by Offside
「マスクをしても手洗いをしても感染した。効果は感じられない」
という人がいる。「ちゃんとしていたのに裏切られた」という気持ちになるのはわかる。しかし、ちょっと言いにくいが、「ちゃんとしていた」というのが怪しいことがほとんどだ。
たとえばマスクである。隙間だらけの着用をしていたり、喫煙所で話し込んでいたり、ノーマスクの人と長時間一緒にいたりはしていなかったか。手洗いも、しっかり爪や指の間まで石鹸で洗ったのか。頻度はどうだったのかなど、チェックすべきポイントがある。
感染対策をやめるとコロナ禍は長引く
とはいえ、神経のすり減る水際攻防戦を4年も続けてきたのだ。「もうさすがに疲れてきた」という人も多いことだろう。いまさら「2020年の生活に戻せ」と言われても戻れないし、戻りたくもないという人が多数だと思う。
しかし、戻す必要もないのだ。あの頃は新型コロナウイルスのことがよくわかっていなかったし、ワクチンもなかったからこその緊急事態宣言であり、イベントの中止だった。「感染対策」の4文字で2020年を思いだし、アレルギー反応を示す人がいるが、打つ手がまるでない状況での防御戦術(Defensive formation)と日常の感染対策(Precaution)を混同してはならない。
2020年は襲ってくる津波から逃げるしかなかった。国をあげての防御戦術として仕方なく行動制限をし、入国制限もし、持続化給付金などの補助を出したのである。こうした国家的な対策は2023年5月8日の5類化とともに完全に終わり、対策は自己責任とされた。
いまは雨の被害を避けるのと同じだ。降っているなら傘をさす。豪雨予報なら個人の判断で足元を長靴にし、傘だけでなく合羽も用意する。濡れるか濡れないかは自己責任である。新型コロナウイルスを相手に雨と同じ対応をするのがウィズコロナであり、個人の判断による感染対策が欠かせない*1。5類化とは「豪雨の予報は出すが、避難指示はださない(結果に国は責任をとらない)」という扱いにしたということだ。
こういう話をすると、
「いつまでもマスクなんかしているからコロナ禍が終わらないんだ」
と怒りだす人がいるが、逆だ。いきなり対策をやめてしまうほうが、コロナ禍は終わらない。変異機会が増える一方となるからである。
ヒトの身体に入った新型コロナウイルスは、1000億コピーくらいまで増殖すると言われている。つまり1000億×感染者数だけ、変異機会がある。気が遠くなるほど多くの変異機会をウイルスに与えてしまうわけだ。そこから厄介な変異体が出現する可能性は常にある。マスクもやめて感染蔓延を野放しにした結果、高病原性の厄介な変異体が登場してしまったら、再び行動制限の日々となるかもしれない。
なお、「ウイルスは変異するたびに弱毒化する」という能天気な意見を言う人が専門家にもいるが、これは科学的に確認された事実ではない*2。インフルエンザウイルスが反証だ。人類とは長いつきあいなのに、いまだ弱毒化している様子はないどころか、突然、病原性の高い変異体が襲ってくる状況である。
手抜きマスクで過ごしながら感染を予防する方法
改めて確認しておこう。新型コロナウイルスの感染力は厄介だが、究極、ウイルスを吸い込まず、口にせず、目にも鼻にももちこまなければ、感染することはない。いかにこれを徹底するかである。
マスクは効果が高い。吸い込む量を激減させることができるし、なにより、感染者が吐出するIRPs(感染性呼吸器粒子)の大半を口元でとめてくれるから、その場の全員がマスクをすると感染防止効果が高くなる*3。
さて、その手抜きをするには、すなわちマスク着用をルーズにするにはどうすればいいだろうか。じつはいい方法がある。換気と空気清浄機だ。オフィスなどの空間でマスクを外したいなら、この二つを活用すればいい。空気中を漂うIRPsをリアルタイムで減らしてしまえば、マスクをとっても感染リスクは低いままである。
換気の効果は説明しなくてもわかるだろう。IRPsを追い出してしまえば吸い込むこともない。しかも、効果はそれだけではなかった。この研究によると、単純に空間からIRPsを除去する以上の効果もあるようだ。空間中のCO2濃度がさがると、ウイルスの感染性も急速に失われるというのである。
cf.
Differences in airborne stability of SARS-CoV-2 variants of concern is impacted by alkalinity of surrogates of respiratory aerosol
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsif.2023.0062
これは朗報だ。別の研究で、空間中を漂うウイルスは4時間ほど感染性を保つことがわかっている。あいている部屋だからといって安心できない。直前に利用していた人がいると感染リスクがあるわけだが、たとえ換気が完全でなくても、CO2濃度を下げればウイルスが早く不活化するため、リスクを減らせるということだ。
空気清浄機も効果は高い。ウイルスは単独で浮遊していることはあまりない。多くはホコリに付着して浮遊している(だからWHOはIRPsという名称をつけたのだと思う)。空気清浄機によるホコリのフィルタリングだけでも、浮遊する感染性の粒子=IRPsを減らすことができる。
ただし、空気清浄機が「足りているか」は問題である。大きな空間にちょこんと空気清浄機が1台というのでは期待できない。Corsi-Rosenthal Boxのような高性能空気清浄機を設置することだ。
IRPsはほとんど目に見えないので、換気も空気清浄機も効いているかどうかがわかりづらいのだが、確認するいい方法がある。換気はCO2モニターで確認すればいい。「700ppmを越えそうになったら換気する」という習慣にするといいだろう。
空気清浄機の効果は粒子計で確認できる。空間中の粒子が減っていれば、空気をフィルタリングできているということだ。設置してもなかなか粒子が減らないようなら、台数を増やす。これでマスクを手抜きすることができる。
ただし、ノーマスクの問題点はIRPsが増えることだけではない。飛沫が飛ぶことも問題である。これは換気でも空気清浄機でも対処は無理だ。声をだす会議などではマスク着用にするなど、臨機応変な対応をしたい(後述する)。
手洗いを手抜きする方法
手洗いはかなり問題で、むしろ現在の状態が手抜きをしすぎである。店頭からはアルコール消毒液が消え、トイレでもちょろっと指先に水を流すだけという人が増えた。あんまりだ。新型コロナ感染者がなかなか減りきらないのは、ノーマスクが増えていることに加え、手洗いがおろそかになっているからだと思う。
問題は二つある。第一は手洗いの頻度が落ちた。トイレでもろくに手洗いをしていないということは、一日のうちにしっかり手指の菌・ウイルスを除去している瞬間は、入浴時の一回だけ、ということだ。
第二は、丁寧さが圧倒的に足りないことだ。極小のウイルスからみると、指の皺はグランドキャニオンなみの峡谷、爪の間は日本海溝である。ここに潜んでいるウイルスをやっつけないと、手洗いの意味はない。2020年に流行した手洗い動画をもう一度見てみよう。指や爪の間を徹底的に洗っている。この1年、あちこちで観察しているが、指の間を洗っている人すら、出会ったことがない。由々しき事態だ。
だから現在の課題は、この手抜きの限りを尽くした状態のまま、負担を増やすことなく効果的な趣旨衛生を実現するにはどうすればいいか、ということになるだろう。難題である。
私はGSE(Grapefruit Seed Extract)の活用を勧める。スプレーボトルで持ち歩いて、頻繁に使う。手洗いよりも圧倒的に手軽。そしてアルコールのように頻繁に使っても手荒れしない。匂いもないので、食事中にも使える。たっぷり使うと皺や爪の間にも効果がある。
食事中の使用を勧めるのは、直前の客が大量にウイルスを吐出する客だった可能性があるからだ。飲食店の清掃作業を見るとわかる。テーブルは拭いているが、調味料容器などはそのままだ。それを手にとり、手指にウイルスや菌を付着させたまま、手づかみでピッツァを食べたりしているわけだ。
「接触感染はほとんどない」という意見を言う専門家もいる。たしかに環境中に感染性のあるウイルスは少なく、接触感染リスクは低いという論文が発表されているが、内容を確認したところ検体を採取したのは、全員が熱心にマスクをしていた時期だった。周囲に飛沫がとんでいないのだから、ウイルスが少なくて当たり前だ。
いまは違う。ノーマスクが増えた。しかも、5日間の療養期間あけで、まだウイルスを大量に吐出している時期なのに、ノーマスクで電車に乗って外食もしている。大量に感染性のあるウイルスがあちこちに飛び散っているから、手づかみで食べたりする食事中の手指衛生は不可欠である。
それに、いま流行している感染症は、新型コロナウイルス感染症だけではない。アデノウイルスやRSウイルス、ノロウイルス感染症に溶連菌感染症など、さまざまな感染症が流行しており、多くは手洗いの徹底で感染リスクを下げられる。
もちろんGSEはこれらの菌・ウイルスを抑制する効果がある。次亜塩素酸系の薬剤が苦手とする汚濁環境でも効き目があることも、研究で確認されている。汚れた手に使って除菌効果があるのは、アルコールとGSEのみである*4。
GSEは新型コロナ感染後、複数の感染症に次々と罹患している子どもたちに使ってもらいたい。アルコールのように、舐めて急性アルコール中毒になってしまうような毒性はなく(海外ではサプリメントとして飲まれている)、匂いもなく、肌も荒れないから使いやすい。
医療従事者の感染対策との相違
たまに突破されてクラスターを起こすことがあるとはいえ、やはり全体として医療機関の感染対策はすぐれている。毎日毎日、新型コロナウイルスを吐き出す感染者の治療にあたりながら、自らの感染は防いでいるのが医療従事者だ*5。
彼・彼女らと自分たちの対策のどこが違うかを観察するのは参考になる。見た目ではっきりと違いがわかるのが、PPE(Personal Protective Equipment. 個人用保護具)の相違だ。我々はせいぜいマスクだが、医療従事者はゴーグル(フェイスシールド)/キャップ/マスク/手袋/ガウン(エプロン)/シューズカバーを使っている。
このうち、とくに効果が高いと思われるのは、キャップとガウンである。というのも、5類化以降、ウイルスを吐出している段階の人がノーマスクで電車に乗っているからだ。「検査しなければ、ただの風邪」と言わんばかりの人が増えた。当然、その人たちが吐出するIRPsを全身に浴びることになる。頭と衣服に付着する。
私は頭にGSEスプレーして寝癖をなおし、衣服にふりかけてから出かけている。キャップとガウンの代替だ。電車の全員がマスクをしているなら、こんなことまでやる必要はないのだが、もう致し方ない。せめてもの抵抗である。GSEは効果に持続性があるので、事前のスプレーでも効果を期待できる。
帰宅後、すぐに衣服を洗濯機に放り込んで、風呂に入るのがコロナ禍で根付いた習慣だが、ジャケットやネクタイ、コートなど洗うのが難しいものについては、ハンガーに吊るしてからGSEをスプレーしている*6。花粉対策としては、家に入る前に衣服をブラッシングし、花粉を落としてから家に入るのが有効だが、ウイルスは静電気で衣服に付着しているので、これでは落ちない。おそらくGSEスプレーが唯一の使える手段だ。アルコールでも除菌できるが、広範囲のスプレーには危険が伴う(発火物である)し、匂いもきつい。
ノーマスクで増大する意外なリスク
それにしてもユニバーサルマスクの効果は絶大だった。その場の全員がマスクをすると、空気中を漂うIRPsが激減する(注記3参照)。そしてそれだけでなく、飛沫がとばない。これが本当に大きい。
飛沫にはたっぷりとウイルスが含まれている(ことがある)から、ノーマスクで話したり、歌ったりすれば、それが部屋中に落ちる。「床に落ちた飛沫を舐めたりしないんだから、問題ない」という専門家もいるが、私はリスクがあると考えている。乾燥してくると、ウイルスが付着したホコリが舞い上がって空気中を漂うからである*7。放置するとIRPsの供給源となるわけだ。
同じ原理で、感染リスクが高いのがトイレである。水洗時に多数のウイルス飛沫が周囲に飛び散り、感染源となることはもう常識だろう。だから「蓋をしめて流してください」という貼り紙がされるようになったし、蓋をしめて流しても周囲に拡散するウイルス量はたいして変わらない(効果はない)という研究が発表されていたりもする*8。
しかし、これについては「トイレの床を舐めるやつなんかいない」と否定する専門家はいない。矛盾だ。水分にくるまれたウイルスが周囲に飛び散る点、乾燥するとそれが浮遊する点は共通している。
つまり、マスクをとっても換気や空気清浄機の併用で「その場の感染リスク」を減らせるが、床などに落ちた飛沫が時間差で感染源となる。会社では会議室での喧々囂々の議論のあとがリスクだ。終わったあとも空気清浄機を稼働させたままにするべきだし、「会議中だけは全員マスク」というルールにして、飛沫の拡散を避けるほうがいい。
教室や体育館の感染リスクも気になる。合唱練習をノーマスクでやる学校が増えているようだが、練習後しばらくすると、床からIRPsが浮遊し、生徒も歌う人もいないのに感染リスクの高い部屋になるということだ。あるいは体育館だと、さんざん声をだしての体育の授業のあと、体育座りをする。べったりと体操服にウイルスが付着していることがあるはずだ。
さらに、掃除もリスクが高い。自然と浮き上がるどころか、箒を使ってIRPsを浮遊させるのが生徒たちによる掃除である。私が指導者なら、生徒には帽子とマスクを着用させた上で、IRPsが浮遊しにくい水を使ったモップ清掃にする(GSEを床の拭き掃除に使うと抗菌コーティングになるのでさらにいいが、そこまでは言わない*9)。
マスクをすることが目的になってはいけない。あるいはノーマスクにすることが目的になってもいけない。SNSではマスク派とノーマスク派が戦っていたりするが、ずっとマスクをしていろというのが無茶なら、ずっとマスクを着用するなというのは苦茶だ。
まず現実をしっかり認識したい。いまの日本は、濃霧の中、雨と雪と雹がふっているような状況である。新型コロナにインフルエンザ、劇症型になると厄介な溶連菌感染症に百日咳、マイコプラズマ肺炎など、複数の感染症が同時流行している。当然の結果として、菌感染症に有効な抗生物質さえ不足気味だ。上手に手抜きをしながら効果的な感染対策(Precaution)を継続して、ずぶ濡れになることだけは避けるべき状態である。
最後に繰り返しておく。大半の感染症は、菌・ウイルスを吸い込まず、口にせず、目・鼻にもちこまなければ感染することはない。最も効果的なのはマスクと手指衛生のふたつ。その手抜きをするには換気と空気清浄機、そしてGSEなど石鹸による手洗いを補完できる薬剤の併用である。
参考記事
このように注意喚起する背景を説明した以下の記事をあわせて読んでいただきたい。
- 「パンデミック 2.0が始まった」
- 「小洞窟の住人たちの新型コロナ談義」
- 「そのカルピスは薄かった」
- 「令和の怪談:子どもの未来を奪う医療デマの流行」
- 「「感染症の世紀」のダメージコントロール」
- 「私家版ウィズコロナのガイドライン」
- 「GSE開発物語」
注記
*1 以下の記事で詳述している。
「PrecautionとDefensive formation」
https://furuse-yukihiro.info/2024/03/precaution/
*2 「変異のたびに弱毒化するセオリー」は、強毒性だと宿主をすぐに殺してしまい、自分も共倒れするから、共存のために弱毒化するという単純な理論だ。新型コロナウイルスは発症前からウイルスを吐出し次の宿主を見つけるので、発症後すぐに宿主を殺すほどの強毒性であっても共倒れはしない。進化論でいう「弱毒化への選択圧」はどこにもないわけだ。
また、強毒/弱毒というのも曖昧な概念である。宿主をすぐに殺すのが強毒性、殺さないのが弱毒性という程度の使われ方をしている。致死率が高いが、助かればすっかり快癒する病気と、致死率は低いが長く後遺症に苦しむ病気の、どちらが強毒性だろうか(新型コロナウイルス感染症はインフルエンザより致死率が高く、かつ、高い確率で長く後遺症に苦しむ病気である)。
*3 IRPsはInfectious Respiratory Particles(感染性呼吸器粒子)の略。2024年に入り、WHOは飛沫核だとかマイクロエアロゾルだといった区別をせず、「吸い込むと感染する粒子」(IRPs)としてまとめた。
スイスの教室で実測した研究によると、教室の全員がマスクをすること、IRPsが69%減少する。つまり吐出がそれだけ止まるということだ。
cf.
SARS-CoV-2 transmission with and without mask wearing or air cleaners in schools in Switzerland: A modeling study of epidemiological, environmental, and molecular data
https://journals.plos.org/plosmedicine/article?id=10.1371/journal.pmed.1004226
なお、「ウイルスはマスクの目を素通りする」とか、「漏れ率がnn%もある」などと言ってマスクの効果を否定する言説が目につくが、いずれも誤りである。詳しくはこちらのFAQにまとめてある。
cf.
「科学的事実に基づくマスクのFAQ」
https://furuse-yukihiro.info/2023/11/faq_mask_wearing/
*4 「“除菌”などをうたった製品の消毒効果」(表中のシトラリッチがGSE水溶液であり、BNUHC-18同等品)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsei/36/3/36_157/_pdf/-char/ja
*5 医療従事者の感染もなくはないが、多いのが病院ではなく、家庭で子どもからもらっての感染である。学校の感染対策がゆるんでから顕著に増加した。
*6 じつは、このやり方は人に教わった。「私以外の保育士は全員が感染した」というユーザーが実践していた方法である。
cf.
「ユーザーの声からみるGSE活用術」
https://bnuhc.info/archives/2024/howtousegse/
*7 NHK「クローズアップ現代」で、床から舞い上がる様子が撮影されている。
cf.
2020年5月13日(水)「新型コロナ 災害避難をどうする」
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4414/
*8 Impacts of lid closure during toilet flushing and of toilet bowl cleaning on viral contamination of surfaces in United States restrooms
https://www.ajicjournal.org/article/S0196-6553(23)00820-9/fulltext
なお、この論文では消毒薬を併用しない便器清掃はウイルスをひろげるだけであることが確認されている。手での便器清掃を精神修養にもなると実践している人がいるが、やめておいたほうがいいだろう。
*9 [この注記は宣伝]ノーマスクにした会社での「床の対策」の手を抜く方法としては、私が開発したMISTECTをお勧めしておく。部屋に置いて毎晩10分間ほど稼働させるだけで、GSEを使った露出表面のウイルス対策ができる。介護施設や保育園、音楽ホールやクリニックで実績がある装置だ。
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