この記事が役立つと思われる人

  • 過剰な対策もいやだが、感染被害もイヤな人
  • 病気はイヤだけれど、会食も遊びもしたい人

2024年3月28日 第一版
by Offside
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2023年5月8日に新型コロナウイルス感染症が感染症法の5類に分類されたのと同時に、いろんな分野の「感染対策ガイドライン」が廃止されている。つまり、まったくのノーガードにしてしまったということだ。そしてその結果はさんざんだった。だらだらと感染が蔓延し、死者も増える一方で、複数の感染症も同時流行するマルチデミック状態となっている。

とはいえ、2類時代の感染対策ガイドラインはガチガチすぎて、5類時代にあわないことも確かである。ウィズコロナを前提とし、会食も遊びも旅行も存分にやる、という前提でのガイドラインが必要だろう。

この文書は、それをめざす。基本コンセプトは、「大量のウイルスに曝露することだけは防ぐガイドライン」だ。これによって多くは感染を防げるし、感染したとしても軽症で済む確率が高くなる。以下、なるべく短く箇条書きでエッセンスをまとめる。

基本のガイドライン

  • 第三者のいる閉鎖空間ではマスク
    マスクはまだ必要だ。新型コロナだけでなく、インフルエンザに麻疹やSTSS(劇症型溶血性レンサ球菌感染症)などに感染する危険もある。電車やバスなど人口密度の高い空間ではN95のような高性能マスクをすること。
  • 頻繁な手指衛生
    ノーマスクが増えると、ウイルス入り飛沫があちこちに飛んでいるし、ノロウイルスなどさまざまな感染症も流行している。頻繁な手指衛生は必須だ(手軽に使え、無臭で頻繁に使っても手荒れのしないGSEを勧める)。電車やバスを降りたあとや、何かを触ったり、手づかみで食べたりする前には手指衛生を。
  • 換気か空気清浄機の活用
    新型コロナ禍で全員がマスクをした結果、インフルエンザなども防げてしまったことから、意外に空気感染する病気があることが判明している。換気はとても有効だ。換気しづらい空間ではCorsi-Rosenthal BoxやクレアウィンBOXのような高性能空気清浄機を使うこと。

外食のガイドライン

  • 店を選ぶ
    選択基準は換気能力と店員のマスクだ。換気扇がよく効いている焼肉店やカウンター中心のとんかつ店・焼鳥店などがすぐ思い浮かぶ。いまもCO2モニターを設置し、店員がマスクを続けているところがお勧めだ。
  • 料理の食べ方に配慮する
    ずっとテーブルの上に料理があって、みんなの飛沫が次々と降り注ぐ、というのだけは避けよう。料理はさっさと食べてしまい、ゆっくり話すほうがいい。料理を残すのは心理的にイヤなことだが、延々とテーブルに残っていた料理は諦める。大量の飛沫を受けている可能性がある上に、すっかり冷めている(熱々の料理が安全である。ウイルスは熱に弱い)。
  • 手づかみで食べる前に手指衛生
    おしぼりで拭くだけでもいい。手づかみで食べる前には手をきれいにしよう。テーブルの裏に手をついたり、調味料を手にしたりしたときに汚染されている可能性もある。
  • トイレの後は手指衛生を念入りに
    複数の人が使うトイレはさまざまな病原体の巣窟。あちこちに菌・ウイルスが飛びちっており、舞い上がってもいる。マスクをして使い、終わったら念入りに手指衛生を。
  • 人数は4人まで
    まだ大人数の宴会は厳しい。4人を越えると話しづらくなり、どうしても声が大きくなる。4人くらいで落ち着いて話すほうがいい。
  • 一次会で終わる
    残念なことだが、長く同じ空間にいることが最大のリスクだ。会食は一次会で終わろう。
  • 中4日あける
    連日連夜の会食は、自分が感染源となる可能性を高くするだけだ。最低でも中4日はあけて、体調を確認したい。
    家族がいる場合はとくにそうだ。会食の2日後くらいに体調の変化を感じたら、家庭内でもマスクをする。これで家族にうつしてしまう確率を下げられる。
  • 相手を選ぶ
    飲み歩きや食べ歩きの仲間は選びたい。「かかっても平気だよ。そんなに気にすることないって。もう弱毒化して風邪みたいなもんでしょ。いつまでマスクなんかしているの」という人は、相手にうつしても平気な人である。同じ衛生意識の人との会食が圧倒的に安全だ。

カラオケのガイドライン

  • カラオケボックスにする
    そろそろカラオケもしたいだろう。コロナ禍で最も我慢させられた遊びかもしれない。歌いたいならカラオケボックスにしておこう。換気基準が決められており、ある程度の換気を期待できるからだ。
  • マイクに要注意
    至近距離で飛沫をたっぷり浴びたマイクを使い回すのがカラオケである。歌い終わったあとは手指衛生が必須だ。これはGSE一択である。匂いもなく頻繁に使っても手荒れしない。
  • 飲むのはいいが食べるのは要注意
    カラオケに飲食はつきものだが、お酒とおつまみの組み合わせで、延々とテーブルにおつまみが乗っているパターンはよくない。初期に大皿料理を用意したカラオケ大会でのクラスター事例が出ているが、空気感染だけでなく、たっぷり飛沫が落ちた料理を食べての感染もあったと考えている。念を入れるなら飲み物にカバーを。

旅行のガイドライン

  • 旅行前の2週間が大事
    家族旅行や友達との旅行などグループ旅行は、メンバーが多いぶん、旅先で発熱し詰んでしまうリスクが高くなる。旅行前の2週間はメンバー全員が感染対策を徹底しよう。いつもよりもマスク率を高め、会食やカラオケなど感染リスクの高い遊びは控える。健康で旅行に出発することがなにより大切。
  • 飛行機と新幹線は感染リスクがあると覚悟
    飛行機は換気がいいと言われているが、駐機中はよくないという話もある。新幹線や在来線特急は実測するかぎり、換気は効いていない。どちらも感染リスクはある。N95クラスの高性能マスクをした上、目的地に着いたらすぐに風呂に入って着替えよう。荷物は上に置くのが吉。飛沫は下に落ちる。
  • ホテルでは荷物をバスタブに置く
    感染症ではないが、床しらみ(南京虫)が日本でも増えているという報告がある。懸念は旅行から自宅に持ち帰ってしまうこと。ホテルの部屋の床に荷物を置くのが危険。荷物の置き台があればいいが、なければバスタブへ。最も安全なのが照明をつけたままのバスルームのバスタブである(明かりを嫌うからである)。
  • 帰省をするなら長くても2泊
    事前にしっかり感染対策をしていても、帰省の飛行機や新幹線で感染してしまうことはある。でも1泊2日ならウイルスの吐出を始める前に親と別れられる。せいぜい2泊にしておこう。

買い物(食品)のガイドライン

  • 店を選ぶ
    飲食店と話は同じである。店の衛生意識は従業員のマスクで確認できる。加えて、パンや惣菜などそのまま口にすることもあるものを、飛沫がふりかかるオープンエア環境に置いている店は避ける。もちろん不織布マスクでも布マスクでもいいから、自分もマスクをして買い物をすること。
  • 店を出たらすぐ手指衛生
    お店を出たらすぐに手指衛生である。人が買い物をするところを観察してみるといい。商品を手にとって、裏書きなどを確認しては元に戻している。しかも、2類時代と違い、入口での手指衛生もしていない。ノーマスクで咳やクシャミで飛沫をとばし、ツバを受け止めたで商品を触っている。それを手にしているのだ。買い物後の手は汚染されている。
  • 帰宅したら真っ先に処理
    帰宅したらまずは、汚染されている可能性のある商品を処理しよう。日本のスーパーは多くを包装しているので表面を拭き取る。裸で陳列されていた野菜類は水洗いしておく。終わったらしっかり手指衛生だ。自宅なら石鹸を使った二度洗いがいい。
  • 単方向に拭き取るのが基本の中の基本
    拭き取りだが、アルコールやGSEを使うのはもちろんいいが、この程度なら、から拭きでいいだろう。ほとんどは表面のフィルムを捨ててから食べるわけだから、防御ポイントはまだある。
    ただし、動かす方向は単方向だ。双方向で拭き取ると、往路で繊維にからめとった汚れやウイルスを、復路でまたなすりつけてしまう(もちろん、ふきんはすぐに洗濯機へ)。

スポーツジムのガイドライン

  • 基本的にはマスクを推奨
    周囲がノーマスクだと自分だけマスクをしていても感染する。しかし、吸い込むウイルス量を減らす効果は確実にあるから、ジムでもマスクをしたほうがいい。感染しても軽症で済む可能性が高くなる。
    なお、マスクをしての運動に問題がないことは、複数の研究で明らかになっている。ダイヤモンド型マスクなど、口元に空間ができて、呼吸のしやすいものを選ぶといいだろう。
  • 更衣室には長居をしない
    ジムでもプールでも、温泉でもそうだが、更衣室でのクラスターが起きている。無防備だし、うっかりノーマスクで話すからだ。黙ってさっさと着替えよう。リスクの高い場所には長居をしないのが鉄則だ。

コンサートやライブのガイドライン

イベントでの感染リスクは流行状況に依存するが、その流行状況がわからないのがいまの日本だ。参考になるのは下水サーベイランスや救急車逼迫アラート、あとはモデルナのサイトである。これらの情報で「まだ感染者が多い」と思われる時期は、イベントを選んだほうがいい。

イベントといっても感染リスクはさまざまである。まずそれを整理しておく。

 A(高リスク)B(低リスク)
1. 空間密閉空間(屋内)開放空間(屋外)
2. 容積天井が低い天井が高い
3. 発声観衆聴衆が声を出す観衆聴衆は声を出さない

これの組み合わせになる。大ホールでのクラシックコンサートは1Aだが2B/3Bでリスクは低い。映画館は2Aか2Bかで違う。ライブハウスは1A/2A/3Aでリスクは高い。なお、1B/3Aの野外ロックコンサートや学校の体育祭でクラスターが発生しているから、この3要素の中でも比重が大きいのは3の発声だ。これを踏まえて、ガイドラインをまとめよう。

なおイベント主催者のガイドラインとして、
「感染蔓延時は屋内イベントのマスクを義務に、屋外イベントもマスクを推奨にする」
を設定してもらいたい。1A/2A/3Aでも観客聴衆の全員がマスクをするなら、開催していいと思う。

  • イベントを選ぶ
    感染流行時はノーマスク前提の1A/2A/3Aは避ける。新型コロナだけではない。いまはインフルエンザや麻疹の感染もある状況だ。
  • 3Aイベントの後は直帰する
    サッカーの応援(1B/3A)が典型例だが、屋外開催であっても声を出すイベントの場合、直帰するのが重要だ。理由は、飛沫を全身にかぶっているからである。1A/2A/3Aでノーマスクならなおさらだ。六甲おろしを歌いながら居酒屋で祝勝会をしたいのはわかる。わかるが、着替えて繰り出すとか、帰宅して風呂に入り、さっぱりしてから家で呑むほうがいい。
  • 手指衛生を頻繁にする
    あるいは、手指衛生を頻繁し、洗顔をする。体育祭クラスターなど屋外イベントでの感染は、エアロゾル感染というよりは、飛沫を全身にかぶっての接触感染だと考えている。手指衛生を徹底し、洗顔するのは効果がある。帽子も有効だ。頭髪に飛沫が付着するのを防いでくれる。

まとめ:感染リスクの把握

以上、ざっとガイドラインをまとめてみた。ほかにもサウナなどさまざまな場面はあるが、ここまで読んでいただければ、基本的な考え方は理解してもらえたと思う。

改めて、「感染の成立」について考えてみよう。感染が起きるのは防御網を突破された場合だ。近いのはラグビーだと考えている。病原体と免疫が互いに押し合って、押しこまれたら感染してしまう。

よく「数的優位」という表現をするが、話は同じだ。病原体と抗体が1:1対応でつぶしあっていき、最後に余るのはどちらか、という話である。抗体が余れば感染は防げるが、病原体が余れば突破される(そもそもタックルを回避される場合もあるが、ここでは割愛する)。

仮に、100個が防衛ラインだったとしよう。密閉空間で換気もなく、ウイルスが充満している環境にノーマスクでいれば、数分で100個を越える。ここでマスクをすれば、数10分間は100個以内に抑えられる。N95マスクなら数時間にわたって100個以内に抑えきれる。

つまり、感染の成立を決めるのは

  • その場のウイルス濃度
  • 吸い込みを防ぐフィルターの有無とその性能
  • そこにいる時間

の組み合わせである。換気や空気清浄機の利用、あるいは全員がマスクをすることでウイルス濃度を薄くし、高性能マスクをして吸込み量を減らすことで、感染せずに滞在できる時間が長くなるという関係にある。

これで空気感染をコントロールした上で、頻繁な手指衛生で接触感染・飛沫感染を防ぐことで、感染しないか、あるいは感染しても軽症で済ませることができるのだ。

制御してこそのウィズコロナである。感染リスクを制御して、楽しむほうがいいに決まっている。このガイドラインが参考になれば幸いだ。

文責:古瀬 幸広
科学・医学ジャーナリスト
X: @yfuruse
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