国民のほとんどがワクチンを接種し感染もすれば、ハイブリッド免疫がつき、パンデミックは終息するという期待があった。国がCOVID-19を5類にしたのは、これも背景にあったと思われる。しかし、この期待は見事に裏切られ、世界は再び2020年の悪夢を思いだしている。パンデミック 2.0が始まっているのだ。

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学校の感染対策がさらに重要

2023年に入ってからの奪マスクと5類化の流れは、おそらく欧米のハイブリッド免疫をみてのことだったと思う。「ワクチンを接種してから感染する」ことで得られるハイブリッド免疫は強力で、「国民のほとんどが感染したほうが、むしろ早く終息する」という錯覚を抱かせるに十分だった。

しかしすでに、それは過剰な期待だったことがわかってしまった。この冬はどの国も安穏とはしていられない。新型コロナウイルスのほうが一枚も二枚も上手だ。感染者を増やしても、いいことは何ひとつない。まして複数回感染者を増やしてしまうと、間違いなくパンデミック 2.0だ。現段階では、感染を防ぐことに正義がある。

そして感染を防ぐには、学校や保育園・幼稚園が感染対策をしっかりやることである。アメリカの大規模調査で、スマートフォンにデータを送れる体温計を使って、「家庭内感染で、誰が真っ先に発熱したか」を調べて、最初の感染者を特定した研究がある。なんと、家庭内感染の70.4%は子どもから親への感染であった。デルタ変異体までは親が子にうつしていたが、オミクロン変異体からは逆転しているということだ。
cf.
Smart Thermometer–Based Participatory Surveillance to Discern the Role of Children in Household Viral Transmission During the COVID-19 Pandemic
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2805468

3密を避けろ、マスクをしようと言っても、家庭内でそれは難しい。子どもが感染すると、親が被弾するのはほぼ不可避だ。学校や保育園・幼稚園は感染対策を巻きなおすべきである。

とかく「子どもの笑顔のためにマスクを外せ」とか、「感染しても子どもは軽く済む」とかいって、感染対策に反対する勢力もいるが、その結果、苦しんでいるのは感染症に何度もかかっている子どもとその親だ。子が発熱するだけでも親は仕事を休むしかない。そして、子どもが軽症で終わったとしても、親が大きなダメージを受ける。飲食店主が味覚・嗅覚を失うだけでも大打撃である。

日本ではまだ目立たないが、世界規模でみると、新型コロナで両親または片親をなくした子ども(コロナ孤児)が増え続ける一方である。父親を亡くした子どもの数は母親を亡くした子どもの数の約5倍であり、CDCのOrphanhood reportによると、世界中でパンデミックによる死者が2人出るごとに、1人の子どもが取り残され、親や養育者の死に直面している。
cf.
Children orphaned by COVID-19: A grim picture and the need of urgent actions
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1477893922001922

このままパンデミック 2.0に突入すると、日本でもコロナ孤児が増える可能性がある。というのも、子どもの親の世代(20代‐40代)は最初のワクチン接種で終わっている人が約40%もいるからだ。すでに接種から2年が経過しており、日数とともに落ちるワクチン効果に期待できる状態ではない。そこにJN.1変異体がやってくるわけである。

学校や保育園の感染対策をゆるめた瞬間、親たちが被害を受ける。そしてそれは、会社にも社会全体にも波及する。いいことは何ひとつない。

ウイルスの「常識」を疑え

人間の認知は経験主義である。過去の経験に基づいて、そこからの類推で理解しようとする。そして状況が変わったことをなかなか認めようとしない。たとえば水害だ。「過去にあふれたことがなかったから」というだけの理由で危険を直視できず、逃げ遅れることがある。

新型コロナウイルスに対しても同じである。風邪やインフルエンザの延長線上で、この病気を把握しようとしすぎる。植物の世界でも、大根と白菜が同じアブラナ科であると言われてもピンとこないだろう(花をみるとわかるのだが)。近縁種だが、まるで性格は違うものは多数ある。

新型コロナウイルスは、過去の経験と常識があてにならないことを示したウイルスでもある。たとえば、「ウイルスは変異のたびに弱毒化し、ヒトと共存しようとする」「感染力が強いと弱毒」という常識を覆している。発症前の感染者がウイルスを吐出しているからだ。発症の前に次の宿主を見つけているのだから、弱毒化する選択圧がないし、強毒性でも感染はひろまる。

しかも新型コロナウイルスは人にも動物にも感染する(人獣共通感染症)。ペットのイヌやネコ、鹿などの動物にも感染し、そこで生き延びているから、ヒトを発症後に瞬殺したとしても、絶滅することはない。ほんと、なんて厄介なウイルスなんだ! である。

このウイルスの脅威は、これまで経験したことのない脅威である。急性期の致死率をワクチンで下げてもLong COVIDの危険があり、合併症のリスクが高く、そして他の感染症にかかりやすくなる。イギリスでは劇症型の溶連菌感染症(iGAS)が急増しており、昨シーズンは70人以上の子どもが亡くなっている。変異するたびに低病原性になることは期待できず、ヒトは何度も感染し、そのたびに後遺症ガチャをひく。

このような状況であるにもかかわらず、公助に期待することはできない。

いま必要なのは、5類化に吹き飛ばされた正気を取り戻すことだ。

文責:古瀬 幸広(2023年12月20日公開)


本記事は5類化前の2023年1月に書いた記事の答えあわせでもある。興味があるなら、まずはこの記事から読んでいただきたい。

「知っておくべき新型コロナウイルス感染症のリアル」
https://furuse-yukihiro.info/2023covidcolumn01/


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追記(2023年12月21日)

■この記事を公開したのとほぼ同時に、WHOがJN.1変異体を「VOIに指定した」というニュースが流れてきた。VOIはVariant of Interestの略で、「懸念すべき変異体」のことである。「こいつはかなりマズイかも。注視しよう」ということだ。実際、各国はJN.1で感染者も入院患者も急増している。

■「子どもにワクチンは不要だ」という意見も根強くあるが、感染した子どもたちを調査し、ワクチン接種済の子はLong COVIDになる率が低いという研究がこちら。2021年7月から2022年9月まで、5-17歳の1,600人の子どもに対して毎週検査を実施しての確認だ。mRNAワクチンを接種をした子は、Long COVIDの1症状の発症34%減、2症状の発症48%減。これは感染した子ども同士の比較なので、感染をある程度予防する効果も含めると、きわめて効果が高いと言える。
cf.
COVID-19 mRNA Vaccination Reduces the Occurrence of Post-COVID Conditions in U.S. Children Aged 5-17 Years Following Omicron SARS-CoV-2 Infection, July 2021-September 2022
https://academic.oup.com/ofid/article/10/Supplement_2/ofad500.2466/7448254

■互いにマスクをするユニバーサルマスクの効果が高いのは、その空間におけるウイルス量が減るからだが、それでも長時間になると感染することもある。逆にいうと、マスクや換気は「一緒にいても感染せずに済む時間」が長くなるものだ(そのぶん、経済が回る)。「長時間」のリスクを実証した研究とその説明のスレッドを参照して欲しい。これは、通常の電車より、新幹線や特急のような長時間乗車の乗り物のほうが感染リスクは高いことも示す。