[COVID-19]土足×飲食主因説

今年に入ってから、ずっとSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)に関するさまざまな情報や研究論文に触れてきた。世界中の関係者を悩ませているのが、「なぜ日本はゆるいことしかやっていないのに、感染者数も死者数も少ないのか」という謎である。

ここまでの情報を整理して、私なりに、ひとつの仮説にたどりついたので、書いておこうと思う。「土足×飲食主因説」である。なお、これはあくまで仮説であるし、私は感染症やウイルスの専門家ではないので、鵜呑みにすることはやめていただきたい。これまで発表されてきた科学的知見を、私なりに整理しただけである。

もちろん、日本の数字について、「オリンピックのために隠蔽した」という説もあることは承知している。私はその説はとらない。もしもそうなら、とくに東京では、いまごろ火葬しきれないほどの死者が出ているはずだからである。

飲食店と満員電車の相違点

諸外国に比べると、圧倒的に日本が健闘していることは事実だと考える。完全なロックダウンをしているわけでもないから、「理解できない」というのが、諸外国からの視線だろう(だから隠蔽説が根強く囁かれるわけだ)。

もちろん、説明する材料はあった。人的接触において「ハグしない/キスしない/握手あまりしない」という日本人のマナーや、毎日のようにお風呂に入る習慣である(軟水資源が豊富というのは、本当にありがたい)。さらには、BCG仮説もある(が、検証はされていないと承知している)。

一方で、夜のお店を含む飲食店でクラスターが多数出ていることの説明に、いまひとつ納得できなかったことも事実である。それが「三密」だからというのだが、本当にそうだろうか。これまでのところ、満員電車がクラスターになったという研究報告がないから、私は三密説に疑問をもっている。

これほど飲食店クラスターが報告されているのだ。緊急事態宣言を出した頃はすでに、複数名のウイルスキャリアが満員電車の中にいたと考えられる。山手線だと、満員の場合、1両につき250人くらい乗っている。「三密」が原因なら、毎日毎日、1,000人単位のメガクラスターが発生していたはずなのである(満員電車内で話す人はまずいないが、マスクなく、咳やクシャミをする人はいた)。

掃除でウイルスを拡散する説

飲食店と満員電車の相違は、ウイルスの経口感染の機会があるかないかだ。満員電車の中で飲み食いをする人はいない。このことから、私は、新型コロナウイルスは、圧倒的に経口感染をしているとみる。

エアロゾル感染の可能性が指摘され、だからマスクが売れているわけだが、それよりも、手指についたウイルスを口に運んだり、ウイルスのついた食器で飲食をすることによって、ひろまっていると考える。ウイルスを吸い込むことで感染するリスクより、口にすることで感染するリスクのほうが高いという意見である。でなければ、満員電車の例を説明できない。

そして、飲食店でクラスターが出てしまうのは、三密というよりも、口にするグラスやフォーク、箸などにウイルスが付着しているからではないか。考えられる原因は、多くの飲食店は土足のまま、ということだ。その上、清潔を重視するまじめな日本人が、毎日、ていねいに掃除機をかけたり、掃き掃除をしたりする。ここに原因があるのではないだろうか。

SARSが問題となったときに、掃除機でウイルスを拡散してしまった事例が報告されていた。SARS-CoV-2も掃除機で拡散されてしまうと仮定すると、このように整理できる。合理性があるように思うがどうだろう。

  • 新型コロナウイルスは、靴底について運ばれている(論文がある)
  • 当然、多数の来客がある飲食店の床には、どんどんウイルスが集まる
  • その床を掃除機等で掃除することで、部屋中にウイルスがふりまかれ、食器もテーブルもイスもまな板も包丁も汚染されてしまう
  • それを経口摂取することで、クラスターとなる

掃除好きのお店や土足生活の家庭ほど、じつはウイルスで汚染されるのではないか、という皮肉な仮説である。これなら、欧米で感染爆発したのに、日本ではなだらかなまま、という相違も説明できる。前者は土足が前提であり、家の中も土足だ。後者は、玄関で靴を脱ぐのがふつうで、だから爆発を免れているという想像である。

靴を消毒する

この想像の通りであれば、飲食店やオフィスの床は、次亜塩素酸消毒液をふりまいて拭き掃除、というのが正しい。掃除というよりは、消毒だ。しかし、オフィスなどカーペット敷きのところは、そうもいかないだろう。

発想を変えて、「靴を消毒してから入室・入店」とする手があるかもしれない。プールに入るときに、腰まで消毒液につかったのと話は同じである。次亜塩素酸消毒液の水たまりを踏んでもらう。畜産農場では、踏み込み消毒槽というのがあり、靴を消毒するのは当たり前になっている(消毒液の作り方はこちらを参照)。

この方式に効果があることが判明すれば、経済活動を低リスクで再開できる可能性が高まると思う。頻繁な手洗い/咳エチケットとしてのマスク/靴の消毒、の3点セットだ。

ともかく、専門家による研究を待ちたい。たとえば、飲食店クラスターも、土足のお店か、靴を脱いであがるお座敷形式のお店かを分けて集計するだけで、見えてくるものがあるのではないか。

土足を脱ぐ飲食店のクラスター発生事例を確認したい

三密を避けるのは基本

もちろん三密も原因にはなるだろう。たとえば最初のクラスターとなった屋形船は、土足ではない。靴を脱いでのお座敷形式だ。寒い時期だし、雨も降っており、窓を閉めきっていたという。

そこにお酒が入る宴会であるから、声は大きくなるだろうし、大笑いするし、その上で飲食をする。ひとつのコップで複数名がビールを飲むこともある。ひとりでもウイルスキャリアがいれば、飛沫から感染がひろがるのは必然である。

三密を避けるのは、基本中の基本であると私も思う。その上で、土足が当たり前の空間では、入室・入店前に靴を消毒することを社会の習慣にすると、感染防止に役立つかもしれない、という仮説である。

検証、あるいは傍証となる情報を待ちたい。これが確認できれば、飲食店を再開しやすくなるし、コンサートの感染リスクもぐっと小さくできるかもしれない。靴を消毒し、飲食を禁止し、指をなめる可能性のあるチラシやプログラムの配布はやめ、全員がマスクをする。野球場なら、床を毎日消毒するだけで、感染リスクを気にならないほど小さくできる可能性がある。あ、もちろん、風船はダメですよ。風船は。

結果として、この記事がデマにならないことを願う。

参考資料

靴底でウイルスが移動しているという研究
The Coronavirus Can Travel on the Soles of Shoes, According to the CDC

パリの雑用水道から微量の新型ウイルス検出(AFP)という話。床にウイルスがいる傍証

緊急寄稿(1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のウイルス学的特徴と感染様式の考察(白木公康)
<コロナウイルスは,細胞中で産生されるウイルス量がインフルエンザウイルスの約100分の1であることから,インフルエンザほど感染能力は強くないと推定される>とある。なお、白木氏はアビガンの開発者。

補記

  • これが当たっていれば、学校はかなり安全だ、という結論になる(大学を除く)。上履きに履き替えるからだ。音楽や体育の授業の仕方を工夫し、教師はマスク必須ということで、いけるかもしれない。
  • 踏み込み消毒槽の設置と、床の消毒の励行、そして食材のみならず、食器類も閉鎖空間に保管することで、飲食店のクラスター化リスクを減らせることが確定すれば、飲食店の営業再開もしやすくなる。
  • 気になるのは合唱団での感染事例だ。歌うことによるエアロゾル感染なのか、あるいは親しき濃厚接触による感染なのかでかなり違う。白木公康氏や京都大学ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸氏によれば、新型コロナウイルスの感染者が吐き出すウイルス量は、インフルエンザウイルスのそれのざっと1/100だ。
    このことから、空気を媒介にしての感染率は低いことが見込める。私はむしろ、楽譜や衣服に付着したウイルスを、手指を介して経口感染しているのではないかと疑っている。そしてこれが当たっていれば、コンサートの再開もしやすい。研究の進展を待ちたい。