そのカルピスは薄かった

2023年、国がわざわざ「マスクは個人の判断」と言い、5月8日には新型コロナウイルス感染症を5類に変更してからの日本は、はっきり言って人災続きである。そこに能登半島地震という天災も重なったから、2024年は出だしからどうにも落ち着かない。救急車も出払ったままだ
――と書き始めたが、今回はとくにテーマを決めずに、徒然なるままに書きつらねる。あえて言うと、テーマは「義務教育」と「先を読む」である。

手がかりからたどりつく

突然だが、「青酸ナトリウムの毒性を知っているか?」と質問されて即答できるだろうか。圧倒的に有名なのは青酸カリ(青酸カリウム)だ。青酸ナトリウムは初耳かもしれない。「そんなの知るか」という前に、化学で習った周期律表を思いだしてみよう。

左端のアルカリ金属は上からLi/Na/K/Rb/Cs/Frと縦に並んでいる。ナトリウムの直下がカリウムだ。ならば、青酸カリウムと青酸ナトリウムの性質はほぼ同じはずである。つまり青酸ナトリウムも猛毒だ。このように冷静に考えてみると、判断する手がかりが見つかるものである。

こんな日本史の大学入試問題もあった。「以下の5人は日本の海軍大将である。就任の早い者から並べよ」という。
  [加藤友三郎/東郷平八郎/鈴木貫太郎/南雲忠一/山本五十六]
歴代の海軍大将を就任順に覚えているはずもない。珍問奇問の類だと感じるが、歴史の記憶を掘り起こしていくと、なんとなくわかってくる。東郷平八郎は日露戦争の日本海海戦で有名。山本五十六は太平洋戦争当時の海軍大将で、山本の下で真珠湾攻撃に向かう海軍機動部隊を指揮したのが南雲だったから、
  [東郷平八郎/a/b/山本五十六/南雲忠一]
までは一瞬でたどりつける。abは鈴木貫太郎と加藤友三郎だ。さて、どちらが早いだろう。鈴木は1936年の2.26事件で撃たれ大怪我をしており、加藤は1921年のワシントン軍縮会議の全権大使である。ならばきっと
  [東郷平八郎/加藤友三郎/鈴木貫太郎/山本五十六/南雲忠一]
の順だろうと回答できる(南雲は戦死後に昇進)。よく考えれば、手がかりがどこかにあるものだ。

かなり以前の話だが、[単分子水]といういかがわしい水が売られていて、思わず吹き出したことがある。「この水は分子と分子が分かれているんです」というのが売り物。すごいな。もしも本当に単分子に分かれているなら、その目の前の液体が液体であるはずがない。

O2(酸素分子)とH2O(水)を見比べると、あることに気がつく。酸素原子が2個のO2に比べると、酸素原子1個に水素原子が2個ついたH2Oのほうが分子量は小さい。どうみても、H2Oは常温で気体であってしかるべきである。にもかかわらず、H2Oがたいてい常温で液体なのは、分子同士の結合が強力だからだ。煮沸すると蒸発するのは、加熱で水分子の運動が激しくなり、隣との結合を切られるからだろう(その瞬間の温度を沸点という)。単分子に分かれているなら、気体になっているはずである。

こういう判断ができる基礎知識を、義務教育+高校で習ってきたわけである。

まず反例を探すのだ

新型コロナ関連のさまざまな情報の真偽も、義務教育で学んだことを思いだしながら、手がかりを探していけば判断できることが多い。
[子どもたちがコロナ禍でマスクをして病原体に触れなかったから、いま子どもたちがいろんな感染症にかかっているんだ]
という説(免疫負債説という)を考えてみよう。数学で習った命題風に書きなおすと
[コロナ禍でマスクをしていた子どもたちは(免疫ができておらず、それが原因で)、様々な感染症にかかりやすくなっている]
である。この命題が、感染対策は子どもにとってマイナスだ(=学校の生徒にマスクをさせないのが正しい)という意見の根拠になっている。

この命題の真偽を確認するには、反例がないかを検討することだ。そういう目で世界を眺めてみる。まず見つかるのが、マスクなどの感染対策をしていなかった国でも、同じ現象が観察されていることだ。イギリスの学校ではマスクをしていなかったし、スウェーデンでは社会全体で当初は感染対策をとらなかった。それでも両国を例外とせず、様々な感染症にかかる子どもが増えている*1

2021年以降に生まれた乳幼児を調査した海外の研究論文も反例になるだろう。2020年のロックダウン当時は母親のお腹の中にいたか、まだ受精もしていなかった子たちだ。しかし、集計すると、この子たちにもたとえばRSウイルス感染症が例年より増えていたりする*2。この時点で、感染症増加がマスクをしていたせいではないとわかるはずだ。

対偶や背理法でも考えてみる

数学の命題の証明方法のひとつに、対偶の真偽を確認する方法もある。命題が真なら対偶も真、対偶が真なら命題も真という関係にある。
[コロナ禍でマスクをしていた子どもたちは、様々な感染症にかかりやすくなっている]
という命題の対偶は
[様々な感染症にかかりにくいのは、コロナ禍でマスクをしていなかった子どもたちである]
となる。これもイギリスやスウェーデンの事例で反証できる。明白に偽である。

さらに背理法でも証明できるだろう。
[2022年の様々な感染症の流行は、2020‐2021の感染対策で病原体を遠ざけ、免疫をつけていなかったせいである]
が真であると仮定するならば、2023年には様々な感染症の爆発は起きないはずだ。しかし、現実には2023年も同じことが起きている。矛盾だ。

では、トリプルデミックなどと呼ばれる複数の感染症爆発の原因はなんだろうか。考えられる変化はどの国でも、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかる子どもが増えたことである。それを踏まえて医学論文を検索してみると、新型コロナウイルスが子どもたちの自然免疫(innate immunity)にダメージを与えるという研究が出てくる*3

どうみても、複数の感染症が同時流行するいまの惨状は、マスクをしていたことの弊害ではなく、新型コロナ感染がとくに子どもたちにひろまったことが原因だ。逆にいうと、インフルエンザやアデノウイルス、溶連菌にRSウイルスなど様々な感染症が同時流行する異常事態を避けるには、新型コロナ感染を防ぐことが効果的だということになる。元を断つのが合理的だ。

スポーツ選手も感染しているぞ

命題と逆/裏/対偶なんて、中学生以来だという人も多いかもしれない。この概念はいろいろと思考をめぐらすには便利だ。コロナ禍では
[規則正しい生活をしてバランスのとれた食事をとり、運動もして免疫力を高めれば、感染予防できる]
という主張をする人も目立った。おそらくこれは
[生活が乱れて偏食もし、疲れがたまっている人は病気になりやすい]
という命題の「裏」である。この命題は真だと思うが、裏が真とは限らない。

反例はプロ野球選手や大リーガーの新型コロナ感染だ。野球が仕事の彼らは健康な身体こそが資産であり、専属の管理栄養士をつけて食事に気を配り、シーズン中は適度な運動と質の高い睡眠に気をつけている。

それでも、感染しているのだ。プロ野球選手の体力は我々一般市民の比ではないだろう。それでも下手するとクラスターとなる。生活が乱れて体力も落ちてくると感染症にかかりやすくなるのは真である可能性が高いが、だからといってその裏が真であるとは到底思えない。

この手の言説は「程度がわからない」ことも特徴だ。「バランスのとれた食事」と表現するのは容易だが、現実にどのような食事のことを言うのかは謎だ。もちろん、朝昼晩とカップラーメンだったりする食生活を一か月も続ければ糖質と塩分が過剰になり、バランスが悪く、病気を誘発しかねないことはわかる。しかし逆に、新型コロナ感染を防げるほどのバランスの食事はどのようなものなのか。それを具体的に示したものは見たことがない(特定の食材に「効果がある」と言い募るものはあるが、そんなものに頼る時点でバランスは崩れている)。

そもそも生活・食生活を見直して「免疫力を高める」というのがよくわからないのだ。免疫を疲弊させるのはよろしくないと思うが、どんなウイルスもやっつけられるほど鍛えあげるのは到底、無理。むしろそこまでいくと、自己免疫疾患になるほうが怖い。

勝手に6人を3人に減らすな

命題の話で思いだした。ほぼ定期的に話題になる算数の掛け算における順序問題が、正直、よくわからない。「ふくろの中のアメを4人に3こずつくばったらなくなりました。ふくろには、なんこのアメがあったでしょう」という問題に対して、
  3×4=12
と計算すれば正解だが、
  4×3=12
と書いたらバツにされる(こともある)という話である。「3個を4人に」であるべきところが、「4個を3人に」になってしまうからだという。式の順番にそのような意味をもたせるなら、これは算数ではなく、国語の問題ではないかというのが私の基本的な意見である。

そもそも、a×bとb×aが同じ(交換法則)というのが数式のおもしろいところだ。数式は抽象化であり、抽象化すると3×4も4×3も結果は同じであるからおもしろいし、有用なのである。むしろ、「へえ! 3個を4人に配るのと、4個を3人に配るのが同じなのか」という気づきが、後々の理解に役立つと思うのだが。

問題文の正しい解釈としての数式表現にこだわるなら、分数の計算に対して何も言わないのがわからない。たとえば、
  [1/3+1/4]
   ↓
  [4/12+3/12=7/12]
という計算をする。しかし、「3人に1人」を「12人に4人」に勝手に増量するのは怪しすぎるだろ。逆もある。約分などひどいものだ。「6人のうち2人が女子」を2/6=1/3と計算するのは、問題文を無視して人数を半分に減らすことになる。こんな暴挙を許していいのか。人権無視も甚だしい。いなかったことにされる3人はどうしたらいいんだ?

でも、これが「割合」という抽象概念化である。「6人に2人」も「3人に1人」も割合は同じである。これが約分で導かれる。美しい。

そのカルピスは薄かった

しかし、新型コロナ禍で目立ったのは、割合という抽象概念は日本社会に意外なほど定着していないという事実だった。そのことに早くから気づいていた専門家がいる。レシピを発表する料理研究家たちだ。
[50mlのダシを3倍に薄めます]
と書いて、4倍に薄めてしまう人が続出したからである。「もとの体積の3倍になる」のが3倍希釈の定義だ。もとが50mlなら希釈液が150mlになる。しかし3倍の水を足す人が続出した。この場合は50+150=200mlになっている。4倍希釈だ。友人は「それでうちのカルピスはいつも薄かったのか」と納得していた。料理研究家にとって、レシピの誤解による「おいしくない料理」は自分の評判に直結する困った事態である。だから最近のレシピは「50mlのダシに100mlの水を加えます」という表現が多い。誤解を避けているのだ。

この話を思いだしたのは、「ワクチンを接種している人のほうが、よほど感染死しているじゃないか」という意見を目にしたときである。850人の感染死者中、接種している人が510人、未接種が340人といった統計が出るたびに「ワクチンは役にたっていない」と言い出す。もとの割合を無視している。

接種率80%なら、850人中680人以上が接種者の場合に、「ワクチンが効いていない」という判断になる。未接種での死者が340人ならば全体の40%を占めるわけで、この数字は「絶対数は接種者のほうが多いが、死者に占める割合としては未接種者のほうが多い」というデータである。

割合だけで判断するのは危険だ、ということも書いておこう。
「新型コロナは弱毒化し、インフルエンザより致死率は低い。もう気にする必要はない」
というのが典型例。致死率が1/10になっても、感染者が100倍になっていれば、死者は10倍になる。単純な計算だ。算数からやりなおして欲しい。

驚いたことに、「弱毒化した」だけが頭に残っている人は、新型コロナ死者は減り続けていると思い込んでいるようだ。思い込みは怖い。現実は残念ながら逆である。日本は波がやってくるたびに死者が増え続けている。これは意識してもらいたい。WHOのリーダーも言っている。パンデミックはまだ終わっていない*4

人口動態統計による死者数。「インフルエンザより致死率は低い」というのが疑わしい。
出典:https://twitter.com/takaku2021/status/1753395922296541376

統計はウソをつく

たとえ850人中、接種しての死者が700人もいたとしても、その統計が2021年6月くらいのものなら慎重に扱わないといけない。というのも、新型コロナワクチン接種は2021年2月に始まったのだが、当初は高齢者と医療従事者のみに絞っていたからだ。つまり、150人の未接種の死者は若い人であり、700人の接種済の死者は高齢者であると推定できる。

統計を解釈するには、その統計の母集団を精査し、偏っているなら補正をかけないといけない。喫煙所でアンケートをとったら、タバコの値上げに反対する人ばかりになるだろう。居酒屋でアンケートをとったら、酒税を下げろの大合唱になるだろう。けっして民意を代表はしない。

新型コロナウイルス感染症が蔓延して4年にもなるが、いまだにこうした母集団の偏りを無視して、生データから語る人がいる。医学論文をみてみるといい。もはや数10万人、数100万人規模を対象にした研究に移行している上、しっかり集団のバイアスを補正している。チマチマと857人程度の統計で補正もせずに「ワクチンをうったほうが~~」と主張する人が、いまだに大きな顔をして発言しているのが信じられない。恥ずかしい。

もう大昔の話なので、詳細は記憶にないのだが、たしか中学校くらいで「平均は実態を示さないこともある」ということを習った気がする。80歳、85歳、90歳、82歳の4人に10歳の孫が1人いる集団の平均年齢は69.4歳だ。しかしこの平均年齢が集団の特性を示しているだろうか、という話である。

こういう偏りは規模が大きくなっても生じる。自治体同士の死亡率を比較する場合など、高齢者が多い自治体とそうでない自治体で差が出るのは当たり前なので、年齢別の死亡率を用いて補正をかける。これをSMR(Standardized Mortality Ratio)という。

生兵法は怪我のもと、という諺があるが、生データは怪我のもとである。「ワクチンはロットによって副反応の数が違う。中身にばらつきがある」という人たちは、当初は高齢者だけにうったことを考慮にいれていない。若い人にうったロットと高齢者集団にうったロットで、その後の有害事象が異なるのは当たり前だ。

もっと言うと、義務教育で「抜き取り検査」についても学んでいるはずなんだが、その知識はどこにいった? ワクチンも工業製品だ。中身にばらつきがあったら、認可を取り消されるほどの工業製品だ。抜き取り検査などを駆使して品質のばらつきを抑えているに決まっているでしょう。

統計数字は実感が遠のく

抜き取り検査も母集団という概念も統計学(の初歩)である。統計はとても有用なツールだ。ただ、かなり大きな欠点があると思っている。数字にされると実感が遠のくのだ。

池袋でクルマが暴走して母子が亡くなった痛ましい事件には沸騰するのに、イギリスでiGAS(侵襲性A群レンサ球菌感染症)にかかった子どもたちが急増し、2022シーズンに70人以上が亡くなったというニュースには反応できない。「へえ、そう」で終わってしまう。

いや、新型コロナでも、子どもの死者は出ている。脳症も出ている。iGASは日本でも増えてきている。ほかにもRSウイルスやアデノウイルス、インフルエンザが急増しており、日本中で学級閉鎖が頻発している状態だ。それでも、実感をもてる人が少ない。

海外の数字をよく紹介するのだが、これは海外が感染という面で日本より先行しているから、明日の日本もそうなる可能性が高いからである。しかし、
「私の周囲で、新型コロナの後遺症に悩んでいる子やiGASで手足を切除したり、亡くなったりした子はいない。その話、本当なんですか?」
と疑いの目を向けられる始末。このあたり、数字の限界だろう。テネシー州の14歳のピアニストの話など、追体験できるエピソードで理解してもらうほかないかもしれない*5

本当に「遠い出来事」といっていいのは、2000万分の1くらいの確率の場合だ。宝くじ1等である。願っても当たらない。一生、買い続けても当たらない。でも現実に当たる人はいる。

現時点で、調査にもよるが、Long COVIDに悩む人は感染者の5-25%である。下1ケタで当選が決まり、10枚連番で宝くじを買えば必ず1枚は当たる5等くらいの確率だ。これは実感してもらわないと困る。

2手先、3手先を読んで欲しい

「子どもは感染しても軽症か無症状」とか、「風邪みたいなもの」とテレビで専門家がしゃべっている。私はこれがイヤでたまらない。第一に、後遺症(Long COVID)のことを考えれば、そんな暢気にいえるような病気ではない。急性期の症状が軽いからといって、「風邪みたいなもの」と言っていいのかといつも画面に毒づいてしまう。

3回感染した10代が認知症を発症するようなウイルスだ。何度も感染していいはずもない*6。2手先までは読んで欲しい。iGASのような菌感染症にかかりやすくなるだけでも大きな問題である。こちらの致死率は30%。新型コロナは軽症だったのに、菌感染症で命を落とすこともあり得る。

第二に、子どもは軽症でも、親はただでは済まないことも多い。下はアメリカの年代別の超過死亡を割合で示したグラフだ。さきほどのSMRの話を思いだして欲しい。絶対数が多いのは高齢者だが、新型コロナがなくても高齢者は死亡が多いので、超過死亡の割合は多くない。一方、中年以下の世代の死者数は少ないが、超過死亡の割合をみるとすさまじい。2019年まで、子どもや親が病死する例は多くなかったが、新型コロナで急増しているということである。

なにより、こんな増え方を10年も続けたらどうなるだろうか。先を読むというのはそういう想像をすることである。子をなくしたり、親をなくしたりする家庭が増えるのは避けたい。そのためにはどうすればいいか。最も実効性が高く、かつ速効性もあるのが、学校での感染蔓延を防ぐことである。ただこれだけで、子から親にうつしてしまう頻度を激減させることができる。お願いだ。せめて3手先まで読んでくれ。

「子どもの笑顔のためにマスクを外そう」
というキャッチフレーズは不愉快きわまりないものである。マスクをとって親が死んだり、失業したり、寝たきりになったりしたら、笑顔は永遠に失われるだろう。該当する家族にとっては、残酷すぎる運動だ。どうしてもそうしたいというなら、このように言ってもらいたい。

「子どもの笑顔のためにマスクを外せる環境をつくろう」

新型コロナの場合、現時点では子どもの致死率も現役世代(18-64歳)の致死率も、高齢者にそれに比べると低いことはたしかである。しかし、けっしてゼロではないし、今後はどうなるかわからない。複数回の新型コロナ感染が増えるにつれて、子どもと現役世代の死者が増える可能性がある。最初の感染で身についたN抗体が次の感染で悪影響を与え、サイトカインストームを起こしやすくなると考えられるからである。

これを避けるには、ウイルス曝露量を抑えて感染細胞の数を減らし、ワクチンによってS抗体の値を高めておくことが有効と言われているが、若い世代ほど、ノーマスクでワクチンも更新していないのが現実だし、子どもにいたってはワクチン接種率が低いまま、マスクをとって長時間、閉鎖空間で過ごしている。

ここで立ち止まって感染対策を見直さないと、宝くじ5等の確率で子どもの笑顔を奪うことになる可能性がある。

避けられる人災を繰り返してはならない。

注記

*1 わかりやすいのが、2022年にヨーロッパで目立ったレンサ球菌がひきおこす猩紅熱(Scarlet fever)とiGAS(invasive Group A Streptococcus infection. 侵襲性A群溶血性レンサ球菌感染症)の増加だ。WHOの報告によれば、フランス/アイルランド/オランダ/スウェーデン/イギリス/北アイルランドで観察されている。
cf.
Increased incidence of scarlet fever and invasive Group A Streptococcus infection – multi-country(2022年12月15日)
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON429

なおiGASは致死率も30%と高く、治療には感染部位を切除する必要がある怖い病気だが、2023‐2024冬シーズンに入り、日本でも増加が報告されている。<2024年1月は28日までに200例と倍増、現行の調査が始まった2006年以来、最多となった過去最悪ペースだ>という。
cf.
「懸念が現実に、劇症型溶血性レンサ球菌感染症が急増」(日経メディカル。2024年2月7日)
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/report/202402/583150.html

*2 以下の研究は2022年10月‐12月に0‐1歳児のRSウイルス感染リスクを調べたもの。2020年には生まれていなかった子どもたちで、ロックダウンもマスクも経験していない。そして、新型コロナ感染者のRSV感染が7.90%と未感染者の5.64%の1.4倍になっていた。
Association of COVID-19 with respiratory syncytial virus (RSV) infections in children aged 0–5 years in the USA in 2022: a multicentre retrospective cohort study
https://fmch.bmj.com/content/11/4/e002456

*3 子どもは体内に侵入してきた新型コロナウイルスを自然免疫(innate immunity)で撃退するのだが、その結果、形質細胞様樹状細胞(pDC)がダメージを受けてインターフェロン応答が鈍り、自然免疫能力が落ちる。これが新型コロナ感染後に様々な感染症に脆弱となってしまう原因であると考えられている。
cf.
Dendritic cell deficiencies persist seven months after SARS-CoV-2 infection
https://www.nature.com/articles/s41423-021-00728-2

*4 WHO leader says COVID-19 is “still a pandemic”
https://www.salon.com/2024/01/04/leader-says-19-is-still-a-pandemic/

*5 ピアニストとしての未来を嘱望されていた14歳の少年が、両手などを取り去るしかなかったというニュース。おそらくiGASと思われる。感染した部位をすみやかに切除するしかない病気だ。
cf.
Tennessee piano starlet’s hands and feet removed by Doctors after flu-like symptoms
https://www.mirror.co.uk/news/us-news/doctors-remove-boys-hands-feet-30927799

*6 子どもの新型コロナ感染の後遺症はこの論文に詳しい。脳を含む全身に悪影響があり得る。しかもこれらの影響は、症状の軽さと無関係であることに注意。風邪なみに軽くても、後遺症がひどいケースもあり得る。以下の疾患が起こり得るものとして挙げられている。
体位性頻脈症候群/筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群/多系統炎症性症候群/自己免疫疾患/糖尿病
cf.
Postacute Sequelae of SARS-CoV-2 in Children
https://publications.aap.org/pediatrics/article/doi/10.1542/peds.2023-062570/196606/Postacute-Sequelae-of-SARS-CoV-2-in-Children