国民のほとんどがワクチンを接種し感染もすれば、ハイブリッド免疫がつき、パンデミックは終息するという期待があった。国がCOVID-19を5類にしたのは、これも背景にあったと思われる。しかし、この期待は見事に裏切られ、世界は再び2020年の悪夢を思いだしている。パンデミック 2.0が始まっているのだ。

1       
全文PDF


気がつく人は気がついている。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行からもうすぐ4年。政府は感染対策としてのマスクを「個人の判断」とし、テレビもことあるごとに「コロナ禍が明けた」を連呼している。「終わった感」の演出に余念がない。

しかし、こんなものはまやかしだ。パンデミックは終わってなどいない。むしろ、「パンデミック2.0に突入した」と言うべき状況である。COVIDが第一章なら、Long COVIDが第二章だ。そのリスクに気づいている人が、いま、世界中でMask Up(マスクをしよう)運動をしている*1

画像はカナダ・セントジョンズに登場した看板だ。「Long COVIDはあなたの人生を台無しにする。マスクをしよう」(LONG COVID RUINS LIFE. MASK UP)とある。

いま日本は岐路に立たされている。新型コロナウイルスの危険性を理解して対策をとる個人・組織は少なく、
「もう5類になっているし、マスクも手洗いも不要でしょう」
「感染したけれどたいしたことなかった。もうこんなの風邪みたいなもの」
などと暢気なことを言っている人のほうが多い状況だ。このまま行けば、個人も家庭も組織もこれから、かつてないほどの打撃を受けることになるだろう。

パンデミックは大きく2種類に分けられる。当初の感染被害は大きいが、国民の大半が感染すれば被害がおさまるものと、全員が感染しても被害はおさまらず、それどころか、感染を繰り返すたびに被害が大きくなるものだ。新型コロナ(COVID-19)は後者であることをいま、世界が実体験中なのである。パンデミック 2.0が始まっているのだ。

オミクロンに世界中がだまされた

なぜいまだに “Mask up” などと言っているのか。それは国民のほとんどが感染しても、被害が増える一方だからである。このウイルスは本当に手ごわい。端的に表現すると、世界中がオミクロン変異体に騙されたのだ。

2020年初頭に世界に広まった新型コロナは、次々と重症肺炎をおこし、みるみる人の命を奪っていった。その感染力と病態には、Stay home(人流制限)で対抗するほかなかったが、2020年12月にはmRNAワクチンの接種が始まり(日本で始まったのは2021年2月)、多くの人々が接種をすると、見事なまでに感染者も重症者も減った*2
「やっとパンデミックも終わる」
そう実感した人も多いことだろう。私自身もそう思った。2021年12月16日の新型コロナウイルス対策ダッシュボードのキャプチャを出しておく。感染者0人の県が多く、全国の感染者数の合計がたったの1,133人である。このまま減る一方なら、いや、この程度を維持できるならパンデミックは終わりだ。

この状況をがらりと変えたのが、ちょうどこの頃から世界で流行をはじめ、年明けから日本にもやってきたオミクロン変異体*3である。この変異体は肺炎をあまり起こさなかったため、「ついに弱毒化した」という宣伝がされた。
「もうオミクロンでただの風邪。むしろワクチン接種の副反応のほうがキツイ」
とテレビで芸人が話す。むしろオミクロン変異体の登場を歓迎するムード。新型コロナに対する警戒心はどんどんうすれ、某京都大学准教授が「むしろ感染して免疫をつけたほうがいい」とまで言う始末。

まんまと本性を隠すのがうまいウイルスに騙されたのである。それを実感するほかないのが、死者数が減りきらないことだ。こうするいまも、アメリカでは毎週毎週、1,000人単位の死者が出ている。日本の人口動態統計*4をみても、感染拡大のたびに死者が増えていることは明らかだ。ワクチンで致死率は落ちたが、ゼロになったわけではない。

そして2023年冬、各国の入院患者が再び増えている。イタリアの例を出しておこう。2023年10月以降に注目だ*5。オミクロンは爪を隠していた――そう言っていいだろう。


注記

*1 「マスクをしよう」と政府の人間が国民に呼びかけている例もある。ドイツのKarl Lauterbach保健大臣だ。2023年12月10日付の記事によると、「新型コロナウイルスはしばしば血管にも影響を及ぼし、免疫系を弱める」と感染の危険性を訴え、国民に以下のように呼びかけた。私はこれこそ、国民の命を預かる政治家としてあるべき姿だと思う。

  • バスや地下鉄ではマスクを着用しよう
  • 屋内でのクリスマスパーティは避けよう
  • テレワークできる人はテレワークを
  • 高齢者や感染弱者はブースター接種を
  • インフルワクチンも同時接種を

cf.
https://www.spiegel.de/gesundheit/karl-lauterbach-mahnt-wegen-corona-im-advent-zu-vorsichtsmassnahmen-a-86e9e6f7-a24d-47ce-9bf0-9eb02ed68852

*2 厚生労働省がmRNAワクチンの接種を決めた理由は発症予防効果と重症化予防効果を確認してのことであり、感染予防効果については触れられていなかった。しかし、実際に接種をすると、当時一般的だったデルタ変異体に対する感染予防効果も高かったという経緯である。その後の研究でも、一定の感染予防効果は確認されている(が、その効果は接種後の日数経過とともに落ちることも確認されている)。

*3 「変異体」を変異種、変異株と書く例もあるが、私は以下のように使い分けている。
STRAIN: 株
VARIANT: 変異体
LINEAGE: 系統
CLADE: 系統群

*4 パンデミック初期のデマのひとつとして、「事故死でも新型コロナ陽性なら新型コロナ死にしている」(水増しして危険を煽っている)というのがあった。これは厚労省が「事故死でも陽性なら報告」というルールで速報を運用したことを曲解したもの(いや、意図的にデマとして利用したのかもしれない)。
人口動態統計は医師の死亡診断書を集計しているもので、事故死がコロナ死になることなどない(そもそも医師が死亡診断書に虚偽記載をすると法的に罰せられる。当然だが、それくらい厳格なものだ)。
では、なぜ速報はこのようなルールになっているのだろう。それは、新しい未知の感染症である新型コロナの影響範囲を知るためだ。溺死や交通事故死の陽性者が多ければ、感染が何らかの理由で水死リスクや事故リスクを高めていると判断できるから、「感染が疑われる体調なら泳ぐな/運転するな」という警告を出すことができる。

*5 この記事(2023年12月8日付)は、「感染者が倍増し、30日間で900人近くが死亡した。イタリアのウィズコロナで何が起きているか」と異変を伝えている。
cf.
infections double, almost 900 deaths in 30 days, what is happening in Italy with the Coronavirus
https://www.breakinglatest.news/health/infections-double-almost-900-deaths-in-30-days-what-is-happening-in-italy-with-the-coronavirus/

もちろん他国も例外ではなく、ドイツでも保健相がマスクなどの感染対策を訴えるほど感染者が急増しており、「12人に1人(約710万人)が病欠中」であるという(2023年12月15日付)。
cf.
Abwasserproben bestätigen massive Corona-Welle in Deutschland – so hoch wie nie
https://www.merkur.de/welt/bestaetigen-corona-faelle-nehmen-rasant-zu-abwasserproben-92724053.html


1       
全文PDF