なんの因果か宣伝か

原因があって結果がある。因果関係の解明が科学の基本だ。社会科学は物理学をモデルとしながら、社会を相手に因果関係の解明に取り組む学問である。相手が人間または様々な大きさ・形態の集団になると、万有引力の法則のような、スカッとしたものにならないのは、当然のことである。

どちらが「因」なのかわからないことも

「80歳以上の疫学的調査では、喫煙者のほうが長生きをする」という。データはウソをつかないから、これは真実だろう。「おかしい。タバコで寿命がのびるはずがない」という議論をする人もいれば(データを疑う態度。これはこれで重要である)、「そうか、それくらいの年齢になると、喫煙するほうがいいんだ」という人もいる。

私は、「喫煙者なのに80歳まで生きているということは、そもそも壮健な人が選抜されているわけで、その結果は当然」という意見である。つまり、「80歳以上で喫煙しているから長寿命」なのではなくて、「喫煙しているのに80歳まで生きているから、壮健だ」という解釈だ。

社会学の論文で、「鉄道の線路がコミュニティを分断している」というのを読んだことがある。微妙だと思った。その昔、鉄道は嫌われ者だったという歴史があるからだ。山手線は、計画段階ではいまの山手通りを通るはずだった(たとえば中目黒のあたり)のに、住民の反対でいまの位置になったという。「陸蒸気(おかじょうき)がやってくると、作物がとれなくなる」というのが反対された理由である。

ということは、「互いに嫌悪しあっている集落の間を通った」ということが考えられるわけだ。押しつけあった結果、そこを通ったのだとすれば、「線路で分断された」のではなく、「分断されたところを線路が通っている」ことになる。

ミソもクソも一緒な調査に唖然

今日、たまたま目についたこの調査も解釈に苦しむ。

<無料通話アプリ「LINE(ライン)」を使う人は心の健康状態が比較的良く、ツイッターでつぶやく人は孤立感を感じやすい>

という調査結果なのだが、意味がわからない。LINEは電話と同じように、相手があってコミュニケーションするメディア、Twitterはまさにつぶやくメディアである。「孤立感を感じやすい」のではなく、「孤立しているからLINEではなくTwitterを使っている」のではないか。

いったい何を比較しているのかが不明だ。「LINEしか使わない人」と「Twiiterしか使わない人」を比べ、ユーザーに傾向があることを示すならまだわかる。しかし、それでも、「Twitterしか使わないから孤立感を感じる」のか、「孤立しているからTwitterを使う」のかは、さらに研究しないとわからない。

ミソもクソも一緒くたにアンケートをとって、安易な比較をし、結論を出すのは、お手軽すぎて涙が出る。小学生の自由研究なみだ。あるいは、LINEの宣伝かとさえ思う。

「上手に使う」か否かでも差

さらにつけ加えるなら、Twitterでも、孤立感をまったく感じていない人と、ものすごく孤立感を感じている人がいるはずだ。フォロワーが数10万人いて、一言つぶやくと、ものすごい数の反応がつく人の場合、孤立感を感じる暇もないはずである。そしてこんなの、電話だって同じだろう。電話をかける相手がいない人は、電話機の前で孤独を感じているはずだ。

SNSは使い方で極端な差が出る。「Facebookに登録したけれど、つまらない」という人には、かける言葉が見つからない。Facebookの構造からいって、つまらないのは、「あなたの友達がつまらないから」である。逆に表現したほうがいいか。「おもしろい友達がいないから」だ。

しかし、おもしろい友達が急にできるわけもない。ひとつのお勧めは、Facebookグループに参加することである。趣味や興味が同じコミュニティに属すると、急に関係がひろがり始める。こういう、物理的な限界をこえたネットワークのひろがりにSNSの醍醐味もあるのであって、登録しただけで何かが変わるわけではない。

「テレビゲームに熱中すると成績が落ちる」という調査結果が出たところで、ゲームに熱中することが成績低下の原因なのか、そもそも勉学に興味をなくして、成績が落ちること必至の子がゲームに熱中したのかは、それだけではわからない。

単純なアンケートをとって、単純な集計をして、安易な因果関係を想定して調査結果と称して発表するなんて、レベルが低すぎる。こんなのは調査とは言わないし、まして研究では断じて、ない。