GSE開発物語

これはユーゴスラビアで生まれ、ドイツで育ち、1957年にアメリカに移住した医学者の話である。Jacob Harich博士(1919‐1996)のことだ。移住しての仕事はロングアイランド大学医学部の医師。専門は免疫学だった。つまり、これから紹介するのは、免疫学者が植物エッセンスに目をつけて実用化したという話である。そう、Harich博士はGSE(Grapefruit Seed Extract)の開発者なのだ。

フロリダに移住して研究開発

Harich博士はグレープフルーツ好きだったらしい。ある日、種を噛んだらやたら苦かったことから、なにか機能性があると直感。生ゴミの中のグレープフルーツの果皮が腐りにくいことも気になっていたという。そして、1963年にはフロリダに移住し、研究を始めた。

そして1970年代に入り、Harich博士はグレープフルーツ種子から抗菌性のある物質「GSE」を抽出することに成功。フロリダ州ゲインズビル大学食品科学研究所のSteven Otwell博士とWayne Marshall博士に「植物由来の食品保存料」というアイディアを聞かせ、共同研究を始めた。二人の研究者はすぐに魚や鶏肉を含む様々な食品の保存にGSEを利用できることを実証。ここから活用の道が開かれていくことになる。

広く価値を認められたのは1990年代以降

1980年代には抽出方法の改良を続けながら、活用提案を行っていた。アメリカ農務省(USDA)はGSEに牛や豚のウイルス感染を抑制する効果があることを確認している。このほか、世界中で多くの実証実験が行われ、ヒトやペットの動物や家畜に安全な植物エッセンスでありながら、菌やウイルスを抑制するGSEの効果が確認され、認知が高まってきた

とくに注目をしたのは、アメリカの統合医療系の医師たちだ。いまでもアメリカのサイトでGSEを検索すると、カンジダや水虫の治療に使う例が紹介されている。漢方薬で体質改善というのに通じる扱われ方だ。

しかし、1990年代に入り、逆風がふいた。質量分析計による試験で、GSEに含まれる物質が、合成薬剤の塩化ベンゼトニウムや塩化ベンザルコニウムに極めて類似していることが示され、このふたつの混入が疑われたのである。「純植物性の抗菌剤だというが、じつは効果を示しているのはコンタミネーションしている合成薬剤ではないか」という批判が出た。

FDAはこの指摘を受け、GSE製造会社の家宅捜索、営業停止、書類の押収、私有地や社屋の異物捜索まで行ったが、合成薬剤混入の疑いを裏付けるようなものはまったく見つからなかった。最終的にFDAは抽出工程を直接観察し、追跡することで安全性を確認し、この疑いが晴れたのである。

本当にGSEがアメリカで受け入れられたのは、この瞬間からだといってもいい。

Harich博士のその後

「植物由来の抗菌剤」という、新しい薬剤の開発に成功したHarich博士は、亡くなる直前まで抽出方法を改良しながら、GSEの普及に尽くした。

1995年、博士はヨーロッパの主要なエイズ研究センターとして知られるルイ・パスツール研究所(フランス)に招かれた。同研究所ではGSEの抗菌性と安全性から、エイズ患者の二次感染に対する予防薬として数年間使用され、研究されていたからだ。そして1996年に没した。77歳だった。

遺志を継ぐ

そして新型コロナウイルスパンデミックがひろまり、各国で大きな被害が出ていた2020年4月のことだ。私はたまたまGSEの存在を知り、そこから研究を始めた。Harich博士の功績をたどった私は、「菌・ウイルスにヒトが対抗するには、GSEを活用するほかない」と直感し、商品化に取り組み、MISTECTBNUHC-18を発売した。

おそらく博士も同じ考えだったのだろうと確信している。私たちは菌・ウイルスのような微生物(微物を含む)に囲まれて生きている。むしろ生かされていると言ったほうがいいかもしれない。

そのバランスが崩れると、とたんに生死にかかわる。これが疫病だ。新型コロナウイルス感染症はまさにそれだった。しかも、新型コロナウイルスはヒトの免疫にダメージを与える。感染したあとは、別の感染症が多数流行し、マルチデミック状態になるのはそのためだ。

博士がエイズ患者を守るためにGSEを活用しようとしていたのと同じように、微生物に押しまくられているヒトを守るには、合成殺菌剤と違ってヒトやペットにやさしく、かつアルコールのように発火性もないGSEを活用すべきだろう。

いや、頼れるのはこれしかないのが現実だと私は考えている。病原体を遠ざけることが感染管理の基本だ。換気と空気清浄機で浮遊する菌・ウイルスを遠ざけ、頻繁な手指衛生と床やトイレのケアにGSEを使うことで、さまざまな感染症のリスクを大きく下げることができる。

「ただの風邪にそこまで必要か?」という疑問を感じた方は、この記事をお読みいただきたい。
「パンデミック 2.0が始まった」
https://furuse-yukihiro.info/2023covidcolumn22/

微生物との戦争という世界観については、この記事で説明してある。
「微生物との戦争――ヒトと動物、環境と微生物の葛藤」
https://furuse-yukihiro.info/2023covidcolumn09/