感染しても自宅療養が基本となっているいま、
そして子どもたちの感染が続いているいま、
できることはウイルスの挙動にあわせた自衛策しかない。
社会生活をとめずに感染予防策をがんばってみよう。

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親子の間でも、できることはある

会食以上に大変なのが、親子間での感染予防である。第6波以降は、子どもがまず感染し、親にうつしていることが多い。このルートをとめなければ、感染拡大を止めるのは困難だ*9。以下、濃厚接触不可避の小学生以下の子どもを想定して、できる対策をまとめる。

我が子を感染者かもしれないと疑ってかかるのは難しいが、「そうかも」と頭の片隅にいれて対応することは重要だと思う。逆の効果も期待できるからだ。自分が感染者だった場合に、子どもにうつしてしまう確率を下げることができる。

この場合も、やはり感染リスクが高いのは食事の場面である。子どもの相手はするが、一緒に食べないという選択肢がひとつある。学校では黙食しているのだ。おしゃべりの相手はしよう。でも自分のプレートも並べて一緒に食べると、互いに相手に飛沫でうつしてしまうリスクがあがる。

一緒に食べる場合は、料理の盛り方・並べ方を工夫する。相手の飛沫が落ちてこない位置に置く。そして、もったいないけれども、子どもの食べ残しを食べてはいけない。ウイルスまみれかもしれないからだ。

団欒の場面では換気に気を配ろう。寒い時期・暑い時期に換気をするのは大変だけれども、少しでも換気することで、エアロゾルはうすまり、感染確率は下がる。

帰宅したらすぐに風呂

いやいや食事の前にすべきことがあった。入浴である。学校や塾から帰ったら、真っ先にお風呂にいれることを勧める。目的は二つ。第一は全身の、とくに髪の毛に付着していると思われるウイルスを洗い流すこと、第二は、ウイルスが付着している衣服を洗濯機にいれて、着替えることだ。

下のグラフは、デルタ期とオミクロン期の、子どもの感染者数の比較である(2021年8月と2022年8月の比較)。じつに13.7倍だ。前編でオミクロンは「子どもが感染して親が苦労し、祖父母が死ぬ病気」と書いたのは、この相違に気づいていたからである。

私はずっと、この差異ができた原因を考えていた。ここまで得られた知見の中で、注目したのは「オミクロンから唾液・呼気中のウイルスが増えている」という研究である。たしかに、唾液による検査の精度もあがっている。これは唾液中のウイルスが増えたからだ。
cf.
Exhaled Breath Aerosol Shedding of Highly Transmissible Versus Prior Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 Variants
https://academic.oup.com/cid/advance-article/doi/10.1093/cid/ciac846/6773834

子どもは大人と違って、フィジカルディスタンシングをとれない。互いに飛沫をかけあう距離で接することが多い。そしてその飛沫にウイルスが多く含まれるようになったのが、オミクロン変異体である。子どものいきなりの感染増の主因がこれだとしたら、黙食解禁なんてナンセンスすぎて涙がでる。

当然、髪の毛から衣服から、ウイルスまみれになっているはずだ。帰宅してすぐに入浴し、衣服を着替えることで、身についたウイルスをクリアできる。幼児もまた別の意味で、入浴ファーストにしたほうがいい。フィジカルディスタンシングが有効なのは、飛沫が下に落ちるからである。となると、床は必然的にウイルスまみれになっている。そこにべったり座ったり、ハイハイしたりするのが幼児だ。やはり真っ先に風呂に入れよう。

風呂優先は大人も同じ

帰宅して最初にお風呂に行くべきなのは、大人も同じだ。私は満員電車のリスクは、エアロゾル感染ではなく、接触感染だと考えている。というのも、いまの感染状況からの数理モデルをみると、1両300人の中に、20人前後はウイルスを吐出する感染性のある人が紛れ込んでいると見積もれるからだ。エアロゾル感染するなら、東京や大阪など電車通勤主体の都市圏では、毎日100万人近い感染者が出るはずである。実際には、マスクをして、誰も話さないことで、しのげているとみていい。

しかし、本当にヒトとヒトが密着するので、真後ろの人間が感染者なら、マスクからもれるウイルスを衣服や頭髪にかぶっている。そしてSARS-CoV-2は、モノの表面で感染力を長く保つ。帰宅したら、すぐに風呂が正しいだろう。あと、髪の毛を触るクセのある人も注意したほうがいい。そのたびに手にウイルスを付着させている可能性がある。髪の毛を触ったら手指衛生というクセもつけよう。

ずっと気になっているのが、ビジネスピープルのスーツとネクタイである。どちらも洗わないから、ウイルスが付着したままになっているのではないか。とくにネクタイは、相手の飛沫がふりかかる位置にある上、必ず手を使って結んだり外したりするので、けっこうな量のウイルスが付着していると推定できる。

省エネが叫ばれたとき、クールビズなどと言って、ノーネクタイのファッションが推奨された。これだけ感染者が多いのだ。経済界は「ウイルスフリービズ」とでも表現して、新型コロナ対応ノーネクタイファッションを推奨するべきだと思う。肝は毎日洗えることだ。

そして洗面所とトイレ

洗面所とトイレも気になる。感染した子ども(あるいは親)が歯磨きをすると、洗面所にべったりとウイルスを撒き散らす。腸が感染していると、大便中にウイルスがいて、水洗の段階で飛び散ると言われている(洗い落とし式の場合。サイフォン式は安全だという説もある)。

洗面所対策は、毎日の清掃しかない。それと歯ブラシとタオルを個別管理にする。インフルエンザでの話だが、歯ブラシ同士の接触でうつった例がある。タオルは一人一人が使うたびに洗濯機にいれるのもいいだろう。

トイレにおける感染リスクは諸説あるが、ノロウイルス対策にもなるので、蓋をして流すべきだと考える*10。危機管理の最中だ。疑わしきものは対策するのが常識である。ホテルや駅のトイレの使い方にも留意したほうがいい。気になるのはお化粧なおしだ。もしもトイレ中にウイルスが潜んでいるとすれば、目や唇をいじる化粧なおしは、別の場所でするほうがいいだろう。

私は日本人が以前から、土足で家にあがらない上に、トイレに別の履物を用意することが定着していたことが、感染者を抑えるのに役立ったと考えている。新型コロナでも、かなり早い時期に、靴裏でウイルスが拡散していることが指摘された。鳥インフルエンザ対策では当たり前のように、足元を消毒している(足踏み消毒槽に長靴のまま入る)。クルマのタイヤでの拡散を防ぐために、鳥インフルエンザの現場では、道路に石灰がまかれている。

だとすると、靴のままオフィスに行き、その靴のままトイレにもいくオフィスには手をいれる余地がある。ひとつの解決策は、玄関やトイレの前に除菌できるマットを置くことだ。


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注記

*9 このような状態であるにもかかわらず、黙食をやめさせろ、マスクをやめさせろという意見が多く、教育委員会などに抗議が入っているようだ。このようなナンセンスな圧力には屈しないでもらいたい。「子どもは重症化しない」と騒ぐが、教室には高齢の教師もいるし、自宅に戻ると親もいる。2022年中の親の世代の死亡数は以下の通りである(速報値による)。

30代:91人、40代:258人、50代:589人(2022年の新型コロナ死者数)

子が親にうつして、その親が亡くなったら、それこそ悲劇だ。せめて子どもの大半がワクチンの3回接種を済ませるまでは、黙食を継続すべきである。食べ終わってからマスクをして話せばいいことではないか。「かわいそう」なんて感情論で判断すべき事柄ではない。そもそも、子どもも重篤化することもあれば、亡くなる子もいる。「重症化しない」がデマである。

*10 SARSのとき、香港のアモイガーデンでトイレの配管を通じた集団感染事例があり、トイレのリスクが注目されることになった。
cf.
香港のSARSマンション集団感染、下水から浴室へのエア逆流が主因か
(日経メディカル。2003年4月21日)
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/hotnews/archives/243013.html

日本は水資源が豊富で、トイレの配管のトラップが乾燥することはまずないので、同様の集団感染のリスクはないとみていい。しかし、便中にウイルスがいて、感染させてしまう可能性があることは把握しておきたい。SARS-CoV-2でも似た事例が報告されている。
cf.
COVID-19 Cluster Linked to Aerosol Transmission of SARS-CoV-2 via Floor Drains
https://academic.oup.com/jid/article/225/9/1554/6505230

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