逃げきりたい人のための処方箋

もう日本は真っ二つに割れている。「新型コロナ感染を防ぎきりたい派」と「感染しても別に構わない派」だ。後者の方には、

  • 風邪と異なり、脳や心臓や血管など全身に感染して炎症を起こす病気であり、老化を引き起し、急性期後も体内で炎症が続くこと
  • 後遺症リスクが極めて高く、軽症で済んだとしても、急性期後に心疾患など血管系の病気で死亡する可能性が高くなること
  • 免疫がダメージを受けるので、他の病気にかかりやすくなること
  • 複数回感染で大きな健康被害を受ける可能性が高いこと

をお伝えしたい。最後の項目が大事だ。「感染したけれど、たいしたことなかった」という人こそ、感染対策をしっかりやり、二度目三度目の感染を防いだほうがいい。以下の記事で詳述しているので、そちらをご覧いただきたい。
cf.
パンデミック2.0が始まった

さて、このように二つに分かれてしまうと、手のうちようがなくなる。新型コロナウイルスの強大な感染力には、団結しないと対抗しきれないからだ。これは日本だけではない。世界中で、公衆衛生が破綻している状態である。

その証拠に「どこでもらったのかわからない」という人が増えた。発症してから10日間はマスクが推奨されているのだが、そのことを知っている人のほうが少ない。症状が軽快していれば、「インフルより軽かった」と言いながらノーマスクで出社する。これはもう、いたるところに新型コロナウイルスがいるという前提で行動するほかない状態に陥っている。

ここから、2023年5月以来、Community Viral Load(巷間ウイルス量)が極めて高くなってしまった現況を前提にして、どうすれば逃げきれるかをまとめる。「感染しても別に構わない」という方は、ここでお帰りください。

マスクをしていたのに感染したのはなぜか

もう新型コロナパンデミックは4年目だ。この間、本当に膨大な数の研究が発表されており、既にこのウイルスに対してどう対抗すればいいかはわかっている。端的にいって

  • ウイルスを吸い込むのを防ぐ
  • ウイルスが「目・鼻・口」に触れるのを防ぐ

の2点である。これを徹底すれば逃げきれる。しかも、多くの大人はワクチンを接種して新型コロナウイルスに対応する適応免疫を強化しており、2020‐2021年当時のまるで無防備な身体ではなくなっている。

なのに、なぜ感染してしまうのか。ストレートに言えば、上の二つを徹底しきれていないからである。「マスクをしていても感染した」という人がいるが、そこで思考をとめてはもったいない。掘り下げると、複数の要因が思い浮かぶだろう。

  1. マスクをとった場面でウイルスを吸い込んだ
  2. マスクの着用が甘くてウイルスを吸い込んだ
  3. しっかり着用していたが、滞在時間が長くなったため、結局感染するほど吸い込んだ
  4. 身体等についたウイルスに無頓着で、接触感染をしてしまった

などだ。「マスクをしていました」とは言えない状態だった可能性が高い。

上記1はさらに、感染があり得る場面なのにマスクをしていなかった、というのも含まれる。たとえば路上だ。オープンエア環境だし一般的には不要だが、人とすれ違うなら着用したほうがいい。オミクロン以降、すれ違いざまの接触でも感染することがわかっている(私は駅が近くなり、人通りが増えると着用している)。

2と3は同じ話だ。マスクは吸い込む量を減らすだけ。隙間があいていればそこから大量に吸い込んでしまうし、しっかり着用できていても、長時間、ウイルスが漂う空間にいれば、やはり感染する。マスクはフィルタリングで吸い込むウイルス量を減らすだけである。時間係数が長くなれば、着用しないのと同じだ。

そして4である。じつはここのところ、接触感染が増えているのではないかと疑っている。細菌性胃腸炎など、頻繁な手指衛生で防げるはずの病気まで流行をし始めているから、手洗いがおろそかになっていることは間違いない(後述する)。

状況に応じ、高性能マスクを

マスクは全員が着用すると意味がある。その場の全員がマスクをすれば、その空間を浮遊するウイルスが激減するからだ*1。マスクに反対する人たちはたいてい、マスクを感染予防ツールと考えているが、それは違う。基本的に、感染者からのウイルス吐出を防ぐものである。

2022年までの日本は、多くの場面で全員が着用していたから、空間を浮遊するウイルス量も抑えられていた。いまは逆だ。どの空間においても、タバコの煙のようにウイルスのエアロゾルが舞っている。全面喫煙可能状態である。これを前提にして、吸いこむのをどう防ぐかだ。

もはやマスクを感染予防目的で使うほかない。感染リスクの高い場面では、N95マスクなど高性能マスクに変更するしかないだろう。不織布マスクを2枚重ねにするのもいい。不織布マスクの上からおしゃれな布マスクをするのもいいだろう。2枚重ねには、皮膚への密着度が高まる(隙間がなくなる)という効果がある。

それにしても、2023年3月に「マスクは個人の判断」と国が言ってからがひどい。適切な着用判断をできない人も多いという現実にクラクラする。「眼科なのにマスク着用なんてナンセンス」とか言い出す。最近の変異体は目に異常が出ることがあるので、感染者がいる可能性はある。そもそも病院は基礎疾患をもつ人が多い場だ。でなきゃ病院になど行くものか。TPOをわきまえてマスクをしたり、しなかったりするのが「個人の判断」だぜ。

感染リスクの高い場所とは?

巷間ウイルス量が増えているので、リスクが高いところではN95マスクや二重マスクにしようと書いた。ところでそもそも、その「リスクの高い場面」を意識できているだろうか。

要素が三つある。第一は、人の多さだ。当然にウイルスを吐出する人が周囲にいる可能性が高くなる。第二は、換気の程度。アウトドアでも祭りのように人が多い状態で、もしも空気がよどんでいたら危ない。そして第三が、時間だ。

通勤電車は人が多いから危ないが、新幹線や在来線特急は乗っている時間が長いから危ない。どちらも高性能マスクが必要だ。人数、換気、時間の三つの要素を意識するといい。これは会社などでも同じである。会議室と通常のデスクではリスクが異なる。

なお、換気については空気清浄機でも代用できる。ウイルスはホコリに付着して宙を舞っていることが多いので、空気中のホコリを除去するだけでもリスクを軽減できるからだ。

ここまでの話を会議室で説明すると

  • やるなら小人数で短時間がベスト。全員不織布マスク
  • 人数が増えるか、時間が長くなるなら、全員N95マスク
  • 換気か空気清浄機を導入するとリスクは下がる(人数と時間の制限を緩くできる)

と整理できる。なお、会議は発言がともなうので、ノーマスクで会議するのは、まだやめておいたほうがいい。それなら社内でもZOOM会議にするべきだ。自席ではノーマスクでも、会議ではマスクをするのがリスクマネジメントというものである。

空気清浄機でお勧めしたいのは、Corsi-Rosenthal Box*2のようなフィルター面積を大きくとった空気清浄機だ。USBファンとMERV13フィルターで自作すれば、スマートフォン用のバッテリでも動かせる。Corsi-Rosenthal Boxについてはこの記事で詳しく紹介している。
cf.
断水時の感染対策

安全な外食の条件

外食でも基本的な話は同じだ。人数と換気、そして時間である。大人数の宴会を延々とやるのが最もリスクが高いということはわかるだろう。換気が悪い店なら、もう最悪の結末しか見えない。

私は「会食は4人まで」がいいと思っている。それ以上の人数になると、どうしても声が大きくなるからだ(飛びちる飛沫量が増える)。そして店を選ぶ。換気の程度はCO2モニターで確認できるから、宴会幹事は店選びの下見のときに持参してチェックするといいだろう。せめてCO2濃度が1,000ppmを切っている店を選びたいところである。

新型コロナウイルス感染症に食事由来の感染(foodborne)があるかどうかはまだ議論があるが、私は「ある」と考えて対応すべきだと考えている(ないと思って感染するよりはマシだ)。下の論文はアイスクリームがウイルス汚染される可能性を指摘している。自家製などではあり得ると思う。
cf.
Food products as potential carriers of SARS-CoV-2
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0956713520306708

foodborneの可能性として気になるのが、店員のノーマスクだ。笑顔で接客してくれるのはいいが、しゃべるたびに飛沫が料理に飛んでいる。熱々の料理ならまだしも(ウイルスは熱に弱い)、サラダのような冷たい料理にウイルスが降り注いでいたら、口腔や腸で感染する可能性があるだろう(食事中は胃液の酸性度が落ちているのですり抜ける)。私は店員がノーマスクなら利用しない。

手指衛生は頻繁にやってこそ意味がある

スーパーの食材もノーマスクが増えたため、ウイルスで汚染されている可能性があるが、料理前によく洗うわけだし、多くは加熱調理するので、神経質になることはないだろう。

ただ、手指衛生はしっかりやったほうがいい。スーパーで観察していると、咳を受け止めた手をそのままに食品を手にとり、また棚に戻す人がいたりするから、パッケージに大量のウイルスが付着していることがある。開封した手をしっかり消毒することだ。

あまり指摘されていないが、全員がマスクをしていた時期といまとで大きく異なるのが、飛沫と接触によるモノの汚染度だ。スーパー入口での手指消毒液も撤去されていることが多いからなおさらである。いまや、どこで手にウイルスを付着させるかわかったものではない。

にもかかわらず、5類化とともに、なぜか手洗いがおろそかになってしまっている。アルコールも手荒れすることが災いして、人気がない。使ってもらいたいのはGSE(Grapefruit Seed Extract)だ。その理由は、匂いがなく食事中の手指衛生でも気にならず、頻繁に使っても手荒れしないからである。GSEはアルコールとともに、汚濁環境でも除菌力があることが実証研究で確認されている(GSEについても「断水時の感染対策」で詳述している)。

対策しているつもりのうっかりが問題

マスクする人にはそれだけで好感をもってしまいそうになる今日この頃だが、ガッカリする瞬間がある。マスクの真ん中を手でつまんで位置をなおした瞬間だ。「おい、その手をどうにかしろ」と言いたくなる。握手なんてまっぴらごめんだ。マスクの位置ズレをなおすなら、電車などあちこちで集めたウイルスがたっぷり付着しているマスク表面ではなく、耳にかけるヒモの部分をもって欲しい。

じつはそれくらい、「うっかり」をやっている。いまだにノーズフィットをまったく使っていない人もよく見かける。鼻の周囲に大きな隙間があいている。これで「マスクしてました」というのはおこがましい。

これだけ巷間ウイルス量が多いと、ウイルスは絶対に「スキ」を見逃さない。うっかりも、つもりもダメだ。リスクを見極めた上で、不織布マスクと高性能マスクを使い分けたり、「ともかく何かに触ったら手指衛生」というくらい徹底して手指衛生をしたりすることである。

スキのひとつとして、身体と衣服に付着したウイルスの処理もある。満員電車や宴会などで飛沫をかぶると、髪の毛や衣服にウイルスが付着しているはずだ。そのままにしておくと、接触感染のもとになる。髪の毛を触るクセのある人はとくに要注意だ。事後は頻繁な手指衛生が不可欠だ(あるいは衣服にはGSEを予めスプレーしておくのも効果はあるだろう)。そして、帰宅したらまっすぐに風呂に行き、衣類は洗濯することである。

対策以外の対策

ともかく、

  • ウイルスを吸い込むのを防ぐ
  • ウイルスが「目・鼻・口」に触れるのを防ぐ

を徹底すれば、感染から逃げきれるのだ。徹底して、ウイルスにスキを見せないことである。

さらに対策以外の対策についても書いておきたい。二つある。
まず、感染リスクの高い行動のあとは、3日間は様子をみることだ。たとえば会食は中3日あける。もしも感染していれば、次の会食前に発熱するから、人にうつしてしまうことを避けられる。あるいは、家族がいるなら、会食後3日間は自分が感染している可能性を踏まえた行動をとるといい。

つぎに、ちょっと書きにくいが、「相手を選ぶ」ことだ。会食相手が「もうコロナ終わったんでしょ」とか「あんなのただの風邪じゃん。何を怖がっているの」というタイプだとしたら、感染してしまっている可能性も高いし、会食中に感染を防ぎきるのは難しい。残念なことだが、会食は同じ意識をもつ人に限定するほうが無難だ。

以上である。なお、子どもがいる場合の家庭内感染対策については、この記事を参考にしてもらうといいだろう。続けて読んでいただくのがいいと思う(ただし以下の記事はコマーシャルである)。
cf.
家庭内感染対策

注記

*1 スイスの教室で実測されている。空気感染のもととなるエアロゾルが
・マスク義務化により69%(95%CI 42%~86%)減少
・空気清浄機により39%(95%CI 4%~69%)減少
SARS-CoV-2 transmission with and without mask wearing or air cleaners in schools in Switzerland: A modeling study of epidemiological, environmental, and molecular data
https://journals.plos.org/plosmedicine/article?id=10.1371/journal.pmed.1004226

*2 UC Davis校のリチャード・コルシ(Corsi, Richard)が公表した自作空気清浄機のアイディアをTex-Air FiltersのCEO、ジム・ローゼンタール(Rosenthal, Jim)が具体化したもの。フィルターとファンでDIYする空気清浄機である。5枚のフィルターを使うことが特色。

追記

「トイレの危険性をもらしている」というコメントをいただいた。たしかにそうだ。トイレには便由来のさまざまなウイルス(新型コロナウイルスだけでなく、ノロウイルスなども)が水洗のたびに飛び散っている。自宅以外のトイレは、1)長居しない、2)マスクをしたまま使う、3)必ず石鹸で手を洗う、4)化粧直しはしない(目や口にウイルスを付着させるおそれがある)のが鉄則だ。オフィスのトイレでこっそり休息する人もいるようだが、やめておいたほうがいい。なお、オフィスのトイレは靴のままというところが多いが、トイレ前のマットにGSEを含ませて、靴裏を除菌することを勧める。ウイルスは靴について移動するからだ。(2024年1月31日追記)

発熱して途方にくれる受験生が多く出ているようだ。本当にこの時期の感染はハンディキャップである。下手すると受験さえもできない。そこで「受験前の感染対策」を別途まとめた。親子で参考にしていただきたい。(2024年2月3日追記。節分である。「鬼は外」である)。

参考

この表がわかりやすい。感染者が歌った部屋に入ったとして、何分で感染してしまうかを研究したもの。換気がよく、ウイルス量も少なければ36分間もつ。換気が普通でウイルスが多ければ30秒で感染してしまう。つまり、換気/空気清浄機とマスクで、左上から右下の状態にもっていくわけだ。
長く時間がもつ分、経済も回る。いまの「ノーマスクで笑顔と経済を」というやり方は、人々を左上の状態に置くだけだ。結果として欠席欠勤日数が増え、不健康な人が増えるだけ。経済は回らない。適切な感染対策こそ経済振興政策である。親が病に臥せってしまっては、労働力不足をひきおこす上、子どもから笑顔も奪う。