拝啓 鉄道事業者 様

満員電車

2020年に突然襲ってきた新型コロナウイルスパンデミック。

鉄道事業者のみなさまにおかれては、旅客の減少や運転士・車掌の感染による労働力不足などに悩まれたことと思います。そうした中でも、大きな事故なく、公共交通機関としての使命をまっとうしていただいたことに感謝します。

しかしながら、2023年3月13日をもって、マスクの推奨をやめ、個人の任意にするという国の方針が発表されてから、私たちは不安な気持ちを抱えています。ぜひこの気持ちを知っていただきたいと思い、筆をとることにいたしました。

ズバリ、懸念は電車内のマスクも「任意」にされてしまうことです。

懸念は満員電車・長距離列車

公衆衛生意識の高い日本人のことですから、国が推奨をやめたとしても、電車内など感染リスクの高い場面でのマスクを継続する人が多いと想像します。しかし、残念で残酷なことに、車内で数名がノーマスクにしただけで、大多数がマスクをしていても感染リスクがはねあがるのが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)という病気なのです。

感染リスクが高いのは、

  1. 感染者との距離が近い場合
  2. 曝露時間が長い場合

の二つです。満員電車が1に、新幹線や特急に代表される長距離列車が2に該当することは、すぐおわかりになることと思います。

世の中には、味覚嗅覚を失うと失業する可能性のある料理人や、自宅に高齢者を抱え、「絶対に自分がウイルスを自宅に持ち帰れない」と悲愴なまでに感染対策をしている人もいます。ぜひ、

  • 感染すると困る人間への配慮
  • マスクをとりたい人への配慮

の二つをお願いしたいと思います。

この両方を満たすのは、「ノーマスク専用車両」を決めていただくことしかないと考えます。ノーマスク希望者とマスク希望者の棲み分けです。混在を避けていただくと、乗客同士のトラブルも減るでしょう。

鉄道外での出来事ですが、過去、ノーマスクを注意した男性が暴行を受け、下半身不随になるという悲惨な事件も起きています。これがホームで起きたら、列車遅延などの二次被害が増えることも容易に想像がつきます。

棲み分けをお願いする根拠

これまで満員電車での大規模クラスターは報告されていません。全員がマスクをしていたからとしか考えられない。ただ1人がノーマスクでも、その人が感染者だった場合、上記の1と2の両方のケースでは周囲に感染をひろげてしまいます。これは過去に起きた数々のクラスター事例で経験済です。わかりやすい事例をひとつご紹介いたします。2020年10月に埼玉県の劇団で起きたクラスターです。

この事例では、頻繁に換気をし、全員がマスクをし、手のふれるところは消毒までしていたのに、91人の練習参加者のうち、76人に感染がひろがりました。理由は、セリフをいう俳優だけをマスクではなく、マウスシールドにしたことでした。感染者がノーマスクだと、周囲がマスクをしていても、換気をしていても、76/91(83.5%)に感染させてしまうことを経験しているわけです。

この事例の注目点は、頻繁に換気をし、マスクをしていても感染がひろがったことです。これは感染者が大量にウイルス入り飛沫を周囲に飛ばしたことであるとしか考えられません。たとえば、衣服にもウイルスが付着したことでしょう。そこからの接触感染や、乾燥が進むにつれてウイルスが浮遊し、それを吸い込んでしまうリスクがあります。新型コロナウイルスの場合、水分を失った飛沫核も3時間程度は感染性があるようです。
cf.
「感染の方法」東京大学保健センター
Transmissibility and transmission of respiratory viruses | Nature Reviews Microbiology

さらに満員電車では隣との距離が近いので、目から感染するリスクも高くなります。これをマスクで防ぐことは不可能です。これまでは車内で全員がマスク(つまり感染者もマスク)をしてきたからこそ、目からの感染も防いでいたのです。

「自己責任」にするなら、選択肢の提供を

「マスクは任意」(個人の自由)という態度をとられるのであれば、それは「感染するのは自己責任です」というポリシーであると理解します。

別に、それでも構わないのです。
ただ、自己責任だとおっしゃるのであれば、選択肢の提供をお願いしたい。満員電車においては、選択肢はありません。身動きできないのですから。この状態で「自己責任だ」と言われても困ります。指定席の長距離列車でも同じです。後ろの2人組が酒をのみはじめ、陽気に歌もうたっていたのでびくびくしていたが、やはり2日後に感染が判明したという人もいます。

たとえばノーマスク専用車両をつくり、マスク専用車両の乗客にはマスク着用をお願いするといった対応をとっていただけないでしょうか。新幹線の予約も、マスクをしたい人は7号車と11号車を選ぶといった対応です。選択肢があってこその自己責任論であると考えます。

感染したくない人への配慮を

新型コロナウイルス感染症の致死率はインフルエンザよりも低いと広報されてから、「恐れるに足りない病気だ」という誤った認識がひろまってしまいました。この病気は、後遺症/合併症リスクの高い病気です。たとえば、味覚・嗅覚を失う後遺症が高頻度で発生しています。料理人にとっては死活問題です。記憶障害やブレインフォグに見舞われた学生は、人生が変わってしまうかもしれません。

心疾患のリスクが高くなるのも大きな問題です。アメリカの保険会社は18‐64歳の死亡率が40%もアップしていると発表しています。新型コロナ感染そのものは軽症で済んでも、その後、心臓突然死する例が増えているのです。免疫不全を起こすことも研究で判明しています。
cf.
「知っておくべき新型コロナウイルス感染症のリアル」
https://furuse-yukihiro.info/2023covidcolumn01/

加えて、次の流行株と目されるXBB.1.5株については、

  • 実効再生産数はXBB.1株に比べて1.2倍高い
  • スパイクタンパク質のACE2への結合力がオミクロンBA.2株と比べると6倍高い

という研究が出ています。つまり、高い免疫逃避能を保持しつつ、細胞への感染性をより高めた変異体であり、東京でも大阪でも70%が未感染の日本が、すでに国民のほとんどが感染した国のノーマスクを真似すると、大きな感染爆発になるものと思われます。

感染リスクを爆増させる「ラッシュアワーでもマスクは任意」「長距離列車の指定席でもマスクは任意」は、鉄道事業法に反しているとも考えられます。自分と家族のために、絶対に感染したくないという人や、免疫システム上、何度も感染してしまう子どもたち、基礎疾患のある中高年などの感染弱者を護りながら、マスクを外して自由を満喫したい人の希望もかなえる施策をぜひ、お願いいたします。

敬具