「新型コロナはオミクロンで弱毒化した」
「致死率もインフル以下。特別扱いするべき病気ではない」
「感染して免疫をつけたほうがいい」
「欧米はもう脱コロナ。マスクもせず、ただの風邪扱いだ」
テレビをみるとタレントがこのように新型コロナ対策を語っている。果たして本当のことだろうか。
最新の医学論文を踏まえ、COVID-19のリアルに迫る。

[前編]知っておくべき新型コロナウイルス感染症のリアル
[中編]知っておくべきウイルスとの戦い方
[後編]微生物との戦争――ヒトと動物、環境と微生物の葛藤


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ともかく複数回の感染を避けること

この厄介な病気に、どう対抗すればいいだろうか。他国に比べると、日本はまだ圧倒的に感染率が低い(2022年暮れの段階で感染率は約30%と見積もれる)。この状態をなるべく維持することが大切だと思う。感染者が増えれば、心血管系の病気に襲われる人や、免疫不全で猩紅熱などに感染する人が増加する。理想は、感染予防策を継続し、治療法が発展するまでの時間稼ぎをすることである。

かかってしまった人はどうすればいいだろう。まず、急性期を過ぎても、当分は無理をしないことである。軽症で済んでも、思わぬダメージを受けている可能性があるからだ。

とくに気になるのは、運動部系の部活をしている学生である。「治った」とすぐに練習に復帰するのは勧めない。学校の体育でも、新型コロナ感染から復帰した学生/生徒に対しては、しばらく心臓に負担のかかる運動を避けるなどの配慮をしたほうがいいだろう。スポーツ選手が新型コロナ療養明けに心臓発作で死亡する例が報じられている*17

続いて、二度目の感染(あるいは三度目の感染)を避けるべきだ。複数回の感染で、後遺症/合併症リスクが高まるからである。ワクチンを接種した人が感染すると、ハイブリッド免疫(ワクチン+自然感染による免疫)がつく。ワクチン単独より強力だと言われている。しかし、英米の事例を見ていると、ハイブリッド免疫も2,3か月しか続かないようだ。やはり、感染予防策を地道に続けるしかない。

感染を警戒といっても、格別なことは必要ない。きちんとマスクを着用し、換気に留意し、手指衛生を頻繁にやるだけである。会食はとくに要注意だ。第8波が過ぎ去るまでは、黙って食べて、マスクをして話すマスク会食を強く勧める。

会食で気になるのが飛沫である。マイクロエアロゾル感染(感染者が吐出したウイルスいりのマイクロエアロゾルが空気中を漂い、それを吸い込むことで感染する)にばかり注目がいき、飛沫感染・接触感染がほぼ無視されている事態となっている。マイクロエアロゾル感染(大雑把にいうと空気感染)はたしかに主要な感染経路だが、だからといって飛沫感染・接触感染を無視するのは間違っている。

というのも、1)感染者の唾液にはウイルスが含まれており、2)口腔内からも感染が起きることが研究で明らかになっているからだ*18。おしゃべりしながらの食事は楽しいが、テーブルの上の料理に感染者のウイルス入り飛沫が大量に落ちている可能性があり、それを食べるわけだ。口腔内や咽頭で感染が成立してもおかしくない。食事が出たら黙って食べ、食べ終わってから話すだけで、飛沫による感染リスクを減らすことができる。

新型インフルエンザの研究者は、フィールドワークで鳥インフルエンザに感染した野鳥を食べた動物が死亡しているのを何度もみているという。ウイルスは胃液で不活化するはずで、「食べて感染する」のは考えにくいのだが、これはただの思い込みであった。

食物が胃にあると胃液がうすまるため、生き残ったウイルスが腸にたどりついて、そこで感染する。新型コロナウイルスがヒトの腸で持続感染している例なども多数報告があるが、これはやはり食べて感染したとみるべきだろう。食事には、ピッツァなど手づかみで食べるものも多い。この研究者は食事前に手指衛生を徹底しろと警告している*19

家庭内感染をどこまで防げるかが今後の鍵

食事を通じての飛沫感染の典型例は、子どもの食べ残しを食べて感染した親のケースである。第6波から、家庭内感染が増えた。2021年までは、親が接待などで感染し、それをこどもうつしていたのだが、オミクロンからは違う。子どもが真っ先に感染し、それを親がもらっている。

これはもう、どうにも対処の方法がない。だから第7波も第8波も、こんなに感染が爆発しているとみるべきだ。年齢別の感染者数をみると、20歳未満と30代40代の親の世代が突出している。死者数の多さ、施設でのクラスターの多さというイメージからいうと、高齢者が感染者のトップだと思ってしまうが、じつはそうではない。感染者増を抑えるには、家庭内感染を防ぐことである。

60代が5.99%、70代以上が8.11%であるのに対して、20歳未満と30代・40代あわせて59.66%にもなる。

ものすごく辛いのは、ここが新型コロナウイルスの最大の問題点なのだが、発症前からウイルスを吐出するという点だ。つまり、目の前の元気な我が子がじつは感染しているかもしれない、という前提で行動しなくてはいけない。そんなの無理に決まっている。

外でマスクをしているのだ。家庭では外したい。学校では黙食しているのだ。家では楽しく話しながら食べたい。でも、ここにウイルスがつけこんでくる。この感染リスクをどうしのぐかが、とても重要だ。

第8波を前に、国が感染者対応の指針を変えたことも大きい。第7波で発熱外来がパンクしたことを受けて、65歳以上の高齢者/基礎疾患がある人/妊婦/子ども以外は、自分で検査をし、陽性者登録センターに登録し、自宅で療養することが基本となった。

発熱外来に患者が殺到することを防ぐという意味では正しい対応である。しかし、家族にかかる負担はとてつもない。現場の医師たちは、口々にオミクロン変異体の感染力の強さを指摘している。ともかく感染力は、インフルエンザの比ではないという。医療関係者が防護服とマスクで身をかためても、うっかりすると感染してしまう感染症だ。その患者を自宅療養させるのである。素人しかいない家庭で、どうやって家族への感染を防げというのか。

ほかに選択肢がないことは重々承知である。感染が爆発すれば、療養施設も病院も満室になる。こうした施設は重症化リスクの高い人や、命を守らなくてはならない妊婦・子どもに優先利用させるのは社会的トリアージの一種であり、判断としては正しい。

しかし、このままでは、家庭内感染待ったなしである。ある意味、高齢者でもなく、基礎疾患もない人が真っ先に国に見捨てられた状態だ。これはもう、自衛するほかない。ここまでを前編とし、引き続きの中編では、私なりに考えた自衛方法をまとめていくことにする。


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注記

*17 たとえば、2023年1月7日、元カメルーン代表MFで、パリ・サンジェルマンでも活躍したモデスト・エムバミ氏が心臓発作のために亡くなっている(享年40歳)。新型コロナ陽性からの隔離解除直後のことだった。

*18 SARS-CoV-2 infection of the oral cavity and saliva
https://www.nature.com/articles/s41591-021-01296-8

ノーマスクの人が食事中にしゃべると、どのように飛沫が飛ぶかを実証した動画も参考になる。

*19 感染力高い変異種の病原性「弱いはずがない訳」(東洋経済ONLINE)
https://toyokeizai.net/articles/-/407734

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[前編]知っておくべき新型コロナウイルス感染症のリアル
[中編]知っておくべきウイルスとの戦い方
[後編]微生物との戦争――ヒトと動物、環境と微生物の葛藤