感染しても自宅療養が基本となっているいま、
そして子どもたちの感染が続いているいま、
できることはウイルスの挙動にあわせた自衛策しかない。
社会生活をとめずに感染予防策をがんばってみよう。

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2023年早々、日本は完全に医療崩壊モードに入ってしまった。一刻も早い処置が必要な心臓発作の患者の受け入れ先が、なんと何時間も見つからない。見つかっても、隣県の遠いところだったりする状態である。

早く治療すれば助かるとか、後遺障害を残さず快癒するなど、スピード勝負の病気はいろいろある。だからこそ救急車は信号を無視する特権も与えられているのだ。本人も家族も救急隊員も悔しいだろう。受け入れを断らざるを得ない医師たちは無念に違いない。

「5類にすれば解決」という浅はかさ

ここで「だから早く5類にしておけばよかったんだ」という能天気なことを言われると、正直、腹が立つ。まずはこの話から片づける。3年もたつのに、この病気の特性を理解していない。それどころか、病院には病人が集っているという基本的な事実さえ忘れている。

新型コロナウイルス感染症の究極の問題は、インフルエンザとは比較にならないほどの感染力にある。中国の公園内で、ノーマスクでジョギングしていた人がじつは感染者で、すれ違った39名にうつしてしまった事例が報告されているくらいだ*1。わざわざ発熱外来に新型コロナ患者を集中させているのは、病院内で他の病気の患者に感染がひろまることを防ぐためである。他の病気の患者とすれ違うことのないように、動線を分けているわけだ。

新型コロナの分類を5類に変更したところで、この感染力が変わるわけではない。病院の待合室には基礎疾患のある人間が多数、座っている。新型コロナに感染すると重篤化したり、死亡したりするリスクが高い人たちだ。その隣に、新型コロナの感染者を座らせるのか。あるいは、さまざまな病気が理由で入院している2人部屋や4人部屋に、新型コロナ患者を同室入院させるのか。他の病気の患者にとっては、たまったものではない。

これをやれば、確実に病院は他の病気の患者・家族から訴えられることになるだろう。あなたが家族を入院させていたとして、ある日突然、「同室の新型コロナ患者からうつったようで、お父様は人工呼吸器をつけないとまずい状態です」などと言われたらどうだろう。「仕方がない」と許せることだろうか。

新型コロナを5類にしたところで、医療崩壊を回避できるはずもない。物理的に動線を分けることのできない病院は、通院・入院している患者の安全を守るために、今後も発熱患者を断り続けるだろう。「応召義務違反だ」なんてのは寝言戯言の類だ。他の患者の健康に生きる権利が優先されるに決まっている。

新型コロナは人的資源を容赦なく奪う

5類派(5類にしたら解決派)にまったく見えていないことがもうひとつある。医療崩壊の原因だ。主因はもちろん感染者の殺到であるが、もうひとつ大きな理由がある。スタッフの感染による人員不足だ。パイロットと客室乗務員が足りずに減便せざるを得ない飛行機や電車・バスなどと同じである*2

病院のスタッフを早期復帰させると、クラスター発生の原因となってしまうこともあるから、療養期間をしっかりとるほかない。集団感染があると、一斉に10日以上休むことになる。人的リソースがどんどんはぎとられていく。

この問題は、5類にしたところで解決はしない。むしろ、もっとひどくなるだろう。発熱外来が機能しているのは、関係者が「覚悟をして臨んでいる」からである。火事に立ち向かう消防士と同じだ。防護服に身を固め、絶対にうつらないぞ、という覚悟をもって従事する。緊張感がみなぎるというのは、ミッションクリティカルな場面でとても大事なことである。

そこまでの覚悟をしている人がほぼいない、ふつうの病院にふらっと感染者がやってきたらどうなるか。事務も受付も売店も、中の人は防護服を着てもいない。下手すると、「医師・看護師は足りているが、事務局が閉鎖中」という事態になるだろう。機能停止である。カルテも出てこない。

感染予防を頑張る利点

つまり医療崩壊については、現状、なるべく感染しないように私たちが頑張ることくらいしか打てる手はないということである。感染者が集中するからいけないのだ。「そんなこと言われても、知らねえよ」と言いたくもなるだろうが、情けは人のためならず。まわりまわって、自分に返ってくる。

注意してもらいたいのは、医療崩壊は根こそぎである点だ。新型コロナ以外の治療も影響を受ける。そもそも119番につながらないとか、なかなか救急車が来ないとか、受け入れ先病院を探すのに何時間もかかるという状況だ。あなたが交通事故の被害者になったり、急病に見舞われたりしても、十分な治療を迅速に受けることができないという状態である。交通事故の加害者になった場合も大問題だ。事故の被害者が怪我で終わるのと、亡くなるのとでは、なにもかも大違いである。

さらに、感染予防に頑張ると本人にとってもいいことがある。結局は感染してしまうにしても、感染予防していたほうが重篤化しづらくなるからだ。これは、感染時に浴びるウイルス量の違いによる。

こうしているいまも、身体は外敵と腸などで戦っている。免疫の第一の役割は敵を識別し、追い出すことである。花粉を敵だと認知するのが花粉症で、花粉を識別した次の瞬間にはクシャミや鼻水で追い出そうとする。口から入ったものは、まず胃液がやっつけるわけだが、それをすりぬけたものは腸が検知し、ヤバイときは速攻で体外に出そうとする。これが下痢だ*3

そして、免疫の第二の役割が、侵入を許してしまった外敵をあの手この手で撃滅することだ。たとえば、発熱はそれによってウイルスの活動をとめようとする免疫の反応である。

ワクチン接種によって、識別能力と撃退能力が向上する。予行演習で免疫に「こいつはヤバイやつ」と事前に教えるのだ*4。これでヒトの免疫は敵の襲来に備えて武器(抗体)を備蓄もする。しかし、その準備したものを越える勢いでウイルスの襲来を受けると、中和抗体も弾切れとなって感染してしまう上に、体内で好き勝手暴れるのを阻止できない。つまり重篤な状態になりやすいということだ。ヒトの免疫は物量作戦に弱いのである*5

重篤化するのがイヤなら、最低3回のワクチン接種で高度な予行演習をした上に、感染予防策を続けて大量のウイルスに曝露するのを防ぐことである。「うっても感染するなら、ワクチンの意味はない」という意見が多いが、まったく免疫を理解していない。風邪もインフルエンザも新型コロナも、何度も感染する病気である。ワクチン一発でおたふく風邪のような終生免疫がつくはずもない。

新型コロナの場合、ワクチンで感染しなくなるのではなく、「感染しにくくなる」「重篤化しにくくなる」のである。これは最低限の常識として、わきまえておきたい免疫のリアルである。


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注記

*1 公園で一人の感染者が35分間ジョギングをし、2,836人がその近くにいた結果、39人に感染したという。繰り返すが、オープンエアの公園であるし、ジョギング中の人間と密になることもないので、この事例には驚くほかない(中国は監視カメラの映像から接触をつきとめ、ウイルスのゲノム解析で同定している)。
Outbreak Reports: An Outbreak of SARS-CoV-2 Omicron Subvariant BA.2.76 in an Outdoor Park — Chongqing Municipality, China, August 2022
https://weekly.chinacdc.cn/en/article/doi/10.46234/ccdcw2022.209

*2 第7波の2022年7月25日には、JR九州が新型コロナ感染による乗務員不足で特急等120本を運休している。新型コロナはこの感染力ですぐにクラスターをつくることもあり、工場の過半数が同時に休むといった最悪の事態になりやすい。ともかく人的リソースを枯渇させるウイルスである。

*3 だからO-157感染時など、下痢をとめることがかえって症状を悪化させる場合もある。免疫反応にしたがって、一刻も早く排泄する方がいい。

*4 ともかくヒトの免疫は新顔に弱い。過去の経験の蓄積で敵を識別して起動し、反応しているからである。そこで、事前に敵を教えておこう、という発想でつくられた薬剤がワクチンだ。
最初は軽く感染させる生ワクチンであった。軽いといっても、それでおさまらないこともある(副反応が問題になるということだ)。そこで、感染力を奪った不活化ワクチンができた。生ワクチンが本人のコピーとすれば、不活化ワクチンは犯人手配の人相書みたいなもので、より安全である。
これとはまったく違う発想で、20年の研究を経て世に出てきたのがmRNAワクチンである。ウイルスがつくりだす問題のタンパク質(抗原)の設計図をヒトの細胞に渡し、体内でつくらせる。感染させることなく、感染したときと同じ状態をつくり、予行演習させるわけだ。非常に合理的で、ターゲットを容易に変更できる利点がある(実際、がん治療への応用なども進められている)。
今回の新型コロナ用ワクチンが初めてのヒトへの接種だとよく言われているが、2013年に狂犬病用mRNAワクチンの治験を行っているので、それは事実ではない。
cf. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28754494/
また、ワクチン接種でつくられるSタンパク質を問題視する人がいるが、こちらはコントロールされたSタンパク質だ。感染すると、ウイルスが盛大にSタンパク質をつくるので、人体に与える悪影響はmRNAワクチンどころの騒ぎではない。感染を怖がらないのはおかしなことである。こちらのスレッドを参照のこと。

*5 一般に呼吸器系ウイルスの感染の転帰(症状の経過や結果)は、実際にどれだけのウイルスが体内に侵入して感染を起こしたかによっても変わる。呼吸器に大量のウイルスを吸い込んでしまうと、結果は悪くなりやすい。敵が圧倒的多数なら、免疫が頑張りきれないからである。
cf. https://ccpat.net/ccpat/wp-content/uploads/2020/07/COVID19-Viral-Loaden-ja2.pdf

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