感染しても自宅療養が基本となっているいま、
そして子どもたちの感染が続いているいま、
できることはウイルスの挙動にあわせた自衛策しかない。
社会生活をとめずに感染予防策をがんばってみよう。

  2   

クシャミ一発で数100万個

この3年間に起きた変化のうち、最大のものは、最近はいつでもどこでも、隣に感染性のある人がいると想定すべき状態になったということである。まさにこれがウィズコロナだ。

感染者が増えたことで、国が感染者の隔離を諦めたことが大きい。療養期間中の感染者が買い物に出ることさえ認められているし、まだ感染性のある8日目から社会復帰できてしまうルールとなっている。誰もがウイルスとの戦い方を覚えて、自衛するしかないフェーズに入ったということである。

ワクチンはやはりゲームチェンジャーだった。「感染しにくくなる」だけでも、極めて効果は大きい。ゼロウイルスではなく、レスウイルスでいいからである。これならやれる。そして、その上での感染なら、重篤化の可能性も、前編で述べた後遺症/合併症/免疫不全のリスクも小さくできるはずである。

ウイルスは目に見えないので、量の概念が稀薄だ。Ct=25以下の感染者の唾液には、1800万個/ml以上のウイルスがいる*6。クシャミ一発で数100万個のウイルスが周辺に拡散し、料理に飛ばしたツバ(飛沫)の一滴に数10万個のウイルスがひそんでいると想定すべきである。

感染予防とは、この事実を認識し、その影響を小さくする工夫をすることだ。これに尽きる。まず、確実に効果を期待できるのが、全員マスク(ユニバーサルマスク)である。クシャミやツバの飛散をマスクでとめるだけでも、大きな効果を期待することができる。数100万個のウイルスが飛び出すのをとめるのだ。

事実、全員マスクを徹底した2年半、インフルエンザは撲滅される勢いで減少した。個別マスクの時代には経験したことのない減り方である。逆に言えば、集団の中に、症状が出ていなくてもウイルスを吐出している人がいたということだ。全員マスクでそれをとめたことに意味があったということだ。

それにしても、クシャミをするときだけ、わざわざマスクを外す昭和のオヤジには絶望する。そのくせ、マスクは意味がない/効果がないと力説する。ハタ迷惑である。感染者がツバを飛ばすのを防ぐだけでも大きな意味があると理解して欲しい。だからクシャミのときもマスクは外すな。

「ウイルスはマスクの穴より小さい」とドヤ顔で言う人も多いが、ウイルスは唾液など体液に含まれているものであって、単独で浮遊しているわけではない。飛沫をとめればウイルスの拡散も防ぐことができる*7。そしてエアロゾルは換気で対応するべきものだ。

たとえ新型コロナにマスクは無意味だとしても、全員マスク が確実にインフルエンザの蔓延をとめることができることは、この2年半が実証している。すなわち、マスクの継続で新型コロナとインフルエンザが同時流行するツインデミックを防げるから、医療への負担をそのぶん小さくできるのだ。感染者増・死者増が続いているのに、店頭でやれ強要罪だなんだと騒ぐのは、KYNY(空気読めない/波を読めない)に過ぎるだろう。

距離・時間というパラメータを意識しよう

全員マスクは効果が高い。しかし、現実社会ではマスクをとる場面が多数ある。「マスクをしているのに増えている」のではない。マスクをとる場面で感染が続いているとみるべきだ。たとえば会食の場であり、家庭内である。

新型コロナウイルスのイヤなところは、ジョギングをするほど元気な人が、さかんにウイルスを出すことである。発症前からウイルスを吐出するところが、本当に厄介なのだ。2022年夏、とある高校が遠泳大会を企画し、直前に抗原検査をしたところ、10名以上が陽性だったという。これから遠泳しようという元気な若者が、ウイルスを出しているのである。

改めて、フィジカルディスタンシングを徹底したい。距離をとれば、エアロゾルと飛沫のリスクを下げられる。距離をとれというのは、その間にエアロゾルはうすまるし、飛沫は下に落ちるからである。意外にこれができていないのが、BBQクラスターだ。戸外だという安心感があるのだろう。うっかり料理をもちながら、近い距離で話し込んでしまって、感染している。同じ理由で、喫煙室や更衣室、脱衣場なども危ない。マスクをとったら黙るのが正解である。

やはり会食が危険だということはすぐに理解できるだろう。まずフィジカルディスタンシングをとれない。そしてマスクをしておらず、おしゃべりするだけで、多数のウイルス入り飛沫が料理に落ちていく。このリスクを回避する食べ方は次項で述べるとして、距離に加えて時間が大事だという話を書いておく。

「大量のウイルスに曝露することを避ける」のが、感染予防の基本である。ノーマスクの感染者が目の前でクシャミをするなど、一発で大量のウイルスを浴びることもあれば、少しずつ浴びて、結果として大量になることもある。近い距離で人と接するなら、時間を気にすべきなのである。立ち話なら短い時間で切り上げる。会食なら、ひとつの店に長居をしない。隣の客が感染者ということもあり得る。そこに長時間いると、結果として大量のウイルスに曝露する危険がある。

冒頭で、普通の病院の待合室に新型コロナ感染者を同席させるのか、という話を書いた。これも、気になるのは時間だ。互いにマスクをしていれば、しばらくは耐えられるだろう。でも病院の待ち時間は長いと決まっている(これはこれで、なんとかして欲しいが)。長時間、隣り合わせに座ることが問題なのである。

食べ方の工夫で感染を防ぐ

こうしてみると、マスクは距離を短くし、時間を長くするためのツールだなと実感する。全員がマスクをすると、室内空間のウイルス量を減らすことができ、近くに座ることができ、接する時間も長くとれる*8。そして逆に、マスクをとる会食のリスクが際立つ。

会食での感染リスクを減らすには、なにをおいてもマスク会食をすることだ。料理がきたらマスクをとって黙って食べ、食べ終わってからマスクをして話す。「接待では、そんな失礼なことはできない」という人がいたが、逆だと思う。これは「私が感染者でも、あなたに迷惑はかけません」という配慮だ。

マスク会食になじむのは、懐石料理のような1品ずつ出てくる食事スタイルである。大事な接待なら、こういう食べ方ができる店を選ぶといい。続いて、料理と食べ方を選ぼう。二つの注意点がある。第一は、ウイルスは熱に弱いことを頭にいれておくこと。第二は、時間経過を気にすることである。

発熱でウイルスの動きをとめようとするくらいで、ウイルスは熱に弱い。熱々のラーメンを熱々のまま食べきるなら、たとえウイルス入り飛沫が飛び交っていても感染リスクは小さい。マスク会食は、熱いものを熱いまま食べきってから話す作戦でもある。

逆にいうと、問題は冷たい料理である。テーブル上にサラダを置いたまま、おしゃべりに夢中になるとか、お刺身やすっかり冷めたフライドポテトを宴席中、たまにつまむといった食べ方は、感染性をもったウイルス入りの料理を食べることになる可能性が高い。そして、テーブル上に放置された時間が長ければ長いほど、そのリスクは増す。

手指衛生も気にすべきである。入り口で消毒したところで、調味料容器を手にした瞬間にウイルスが手につくかもしれない。相手が感染者なら、テーブルのあちこちにウイルス入り飛沫をばらまいている。一方、ピッツァやサンドイッチ、ポテトやナンなど、手を使って食べるものがけっこう多いのだ。手を使って食べる前には、必ず消毒するくらいでいい。

もちろん換気のいい店を選ぶことも重要だ。心配なら、携帯できるCO2モニターを持ち歩くといい。1,000ppmを上回るお店には、長居をしないことである。あるいは、焼鳥屋やとんかつ屋、焼肉屋など、大きな換気扇がぶん回っているところを選ぶ。煙が目立たないなら、換気はできている。


  2   

注記

*6 RT-PCR Screening Tests for SARS-CoV-2 with Saliva Samples in Asymptomatic People: Strategy to Maintain Social and Economic Activities while Reducing the Risk of Spreading the Virus
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kjm/70/2/70_2021-0003-OA/_pdf/-char/en

なお、この研究は2021年6月発表のもの。オミクロン変異体から唾液中のウイルス量が増えていると報告されているので、いまはもっと多いと考えておくべきである。なお、文中のCt=25とは、RT-qPCR装置を使った25回の増幅でウイルスを検出できたことを意味しており、発症前後の人はこれくらいの数値になることが多い。「感染者のコップ1杯の唾液を浴びても感染はしない」というデマもよく見かけるが、これはCt=40の場合の話だ。急性期の終わり頃の人である。

*7反マスク論者の言い分への反論は、過去に書いたこちらのコラムを参照していただきたい。

*8 この記事に、感染者と非感染者のマスクの種類別の接触可能時間がまとめられている。図版部分を再掲しておこう。この時期は、不織布マスク一択である。ウレタンマスクは勧められない。下図の縦の男性が感染者、横の女性が非感染者だ。ノーマスクからN95マスクまで、互いに顔を覆った場合の接触可能時間が整理されている。

https://healthfeedback.org/claimreview/scientific-evidence-shows-mask-wearing-effective-at-limiting-community-transmission-claims-face-masks-increase-mortality-based-on-flawed-correlation-studies/

  2   →