研究結果に基づく新型コロナワクチンのFAQ

Q00: なぜそんなにワクチンを勧めたいのか。
A:
勧めたいのではなく、正しい情報を知っていただきたいのみ。周知の通り、接種にも若干のリスクを伴う。だからこそ、うつかうたないかは、正しい情報に基づいて判断してもらいたい。正しい情報とデマ情報を天秤にかけて悩むなんて、バカげているでしょう。このFAQを読んで、じっくり考えて、判断してくださればうれしい。

Q01: 「接種に若干のリスクがある」と当たり前のように言うところが恐ろしい。そんなものはクスリとしての要件を満たしていない。ゼロリスクでなければいけないでしょう。
A:
感染症の病原体を何らかの形で体内に入れ、その情報を免疫に教えるのがワクチンという仕組みだ。つまり、感染すると大変なことになる病気を「事前に、軽く体験させる」のがワクチンの原理であるから、リスクをゼロにすることは根本的に不可能。感染しても健康被害のない病気のワクチンなら、原理的にワクチン接種も安全である。しかし、そんな病気なら接種の必要もない。
「こんなに熱がでるワクチンなどイヤ」と言いたくなる気持ちはわかる。わかるが、予行演習で熱が出る人がノーワクチンで本番を経験(感染)すると、もっとひどく熱が出ることになるだろう。心筋炎もそうだ。とくにモデルナワクチンの接種で、若い男性に心筋炎がおきることがあると指摘されているが(だから日本は早期に対応した)、接種の副反応としての心筋炎は軽くすみ、重篤化することはない。一方、ワクチンで心筋炎がみられるくらいだから、感染すると心筋炎になることが多く、かつ、深刻で命にかかわる。
ワクチンの危険性を指摘する人はSタンパク質の病原性が問題だというのだが、ならば感染することはもっと危険だ。ウイルスの増殖により、桁違いに大量のSタンパク質を体内に抱え込むことになるからである。基本的にワクチン接種で起きる身体の変化は感染して起きる症状であり、未接種で感染するとはるかに深刻なものとなる。
繰り返すが、予行演習することで軽く済ませるのがワクチンの原理だ。練習でケガをする人は、ぶっつけ本番(未接種で感染)だとひどいケガをするもの。

Q02: しかし国は死亡リスクがあることを伏せて接種を始めたじゃないか。
A:
その意見をよく耳にするが、正直、難癖だな。ワクチンの接種券に「健康被害はまれではあるものの、なくすことはできない」と明記されている。しかも、新型コロナワクチン接種開始前の2021年2月19日の衆院予算委員会において、ワクチン接種を原因として死亡した場合について、「国は補償金として4420万円を支払う」と田村憲久・厚生労働相(当時)が返答し、大きく報道されている。死亡した場合の補償額を決めて告知しているのであるから、死亡リスクがあることを隠していない。

ワクチン接種券に健康被害については明記されている。

Q03: そうじゃなくて、いかにも安全だという雰囲気で接種を進めたし、実際、接種前に「死ぬかもしれないがうちますか」と聞かれていないことが問題だと言っている。
A:
それはそのほうが丁寧だけれども、問題はそこまで事前に言わないといけないほど死の危険があるのかどうかだ。ざっと計算したが、2023年12月時点で新型コロナワクチン1接種あたりの致死率は0.0000364%(分子を「因果関係を否定できない」として補償された死者数、分母を接種回数にしての計算)。何度も何度も「死ぬかもしれないぞ」と警告し、納得した上で接種させることが必須というほど危険なわけじゃない。
この致死率でその対応を求めるなら、タクシーやバスの運転手も「事故を起こして死ぬかもしれないことを承知していますか」といちいち確認し、「それでも乗る」という同意書をとってから乗せないといけなくなる。

Q04: そもそも死亡リスクもあるものを接種する意味がわからない、と言っているんだよ。
A:
「未接種で感染しての死亡リスク」が考慮から抜けている。つまり、暗黙のうちに「未接種で感染もしない状態」と比べているところがナンセンス。健康リスクに順位をつけると
1)未接種で感染しない
2)接種して感染しない
3)接種して感染する
4)未接種で感染する
の順に被害が大きくなる。1と2を比べるから話がおかしくなるんだ。そうではなくて、新型コロナのように誰もが感染するような病気の場合、3と4を比較しないといけない。そしてワクチン接種が始まって以来の研究結果を見るかぎり、4の健康被害が群を抜いて大きい。うつ意味はある。

2023年12月に発表された日本人を対象にした研究報告をみると、

  • デルタ流行期(2021/8‐11)
    • 2回接種6ヶ月後までで人工呼吸器予防効果99.6%、死亡予防効果98.6%
  • オミクロン流行期(2022/1‐6)
    • 3回接種6ヶ月後までで人工呼吸器予防効果97.9%、死亡予防効果99.6%。

という結果だ。オミクロン初期の新型コロナ死者1,000人を無作為抽出すると、圧倒的に未接種者が多い。それだけ接種は人の命を救った。「1日100万回」と号令をかけて、2021年夏までに大規模接種を実現した人たちには感謝しかない。
cf.
COVID-19 vaccine effectiveness against severe COVID-19 requiring oxygen therapy, invasive mechanical ventilation, and death in Japan: A multicenter case-control study (MOTIVATE study)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0264410X23014809

Q05: しかし、ワクチン接種が始まってからむしろ死者が増えているじゃないか。それをどう説明するんだ。
A:
それは単純な話で、上のように圧倒的な効果があったことを踏まえ、日常生活に対する制限をどんどんやめたからだよ。Stay homeをやめ、学校は対面授業に戻し、入国制限を緩和し、外国人観光客を受け入れた。「私たちはもう自由だ」と経済を回しはじめたところに変異体が次々とやってきて、感染者は増えた。致死率が1/10になっても、感染者が100倍になれば、死者は10倍になる。
かといって、2020年の鎖国に近い入国制限・会食にお酒も出ない行動制限・遠隔授業中心の学校という生活を続けるわけにはいかないでしょう。ワクチンの成果で行動が自由になった。でも死者の絶対数は増えてしまったという状態だ。ここをどうしのぐかがウィズコロナであって、現状の正解は「ワクチンをうって、換気/マスク/手洗いを継続する」しかないね。

入国制限緩和の時系列を以下にまとめておく。2023年夏に(季節外れの)インフルエンザが流行したのはマスクをとったからではなく、海外からの観光客を受け入れたからだと主張する人がいるが、それなら2022‐2023冬シーズンに流行していないとおかしい。

[入国制限緩和の歩み]
・2022年6月1日
入国者上限を1日あたり2万人にひきあげ
・同6月10日
外国人観光客の受け入れ再開(小人数の添乗員付ツアー限定)
・同9月7日
添乗員なしツアー受け入れ
・同10月11日
全制限解除

Q06: そんなことを言っているが、現実にワクチン接種を勧める医師とそれに反対する医師に真っ二つに分かれているじゃないか。本屋に行ってもワクチン接種に反対する内容の本が多数並んでいるぞ。
A:
「二つに分かれている」というのが思い込みだ。支持と反対が50:50という状態ではない。国内でいうと約34万人の医師のうち、mRNA新型コロナワクチンに反対しているのはせいぜい300人くらいだから、「99.999:0.001」くらいのもの。もしも50:50なら、接種にあたる医師を確保できていない。
しかし、この0.001%でしかない専門家の声が大きい。これに医療ジャーナリストを自称する反ワクチン活動家がのっかり、一部の政治家が票集めの手段として反ワクチン活動をする。出版社は売れればいいという態度だし、新聞社もあからさまに反科学的な内容の本の広告を受けている。余談だが、これはもうオールドメディアの崩壊のきざしかもしれないね。読者に対する責任感のカケラも感じられない。
X(Twitter)などで医師たちの発言をみていると、ある特徴に気づく。発熱外来で新型コロナ感染者の治療にあたっている医師たちがほぼ例外なくワクチン接種を勧めている一方、反ワクチン派の医師は発熱外来の現場にいない人が多い。前者はノーワクチンで重症化したり、死亡したりする例と日々向き合っているから、ワクチンの効果を実感しているということだ。

Q07: 薬害に立ち向かって奮闘してくれている医療ジャーナリストは新型コロナワクチンについて、「日本人を対象にしたプラセボ二重盲検の前向き研究をせずに接種を開始した」という問題点を何度も指摘している。質の低い研究しか出てないということだろ。
A:
都合のいいときだけ人種を持ち出すんだね。mRNAワクチン開発の治験はアメリカという多民族国家で実施したもの。被験者をWASP(White, Angro-Saxon, Protestant)に絞るなんてことは、あり得ないと思うよ。それではロールアウト後も接種する人種・民族を選ばないといけなくなる。「黒人やアジア人では治験していない。これは白人限定のワクチンです」といってうちはじめたら、暴動が起きているだろうよ。
そもそもプラセボにこだわるのがもう意味不明。ワクチンをうつふりをして生理食塩水をうった医師が逮捕されているが、これがバレたのは副反応が出なかったからだ(疑問に思って血液検査をしたら、抗体ができていなかったことで確定)。プラセボでやるなんて無理だよ。生理食塩水グループはうたれたのがワクチンではないと自覚できてしまう。

「プラセボ二重盲検の前向き研究を日本人対象にやれ」なんていう人は根本的にワクチンの治験を理解していない。もうおだまり、としか思わない。薬の治験とワクチンのそれとはみるものが違う。効くと思って飲めばビタミン剤でも頭痛が消えたりするから(これがプラセボ効果)、中身の違うものを投与して結果を見る。それが絶対にわからないように二重盲検にして被験者にも医師にも、中身がわからないようにする。薬の治験ではたしかにこれが必要だ。
ワクチンはどうか。薬と違い、「接種したことで起きる直接の変化」は見ていない。そのあと、感染するか否か、感染して重症化するか否かをみる。つまり観察するのは、接種後の別イベント=ウイルスとの接触だ。ウイルスは目に見えないし、元気な人がウイルスを拡散するのが新型コロナなので、いま話している相手が感染者かどうかはわからない。つまり、感染イベントそのものがプラセボ二重盲検状態になっている。

治験でプラセボだの二重盲検だの、前向きだの後向きだのといった手法が問題になるのは、バイアスをどれだけ排除できるかという話だ。被験者がワクチンを接種したことで起きるバイアスがどの程度あり、それが感染イベントにどれほど影響するのかを考えれば、おのずと答は出る。
ワクチンに関していえば、n数が十分に大きいワクチン接種歴別の観察研究は、n数の少ないプラセボ二重盲検より信頼度は高い。感染イベントそのものがほとんどランダムであり、ワクチン接種による行動変化(羽目を外す人が出る問題)だって、n数が多ければその影響が稀釈されるからである。
国内では長崎大学がVaccine Effectiveness Real-time Surveillance for SARS-CoV-2(VERSUS)という研究プロジェクトを進めており、随時日本人を対象とした分析結果が発表されているから、これを参照すればいい。
cf.
https://www.tm.nagasaki-u.ac.jp/versus/

Q08: ワクチン接種に死亡リスクがあり、亡くなった方がいるのは事実だろ。何人が犠牲になればワクチンの有害性を認めるんだ?
A:
ワクチンが有害なものになり得ることは最初から認めている。「原理的に健康被害をなくすことはできない」と国も最初から接種券に書いているくらいだ。
そう詰め寄る人の選択肢はたいてい
a)ワクチンをうたず、感染もしないで健康に暮らす
b)ワクチンをうって副反応に苦しむ
の比較だよね。だから話がおかしくなるのだ。新型コロナのように国民の全員が何度も感染するような病気の場合、比べないといけないのは
c)ワクチン未接種で感染した場合の健康被害
d)ワクチン接種で感染した場合の健康被害
の二つだ。cとdを比べて、dのほうがはるかに被害が小さいなら、ワクチン接種に意味がある。感染を前提としての比較論なんだよ。abの比較で済む話ならば、aのほうがいいに決まっている。
実際、病原性が高かったデルタ期にワクチンが間に合ってなければ、2021年2月17日から11月30日までに36万4000人が死亡していたという試算が出ている。実際の死者数は1万人だったので、35万人もの命をワクチンが救ったことになる。
cf.
Evaluating the COVID-19 vaccination program in Japan, 2021 using the counterfactual reproduction number
https://www.nature.com/articles/s41598-023-44942-6

Q09: そんなの仮の仮の話だろ。1万人が36万人になっていたかも、なんていう荒唐無稽な数字を信じられるか!
A: 決しておかしな数字ではない。ゼロコロナ政策をやめた中国は、2か月間で30歳以上が187万人も死亡している。人口比で日本にあてはめると16万人だ。そして当時の中国は、mRNA新型コロナワクチンを接種していない。2月‐11月の9か月間で36万人死亡は現実的にあり得る数字だし、今後も変異体と免疫状況によっては、この規模の死者を出す可能性はある。
cf.
Excess All-Cause Mortality in China After Ending the Zero COVID Policy
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2808734

Q10: しかし現実に、接種で2,000人以上が亡くなっている。35万人の命を救ったからといって、2,000人の死亡を無視していいとは思わない。
A:
それはそうなのだが、事実をまず正確に把握する必要がある。ワクチン接種によって不幸にも亡くなられた方がいるのは事実だし、もちろん考慮すべき事柄だが、2,000人という数字はデマだ。これは副反応疑い報告制度によって報告された死者数にすぎない。
cf.
厚生労働省「新型コロナワクチンの副反応疑い報告について

人間の身体は複雑だ。免疫はもっと複雑だ。ワクチンはそこに病原体情報をいれるわけだから、いくら治験で効果と安全性を確かめているといっても、何が起きるかわからない。接種券に健康被害は避けられない、と書かれている通りだ。
だから国は、医師に対して「接種後に起きた有害事象を報告せよ」と義務づけて、健康被害を早期発見する制度を運用している。これが副反応疑い報告だ。たくさんの事例を集めて、そこから因果関係があるものを発見するというやり方である。
2,000人という死者数は、この制度によって報告された数である。この段階では、「たまたま死ぬ直前にワクチンを接種した人」も多数含まれているから、全員が「ワクチンを接種したせいで亡くなった人」というわけではない。現時点で、明確に接種との因果関係が認定されたのは2例のみである(「因果関係を否定できない」として補償されたのが156例。2023年12月現在)。
そういえば、「うちの祖父、ワクチン接種に向かう途中に倒れて亡くなってしまったんだけれど、数時間ズレていたら、副反応疑い報告の対象となっていたんだね」というツイートを見かけたが、正しい。そういう制度です。

Q11: まどろっこしい。なぜ接種後に死亡した人の全員を解剖して特定しないのか。そもそも国は補償金など払いたくないから、なかなか因果関係の認定などしないに決まっているだろう。
A:
殺人事件で司法解剖が活躍するドラマの見すぎだ。病死・突然死の場合、身体内で起きている変化の痕跡は解剖で確認できるが、なぜ死に至ったのかまではわからないことが多い。殺人事件は外傷や毒など外的要因があるから解明もしやすいというだけだ。
では、どうすればわかるのか。「同じ条件を満たす人が複数名死亡」という事例を探すことである。たとえば、「疾患Aと疾患Bを併発している人がワクチンを接種すると亡くなっている」という事例が複数あれば、疾患ABをもつ人の死亡とワクチン接種との因果関係を疑うことができる。だから一か所に副反応疑い報告を集めて検討しているのだ。
マスコミはとかく「健康被害をなかなか認定してもらえない」という批判的な記事を書く。国のサボタージュや人員不足を疑うものが多いが、共通項をもつ複数の死亡事例が出てこなければ、おいそれと認定はできないので、時間がかかるのが当然だ。もしも即座に認定されるようなら、そのほうがよほど怖い。
「あー、疾患ABをもっていたんですね。だったら間違いない。ワクチンをうったせいです。補償しておきますね」
と即答されるような状況ということだ。それがわかっているなら即刻接種を中止するか、「疾患ABをもつ人には接種するな」という通達が出ている。だいたいね、担当者が自腹をきって補償するわけじゃないんだから、確定的ならケチったりしませんよ。そんなモチベーションがどこにある?

国がワクチン接種にともなって実施している副反応疑い報告制度は、健康被害がないかを早期に察知し、ひどい健康被害があるなら接種を中止したり、接種できる対象を絞ったりするための制度だ。必要な人には補償するための制度でもある。
しかも厚生労働省のウェブページで副反応疑い報告そのものがすべて公開されている。ここに集められた有害事象をすべて「ワクチンのせいだ」と騒ぐことこそ有害でしかない。そんな素っ頓狂な非難を続けていたら、情報公開をやめるかもしれない。そのほうがよほど怖い。
また、「接種した医師が頑としてワクチンの健康被害だと認めない」というのはデマか誤解だということもわかるだろう。現場の医師が判断するべきものでもなければ、判断できるものでもない。
したがって、接種後に家族を亡くした遺族に寄り添って、国を相手に訴えるというのにも同調はできない。証拠なくして訴訟しても勝てる見込みはうすいし、そもそも「因果関係を認めさせて、補償してもらうこと」が目的なら、世界中で報告されている有害事象を調べるほうがいい。共通する事例があることを見つけて、厚生労働省に「これでも因果関係を認めないのか」とかけあえばいいのだ。

Q12: しかしともかく、他のワクチンに比べて、新型コロナワクチンは群を抜いて健康被害が多いじゃないか。それをどう説明してくれるんだ。
A: 基本的な前提を無視した比較で「多い」といっても意味はない。人間の身体は複雑だと指摘した。大人の体内は千差万別だ。基礎疾患がさまざまで、コロナウイルス曝露歴も異なる。そのほぼ全員にうったのが新型コロナワクチンだから、副反応疑い報告の数が多いのは当然だ。
なにしろ、他のワクチンのほとんどは幼少期に接種を済ませる。「無垢」な身体にうっている。酒びたりの子はいないし、病歴もたいして違わない。当然、副反応疑い報告も少ないというだけである。運転の下手なヒトも暴走する人も酒酔い運転をする人もいる自動車の事故率と、子どもの三輪車の事故率を比べてもなんの意味もない。
だから逆にいうと、幼少期に新型コロナワクチン接種をするのが最も安全であり、それを10年続けたら小学校が新型コロナウイルスに強くなり、20年続けたら、社会が強くなるということである。すなわち、長期的にみて新型コロナ禍を抜け出す最良の方法が、幼少期でのワクチン接種であることは明白であるにもかかわらず、あの界隈は「感染しても軽症で終わる(←これもデマ)のだから、子どもにはうつなと反対している。じつに非論理的。

なお、振り返ると反ワクチン運動が目立ったのはHPVワクチン騒動からだ(ちなみに、そのときのメンツと今回の新型コロナワクチン反対運動のメンツが、ほぼほぼ共通である。これだけで「お察し」な話)。あのときも同じ騒ぎ方をされた。副反応疑い報告で報告されたものすべてを「ワクチンのせい」だと抗議する議員や反ワクチン活動家の言い分をマスコミが垂れ流しにしたのである。
その結果、HPVワクチン接種をしばらく止めて、調査をすることになった(名古屋スタディと呼ばれている)。そして副反応疑い報告にある有害事象のほとんどがワクチン接種と関係ないことが示され、HPVワクチン接種が再開されたという経緯だ。
接種が止まったことにより、2000‐2003年生まれの女性については子宮頸がん患者が17,000人増加し、死者が4,000人も増えると推算されている。反ワクチン運動の結果がこれだ。しかし、界隈はその責任をとろうとしないまま、新型コロナワクチンにターゲットを変えて同じことを繰り返している。
一部議員はいまでも「HPVワクチンは毒だ」と言い続けているが、それが責任をとる行為だとは思わない。自らの活動でワクチン被害者を救ったどころか、4,000人も死者を増やす結果につながったことの総括をすべきだろう。
cf.
Potential for cervical cancer incidence and death resulting from Japan’s current policy of prolonged suspension of its governmental recommendation of the HPV vaccine
https://www.nature.com/articles/s41598-020-73106-z

Q13: なんか偉そうに批判しているが、じゃあオマエは安全を保証できるのかよ。疑いがあるものに反対するのは当然の話じゃないか。
A:
疑いを口にすることに反対はしない。私が問題視しているのは、副反応疑い報告という制度を理解しないまま、そこに報告されている有害事象をすべてワクチンのせいだと言って騒ぐ無知であり、それが濡れ衣だということが科学的に証明されても、まったくそれを認めようとしない態度である。
書いた記事が間違っているなら、訂正するなり撤回するなりするべきもの。新聞社など、何事もなかったことにしているのがひどすぎる。「ワクチンを打っているのはもう日本だけ。日本殲滅作戦は始まっている。正月の大きな地震とも関係が疑われる」とデマでデモをするような議員を過去にもちあげた事実を私たちは忘れていないよ。
そして誤解して欲しくないのだが、私が安全を保証するわけではない。世界中で発表されている研究報告が、現時点ではHPVワクチンも新型コロナワクチンも支持できる結果を示していることをご紹介しているに過ぎない。
科学的知識というのは常に上書きされるもので、明日にも「接種するベネフィットよりもデメリットのほうが大きい」ことが研究で明らかにされるかもしれない。そうなれば私も接種に反対する側にまわるだろう。判断基準は「科学的に明らかにされた事実」である。
改めて書いておく。2024年1月14日時点において、世界中で報告されている研究成果をみる限り、HPVワクチンも新型コロナワクチンも、接種するメリットがデメリットを大きく上回っている。そして新型コロナワクチンについていえば、重症化予防だけでなく、Long COVID予防の効果も高い(ただし、新型コロナウイルスの変異が激しいので、適切にアップデートしなければその効果を維持できないことも判明している)。
一例を示しておく。以下の論文は、スウェーデンの589,722人を調査し、感染前のワクチン接種がLong COVIDを防いでいることを確認した研究。1回接種、2回接種、3回以上接種の効果はそれぞれ21%、59%、73%。調査期間は2020年12月27日‐2022年2月9日だから、デルタもオミクロンも含む。
cf.
Covid-19 vaccine effectiveness against post-covid-19 condition among 589 722 individuals in Sweden: population based cohort study
https://www.bmj.com/content/383/bmj-2023-076990

Q14: ファイザーの極秘文書が公開され、1291種類もの有害事象が挙げられているが、それでも支持するのか。ワクチンをうつと1291種類もの病気になってしまうんだぞ。
A:
あの文書は「この1291種類の病気にならないかを確認した」というリスト。車検のチェック項目と同じだから、種類が多ければ多いほうがむしろいい。それだけていねいに確認したということである。「1291種類の有害事象が発生していないかを確認しました」というリストを持ち出してきて、「起きた有害事象が1291種類もある」といって騒いでいる。悪質。
それに資料にConfidentialとあったからといって、「ひた隠しにしていた極秘文書だ」というのも的外れ。開発中は関係者外秘とするに決まっている。

Q15: いやいやそもそもの話で悪いのだが、ワクチンを接種した人も感染しているじゃないか。それでなんの意味があるのか。国も「2回接種でマスクを外せる」と宣伝していたのに、だまされた気分だぞ。
A:
感染すると終生に近い免疫がつく病気と、そうでない病気がある。麻疹やおたふく風邪が前者だ。そして前者のワクチンは、感染を長期間防いでくれる。一方で、インフルエンザや新型コロナは後者の代表で、一度感染してもまた感染してしまう。ウイルスが変異してくるからだ。当然、ワクチンで身につけた免疫能力(獲得免疫)も、変異体には効きにくく、感染してしまう。
それでも、体内の免疫システムが新型コロナウイルスとの戦い方を事前学習していれば、早期に体内でウイルスを撃退でき、影響を最小限にとどめられる。つまり重症化しづらい。これが新型コロナワクチンの目的だ。体内でウイルスが好き放題暴れるのを免疫が早期に阻止できれば、影響は最小限にとどめられる。
じつはワクチン導入時の国の説明は、「発症予防効果と重症化予防効果がある」という内容で、感染予防効果については言及していなかった。「2回接種でマスクも外せる」と宣伝したのは国ではない。運動家である。ワクチン接種を進めるには役立ったかもしれない運動だが、同時に誤解や反発も招いた運動だった。ちょっと言葉が過ぎたという感は否めない。
なお私は、日本でワクチン接種が始まる直前の2021年1月30日にワクチンに関する記事を書いて、集団免疫がつかず、感染対策をやめられない可能性が高いことを事前に指摘している。
cf.
ワクチンは自分のためならず(2021年1月31日付)

Q16: ここまでの話は1万歩譲って、あなたの言い分を認めてやってもいい。しかし、ワクチン接種を勧められるのはもう何回目だ? 2回で終わりじゃなかったのかよ。いつまでも必要だと言い続けて儲けるつもりなんじゃないのか。
A:
儲かるのは製薬会社、というのは事実だけれどね。接種を推奨している医師がそれで儲かるかというとそれは違うだろう。「新型コロナを煽れば医師が儲かる」としつこい一派もいるが、大間違いだよ。補助金が出ることがその証拠。儲かるなら、そんなものはいらない。
接種回数が増えてしまっているのは、相手のウイルスが変異を続けているからだよ。2023‐2024冬シーズンのインフルエンザも4価ワクチンといって、4種類の変異体ウイルスに対応したものをうっている。
逆にいうと、もしもデルタ変異体で変異がとまっていれば、「2回うったらマスクを外せる」というあの言いすぎた表現もウソじゃなかったんだよね。2021年12月は感染者数もきわめて少ない。

Q17: そもそもウイルスは変異するのが当たり前。変異が「想定外」はないだろ。専門家のくせに見通しが甘すぎるんじゃないか。おれら素人でもウイルスが変異することくらい知ってるよ。
A:
たしかに「ワクチンを打て打て」と騒いだ人たちの中には、新型コロナウイルスがRNAウイルスで、変異が激しいことを知らなかったんじゃないかと思う人がいるのも事実だけれどね。でもそんな人たちはごく一部だ。
「変異が激しいからワクチンをつくりにくい」という話は2020年の5月には出ていたから、専門家が変異を想定していなかったはずもない。ただ、オミクロン変異体は変異がすごすぎたんだよ。オレンジとネーブルくらいの変異を想定していたら、サンショウがきたくらいの衝撃だ(すべてミカン科の植物)。
あまりにも違うので、免疫不全患者に持続感染して変異したとか、マウスで変異したものが再び人間に戻ってきたんじゃないかなどと起源には諸説ある。少なくとも、デルタ変異体の直系の子孫ではない。私はあの時点で、COVID-22と名称を変更するべきだったと思っている。
つまり、「新型コロナが流行して3年」というよりも、「ワクチンを武器に2年で終息させることに成功したが、2022年にはオミクロン変異体による新しい病気がパンデミックを起こした」とみるべき。なにしろオミクロン変異体は、免疫をすりぬけるのがうますぎる。ワクチンだけで感染拡大を抑えきれないのはこれが理由。

Q18: ワクチン接種のメリットがデメリットを上回っているというのはわかった。しかし、子どもはどうだ。オミクロンになってから、感染しても軽症か無症状なんだろ? だったらワクチンなどうつ必要ないじゃないか。副反応が出るだけ損だ。というか、メリットを期待できないのに死亡リスクもあるワクチンをうたせようというのが理解できない。子どもがかわいそうだと思わないのか。
A:
「子どもは感染しても無症状か軽症」というのがデマ。たしかに致死率は他の世代に比べて低いが、重症化したり脳症になったりする子どもは一定数いるし、大人と同様、Long COVIDになる率はかなり高い。ノーガードで10回ほど感染を経験したら、クラスに健康な子どもが一人もいなくなるのではないかと思うほどだ。
そして問題なのは、急性期がたいしたことなくても(風邪と似たようなものでも)、身体に大きな影響が残ることである。Long COVIDもそうだし、免疫系にダメージが残り、他の感染症にかかりやすくなることが判明している。海外では子どもの結核や溶連菌感染症、インフルエンザ/アデノウイルス感染症などが増えた。3回感染して認知症を発症した10代や、心不全をおこした中学生なども出ている。MIS-Cや1型糖尿病の発生率もあがった。
こうした悪影響をワクチンが防ぐ。そもそも「体内でウイルスが好き放題増殖すること」によって、重症化もするし、Long COVIDや合併症も起きるのだ。早期に免疫がウイルスを駆逐できるようにするのがワクチンの役割。なかでも子どもは自然免疫(innate immunity)でウイルスに対抗するくせがあるので、適応免疫をつけて補助してやるのは有効に決まっている。うたないまま、何度も感染させることのほうが虐待。この研究は5‐17歳の子どものLong COVIDリスクをmRNAワクチンが低下させることを確認している。
cf.
1935. COVID-19 mRNA Vaccination Reduces the Occurrence of Post-COVID Conditions in U.S. Children Aged 5-17 Years Following Omicron SARS-CoV-2 Infection, July 2021-September 2022
https://academic.oup.com/ofid/article/10/Supplement_2/ofad500.2466/7448254

Q19: おいおい。しかし現実には、ワクチンをうてばうつほど感染しやすくなっているし、超過死亡も増えているじゃないか。
A:
「うてばうつほど感染しやすくなる」というのがデマだね。クリーブランド病院での調査報告をもってそう主張する人がいるが、あの研究論文に出ている「接種回数が多い人」は、新型コロナ患者の治療にあたる人たちだ。建設会社で似た調査をしたら、ヘルメットを多くかぶる人のほうがケガしやすいという結果になるさ。事務方は現場に出ないからな。
超過死亡の件はナンセンスすぎる。これまでの研究で1)接種者のほうがウイルスをよく撃退できており、重症者も後遺症患者も少ない、2)接種者は新型コロナだけでなく、他の病気による死亡においても未接種者より少ないことがわかっている。これで、どうやって超過死亡が増えるというのか。

そもそも議論をみていると、「超過死亡」が理解されていない。この概念はもともとインフルエンザの本当の影響を把握するために考えられたものだ。インフルエンザは感染者数の全数把握をしていないし、最初から最後まで医療にかかることなく亡くなる人もいる。そこで、「インフルエンザがなかったと仮定しての死者数」を算出し、実際の死者数との差分をとる。これが本当のインフルエンザによる死者数と見込めるわけだ。これを超過死亡と言っている。
cf.
国立感染症研究所「インフルエンザ・肺炎死亡における超過死亡について

この計算を新型コロナにもあてはめて算出している(日本の超過および過少死亡数ダッシュボード)のだから、ワクチン接種が原因なわけがない。そう主張したいなら、「ワクチン接種をしていなかったと仮定しての死者数」を算出し、実死者数との差分をとって示さないといけない。

Q20: だとしたら、超過死亡の原因はなんだよ。
A:
上のダッシュボードなどに算出されている超過死亡は、以下の死者の総和になる。

  1. 新型コロナウイルス感染症を直接死因と診断され、(実際に)新型コロナウイルス感染症を原因とする死亡
  2. 新型コロナウイルス感染症を直接死因と診断されなかった(他の病因を直接死因と診断された)が、(実際には)新型コロナウイルス感染症を原因とする死亡
  3. 新型コロナウイルス感染症を直接死因と診断されず、(新型コロナ流行による間接的な影響で)他の病因を原因とする死亡(例えば、病院不受診や生活習慣の変化に伴う持病の悪化による死亡)

じつは、上記1に該当するのは急性期に死亡した人のみで、その後に新型コロナ感染を起因として死亡した人は新型コロナ死には含まれない。これが2と3に該当する人である。これまでの統計を見る限り、2と3に該当する人が相当数いると分析でき、その数は新型コロナ死者1名につき、ほぼ2名だ。明らかに感染者と死者のカーブに同期して超過死亡が出ている。
「ワクチンのせい」と言う人が出してくるグラフは、たしかにタイミングとしてはワクチン接種と超過死亡増加が同期しているように見えるが、量が同調していないし、他国の事例をみるとタイミングが合致していないことも多い。そもそも波がやってきたときに接種をしているのだから、タイミングが一致するのは当然であり、これを因果関係だというのは無理がありすぎる。

超過死亡のデータが示すのは、「新型コロナを直接の死因としなくても、感染したことを契機として亡くなる方が多く、その数は感染死者の2倍」だということだ。つまり新型コロナの死者数は、3倍にすると実数になるということである。とんでもない病気が蔓延していると考えたほうがいい。次の表は人口動態統計をもとにしたインフルエンザと新型コロナの死者数である。

インフルエンザ新型コロナ推定実死者数
2020956人3,466人約1万人
202122人16,784人約5万人
202224人47,657人約14万人
2023374人27,937人
日本のインフルエンザと新型コロナの死者数の推移。人口動態統計による。2023年の数字は8月までの数字

Q21: 言い分はわかった。ただな、ワクチンへの疑問を書いたら医者が名誉毀損で訴えたりしているだろ? それが納得いかないんだ。
A:
まったくの誤解。ワクチンへの疑問を書いたら説明されて話が終わる。そうではなくて、「死亡リスクのあるものを勧めたから殺人犯だ人殺しだ」とか、「儲けたいから接種を煽っている」とその人への誹謗中傷・暴言を繰り返したことが問題視されているのみだ。それが正当だというなら、接種に反対する人は、はるかに多くの人が感染して死亡することを勧めたことになる。
死亡リスクを隠して勧めたことが罪だというなら、自動車評論家はいちいち交通事故リスクを書いてからでないとクルマの評論を書けないことになるね。それは接種を推進する国が告知の責任は果たしている。できたら予防接種法を読んでほしい。誰がどのような形で接種を実行し、どう責任をとるのかが規定されている。接種の責任は勧めた医師ではなく、国にある。

Q22: ワクチンが新型コロナウイルスへの抵抗力を高めるのは本当かもしらんが、複数の専門家が「このワクチンを接種すると免疫不全をおこす」と指摘している。説明は専門用語だらけでよくわからんが、専門家が論文を引用して言っている点で、あなたの論説と構造は同じだ。これはどう説明してくれる?
A:
これは単純な話で、その界隈はミクロな現象の研究報告やマウスの実験で観察される現象をネタに「免疫不全をおこすかも」という懸念を表明しているだけ。実際にワクチン接種で免疫不全が起きているという現象を観察するまでは無視していい。どのみち免疫不全を起こすことがが判明したら接種中止になるに決まっているから、そうなるとうちたくてもうてない。つまり現状、心配する必要がない。
接種で免疫不全になる「証拠」として、インフルエンザウイルスやアデノウイルス、溶連菌に感染する例が爆発していることを出す人もいるが、これらの感染症にかかっているのはワクチン接種率の極めて低い子どもたちである。なんの証拠にもなっていない。むしろ、大人にこれらの感染症が爆発していないのは、8割が新型コロナワクチンを接種しているからだという推定すら成り立つ。感染しても、ワクチンによる獲得免疫が新型コロナウイルスの暴走を早期に食い止め、免疫等へのダメージが小さい人が多いわけだから、十分にあり得る推定である。

意識はできないけれども、私たちの身体は24時間365日、外敵と戦っている。その主役が免疫である。病原体には2種類あり、a)滅多に出会うことはなく、ほとんどの人にとってまさにエイリアンな病原体と、b)どこにでもいる菌・ウイルスだが、突如病原体としてキバをむくものだ。新型コロナウイルスはaの代表格。そして、たとえば溶連菌がbの代表格だ。溶連菌はヒトの皮膚にもいる、ありきたりの菌である。でも普通は接触してもなんともない。免疫が防御しているからである。
免疫不全になるということは、bに該当する病原体に負け続けるということである。したがって、「ワクチン接種で免疫不全をおこす」のが本当だとすれば、接種した大人が四六時中感染症に悩み、病院に殺到することになる。「また入院?」「今回は~~炎です」という会話の連続になっている。
512万歩譲って、特定の病気に対する免疫だけが不全となっているとしよう。そうであれば、2021年以降、特定の疾患が特異的に増えていないといけない。現時点で、がんからクロイツフェルト・ヤコブ病にいたるまで、異常な増え方をしている病気は見当たらないのが現実である。どんな理論()を駆使しようとも、現象として観察されていない以上、その理論は限定的に正しいだけか、あるいは誤りでしかない。(2024年1月15日追加)

Q23: 説明に納得はしたが、やはり私は自分の自己免疫力を高めて対抗したいと思う。規則正しい生活、適度な運動、バランスのいい食事と睡眠で、感染症を予防できると私が心酔する人が言っている。
A:
「信じるものは救われる」ともいうし、反対はしない。たしかにヒトの自然治癒力が科学の想像を越えることもあるだろう。ただね、たんまりと儲けていて、専属のトレーナーや管理栄養士をつけて、規則正しい生活を送っているプロスポーツ選手が次々と感染している(プロ野球チームにもクラスターが出ている)し、海外ではアメリカンフットボールやサッカーの選手が感染後に突然死する例が複数出ている。どの程度、それをやれば防げるかがわからないんだよね。
この類の話に共通しているのは、「気力体力が落ちて免疫が弱っていると感染しやすい」という事実を、勝手に「気力体力を充実させたら感染しない」に変換していること。「裏」は必ずしも真ならず、である。あ、あと、「自己免疫力」を高めると自己免疫疾患になるだけだから、それも注意しような。ワクチンで自己免疫疾患が増えると騒ぐ界隈もあるが、研究結果が示しているのは、新型コロナ感染が自己免疫疾患リスクを高める、だからね。(2024年1月15日追加)

Q24: ここまでの説明は全部短期的な話ばかりだよね。mRNAワクチンという人類が初めて体験するワクチンの説明をなぜしない? そして現時点で、mRNAワクチン長期的な安全性は不明だろ。10年は経過をみないといけないんじゃないの?
A:
待てるならどうぞ、としか。待っている間に感染して重症化したり、死亡したり、Long COVIDになったりしては元も子もないと思うけれどね。ところで、ほとんど知られていないが、今回のmRNA新型コロナワクチンに先立って、2013年にmRNA狂犬病ワクチンの治験が実施されているんだよ。つまり、10年単位の長期的安全性評価も終わった状態なんだよね。どやっ!
cf.
Safety and immunogenicity of a mRNA rabies vaccine in healthy adults: an open-label, non-randomised, prospective, first-in-human phase 1 clinical trial
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(17)31665-3/fulltext

mRNAワクチンそのものの説明は割愛した。そんなの検索すればいくらでも出てくるというのもあるし、そもそもクルマを運転するのに、エンジンの構造や駆動方式の違いなどを理解する必要もないだろう。

  • 効果と安全性を適切な治験で確認されてから承認されており
  • ロールアウト後も継続して効果と安全性が確認されており
  • 現時点で接種するほうがメリットが大きいことが確認され続けている

ことを示すだけで十分だ。(2024年1月16日追加)

Q25:効果も安全性も確認されていることは理解したが、そんなの結果論じゃないか。国は特例承認だの緊急承認だのといって必要な手続きを省いて、国民を人体実験にさらしたことは事実だろう。そのことを批判しなくていいのか。
A:
「特例」とか「緊急」という表現を選ぶセンスがなさすぎて涙が出る。これらの用語は「問題はあるが特別に認める/緊急に認める」というニュアンスが強い。どこがどう特別だったり緊急だったりするのかをしっかり説明しないから、「安全性の確認を省略し、慌てて承認した。ひどい」という反応を引き起こしている。
そのことを問題視したのだろう。厚生労働省が特例承認と緊急承認を説明する資料をつくっている。わかりやすいから紹介しておく。重要なポイントは、いつもは屋上屋を架すことを承知の上でも実施していた念入りな確認を省いた点だ。緊急承認では効果は推定でよく、安全性の確認は海外での治験結果でもよいとした(これまでは日本人での治験にこだわった)。一方で、通常承認では実施しないGMP調査を実施する。

従来方式にこだわっていたら、国内へのワクチン導入には4年くらいかかることになるから、2024年から接種、ということになっていただろう。よほどこちらのほうが人体実験ではないか。
たとえて言うと、眼前に津波が迫っている。高台もビルもなく、走るスピードでは逃げきれない。幸い道路はすいている上にクルマが目の前にある。これに乗って逃げるかどうかという判断だ。このクルマが、海外で試験をし承認され、既に性能も安全性も確認されているが、陸揚げされたばかりで日本での検査はこれからという状態での判断をどうするかという話なわけだ。(2024年2月11日追記)


最後にもう一言つけ加えたい。新型コロナ初期には高齢者の死亡が目立ったことから、

  • 子どもや若者に感染してもただの風邪でさしたる被害はない
  • 高齢者だけが死ぬ病気である
  • つまり高齢者を守るために子どもと若者に我慢をさせた

という言説がまかり通った。漫画家、大学准教授・名誉教授や一部の医師がこうした主張を繰り返しており、もはや常識のように扱われているが、私はまったく間違っていると考えている。実際、100年前のスペイン風邪パンデミックでは、20代~30代が最も死亡した。若い人が死ぬ病気だったのだ。そしてこれから、変異体と感染歴次第では、新型コロナウイルスもそうなる可能性がある。事実、2023年暮れから流行を始めたJN.1変異体によって、各国は感染者以上に入院患者が急増中であり、子どもや現役世代もそこに多く含まれている。

これに対して、私たちがとれる対抗手段は二つしかない。感染対策(換気/空気清浄機/マスク/手洗い)で曝露するウイルス量を減らすことと、適切なワクチンのアップデートで免疫に準備させることである。新型コロナウイルスが脳や血管や心臓や筋肉や、身体中のさまざまな部分に感染し、炎症を起こし、血栓をつくり、免疫にダメージを与える厄介なウイルスであることはもう明らかだ(「パンデミック 2.0が始まった」を参照)。
一方で、その影響を避ける手段は上の二つしかない。にもかかわらず、日本社会はまさにその両方を捨て去ろうとしている。愚かなことだ。今後、子どもと現役世代の入院患者が増えてきたら要注意である。いま世界中で再びマスクをしようという声が大きくなっていることを見過ごしてはならない。いまの欧米の医療崩壊・Long COVIDによる失業者増、突然死増などの問題は、明日の日本の姿である。

追記

Q01の心筋炎の部分に「逆だろ。ワクチン接種の心筋炎のほうが深刻だ」というコメントをいただいたので、根拠とした研究を紹介しておく。
cf.
Clinical outcomes of myocarditis after SARS-CoV-2 mRNA vaccination in four Nordic countries: population based cohort study
https://bmjmedicine.bmj.com/content/2/1/e000373.full

北欧の2300万人対象の調査。全体で7,292人の心筋炎患者がおり、530人がワクチン起因の心筋炎、109人が感染起因の心筋炎、6,653人が従来の心筋炎だった。分析結果は、
・mRNA新型コロナワクチン接種後の心筋炎は、従来の心筋炎や感染後の心筋炎と比較して、入院後90日以内の心不全・全死亡リスクが有意に低い(従来の心筋炎と比べて相対リスク0.48倍)
・心筋炎を発症する潜在的な素因となる合併症のない若者において、感染後の心筋炎はワクチン接種後の心筋炎と比較して、90日後の心不全または死亡のリスクがかなり高い
・総合するとワクチン接種後の心筋炎の転帰は他のタイプの心筋炎よりも重症度が低い(90日間の観察)
である。
それでも「日本人は体質が違うからその研究は信用できない」と難癖をつける人がいるが、日本人でも同じであると裏付ける研究を横浜市立大学の研究グループが発表している。磁気共鳴画像法(MRI)を用いたmRNA新型コロナワクチン接種後の心筋炎の障害部位、重症度のメタ解析を行い、mRNAワクチン接種後にみられる心筋炎は、ウイルス感染に伴う心筋炎と比較して、画像所見上の重症度は高くないことを確認したもの。(2024年1月16日追記)
cf.
「新型コロナワクチン接種後の副反応で起こる「心筋炎」の重症度がMRI検査により明らかに」
https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2022/20230215Kato.html

追記2

ちょっと注目したい論文(プレプリント)が発表された。Long COVID患者と快復した人の血液を調査し、細胞性成分からmRNAを回収し比較したもの。注目は「ワクチン由来のmRNA」と「新型コロナ感染由来のmRNA」を区別できていること。ウイルスが増殖(複製)するときはanti-sense(マイナス鎖)ができるが、ワクチンでは産生されないので区別できるわけだ。
分析の結果、Long COVID患者の血液からウイルス由来のmRNAが大量に検出されている。そしてワクチン接種回数が多い人のほうが少ない(増殖を防ぐ適応免疫がつくのがワクチンの役割なので、当たり前だが、確認できたことは大きい)。この研究は、なんでもかんでもワクチンのせいと決めつけるのは無理筋であること。ウイルス感染の影響のほうがはるかに大きいことを示している。
cf.
Blood transcriptomics reveal persistent SARS-CoV-2 RNA and candidate biomarkers in Long COVID patients
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2024.01.14.24301293v1