ワクチンをうっても感染するのはなぜか

ともかく評判が悪い。
「ワクチンをうっても、感染者が増えているじゃないか。こんなの意味ない」
と大騒ぎだ。

もともと国(厚生労働省)は、重症化予防効果や発症予防効果を示して、新型コロナワクチンを導入しており、感染予防効果はうたっていない。それでも、「約束が違う」と言わんばかりなのである。

接種しても感染する件への専門家の説明

これに対して、専門家は二つの理由を挙げている。第一は、ウイルスの免疫回避能力が高いこと。オミクロン変異体は、想像以上に免疫をかわす能力が高く、BA.1に感染した人も、BA.5には感染してしまうほどだ。手ごわい。

第二は、日数の低下とともに、感染を防ぐ能力が落ちてしまうことである(中和抗体価の減少)。これは、風邪でもインフルエンザでも観察された現象で、このため、風邪もインフルエンザも何度も感染してしまう病気となっている。COVID-19も同じだ。

おたふく風邪のような終生免疫がつく病気でもなければ、麻疹のように免疫が何十年も続く病気でもない。自然感染で免疫を獲得しても、やはり何度もかかるのだから、ワクチンを接種しても感染することはある。何ら不思議なことではない。

接種しても感染する件への私の説明

私は、もっと根本的なところで誤解があるのではないかと考えている。「ワクチン」に対する一般的なイメージはこれだろう。病原体(菌やウイルス)から、ひたすら守ってくれて、感染の心配がなくなるもの、である。

このイメージが、そもそもの間違いだ。COVID-19の場合は違う。ワクチンを接種することで、やっと身体の免疫システムが「ウイルスからの防衛戦を戦える」という状態になるだけである。

新型コロナウイルスは新顔だったため、ヒトの免疫システムに過去の経験に基づく対処法マニュアルがなく、

  • なんの疑問もなく身体に引き入れてしまい(感染)
  • 好き勝手に身体内でウイルスが増殖するのをなかなか抑えることもできず(中等症)
  • 肺などの臓器に激しい損傷を受けた上、身体の免疫システムも過剰反応してしまう(重症)

という経緯をたどった。たった数個のウイルスに曝露するだけで感染する状態だったから、このような世界的なパンデミックとなったのだ。

これに対して、ワクチンを接種することで、「免疫がつく」という。具体的には、新型コロナウイルスの特徴を免疫システムに安全に予習させるものだ。これで対処法マニュアルができあがる。

ただこれでやっと、「インフルエンザ患者を前にしたのと同じ状態」になるだけである。体内の免疫システムが新型コロナウイルスと戦う準備はできているが、水際で相手を殲滅するほどの能力はない。かつ接種からの日数とともにその力は衰えていく。
「わーい。ワクチンうった。これで感染する心配ないぞー!」
は大きな誤解である。

ワクチン接種×感染予防策で完成する

ワクチン未接種だと、敵を敵とも思わずに侵入を許し、細胞内で好き放題されてしまう。免疫システムが頼りだが、未知の敵を相手に戦い方もわからず、右往左往している間に、重症化することもあれば、死亡することもある(ただしその結果、生還すれば、獲得免疫はつく)。

接種すると、かなり戦えるようになるが、それでも「多勢に無勢」だと水際は突破されてしまう。味方の人数は日数とともに減る一方、「これで感染しない。ヒャッハー」なんてやっていると、敵は無数に襲ってくる。やっぱり負ける。負けたら感染する。

予防の基本は、1)距離をとる(飛沫対策)、2)換気をする(エアロゾル対策)の二つである。加えて、重要なのが「時間」である。感染者との会話も数分で終われば、感染リスクは抑えられる。一方、互いにマスクをしていても、長時間の会話で感染した事例は多数報告されている。

感染者がマスクをするとさらに効果大

さらに、感染者がマスクをすると効果が大きい。ハムスターの実験だが、

  1. 感染ハムスターだけがマスク。あとはノーマスク
  2. 未感染ハムスターだけがマスク。感染ハムスターはノーマスク

の比較があり、感染をより防げたのは1のほうだった。マスクで防御するより、そもそも感染者が吐出する飛沫を抑えるほうが、効果は大きいということだ。

したがって、感染者だけがマスクをすればいいわけだが、誰が感染者かわからないのがCOVID-19である。だからひとまず、全員がマスクをするのが効果的で効率的、ということになっている。これがユニバーサルマスクの考え方だ。

感染する前にワクチンを、感染してからもワクチンを

ワクチンは黙って3回うて」で触れたように、日数の経過とともに水際作戦の能力は落ちてしまうが、somatic hypermutationという現象が起き、免疫システムが応用力を身につけることができる。
「野生株のワクチンだから意味ない」
というのも、意味がない。ともかく3回は早々にうつべきだ。

そして、最近の研究では、

  • 「自然感染+ワクチン」で、免疫力がさらに高まること(ハイブリッド免疫)
  • 自然感染を繰り返すと重症化しやすくなること

がわかってきた。感染した人も、感染する前の人も、ワクチンを接種することにメリットがある(詳しくは「ハードランディングの選択は致命的な誤りだ」を参照)。

でも、感染したくなければ、ワクチンを接種していても、感染予防策をとることである。次回は感染予防策を改めてまとめてみようと思う。

注記

文中の感染者・非感染者のイラストは、sumaki氏が筆者が会員となっているAdobe stockで有償配布されているもののライセンスを購入し、筆者が利用して作成したもの。sumaki氏のオリジナル画像は以下である。

https://stock.adobe.com/jp/images/silhouette-illustration-of-mask-spray-infection-aerosol-splash-infection/346362091