「新型コロナはオミクロンで弱毒化した」
「致死率もインフル以下。特別扱いするべき病気ではない」
「感染して免疫をつけたほうがいい」
「欧米はもう脱コロナ。マスクもせず、ただの風邪扱いだ」
テレビをみるとタレントがこのように新型コロナ対策を語っている。果たして本当のことだろうか。
最新の医学論文を踏まえ、COVID-19のリアルに迫る。

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上気道炎ではなく、全身疾患

それにしても、なぜこのように症状が続くのか。最近の研究成果は、驚くべき二つの事実を明らかにしている。第一は、上気道にとどまらず、新型コロナウイルスは全身の臓器に感染をひろげていたことだ。

新型コロナによって死亡した人の調査により、SARS-CoV-2のRNAは体内の84の異なる場所で検出されたという。感染の痕跡があったということだ。最も多くのウイルスRNAが検出されたのは気道と肺の組織だったが、脳、腸、心臓、腎臓、眼球、副腎、リンパ節などにもひろがっていたという。
cf.
●Large COVID autopsy study finds SARS-CoV-2 all over the human body
https://newatlas.com/science/covid-autopsy-study-virus-brain-body/
●COVID-19-associated monocytic encephalitis (CAME): histological and proteomic evidence from autopsy
https://www.nature.com/articles/s41392-022-01291-6
●COVID Autopsies Reveal The Virus Spreading Through The ‘Entire Body’
https://www.sciencealert.com/covid-autopsies-reveal-the-virus-spreading-through-the-entire-body

第二は、新型コロナウイルスが老化をひき起こしていたことだ。正確には、ウイルスにやられた細胞が周囲の細胞を老化させている。そして老化した細胞がその後も炎症を起こす物質を出し続けるのだという。
cf.
「新型コロナウイルスの感染は細胞老化を引き起こすことで炎症反応が持続することを発見」(大阪大学微生物病研究所)
https://biken.yawaraka-science.com/clum/detail/13

この二つの知見をあわせると、もはや「上気道炎」(風邪の正式名称)とみなすのは無理がありすぎる。新型コロナウイルスは上気道だけでなく全身の臓器に感染し、周囲の細胞を老化させ、炎症を起こす物質を出し続ける上、体内の臓器に持続感染もするということだ。

心臓・血管の病気になりやすくなる

感染ダメージによる別の病気のリスクも目立つ。言葉を整理しておこう。「後遺症」とは、病状が長期間、残ってしまうことである。咳がなかなかおさまらないなどだ。Long COVIDは嗅覚が半年以上、元に戻らないなど、長く症状が残存する新型コロナの後遺症のことである。

これとは別に「合併症」がある。その病気にかかることで発症する別の病気のことである。新型コロナの場合、Long COVID以上に、合併症が深刻かもしれない。

イギリスでワクチン接種が始まる前(2020年12月8日以前)の感染者と非感染者を比較した研究があり、感染者の心血管系の病気リスク(脳梗塞や心筋梗塞など)が高いことが明らかにされていた*7。合併症リスクが高いということだ。

日本でも研究が出ている。これは名古屋工業大学の平田晃正教授らが約125万人分のレセプト(診療報酬明細書)記録を分析し、心臓や血管の病気などで医療機関を受診する人の割合を新型コロナ感染者と非感染者で比較したもの*8。日本人を対象にした最新の分析である。

結果を表にまとめておく。衝撃の数字であるが、これはイギリスでの研究結果と大きく相違ないから、間違いないだろう。新型コロナウイルス感染によって血栓ができやすくなり、心臓・血管系の病気になるリスクがあがる(この研究の対象となったのは、これらの病気での受診歴が過去1年間なく、年間医療費が20万円以下の、重い持病がないと推定できる人)。

 第4波第5波
心筋梗塞リスク10.7倍24.6倍
心不全リスク10.4倍6.6倍
静脈血栓症53.1倍43.4倍
糖尿病8.4倍6.3倍

深刻なのは、各種研究をみるかぎり、急性期の症状が軽くても、こうした合併症のリスクと無縁ではないということである。「新型コロナにかかったが、軽症で済んだ」と喜んでいたら、普通なら10年先に経験したであろう静脈血栓症や心筋梗塞、心不全、表にはないが脳梗塞などを、半年後や1年後に経験することになる可能性が高いということだ。

新型コロナウイルスは脳や臓器を老化させることがわかっている*9。新型コロナウイルスが心臓にDNAレベルで損傷を与えていることも明らかになった。事実、感染者の多い欧米では、若い世代が新型コロナ感染後に心臓発作によって亡くなる事例が多数報道されている。痛ましい。

Smidt Heart Instituteが2012年4月1日から2022年3月31日までの急性心筋梗塞死者1,522,699名を分析している。パンデミック後、急性心筋梗塞の死者が増加。とくに若い世代に目立つ。25‐44歳で調べると、パンデミック後の心臓発作による死亡は29.9%もの増加だ。絶対数としては多くないものの、けっして若い世代も突然死と無縁というわけではない。かつ、新型コロナ感染で増えているのである。

このように新型コロナ感染によって心臓・血管系の病気のリスクがあがってしまったことが、今後の社会の負担になるだろうと分析されている*10
cf.
COVID-19 Surges Linked to Spike in Heart Attacks
https://www.cedars-sinai.org/newsroom/covid-19-surges-linked-to-spike-in-heart-attacks/

まさに「遅効性合併症」とでもいうべき現象が起きていることを受けて、エール大学アウトカム研究評価センターのハーラン・クルムホルツ所長は、
<一部の患者はずっと後に合併症を発症する可能性があり、「それはまたパンデミック自体よりも大きな犠牲を招くことになるかもしれない」>
と警告している。新型コロナウイルス感染症は「なおった」あとも、人々の生命と人生を脅かす。これを「もうただの風邪」とは到底言うことはできない。
cf.
「コロナ後遺症、パンデミック以上に警戒必要-呼吸器以外にもリスク」(ブルームバーグ)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-12-19/RMYKMHDWRGGH01

その上、感染で免疫不全を起こす

Long COVIDと呼ばれる長期にわたる後遺症の問題、感染によるダメージで起きる合併症の問題に続いて、もうひとつ深刻に気にすべきことがある。第三に目立つこと。それが、免疫不全である。

すでに多数の医学論文が出ており、新型コロナウイルスが人体の免疫をうまくすりぬけ、こっそりと感染を成立させるだけでなく、免疫を損傷することが明らかになっている*11。これはつまり、新型コロナに感染すると、いろんな病気にかかりやすくなるということだ。

そして実際、この冬、欧米は「新型コロナ/インフルエンザ/RSウイルス」のトリプルデミックに見舞われた。発熱患者を診るほうは大変である。このうちのいずれかだったり、あるいは新型コロナとインフルエンザの同時感染だったりする。

さらに、ここにきて目立つのが溶連菌感染症の増加である。イギリスでは、9/19から12/2までの間に33,836人の溶連菌感染症患者が報告され、少なくとも30人の子どもが死亡した(全年齢では122人が死亡*12)。国民の80%くらいは感染した、とくに児童は全員が平均して2回ずつ感染したといわれる国での出来事だ。

溶連菌感染症は猩紅熱(しょうこうねつ)とも言われ、基本的には生命を脅かすような感染症ではない。しかし、まれに劇症化することがあり、これを侵襲性A群溶血性レンサ球菌症(iGAS)という。致死率の高い怖い病気である。そしてイギリスでは、iGASが急増したのだ。

この増え方は、新型コロナ感染による免疫不全が間接原因となっていると思われる。免疫不全とは抵抗力の低下である。いつもなら免疫で撃退できていた溶連菌を、防ぎきれなくなり、重症化していると推定するのが妥当だろう。

アメリカでも増えている。とある医療関係者が「24歳の元気な青年が溶連菌感染症で入院。こんなの2020年以前には聞いたこともない」とツイートしていた*12。青年なのに入院が必要なほど溶連菌感染症が重篤化している。新型コロナ感染によって免疫不全が起きているとしか考えられない。

ただし、これには異論もある。第一は免疫負債(Immunity debt)説である。2020年からの新型コロナ対策で人的交流が減り(ロックダウン等)、徹底した手洗いやマスクを励行したせいで、インフルエンザやRSウイルス、溶連菌に接する機会が減ったため、感染しやすくなったという説だ。負債を返している状態だということだろう。

しかしこれは、意図的にロックダウンもマスクもしなかったスウェーデンのような国でも同様の現象が観察されることから、信用するに値しない説である。あるいは日本も反証になるだろう。感染者数面でも死者数面でも日本の成績はとてもいい。マスクも徹底している。Immunity debtが原因だとしたら、この冬、日本も新型コロナ/インフルエンザ/RSウイルスのトリプルデミックと溶連菌感染による死者増が観察されているはずである。

第二の異論は、ワクチン原因説である。反ワクチン派はなんでも利用する。新型コロナ感染ではなく、接種で免疫不全が起きているのだという。この説は、トリプルデミックも溶連菌感染も、ワクチンを接種していない子どもに感染者が多いことで否定される。

ついでに書いておくと、超過死亡をワクチンによるものと言う人もいる。接種回数グラフと超過死亡グラフが「相関している」というのだが、接種者数は減らない(常に増える数字である)のに、超過死亡が増えたり、減ったりしている時点で、おかしいと思わないのだろうか。「ワクチンが原因でいろんな病気で亡くなる人が出ている」というのであれば、増える一方のはずである*14


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注記

*7 Association of COVID-19 With Major Arterial and Venous Thrombotic Diseases: A Population-Wide Cohort Study of 48 Million Adults in England and Wales
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCULATIONAHA.122.060785

*8 COVID-19 AI・シミュレーションプロジェクトの成果のひとつ
https://www.covid19-ai.jp/ja-jp/presentation/2022_rq1_simulations_for_infection_situations/articles/article416/

*9 たとえば脳だけでも、10年分の老化が起こることが判明している。
「コロナ後遺症の「脳の霧」 シナプスの破壊が一因か」(ナショナルジオグラフィック)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD079ND0X01C22A2000000/

*10 心臓への影響はこの記事に詳しい。
Unlike flu, COVID-19 attacks DNA in the heart: new research
https://www.brisbanetimes.com.au/national/queensland/unlike-flu-covid-19-attacks-dna-in-the-heart-new-research-20220929-p5bm10.html

感染者の多い欧米では、若い人の心臓発作による死亡の報道が目立つ。たとえばこの記事。24歳の若さで他界。
Young woman, 24, who complained of chest pains after getting Covid in Bali passes away after family had hoped she was ‘slowly coming back’
https://www.dailymail.co.uk/news/article-11581429/Young-woman-24-complained-chest-pains-getting-Covid-Bali-passes-away.html

たとえばこの研究では、新型コロナ感染後の心臓合併症リスクの増大について警鐘が鳴らされている。
Myocarditis: A complication of COVID-19 and long-COVID-19 syndrome as a serious threat in modern cardiology
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8890406/

また、COVID-19のダッシュボードを早期から運用したジョンズホプキンス大学もこのような記事を出して、新型コロナ感染後は誰もが心臓合併症リスクを抱えると注意喚起をしている。
COVID and the Heart: It Spares No One
https://publichealth.jhu.edu/2022/covid-and-the-heart-it-spares-no-one

*11 ツイッターのこの投稿のスレッドに、関連論文がまとめられている。

*12 2022‐2023シーズンのイギリスにおける溶連菌感染症の状況は、こちらにまとまっている。
https://www.gov.uk/government/publications/group-a-streptococcal-infections-activity-during-the-2022-to-2023-season

*13 https://twitter.com/alexmeshkin/status/1609074286513487872

*14 「接種してほどなく亡くなるから、接種回数グラフと相関するのだ」という意見もあるが、そうであるならば、副反応疑い報告での死者数が現在の10倍以上にふくらんでいるはずである。
そもそもこのような意見を吐く方たちが、「超過死亡」という概念を正しく理解しているのか、かなり疑わしい。これはWHOが提唱したもので、インフルエンザのような全数把握の難しい病気の影響を、「予測値と実測値との差分」で評価する仕組みである。予測の方法論は複数あり、どれに依拠するかで超過死亡の数字も変わる。単純な前年同月比との差分などではない。詳しくは以下を参照。

「我が国における超過死亡の推定(2020年4月までのデータ分析)」
(国立感染症研究所感染症疫学センター)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc/493-guidelines/9748-excess-mortality-20jul.html

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