「巻き添え」にさらされる日々

駐車場でアクセルとブレーキを踏み間違えたクルマに突っ込まれた夫婦が亡くなった。合掌。油断もスキもない日々である。「巻き添え」は、決して他人事ではない。

迂闊な友人の巻き添え:LINE問題の危険な本質

LINEが揺れている。サーバがどこにあるとか、ユーザーに示しているプライバシーポリシーとは違うとか、そういう話よりも、もっと深刻な問題がある。それは、「うかつな友人のせいで、自分の個人情報が漏洩する可能性がある」という現実だ。

この手のコミュニケーション系の新しいサービスには、たいてい、「ケータイのアドレスブックをアップロードして、友人を探す」という機能がある。これが曲者だ。友人の中に迂闊な人がいると、私の名前も電話番号もサーバにアップロードされてしまう。たまたまその人が几帳面な人だと最悪だ。メールアドレスも肩書も漏洩することになる。これでは、いくら自衛していても意味がない。「迂闊な人を友人にもたない」という選択肢しかないが、ケータイの場合は仕事にも使うので、現実には難しい。
(もちろん私は、あらゆるこの手のサービスで、アドレスブックのアップロードにはすべてNoを選択している。)

「暗号化されて安全に保存」とはいうものの、この機能を使うと、友人の個人情報をその友人に断りなく、サーバにアップロードすることになる。

迂闊な隣客の巻き添え

昨夜、行きつけの蕎麦店に入った。蕎麦屋で酒を楽しむ人はいわゆる通が多く、静かなことが多い。そもそも店は最初から時短である。比較的安全な飲食店だと思ってチョイスしたのだが、この日は運悪く、思わず座る席に迷うほど酔客が多くて驚いた(いったい何時から飲んでるんだ?)。

テーブルごとに密である。料理が肴として並んでおり、お酒を注ぎあっては、肴をつつき、ガハハと笑っている。もちろんマスクをしているわけもない。店員に目配せをしたら、それだけで窓をあけてくれた。わかっている店員がいてよかった。彼女がいなかったら、着席せずに店を出たと思う。

「あのうちの一人がキャリアなら、全員アウトだな」という状態。マスクなしによくしゃべっているから、互いにエアロゾルを相手に浴びせ、飛沫が料理に降り注ぐ。せめてしゃべるときはマスクをしろ。料理が出てきたらすぐに食べろ。これはゆるみすぎだ。酔客の巻き添えになるのは御免である。

いまから断言しておく。こんな有り様なのに緊急事態宣言を解除したら、感染者はまた右肩あがりになるだろう。

2021年3月19日。隣のテーブルがこの状態であったことを記録に残す。料理すべてに飛沫がとんでいる。

迂闊な消毒の巻き添え

昨年5月、外から覗くと板前がマスクをしていたので入った立ち食い寿司店。注文が終わると、マスクをした板前がさがり、マスクをしていない板前に代わった(ウソでしょ)。そして彼はいつも通り、「へい、お待ち!」と大声を出しながら寿司を出してくる。食べられたものじゃない。

さすがに最近は、みなさんマスクをしてくれている。でもそれだけでは、安心できない。観察していると、消毒作業がなっていないからである。多くはテーブルに次亜塩素酸水をスプレーし、さっと拭き取っているだけだ。これではそのほとんどが、たんにウイルスを塗りたくっているだけである。消毒作業にも清掃作業にもなっていない。

大きな問題点が三つある。第一は、液体をスプレーして拭いているということだ。これはいろんな意味で間違っている。後述するが、じつは乾拭きが正解だ。第二は、ほとんどの人が、往復運動で拭いているということである。エチケットブラシがとてもわかりやすいので試してもらいたいが、往復運動すると、ちっともきれいにならない。「往」で繊維にかきとったホコリとウイルスを、「復」でまた塗りたくってしまうからだ。繊維のポケットにせっかくウイルスを捕獲したのに、逆方向に動かすことで、また繊維の外に出してしまう。

そして第三に、多くのお店で次亜塩素酸水を使っている、ということである。次亜塩素酸水そのものは除菌力があることは事実であるが、ボトルに詰められて何日もたっているものは信頼できない。厚生労働省は、「出来たての次亜塩素酸水を、有効な濃度で、じゃぶじゃぶ使え」と指導している。すなわち、たいていの「消毒」作業は、ウイルス抑制力も除菌力もなくした、ただの水になっている次亜塩素酸水をテーブルにスプレーして、往復運動でウイルスを塗りたくっているだけなのだ。

そもそも、テーブルにスプレーする時点でアウトだ。空気圧で表面のウイルスを飛ばしてしまうからである。これも巻き添えにされる可能性があるから、店員が近くのテーブルの消毒をはじめたら、トイレに立つなどして、その場から逃げるのが正解だろう。

「水拭き」の不都合な真実

下の図は、『ウイルス・カビ毒から身を守る!』(松本忠男著、2020年5月20日、FUSOSHA MOOK 別冊SPA!、kindle版はこちら)からの引用である。乾拭きでかつ一方向にクロスを動かすと汚れを激減させるが、逆に水拭きでクロスを往復運動させると激増させている。

衝撃の結果である。乾拭きは汚れをクロスがかきとるが、水拭きにすると汚れを逆にテーブルにつけてしまう。まして往復運動すると、汚れをなすりつけることにしかならない。もちろん、汚れとウイルスは異なるわけだが、この結果はウイルスを対象にして実験しても、そう変わらないと思われる。というのも、ウイルス単独でテーブルに付着していることはあまりなく、飛沫(唾液)やホコリにひそむ形で落ちているからである。

乾拭きの一方向拭き取りこそが、繊維に汚れやウイルスをとじこめ、テーブルの感染リスクを小さくする最適解である。そうであれば、より確実な結果を得たいなら、1)まずクロスを一方向に動かしながらの乾拭きをし、2)そのあと除菌剤で拭くのがいいだろう(次回、まとめて記述する)。

テーブル・トレイの消毒が重要

なぜテーブル消毒にこだわるのかといえば、感染者が吐出するウイルスはそのほとんどが唾液にくるまれた飛沫(ドロップレット)の状態であり、下に落ちるからである。ウイルス自体は軽いから、ホコリ等に乗って宙を舞うものもある(エアロゾル)が、通常の会話で吐出されるエアロゾルはそう多くはない。大半が飛沫であり、吐出された次の瞬間には下に落ちている。

ということは、テーブルがウイルスまみれ、という可能性があるわけだ。前客が不顕性の感染者だったかもしれないし、発病2日前の人だったかもしれない。そして盛んに会話していると、そのほとんどがテーブルに落ちていることになる。

ただ、多くの店で、料理がトレイにのって供されるのは救いである。テーブルがウイルスまみれであったとしても、トレイでブロックできる。料理が出てくるまでの間、テーブルに触れたり、肘をついたりしないようにすれば、かなり安全なはずだ。

ただしこの場合、今度はトレイの管理が気になる。観察していると、下げたトレイの上面を濡れ布巾の往復運動で、ささっと拭いただけで重ねているところが多い。アウトである。トレイの下面にテーブルのウイルスが付着し、上面に飛沫が付着している。

「巻き添え」から話がそれつつあるので、ここで打ち止める。この続きは、「私家版飲食店の清掃マニュアル」としてまとめることにする。