 現役世代の死者が増える可能性を指摘した理由は二つある。第一は、20代‐40代の約40%が、最初のワクチン2回接種で終わっていることである。3回接種で得られるSomatic hypermutationという免疫のアップグレードを経験していない上、2021年接種だから、もう2年以上が経過した。ほぼワクチンの効果はないに等しい。事実、現場の医師たちは「新型コロナ肺炎患者が久しぶりに出ているが、ワクチン未接種か接種しても2回までの人が多い」と言っている。
第二は、感染すると体内にできる抗N抗体が、次の感染のときに悪さをし、症状を重くする可能性があるからだ(抗体依存性疾病憎悪)。スペイン風邪のパンデミックの死者は高齢者ではなく、20代‐30代に多かった。これはロシア風邪に感染した世代である。
cf.
Age-dependence of the 1918 pandemic
https://www.cambridge.org/core/journals/british-actuarial-journal/article/agedependence-of-the-1918-pandemic/3BCBF4BDFBD8C5F0F4FBFDF34DF42209

*3 以下、複数の統計を示す。
●日本の統計
成人の10‐20%、子どもの6%がLong COVID
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001146453.pdf
●カナダの統計
感染を繰り返すたびにリスク増。3回感染で37.9%!
https://www150.statcan.gc.ca/n1/pub/75-006-x/2023001/article/00015-eng.htm
●イギリスの統計
11‐17歳の調査。初感染で12%、再感染で16%
Long COVID in Children and Young after Infection or Reinfection with the Omicron Variant: A Prospective Observational Study
https://www.jpeds.com/article/S0022-3476(23)00311-6/fulltext
●アメリカのCDCの統計
平均で17.6%。年代別に見ると働く現役世代に多く約20%だ。社員の2割が後遺症を抱える病気が蔓延しているということである。しかも直近で急増中(表のスライドのp.2にグラフがある)。
https://www.cdc.gov/nchs/covid19/pulse/long-covid.htm

なお、新型コロナ感染者536人のその後を6か月後と12か月後に調査したこの研究では、Long COVID患者の多くに単一臓器障害および多臓器障害が続いていることを確認している。これほどのダメージを上気道以外に与える病気が「ただの風邪」というのはあり得ない。
cf.
Multi-organ impairment and long COVID: a 1-year prospective, longitudinal cohort study
https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/01410768231154703

*4 「感染者はウイルスに操られるようになり、ことさらに軽視する発言をするようになる。警戒させないほうがウイルスの生存に有利だからだ」という説もある。荒唐無稽な説にしか感じないが、新型コロナウイルスは神経を介して咳を誘発し、別の宿主に伝達することを促したりするなど、宿主を操ることは事実だ。インターフェロンの産生を抑制して軽症を装うのは、「たいしたことない」と宿主に思い込ませて、やりたいようにするウイルスの戦略だと言える。
cf.
Host Manipulation Mechanisms of SARS-CoV-2
https://link.springer.com/article/10.1007/s10441-021-09425-z

驚いたことに、医師にもウイルスに騙されている人がいる。「子どもにとっては脳症のリスクもあるインフルエンザのほうが怖い」という小児科医がいて心底びっくりした。脳症に限定しても、新型コロナのほうがリスクは高い。
新型コロナウイルス感染症に関わる小児急性脳症患児103例の臨床像を研究した東京女子医科大学の報告では、新型コロナのほうがインフルエンザより脳症をおこしやすいし、神経学的後遺症または死亡をもたらす脳症を引き起こす割合が高い。
cf.
新型コロナウイルス感染症に関わる小児急性脳症患児103例の臨床像を解明しました
https://www.twmu.ac.jp/univ/news/detail.php?kbn=1&ym=202401&cd=1298

これは、いわゆる「診療所バイアス」である。歩いて病院に行けるような軽症の患者しか診ていない医師が「たいした病気ではない」と錯覚してしまう現象だ。重い患者はハナから救急車で別の病院に運ばれており、目にすることはないことからの偏見である。X(Twitter)などで医師のアカウントをフォローするなら、重症の新型コロナ患者の治療にあたり、人工呼吸器を使って救命している人を選ぶほうがいい。

*5 「IQが落ち」はこちらの研究。軽症でもIQが3ポイント低下する。
cf.
Cognition and Memory after Covid-19 in a Large Community Sample
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2311330

そして事実、スペインの大学で、新型コロナ感染者の成績が低下することが確認されている。
cf.
Association between COVID-19 and outstanding academic performance at a Spanish university
https://link.springer.com/article/10.1186/s13690-023-01225-w

記憶力の低下も観察されているが、実感している人も多いだろう。新型コロナ感染後に短期記憶が怪しくなった人はとても多い。以下はノルウェーからの記憶力低下についての報告。
cf.
Prospective Memory Assessment before and after Covid-19
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc2311200

血管の炎症については多数の研究が出ている。一例を示す。新型コロナは呼吸器系の病気ではなく、心血管系の病気だという主張も多い。
cf.
The spike protein of SARS-CoV-2 induces endothelial inflammation through integrin α5β1 and NF-κB signaling
https://www.jbc.org/article/S0021-9258(22)00135-1/fulltext

全死因死亡率の上昇についてはこの研究に依拠している。初期に感染したイギリスの17,871人のその後を追ったこの研究によれば、新型コロナで入院した人は静脈血栓塞栓症27.6倍、心不全21.6倍、脳卒中17.5倍、心房細動14.9倍、心膜炎13.6倍、心筋梗塞9.9倍、全死因死亡118.01倍となっていた。入院しなかった(軽症だった)人も全死因死亡リスクが10.2倍となっている。新型コロナのリスクは急性期だけではない。「治った」と思った後にもやってくる。これは、風邪では観察されない現象だ。
cf.
Cardiovascular disease and mortality sequelae of COVID-19 in the UK Biobank
https://heart.bmj.com/content/109/2/119

なお、このように新型コロナで亡くなる方ばかりではなく、退院後にもこのように心不全などで亡くなる人が増えることが、超過死亡が出る根本原因である。一部に「ワクチンのせい」と主張する人がいるが、全死因死亡において、ワクチン接種者のほうが少ないことがわかっているので、この言い分は無理筋だ。
なぜ、このように「ワクチンのせい」と主張するのだろう。おそらく、「新型コロナは茶番」という人は当初、「交通事故死でも検査陽性ならコロナ死にしている」というデマで死者増を説明していたが、それをはるかに越える死者が出た時点で主張に破綻が見えていた。そこで「ワクチンのせいだ」と言うことで「茶番である」という主張を首尾一貫させたという構図だろう。ナンセンスきわまりない上に悪質だ。

*6 血液や組織中に長くウイルスが潜む件はこちら。
cf.
COVID’s Long Haul: Virus Lingers in Blood Years After Infection
https://neurosciencenews.com/long-covid-blood-25724/

新型コロナウイルスのカケラも炎症を起こし続ける件はこちら。
Viral afterlife: SARS-CoV-2 as a reservoir of immunomimetic peptides that reassemble into proinflammatory supramolecular complexes
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2300644120