令和の怪談:子どもの未来を奪う医療デマの流行

2024年4月11日
by Offside
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親・祖父母・教諭・養護教諭・教頭・学校長・保育士・園長・教育委員会・文部科学省など、子どもを保護する立場の方々に届いてほしい。この記事で言いたいことはただひとつ。
日本の子どもたちは、2022年から人生を大きく左右しかねない疾病リスクにさらされています。子どもの未来を奪う医療デマに惑わされてはいけません。正しい知識をもって、子どもたちを守ってください
本当に心からお願いをする。

マスコミは「コロナも明けて4年ぶりの~~」を連呼しているし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)については、

  • 弱毒化して、ただの風邪になった
  • だから国も5類にしたのであり、感染対策はもう不要
  • 世界中でマスクもとり、COVID-19は過去のものになっている

という主張が多い。「まだコロナなんて言っているの? もう気にする必要ないでしょ」という雰囲気が蔓延しているが、いずれも残念ながらデマだ。

大人にダメージを与える病気が子どもに無害なはずがない

世界中でパンデミックが終わった国はない。各国が国として感染被害を気にするのをやめただけである。たとえばアメリカは、直近半年間にわたって、毎週1,000人以上の死者が出ていたし、どの国も感染の波と無縁ではなく、「減ったと思ったら、また増えてあっという間に病床が埋まる日々」をいまだに繰り返している。

問題は、風邪とは違って、新型コロナは後遺症と合併症が目立つということだ。最新の医学研究が明らかにしていることは

  • 新型コロナウイルスは免疫にダメージを与えるため、感染後は他の感染症に弱くなる
  • 新型コロナウイルスは脳にも心臓にも血管にも感染しダメージを与えるため、感染するとIQが落ち、短期記憶が失われ、脳梗塞や心筋梗塞、心不全など心血管系の病気にかかりやすくなる
  • 新型コロナウイルスは精巣や卵巣などにもダメージを与えるため、生殖能力が奪われる可能性がある(どこまでダメージが続くかは現時点で不明)
  • 一度感染すると免疫のつく麻疹などと違い、新型コロナには何度も感染するし、感染するたびにダメージが蓄積され、後遺症になりやすくなる

など、ヒトにとって不都合な真実ばかりである。

大人にこれだけの影響を与える疾病だ。子どもにだけは風邪程度で済むはずもない。子どもも大人も、何度も感染を繰り返すことは避けるべきだろう。

脳卒中で死ぬ子どもたち

後遺症リスクは直接被害が続くリスクだが、合併症リスクは感染から回復後に別の病気になってダメージを受けるリスクのことである。新型コロナに目立つのは、脳と心臓と肺と肝臓・腎臓などに大きなダメージがあることだ。

感染し、日数がたってから出てくる影響は、しばらくたたないとわからない。欧米の国民の多くが感染したのは2022年のオミクロン変異体の波である。そして2023年には、こんな変化が観察されている。

  • 25‐44歳の心臓発作死は29.9%増
  • 45‐64歳は19.6%増
  • 65歳以上は13.7%増

cf.
Young people are more likely to die of heart attacks post-COVID, study finds. But why?
https://www.today.com/health/covid-heart-attack-young-people-rcna69903

「29.9%増」といっても、25‐44歳はそもそも滅多に心臓突然死はしないので、絶対数としては多くない。だからといって無視をするのは間違いだ。理由は、さらに増えていく可能性があるからである。

そして子どもも例外ではなかった。2023年には高校生・大学生のアスリートの心臓突然死が複数、報告されているし、小中学生が脳卒中で死亡する事例もいくつか出てきた*2

脳卒中も心筋梗塞も心不全も、子どもに発生すること自体が極めて珍しい。明らかに子どもたちに異変が起きている。そしてそれは、新型コロナウイルスのせいである(間違いなくワクチンのせいではない。なぜなら、子ども世代は新型コロナワクチン接種率が低いからだ)。

欧米で観察されていることは、日本でも観察されるようになる。5類にして以降、日本も感染者の増加を容認する政策をとっているからだ。このまま推移すると、2024年から子どもの脳卒中や心臓発作による死亡が増えてくる可能性が高い*3

私たちは交通事故などで「9歳の子が死亡」といったニュースを目にすると、本当に心が痛む。子どもの死亡ほど辛いことはない。しかしながら、すでに日本では子どもの交通事故死者より、新型コロナとその合併症による死者のほうが多いのが現実である。交通安全運動を熱心にやりながら、一方で、感染症の蔓延を放置するのは矛盾そのものだ。

様々な感染症にかかるリスクも高くなる

新型コロナが似ている病気はエイズと麻疹である。エイズに感染した最初は、まさにただの風邪だ。しかし、数年後に変化が起きる。エイズウイルスは体内にひそんで免疫不全を引き起し、やがて感染症に弱くなって死に至る*3

麻疹に感染すると、免疫が過去の感染経験から蓄積してきた獲得免疫の情報がリセットされてしまうため、他の感染症に対して無防備になることが知られている*4。いまの高齢者は兄弟姉妹を幼いときに感染症で亡くしている人が多いが、多くの子どもの命を奪ったのが麻疹と麻疹感染による合併症だった。半数がそうだったと言われている(2024年は世界中で麻疹の流行が伝えられているが、日本にも追ってやってくる。MRワクチンを接種しておくべき)。

新型コロナウイルス感染症も、免疫がダメージを受ける点ではエイズや麻疹と似ている。とくに子どもは、基本的な免疫機能(innate immunity)にダメージを受けることがわかっているので、新型コロナ感染後には、インフルやRSV、溶連菌などの感染症にかかりやすくなる。これが複数の感染症の同時流行の原因だ(「免疫窃盗」という)。


そして問題は、インフルも麻疹も劇症型溶連菌感染症も、子どもの命を奪いかねない病気だということだ。「新型コロナの致死率は低い。とくに子どもは低い」とよく言われるが、合併症も含めると死亡リスクは無視できない。ともかく、この異常なグラフをよく見ていただきたい。子どもたちはかつてないほど、感染症リスクにさらされているのである。

グラフは過去10年間の東京都の咽頭結膜熱の感染者数である。2020年以降、新型コロナ対策もあって感染者数が激減したが、マスクが熱中症の原因とされて、奪マスクが進んだ2022年に増加。そして2023年秋冬には爆発的に流行していることがわかる。

死亡率が低くても後遺症率が高すぎる

その上、Long COVIDと言われる後遺症になる確率が高すぎる。子どもも大人と発生率は似たようなもので、おおよそ10人に1人か2人はLong COVIDになる。100人に1人か2人は重篤だ。慢性疲労症候群となって起き上がることもできないとか、ブレインフォグになって思考力・集中力・記憶力が落ちるなどである。到底、「ただの風邪」とは言えない。しかも感染のたびにリスクが増える。以下、デマをひとつひとつつぶしていくことにしたい。


医療デマ01:子どもは新型コロナに感染しにくい
(それはデルタまでの話)

2021年まで、子どもの感染ははっきり言って多くなかった。ゼロではないが、「感染する子もいる」という程度である。もちろん2020年は対面授業をやめて、遠隔授業を実施したりなど、子どもを守る行動もあったわけだが、それにしても多くはなかった。

これには生理学的な理由がある。侵入経路の問題だ。ヒトの身体は基本的に、外敵の侵入を防ぐようにできている。たとえば皮膚はシールドであり、皮膚を突破して感染できるウイルスや菌はない(傷口から侵入することはある)。ウイルスは「とりつくシマ」を見つけ、そこから侵入する。セキュリティ用語でいうとバックドアだ。

新型コロナウイルスにとっての入口(ヒトからみるとバックドア)は、ACE2受容体である。そしてこのACE2受容体は、加齢とともに増えるものである。つまり、子どもには少ない。これがデルタまで、子どもの感染が多くなかった理由である。

そしてオミクロンは、別のバックドアからも侵入できるように変異をしたウイルスである。子どもも大人と同じように感染するようになった。これは2023年に学級閉鎖が頻発したことからもわかるだろう。2021年夏と2022年夏の、子どもの感染状況を比較したグラフを出しておく。


医療デマ02:オミクロンで弱毒化した
(弱毒化はしていない)

これはいまだに根強いデマである。オミクロンはデルタまでと違い、重症肺炎をおこす人が減った。重症になる人がいない=弱毒した! という単なる早とちりである。

「新型コロナは肺炎を起こす病気」という先入観がありすぎた。肺炎を起こさなくなったのなら、もう風邪同様だろう、という判断である。しかし、オミクロンは肺炎を起こしづらくなったとしても、身体中に感染し被害を大きくする。たとえば、脳症はインフルエンザより新型コロナのほうが多いし、予後も悪い*5

また、2023年以降、再び重症肺炎を起こす人が目立つようになっているが、その多くはワクチン未接種または2回接種で終わっている。これが示すのは、重症肺炎が減ったのはウイルスの弱毒化の結果ではなく、ワクチンが効いていたからに過ぎないということだ。


医療デマ03:子どもは感染しても無症状か軽症
(脳症になる子や後遺症が残る子はいる)

注記5に示した研究では、2020/1-2022/11の調査で103人も脳症の子どもが出ている。「子どもは感染しても無症状か軽症」と言ったのは新型コロナウイルスを専門とせず、臨床もやっていない大学准教授だ*6

そもそも「軽症」という概念が厄介なのである。ここでいう軽症とは、「感染してすぐの咳や咽頭痛や発熱などの症状が軽かった」という意味であるが、いずれも免疫がウイルスという外敵と戦うことによる余波である。いわば免疫反応にすぎないのであって、これが軽いからといって、新型コロナウイルスによる被害が小さいとは限らない。

事実、IQが落ちるとか、短期記憶が失われるとか、血栓ができて心臓発作が起きやすくなるといった身体ダメージは、無症状や軽症の人にも起きている。


医療デマ04:子どもは感染して強くなる
(生き残った子が強いと言われるだけ。感染しても強くはならない)

子どもは病気に感染しても強くはならない。むしろ弱くなることのほうが多い。新型コロナはその典型である。感染ダメージで他の感染症にかかりやすくなるし、感染を繰り返すたびにLong COVIDを発症する確率が高くなる。

むしろ、感染するたびに子どもは脆弱になっていく(大人でも同じである)。明らかに新型コロナは「かかり損」な感染症だ。急性期は苦しい上に、後遺症になる可能性も高く、その後は他の感染症にかかりやすくなる。しかも、一度感染してもロクな免疫はつかず、何度も感染する。

このデマの発祥は定かではないが、発熱してぐったりしている我が子を前にオロオロする親に向かって、医師が慰めの言葉としてかけたのではないか。それに、麻疹のような長く続く免疫を獲得できる病気のイメージが重なったように思う。


医療デマ05:マスクなど過剰な対策をしていたから感染症が増えている
(いいえ、マルチデミックは新型コロナウイルスのせいです)

このデマは、「子どもは感染して強くなる」というデマとセットである。「本来、子どもはいろんな病原体に接して強くなるのに、マスクと手洗いの徹底でそれができなかったから、いまこんなに感染症が流行しているのだ」という。マスコミに出る医師が決まってこう言うので、本当に罪深い。この説明に、根拠はどこにもない。

感染対策が過剰だったせいというのは、免疫負債説という。ロックダウンとマスクと手洗いが借りをつくっており、それを返しているのがいまの流行だ、という説だ。しかし、明確に反証がある。第一に、マスクをしてなかった国(たとえばスウェーデン)でも、同じ現象が観察されていることである。

第二に、2022年のマルチデミックで借りを返したはずなのに、2023年も2024年も複数の感染症の流行が続いていることである。そして第三に、世界中でロックダウンをしていた2020年のあとに生まれた子どもにおいても、同じ現象が観察されていることである*7

いつまで借りを返せばいいのか。そもそも免疫負債説は間違いじゃないのかと疑うに十分だ。科学的なのは、「新型コロナウイルス感染によって免疫がダメージを受けたため、他の感染症も増えている」という解釈である。これを「免疫窃盗説」という。

免疫負債説が危ないのは、「だから感染対策をすると、かえって子どもたちに病気が増える」という単純思考な結論を出す人をつくってしまうことだ。「子どもを崖から突き落としたほうが強くなる」というのは虐待でしかない。現実には、多くの子どもは崖下に落ちたままだ。

新型コロナウイルス感染を防ぐこと、最低でも二度目三度目の感染を防ぐことが、他の感染症にかかる子を減らす。まずは元栓を閉めないと、止まるものも止まらない。


医療デマ06:マスクは熱中症や酸素不足の原因で病気を増やす
(マスクは熱中症の原因ではないし、酸素不足にもならない)

マスクを着用して一定の運動負荷をかけて、どんな生理学的反応が出るのかを確認した研究はいくつもある。どの研究においても、

  • マスクをしても深部体温は上昇しない
  • マスクをして運動しても血中酸素濃度が激減したりしない

という結果だ*8。深部体温が上昇しないなら熱中症の原因にはなり得ないし、血中酸素濃度が落ちないなら、酸素不足にもならない(この手の話で、「フェーゲン効果」の論文をもちだす人がいるが、既に否定されている)。

世の中を見渡してみよう。食品工場や半導体工場に勤務する人。あるいは医師などは、労働時間をほぼマスクしたまま過ごす。それでも病欠が増えたとか酸素不足で集中力が続かないといった問題は報告されていない。


医療デマ07:空気感染する病気はマスクでは防げない
(全員がマスクをするなら高い確率で防げる)

新型コロナだけではない。結核を治療する医師たちも、自らが感染することは防いでいる。その強力なツールが、「医師と患者の両方がマスクをすること」だ。空気感染する病気も、その場の全員がマスクをするなら、高い確率で防げるということである。

理由はカンタンだ。病原体を吐出する人がマスクをすると、空間中を漂うウイルス量が減るからである。スイスの教室で実測した研究があり、全員がマスクをすれば69%のエアロゾルが減少している*9。あとは換気や空気清浄機を併用すれば、感染リスクはぐっと小さくなる。

たしかに空気感染する病気をマスクで防ぐのは大変だ。しかし、病原体を吐出する人と周囲の両方がマスクをすることで、防げる確率は高くなる。


医療デマ08:一度感染したから、もう感染対策しなくていい
(何度でもかかるし、回数を重ねるほどヤバイ病気だよ)

いま最も訂正したいデマがこれだ。一部の人は、麻疹のように「一度感染すると二度とかからない免疫がつく」と思っている。風邪もインフルエンザも違いますよね。新型コロナも何度も感染する病気である。

しかも、これまでの研究をみる限り、感染を繰り返すたびに悪くなる。具体的には、Long COVIDを発症する確率が高くなる。カナダからの報告によると、3回感染で約40%だ*10。すさまじい高率である。

(出典:https://twitter.com/black_kghp/status/1734573400583205202

この数字を踏まえると、正しい判断は「一度感染したら、さらに感染対策をしっかりやるしかない」である。既に説明したように、免疫のダメージがあるから、他の感染症にかかりやすくもなっている。複数回感染を防ぐ努力はすなわち、致死率の高い劇症型溶連菌感染症など別の病気のリスクも下げることでもある。


医療デマ09:5日間も寝ていれば治る
(急性期が過ぎただけ。治癒はしていない)

とくに学校には、この知識を徹底してもらいたい。5日間でおさまるのは免疫反応であって、ウイルスによる被害は続いている。けっして治癒はしていない。エイズを思いだそう。初期は風邪症状だが、それがおさまったからといって、治ったとは到底言えないのだ。そういう疾病は多数ある。

新型コロナの場合、発症から2週間くらいはウイルスを吐出し、周囲に感染をひろげるので、感染後に投稿してきた生徒にマスクは必須である。そして、急性期を過ぎた身体は、台風や洪水や津波が去ったあとと同じ状態だ。随所に炎症が残り、大きなダメージを受けている。

この状態の生徒に持久走をさせるとか、部活動をさせる教師がいる。これは明確に虐待だ。無理をするとLong COVIDにもなりやすくなる。病のあとは養生するのが当然。生徒を守りたいなら、感染した生徒には無理をさせないことだ。一か月くらいは体育も見学にすべきである。


医療デマ10:軽症で済む子どもにワクチンは不要
(軽症で済んでも被害が少ないとは限らない)

振り返ると、2022年初頭にテレビに出演した大学准教授が、「子どもは感染しても無症状か軽症」「むしろ感染して免疫をつけたほうがいい」と連呼したのは、本当に日本の子どもたちにとって不幸な出来事だった。

新型コロナウイルス感染症は、人によって被害の程度があまりにも違う。急性期の症状(免疫反応)も後遺症も違う。このことが、病気のリスクに対する共通理解を阻んでいる。そして当初は、「基礎疾患のある人が重い」という現象が観察されていたため、

  • 死亡するのは高齢者だけ
  • 健康な若い世代にとってはただの風邪

というデマまで広まってしまった。基礎疾患のある人のリスクが高いことは事実であるが、だからといって「健康な若い世代には風邪」とは言えない。それはここまで述べてきた通りである。むしろ若い世代ほど、Long COVIDや合併症のリスクが高い

では、感染結果がこのようにバラつくのはなぜだろう。一言で言えば、どの段階でウイルスを撃退できたのか、である。早く撃退できればできるほど、ウイルスの影響を受けずに済むのは自明のことだ。そしてそのための要素が二つある。

第一はウイルス曝露量を減らすことである。あまりにも多くのウイルスが同時に侵入してきた場合、免疫がカバーしきれなくなり、大量の増殖を許してしまう。第二は、ワクチンで適応免疫に事前学習させ、早期にウイルスを撃退できるようにすることだ。この二つしかない。

しかし、日本の子どもたちは奪マスクで曝露量を増やされた上に、ワクチン接種率が低い。二重苦である。機会を見つけて、うっておくべきだ。


最後に:オミクロンに騙されるな

2021年、「1日100万回」という号令がかけられ、新型コロナワクチンの接種が進んだ。その成果はすさまじく、2021年秋には感染者が激減した。「ワクチンすごい。このまま、パンデミックはきっと終わる」という期待を一瞬は抱いたものである。

この期待を打ち砕いたのが2021年末から2022年初頭にかけて各国を襲ったオミクロン変異体の登場だった。その後の展開は周知の通りである。本当にオミクロンは想定外だ。「デルタが変異してオミクロンになった」というわけではない。起源株から枝分かれし、特別な環境下におかれた新型コロナウイルスが、想定外の変異をして戻ってきた、という感じなのである。

植物にたとえると、「変異が続いてカブからダイコンができました」ではなく、「いきなりハクサイができました」くらい違う*11。カブもダイコンもハクサイも同じアブラナ科である。しかし、カブとハクサイをいくら見ても、共通項は見当たらないだろう(花が咲くとわかるのだが)。

実際、オミクロンの起源については議論がある。有力なのは、HIV患者(免疫不全患者)の体内に持続感染して変異したという説。ほかにも、ネズミに感染(スピルバック)して変異し、それが戻ってきた(スピルオーバー)した説などもある。

私はこのことから、「COVID-19はオミクロンで別の病気になった。COVID-22と改名すべきだった」と主張している。デルタまでの新型コロナウイルス感染症と、オミクロン以降のそれは質的に異なる。同じ病気だとは思わないほうがいい。この事実を押さえてもらいたい。そして、多くの医療デマは、この質的変化に気づいていない(か、気づかないふりをしている)。

問題は新型コロナウイルス感染症を「重症肺炎を起こす風邪」としか認識していない人が多いことだ。オミクロンで重症肺炎が減ったから、「もうただの風邪」と言い出した。風邪は上気道炎のうち、自然治癒して軽快するものを言う。新型コロナウイルスは全身に感染して問題を起こし続けるので、明らかに風邪ではない。

むしろオミクロンで、新型コロナウイルスの本当の被害が顕在化したと考えるほうがいいだろう。初期は被害を確認する前に宿主が死亡していたから、それが目立たなかった。致死率が落ちたからこそ、このウイルスが持続感染することもあり、脳にも心臓にも肺にも肝臓にも腎臓にも免疫システムにもダメージがあることがわかってきたのである。

つまりオミクロンになっても、新型コロナウイルスの病原性が消え失せたわけではない。ただ、全員がマスクをし、空気清浄機などで室内の空気をフィルタリングすれば、感染を防げることがわかっている。吸い込まず、手指衛生の徹底で目・鼻・口にウイルスを持ち込まなければいいのだ。子どもの未来を守るには、感染対策を続けることである*12

注記

*1 エイズは10年生存率が0%といっていいほど、確実に命を奪う病気であり、大変恐れられたが、いまは抗ウイルス剤を常時投与することで発症を防げるようになったため、致死率は下がっている(ただし、抗ウイルス剤を飲み続けるのは金銭的にも負担は大きい)。

*2 SARS-CoV-2 Infection and Increased Risk for Pediatric Stroke
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0887899422002107

*3 ほぼ1年遅れで、日本でも同じことが起きている。たとえば、2022年の欧米で起きた新型コロナ/インフルエンザ/RSV/溶連菌感染の同時流行が、2023年には日本でも発生した。2023年の日本で観察された劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の増加も、2022年にEU各国で観察されていたことである。

*4 Measles erases immune ‘memory’ for other diseases
https://www.nature.com/articles/d41586-019-03324-7

*5 日本の研究。2020/1-2022/11までの小児の新型コロナ関連脳症103名の調査。
・14名(13.6%)は急性劇症脳浮腫や出血性ショック脳症症候群等重度の急性脳症
・45名(43.7%)は完全回復したが、17名(16.5%)は重度の神経学的後遺症
・11名(10.7%)は死亡
・103名のうち95名(92.2%)はワクチン未接種。
cf.
Clinical characteristics of SARS-CoV-2-associated encephalopathy in children: Nationwide epidemiological study
https://www.jns-journal.com/article/S0022-510X(24)00002-9/fulltext

*6 発言当時のデータではそうだったのかもしれないが、2022年後半には子どもの重症化事例や脳症・死亡事例が多数出ているのだから、科学者であるなら、この発言を撤回して修正すべきである。

*7 2022年10月‐12月(オミクロン期)を対象にしての調査で、0‐1歳児のRSウイルス感染リスクが以下のようになっている。
・新型コロナ感染児:7.90%
・未感染児:5.64%
この子たちはロックダウンしていた時期には生まれていないし、マスクを着用できる年齢でもないから、免疫負債説は棄却される。新型コロナ感染によって、RSウイルスに感染しやすくなっていることを示す研究である。
cf.
Association of COVID-19 with respiratory syncytial virus (RSV) infections in children aged 0–5 years in the USA in 2022: a multicentre retrospective cohort study
https://fmch.bmj.com/content/11/4/e002456

*8 「マスク着用による生理学的負担」
http://www.jsomt.jp/journal/pdf/069010001.pdf

*9 SARS-CoV-2 transmission with and without mask wearing or air cleaners in schools in Switzerland: A modeling study of epidemiological, environmental, and molecular data
https://journals.plos.org/plosmedicine/article?id=10.1371/journal.pmed.1004226

*10 Experiences of Canadians with long-term symptoms following COVID-19
https://www150.statcan.gc.ca/n1/pub/75-006-x/2023001/article/00015-eng.htm

*11 ダイコン/カブ/キャベツ/ハクサイ/ブロッコリ/カリフラワーなどはアブラナ科の野菜であり、起源の探究はいまも続いている。たとえばこの研究は、14種類のB. oleracea(ヤセイカンラン)作物と9種類の野生原種に系統遺伝学的手法と集団遺伝学的手法を適用した上、生態学的ニッチモデリング、考古学的証拠、文献的証拠と統合し、キャベツやブロッコリなど多様な野菜を生み出したB. oleraceaに最も近いのが、エーゲ海の固有種B. creticaであると明らかにしている(BはBrassicaの略)。
cf.
The Evolutionary History of Wild, Domesticated, and Feral Brassica oleracea (Brassicaceae)
https://academic.oup.com/mbe/article/38/10/4419/6304875

同様の手法で、身近なアブラナ科の野草・の形態型間の遺伝的多様性を解析し、コーカサス、シベリア、イタリアの非農耕地が原産地であり、最初にできた野菜はカブだと示したのがこの研究。
cf.
Brassica rapa Domestication: Untangling Wild and Feral Forms and Convergence of Crop Morphotypes
https://academic.oup.com/mbe/article/38/8/3358/6261082

つまり、多様なアブラナ科の野菜は、地中海のB. cretica、中央アジアのB.rapaを原産とする2つの系統がある。

*12 「感染対策を続けること」は、必ずしも「子どもにマスクをさせろ」ということではない。子どもという集団は毎晩飲み歩いたりする集団でなく、交遊範囲は限られている。その集団に大人がウイルスを持ち込まないようにすれば、子どもたちはノーマスクでも問題はないわけだ。

具体的には、教師を筆頭に、子どもと接する大人がマスクをすることである。そして、教室にはCorsi-Rosenthal Boxのような高性能空気清浄機を設置する。休み時間のたびに手洗い(手指衛生)を徹底するなどで、いまのような学級閉鎖が連続する事態は避けられるはずである。

マスクひとつとっても、いきなり全部やめてしまうのが科学的ではない。教室では発表など声をだすときだけマスクするとか、給食の係はマスクするといった、リスクに応じた対応をとるべきだ。

2024年もまた、卒業式や入学式でノーマスクの合唱をし、クラスターが起きていることが残念でたまらない。ノーマスクで実行したいなら、直前の3週間ほどは全員マスクにするなどウイルスを式に持ち込まない工夫をし、当日は体温を確認するなどで、避けられるクラスターである。修学旅行などでも同じだ。

科学的アプローチで学習機会と思い出の機会を守ってもらいたい。

Written by Offside
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