ツボカビに両生類が大きな被害を受けたときに、私たちは気づくべきだった。
微生物と生物の依存関係ががらりと変わりつつあることに。
新型コロナ・パンデミックは始まりに過ぎない。21世紀は感染症の世紀だ。次は
菌との戦いである。そして頼りの抗生物質は、耐性菌の登場とともに終わる。
なす術はないのか。いや、あると私は考えている。植物のチカラの利用である。

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足元をケアしている日本の生活習慣に注目

私がGSEに注目したきっかけから書くことにする。ここで時計の針を2020年3月くらいに戻してもらいたい。新型コロナウイルス感染症がパンデミックとなり、欧米で感染者・死者が急増をはじめたころだ。一方で、日本は感染者を抑えこんでおり、違いは顕著であった。

「ファクターX」という表現が頻繁に登場した頃だ。BCG仮説や交差免疫仮説*4をはじめ、いくつかの仮説が出されたが、私はいずれもピンとこなかった。というのも、海外で現地在住の日本人だけが突出して感染が少ないという情報がなかったからである。BCG接種や遺伝子に理由があるならば、どこに住んでいようが、「日本人だけはなぜか感染していない」と話題になっているはずだ。

それよりも説得力があると感じたのが、生活習慣の違いである。そもそも日本人は対人距離が長めだ。友人間でも、ハグしないしキスしないし握手もあまりしない。軟水資源が豊富で、よく石鹸が泡立ち、毎日お風呂に入る。そして食事は基本として箸を使い、手づかみはあまりしない。じつに感染症に強い生活習慣だ。さらに言えば、日本語の発音に破裂音が少ないことも影響があるかもしれない。

ふと、参考になるかと考えて、鳥インフルエンザ対策を調べてみた。新型コロナより先行して厄介なウイルスと戦っていた分野だ。何か参考になるものがあるかもしれない。

すぐにこれだ、と思ったのが足元の対策である。鳥インフルエンザ対応ガイドラインをみると、靴やタイヤでウイルスが運ばれるとある。これを防ぐために、足踏み消毒槽で長靴を消毒し、道路に消石灰をまいて、タイヤを消毒している。

これも内外の感染者数の違いを生んでいる大きな要因のひとつかもしれないと考えた。日本人は玄関で靴を脱ぐ。トイレには別の履物を用意する。感染に強い生活習慣は多々あるが、なかでも足元をめぐるこの生活習慣が、ウイルスの拡散を大きく防いでいたのではないか

逆にいえば、玄関で靴を脱がない場所は危ない。大半のオフィスがそうだ。外からの靴(つまり土足)で仕事をし、そのままトイレにも行く。こういうところでは、床をケアしたほうがいい。なにしろ、新型コロナウイルスを含む飛沫は、重いから下に落ちる。フィジカルディスタンシングが有効なのは、距離をとると、その間にウイルスを含む飛沫が床に落ちるからである。

「床を舐めたり、触ったりしないから問題ない」という意見もあるが、私が懸念しているのは、床を舐める人が出ることではない。床に落ちたウイルスが再びホコリに乗るなどして舞い上がり、それを吸い込んで感染することである。これを塵埃感染という。

乾燥して再び舞い上がる新型コロナウイルス(の飛沫核)が感染性をもつか否かについては議論があるが、3時間程度は感染性を有するという*5。塵埃感染は珍しいものではなく、ノロウイルスなどでも起きていることだ。ノロにやられたなと思ったら、便器の蓋をしめて流すほうがいい。トイレ中が汚染されて、塵埃感染が起きる可能性がある。

GSEに注目したのは、塵埃感染対策に有効だから

新型コロナウイルスでも塵埃感染が起きているとすると、かなり厄介である。ウイルスは通常、宿主を離れると数時間で感染力を失うもの。しかし、新型コロナウイルスは驚くほどしぶとい。オミクロン変異体になって、さらにますますしぶとい。この記事によると、プラスチックの表面だと、オミクロン変異体は193.5時間も感染性を保っている(武漢株は56時間)。
cf.
オミクロン株は皮膚や物質表面でかなり長生きする 最新の研究結果から
https://news.yahoo.co.jp/byline/kuraharayu/20220127-00279192

一方で、新型コロナウイルスを抑制できるアルコールにしても次亜塩素酸水にしても、効果があるのは「その場限り」である。部屋、とくに床を消毒した直後に感染者がやってきてウイルスをふりまくと、作業は元の木阿弥になる。

私がGSEに注目した最大の理由は、効果に持続性があるからだ。GSE自体はエッセンシャルオイル、すなわち油分なので揮発しにくく、効果が長く続く。大手メーカー製のGSEを使うキッチン用除菌剤は効果を一カ月保証している。こんなに除菌効果が持続する薬剤は、あまり見当たらない。

たとえて言えば、除菌作業は通常洗車だ。洗車帰りに雨に出会うとがっかりするもの。対してGSEを使うとコーティング洗車になる。雨をはじき、多少の雨ならたいして汚れない。塵埃感染を防ぐには、このように効果に持続性のあるもの、除菌だけではなく抗菌能力をもつものが必要だと考えたのである。

抗菌機能をもつものは他にもある。光触媒コーティングなどもそうだ。たしかにウイルスを抑制できるが、触媒系は反応に時間がかかりすぎるという欠点もある。ウイルスが落ちてきたその場で抑制できないと、感染予防にはつながらない。

GSEは無臭という点も魅力的だった。ヒトは匂いに弱い。塵埃感染でケアすべきなのは、飛沫が落ちる床である。当然、広い範囲に薬剤を使うことになる。匂いの強い薬剤はそれだけで環境を損なう。

グレープフルーツ種子のエッセンスと聞けば、当然、柑橘のあの香りを想像するだろうが、あの香り成分は皮や果肉に含まれているものであり、種子抽出物は無臭である(むしろ、かなり強力な消臭能力をもつ)。また、高血圧症の薬でグレープフルーツが禁忌になるのは、フラノクマリンという成分との相性が悪いからだが、GSEは心配無用である。これは皮や果肉に含まれる成分で、GSEには含まれていないからだ。

劇団クラスターが示す塵埃感染と意外な接触感染の可能性

新型コロナでも塵埃感染しているのではないかと考えたのは、対策をしっかりやっていたのに、クラスターとなった事例を頻繁に目にしたからである。なかでも、その後の2020年10月に埼玉県の劇団で起きた大規模クラスターは、自説の正しさを証明していると感じた。演劇の練習に参加していた91人中の76人に感染した事例である*6

この事例の特徴は、無防備にカラオケ大会をやりましたといった不用意な事例とは異なり、対策をしっかりやっていたにもかかわらず、76/91(83.5%)もの感染者が出た点である。現場で実施されていた対策を列挙する。

  • 入室前に手洗い、うがい、検温
  • 機材も小道具も自販機のボタンも毎日消毒
  • 1時間ごとに6か所の窓をすべてあけて10分以上換気(大型ファン併用)
  • 全員がマスク。ただし、セリフをいう役者はマウスシールド
  • 出演者同士が向き合って話すことのないように顔の位置をずらす

手洗いをし、検温をしてから入室し、換気をしっかりやり、マスクをして手の触れるところは消毒もしている。これでクラスターになるなら仕方がない、と言いたいところだが、セリフをいう役者をマウスシールドにしたことが失敗だった。口元が見えないと演技の練習をやりにくいからという理由だったそうだが、マウスシールドは唾が飛ぶのを多少は防げるという程度のものだ。報道によると、そのために飛沫感染がひろがったという。

ただ、私はこの分析には異論がある。飛沫感染しか考えられないという結論だと思うが、このケースでは塵埃感染と予想外の接触感染も多かっただろうとみる。頻繁に換気をしていたから、飛沫感染だけならもっと影響範囲が狭いはずで、83.5%もの感染者が出ることは考えにくいからだ。

マスクは飛沫を口元でとめるが、マウスシールドだと飛沫をとめきるのは難しい。多数のウイルス入り飛沫が下に落ちる。そして乾いてくるとホコリなどにのってウイルスが浮遊する。これを吸い込んだのではないか(塵埃感染)。

「予想外の接触感染」は、床を通じての感染のことである。行われていたのは演劇の練習だ。床に手をつき、休憩時はそのまま床に座りこんでいたはず。そのたびに、手にも衣服にもべったりとウイルスをつけたに違いないのである。

NHK 記事より。この床に⼤量の⾶沫が落ちていたはず。
https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20210319e.html

トイレのケアをしていたかどうかも気になる。新型コロナウイルスは大便と一緒に排泄されることがあり、水を流すと周囲に飛び散る。これも水分が乾燥してくると空気中を浮遊する。中国ではトイレの配管を通じてマンションの他の階に感染がひろがった事例が、SARSでもSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)でも報告されている*7

ものすごく注意して家庭内療養者に対応していたのに、結局家族の全員が感染してしまった人が、「後から思うと、トイレの蓋をせずに流していたからとしか考えられない」とツイートしていた。個人の感想だから信用はできないが、あたっている可能性はある。感染者とトイレを別にできないなら、トイレをケアすることはとても大事だ。

注記

*4 交差免疫仮説は、この論文で否定されたと言っていい。マウスに季節性コロナウイルスのスパイクタンパク質を投与し、SARS-CoV-2に曝露させたが、特に保護効果は見られなかった(交差免疫の効果は確認できなかった)。
Immunity to Seasonal Coronavirus Spike Proteins Does Not Protect from SARS-CoV-2 Challenge in a Mouse Model but Has No Detrimental Effect on Protection Mediated by COVID-19 mRNA Vaccination
https://journals.asm.org/doi/full/10.1128/jvi.01664-22

*5 東京大学保健センターの説明が丁寧でわかりやすい。
https://www.hc.u-tokyo.ac.jp/covid-19/infection_route/

*6 多数の報道があるが、二つほど紹介しておく。

<コロナ禍の埼玉2020回顧>(6)演劇 文化の灯、消さない
https://www.tokyo-np.co.jp/article/77221
劇団でコロナのクラスター マウスシールドだけで稽古して…
https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20210319e.html

*7 トイレでのこの経路の感染を「糞口感染」という。塵埃感染の一種だと考えられるので、本記事ではとくに区別せず塵埃感染に含める。なお、中国で起きたマンションの他の階への感染拡大は、排水管のトラップが乾いていたからである。日本は水が豊富で排水管のトラップが乾くことはまずないため、心配することはない。


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