「新型コロナ=交通事故禍論」の続きである。前回は、新型コロナウイルスが人を欺くウイルスであり、軽症で済んだとしても安心できないこと。その実態は身体中に炎症を起こす老化ウイルスであり、高齢者の命を奪うだけでなく、Long COVIDで現役世代の人生を奪う病気であること、身体の弱い人が犠牲になるわけではなく、交通事故のように健康な人も突然、被害を受けることを指摘した。
スタンフォード大学がLong COVID既往歴のある成人526名(20‐65歳)を対象に行った研究*1(プレプリント)によれば、
- 71.9%が中等度から重度の自律神経機能障害を示唆
- 症状の持続期間の中央値は36か月(3年!)
- 37.5%はLong COVIDのために仕事ができなくなったり、学校を中退せざるを得なくなったりしている
- 40.5%は感染後に新たに体位性頻脈症候群(Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome. POTS)と診断された
とある。Long COVID率を感染者の20%と見積もると、仕事ができなくなった37.5%は感染者全体の7.5%(0.20×0.375)となるから、感染によって人生を奪われる率はあまりにも高いと言わざるを得ない。
減衰振動か増幅振動か、それが問題だ
感染者数の増減は、波のような動きになることが経験則として知られている。その動きをつくるのは主として次のふたつの要素だ。
- 季節性による環境の変化
- 新しい変異体の登場
新型コロナの場合、1は「夏は冷房、冬は暖房」で換気が悪くなることが大きい。その証拠に日本の波は、夏は沖縄から始まって北上し、冬は北海道から始まって南下する。2の新しい変異体については、もう説明するまでもないだろう。インフルエンザも同じだ。ワクチンを接種していても、想定していない変異体には感染する。
波はひとしきり、感染しやすい層にひろがることで高くなり、この集団に免疫がつくことで収束していく。これを、木を焼き尽くすと鎮火する山火事にたとえる人もいる。数か月でまた木々が生い茂り、次の変異体でまた火事が起きるという繰り返しだ。私は卯建(うだつ)の街なみを思いだす。火はそこで止まる。感染対策をしている集団までは波及しない。
さて、この増減の波で気になるのは、減衰振動なのか、あるいは逆の増幅振動なのかである。麻疹やおたふく風邪なら明らかに減衰振動となる。一度感染した人は免疫がつき、その後何10年もの間、感染することはないからだ。山火事のあと、ずっと木が育たない状態である。これなら流行はみるみる収束する。ワクチンで集団免疫をつけていれば、そもそも波が起きることもない。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はどうか。インフルエンザ同様、何度も感染する病気である。減衰振動する要素はどこにもない。それどころか、観察する限り、感染した人はさらに感染を広げる行動をとることが多いため*2、波のたびに感染者は増える傾向にある。
新型コロナは増幅振動をする。前回記事で私は「むしろこれからが本番だ」と書いたのは、これが理由である。このままノーガードを続けると、ますます複数回感染者が増え、Long COVID患者が増え、社会にダメージが蓄積していく。
感染を繰り返すと、病状は深刻なものとなりやすい
「大リーグ中継をみても、サッカー中継をみても、もう誰もマスクなんかしていない。欧米ではコロナは終わっている」という意見が目立つ*3。本当に終わっているなら、どんなにいいだろう。
冒頭で紹介したように、Long COVIDがひどいと、仕事も勉学も続けられなくなる。つまり、人生を奪われる。懸念はそうなってしまう率で、前述の「感染者の7.5%」というのは驚愕の数字だ。予言しておくが、これは明日の日本の姿である。感染の波に襲われるたびに、全校生徒200人の学校で15人前後が、社員1000人のうち75人前後が病気のために通学・通勤できなくなる*4。しかも現時点で治療法が確立されていない。
問題はそれだけではない。「感染先進国」(日本よりのべ感染者数のはるかに多い国々。たとえば英米)では、2024年秋冬の波で入院者数も致死率もあがってしまっている。これを受けて、イギリス政府は「ワクチンの防護効果はうすれるし、ウイルスも変異する。過去にワクチンをうった人も冬に備えてワクチンをうとう」と追加接種をうながすキャンペーンを実施しているほどだ*5。到底「終わっている」と言える状態ではない。
欧米から聞こえてくる入院率・致死率の増加*6は、新しい変異体が高病原性だという解釈をする人が多いが、それ以外にも次の三つの要因がある。私は変異体の病原性よりは、こちらを疑うべきだと考えている。
- 最後のワクチン接種から1年以上あいている人が多いこと
- 複数回感染者が増えたこと
- マスク等感染対策をしないためウイルス曝露量が多いこと
日本の例を出すと、20代‐40代の約40%が、2021年にワクチンを接種したきりとなっている。もう3年が経過しているのだ。ワクチンの効果はほぼなくなっている*7。事実、ICUで新型コロナ重症患者をみている医師たちは、口を揃えて「圧倒的に未接種者もしくは2回接種で終わっている人が多い」と言っている。
丸裸で銃弾の雨をかいくぐる日常
つまり、2020‐2022年に感染した人たちと、すっかり感染対策が緩んだ2024年以降に感染する人たちは、感染時の環境が異なっている。前者は
- 周囲も全員マスクをしており、空間中を浮遊するウイルス量は少なく、感染したとしてもウイルス曝露量が低く抑えられていた
- ワクチン接種から日数がたっておらず、ワクチン効果がまだ効いていた*8
という条件での感染である。この時期に感染した人の「軽かったよ」という一言を信用するわけにはいかない。いい条件で感染しているからだ。
さきほどの「重篤なLong COVIDを発症する率が感染者全体の7.5%」という感染先進国の数字を紹介しても、日本人の多くは「そんな人は周囲にいない」と言下に否定する。これはこれで正しい。しかしこれは、2020年はStay homeのシェルター的な生活、2021‐2022年はワクチンとマスクの防護下での生活で、互いに守りあったからである。2021年夏にうった新型コロナワクチンで免疫が準備できていて、ウイルス濃度がうすいというWの好条件での感染だった。
対して、いま感染する人は、上の2条件とはがらりと変わっている。
- 誰もマスクをせず、検査もせずにノーマスクで咳をしているので、空間中に大量のウイルスが浮遊しており、感染する場合は大量のウイルスに曝露している
- ワクチン接種から1年どころか、2‐3年も間があいている人が多く、すでにワクチンの防護効果には期待できない
という状態である。免疫が準備できておらず、ウイルス濃度が濃いというWの悪条件での感染になる。
検査もせずに「ただの風邪」と決めつけ、あるいは「5日目」*9に治ったと思い込んで電車に乗る。そしてノーマスクで咳をする。2021年にワクチンをうったきりの人がノーマスクでここに飛び込むのは、防弾チョッキもヘルメットもなしに、銃弾の雨がふる最前線に出るようなものだ。このままでは、日本も7.5%という数字に近づいていく未来しかない。
軽く感染する/重く感染する
「インフルエンザより軽かった」とすぐに溌剌と動く人もいれば、人工呼吸器管理となったり、死亡したり、Long COVIDに悩んだりする人がいる。気になるのが、漠然と「身体の弱い人が重くなったり、亡くなったりしているのだろう。日頃から健康な私には関係ない」と思い込んでいる人が多いことである。
これは正常性バイアスの一種だ。基礎疾患のある人が重くなりやすいのは事実だが、だからといって「基礎疾患のない人は平気」であるとは言えない。「体力が落ちていると病気になりやすい」という事実は、体力が十分だと病気にならないことを保証しない。新型コロナウイルスはとくにそうで、水際での免疫の働きを無効化する能力をもつウイルスだから*10、規則正しい生活とバランスのとれた食事だけで対抗するのは無理だ。
じつは、高齢者を除いて*11、重篤化しやすい人(重い肺炎を意味する「重症化」と区別するために、以後は「重篤化」と書く)がどんな人であるか、いまなお詳細はわかっていない。同じように感染しても、本当に軽症でその後の体調に問題のない人もいれば、若くても人工呼吸器を必要とする人もいるし、Long COVIDに悩む人もいる。Long COVIDも症状はまちまちで、重い人も軽い人もいる。そうなる人も症状も、あまりにもバラバラで共通項が見当たらない*12。
ただ、現場では「宴会クラスターと会議室クラスターで、重篤度が違う」という現象が観察されている。前者は閉鎖空間でのノーマスクで飲食もするから、大量のウイルスに曝露して感染している。後者は(当時は)全員がマスクをしており、静かに話し、そして飲食はほとんどしない。
つまり、「感染する/しない」の2値ではなく、実際には「軽く感染する/重く感染する」という違いがあり、それは感染時のウイルス曝露量の影響が大きいということだ。これは、動物実験で確認されている(感染させての実験で、重篤度をコントロールするには、ウイルス曝露量を変える)。入院時のウイルス量と重篤度が相関していることを確認した研究もあるし、それがLong COVIDの発症と相関しているという研究もある*13。
ウイルスは10時間ごとに1,000倍に増殖
なぜ感染時のウイルス曝露量が多いと、症状が重くなりがちで、Long COVIDのリスクも高くなるのだろうか。注目したいのはウイルスの増え方だ。
新型コロナウイルスの場合、細胞に侵入したウイルスは10時間で1,000倍に増殖すると言われている。1個が1,000個に増えて次の細胞に感染し、そこでまたそれぞれが1,000個になる。1,000の階乗だ。ネズミ算どころではない増え方をする。
ウイルス曝露量が多いということは、初期感染細胞数が多いということだ。それが100個の場合と2,000個の場合では、当然だが体内の増殖ウイルス量が20倍違う。「たった20倍」と思うだろうが、元の数が膨大なので、気が遠くなるほどの差異になる。100個のウイルスの侵入を許し1,000倍増殖を3度繰り返すと、1兆個のウイルス。その20倍なら20兆個のウイルスを体内に抱え込む。1個が20個になっても大勢に影響はないが、1兆個が20兆個になると、19兆個もの差になる。
さて、新型コロナウイルスが問題なのは、脳や血管内皮などさまざまな臓器に感染しダメージを与えること、免疫システムにダメージを与えること、ウイルスそのものがカケラになっても炎症を起こすこと、そしてウイルスを構成するスパイクタンパク質(Sタンパク質)が炎症性血栓をつくるもととなったり、ヌクレオカプシドタンパク質(Nタンパク質)が宿主細胞の核に移動し、遺伝子の働きを乱し、宿主細胞の機能に悪影響を与えたりすることだ*14。
体内で増殖するウイルスが多ければ多いほど、被害も大きくなるのは当然の結果だろう。100個で抑えた人の免疫が対峙するのは1兆個のウイルスだが、2,000個の人のそれは20兆個のウイルスだ。被害を受ける臓器が多くなり、炎症性血栓が増えて血流も阻害され*15、ダメージを受ける細胞が増える。
あまり話題になっていないが、新型コロナウイルスのエンベロープタンパク質(Eタンパク質)にも炎症促進作用があり、Long COVIDにおける神経障害性疼痛の原因のひとつだとする研究もある*16。体内で増殖するウイルスが多ければ多いほど、疼痛が起きる可能性が高くなるということだ。
「ワクチンをうっても重症化する」のはなぜか
さきほど1個が10時間で1,000倍、そして1,000個の細胞にひろがって、そこでまた1,000倍に増えると書いた。これは厳密には正しくない。その途中から免疫が対抗するからだ。そこで増殖に歯止めがかかる。
ヒトの免疫システムは巡回ガードマン的な役割をする生得免疫(innate immunity)と、そのガードを突破されたときに連絡を受けて駆けつける適応免疫(adaptive immunity)の組み合わせである*17。適応免疫は国際救助隊の「サンダーバード2号」*18に似ている。災害内容に応じた強力なツール(抗体)を搭載して現場に駆けつけ、救助活動にあたる。
インフルエンザ感染で誰もが経験しているだろう。「辛い。もうやめてくれ」と言いたくなるようなひどい症状が数日続いたあと、急速によくなっていく。サンダーバード2号が救助活動を始めたのである。適応免疫が体内のインフルエンザウイルスをやっつけだしたということだ。
問題は、適応免疫はラスボスで、最後の最後に駆けつけるという点である。インフルエンザの経験でわかるように、適応免疫は起動に数日かかる。そしてこの「数日間」が問題なのだ。この間にウイルスが大量に増殖していると、適応免疫でも対抗しきれなくなるからである。
「ワクチンを接種したのに感染しているし、重症化もしているから、意味ない」
という意見がたまにあるが、それはサンダーバード2号の処理能力を上回るほどのウイルスに襲われたからである。多勢に無勢状態だ。ウルトラマンもそうだが、サンダーバードという物語は大きな事故が同時多発すると成り立たない。
洪水にたとえてもいいだろう。土嚢(抗体)を積めば、水はあふれにくくなる。大雨が続いても土嚢が防いでいる限りは問題ない。これがワクチンの効果。しかし、降りそそいだウイルスがあまりにも増えて越水したとたん、土嚢の意味はまるでなくなる。洪水が起きてしまえば、結果は同じだからである。
ワクチンの役割と限界
ワクチンの役割は、免疫に準備させることである。サンダーバードでは、ブレインズという天才科学者がジェットモグラなど様々な救助ツールを開発しているわけだが、彼に「こんな災害があるよ」と軽く実演して見せるのがワクチンの目的である。それをみて、免疫は必要な救助ツール(抗体)をつくるわけだ。
mRNA新型コロナワクチンの役割は二つある。第一は、「こいつは悪いやつだ」と免疫に教えることだ*18。犯人の人相書を配るのと同じである。第二は、そいつに効く救助ツールである抗S抗体を開発させ、在庫させることである。
その結果、ワクチン接種者は新型コロナウイルスが侵入してきた場合に、適応免疫が迅速に対応できるようになる。人相書から、発見とともに「ヤバイやつが来たぞ」と即座にサンダーバードが呼ばれ、2号は大量の抗S抗体を運んでウイルスを叩く。このように、侵入検知から適応免疫起動までの時間が短くなることが、とても重要なのである。
なにしろウイルスは侵入後、10時間ごとに1,000倍ペースで増殖をする。10時間後には1個のウイルスが1,000個に、30時間後には1兆個に、40時間後には1000兆個に増えている。適応免疫の起動が感染の10時間後なのか、40時間後なのかで、被害の大きさがまるで異なるということだ。
ウイルス曝露量が少なく、適応免疫の起動が早ければ、発症しない可能性も高い。反対にウイルス曝露量が多く、適応免疫の起動が遅ければ、重篤化したり、ひどいときは死亡したりする可能性が高くなるし、重いLong COVIDを発症することもあるだろう。
ワクチンのブースター接種が重要なのは、救助ツールである抗S抗体が日数とともに減少していくからである。だいたい半年‐1年で在庫切れとなる。ブレインズは抗S抗体のつくり方を覚えているので、侵入を検知すると慌てて抗体をつくるのだが(これが免疫記憶)、その間にウイルスの増殖を許してしまう。これが、最終接種から日数が経過していると、ワクチンの効果がなくなると言われている理由だ。水害に備えての土嚢が日々、減っていくと理解してもいい。
七転八倒が七転び八起きか。まさに岐路
前記事で新型コロナウイルス感染症は全身性の感染症であり、脳や血管内皮など全身にダメージを与える老化ウイルスであることを説明した。発熱のスイッチを切るなど、免疫の反応を抑え込むから*20、急性期の症状が軽くても安心できない。細胞が出すSOS信号も新型コロナウイルスは切ってしまう。サンダーバード5号が無効化されるようなものだ。
あまりにも厄介だが、対抗策が二つだけある。第一は、感染時のウイルス曝露量を少なくすることだ。最も有効なのはマスクである(ウイルスは小さいからマスクの目を素通りするというのはデマだ。「科学的事実に基づくマスクのFAQ」参照)。「マスクをしていても感染するから意味ない」というのもナンセンスだ。マスクには確実に初期感染細胞数を減らす効果がある。免疫が対峙する相手が1兆個か20兆個かで、結果は異なる(企業や学校では、空気清浄機や換気で空間中のウイルス量を減らすということでもいい)。
第二は、ワクチンの更新(ブースター接種)である。抗S抗体は日数の経過とともに減っていく。それを定期的(半年‐1年に一度)に更新し、在庫を補充しておくことだ。本当に早期にウイルスを退治することができれば、発症もせずに終わることも期待できるし、多少突破されたところで、身体中に感染がひろがることも、多数の炎症性血栓がつくられることも防げるだろう。
感染を7回繰り返したとして、ノーガードなら七転八倒するのみである。これまでの統計では、Long COVIDを発症する率も極めて高い。心疾患系の病気で突然死するリスクもはねあがる*21。マスクで初期感染細胞数を減らし、ワクチンの更新で迅速に適応免疫が機能するようにしてこそ、七転び八起きにできるというもの。もうすっかり世の中は「マスクなんか時代遅れ」「ワクチンも十分。こんなにうっているのは日本だけ(デマ)」という雰囲気になっているが、これは七転八倒コースまっしぐらだ。
「危ない場所は徐行」だけでいいのだ
「マスクとワクチンを」と書いただけで、猛然と反発を受けることもある。2020年のあの苦しい自粛生活なんかまっぴらだ、という反応なのだが、なにもあのような対応をせよ、と言っているわけではない。
2020年のあれは緊急避難であって、感染対策ではないのだ(「PrecautionとDefensive formation」参照)。いま必要なのは、初期感染細胞数を減らすという意味においてのマスクである。不要不急なら出歩くな、なんでもかんでも自粛せよ、という話ではない。
私は、電車などで全員がマスクをしていた2022年までの日本は、交通ルールを全員がしっかり守っていた社会だと思っている。ただそれだけで事故は激減する。いま必要とされるマスクをたとえて言うと、危険な場所、事故の多い場所では、徐行しようというだけだ。ウイルス濃度の高い場面でマスクをするだけでいい。
換気も悪く、喫煙すると全員が迷惑をするような場所、ということである(新型コロナウイルスはタバコの煙のように空間に広がる)。ワクチンを更新し、抗S抗体を補充した上で、公共の閉鎖空間ではマスクをしよう、ということだ。いくら5類になったからといって、いきなり「もう赤信号を守る必要もないよね」と言い出す人が増えたのは、本当に驚愕の出来事だった。
「七転八倒コースに行きたいなら、お好きに」と書きたいところだが、信号無視は善良な市民を巻き添えにする点で許しがたいものがある。閉鎖空間ではマスクをして、曝露するウイルス量を減らすことに協力してもらいたい。そうでなければ、このウイルスにされるがままになってしまう。感染先進国の轍を踏み抜く必要はどこにもない。
さて、ワクチンを更新し、マスクをしたほうがいい理由は、ほかにもある。それは次の記事で説明したい。
注記
*1
■Evaluating Long-Term Autonomic Dysfunction and Functional Impacts of Long COVID: A Follow-Up Study
https://doi.org/10.1101/2024.10.11.24315277
*2
2023年にすっかり新型コロナ対策が緩んだが、目立つのが感染した人ほど、マスクをしたがらないということだ。発症から10日間くらいはウイルスを吐出するので、マスクをして行動することが推奨されているが、ほぼ無視されている。これでは周囲にウイルスがひろがって当たり前だ。
こうしたウイルスに有利な行動をとるのは、インフルエンザのときも観察されていたことである。上司が「無理するな」と言っても、解熱剤をのんで出社する。そしてフロアが全滅というパターンだ。もちろん体調が最悪なら寝込んでいるしかないが、軽快してくるとやたらハイで社交的になる。新型コロナでも同じだ。療養期間あけにすぐ快気祝いの会食をし、クラスターとなった事例もある。
これを観察した研究もある。北米の大学で寮生活を送る学生を対象にBluetoothを使った近接記録を使い、個人の社会的行動と様々な症状の発症との関連を分析した結果、インフルエンザを経験した人は、社会的活動が活発になる特徴がみられたという。
■The interplay between individual social behavior and clinical symptoms in small clustered groups
https://doi.org/10.1186/s12879-017-2623-2
まさかとは思うが、これはウイルスのしわざかもしれない。「新型コロナでした」と抗原検査の結果をシェアしながら、外食してきたと報告する人もいる。感染した人は、ウイルスを拡散する行動をとることが多い。2類相当とされた時代には考えられないことだ。
「オミクロンで弱毒化した」といったんは喜んだが、じつはインターフェロンが抑制された結果の「見せかけの軽症」であり、ウイルスの戦略だったと解釈することもできるだろう。「たいしたことない」と思いこませて出歩かせ、咳を誘発して周囲にふりまいてもらう。事実、どの国でも爆発的に感染者が増えたのはオミクロン変異体からだ。
ウイルスはこのように宿主の行動を操作する高度な分子メカニズムをもっているという研究もある。
■Host Manipulation Mechanisms of SARS-CoV-2
https://doi.org/10.1007/s10441-021-09425-z
にわかには信じがたい話だが、「感染するとウイルスに有利な行動をとるようになりやすい」と考えると、いろんな行動の辻褄があう。感染すると、「もう二度と感染したくない」と慎重な行動をとる人と、「こんなのほんと、たいしたことない。まだ怖がっているの?」と一切の対策をやめる人に分かれる。これはウイルスに操作されていない人と、操作されてしまった人の相違かもしれない。
ロイコクロリディウムがカタツムリの行動を変え、トキソプラズマがネズミの行動を変える(ヒトの行動を変えるという研究もある)ことはわかっている。さらには、狂犬病に感染した動物は攻撃的になることも知られている。この病気をひろめようとする行動だ。
中枢神経をウイルスや寄生虫に乗っ取られることはある。「まさか。あり得ない」と言下に否定する前に、愛煙家や酒飲みの行動を観察してみよう。行動をニコチンとアルコールに操られているではないか。ウイルスや寄生虫が中枢神経系に同様の影響を与える手段をもっていたとしても不思議ではない。ただし、ヒトの脳と神経伝達機構は、こうした影響を排除するように進化してきたとする説もある。
■Invisible Designers: Brain Evolution Through the Lens of Parasite Manipulation
https://doi.org/10.1086/705038
この研究で指摘されているように、操られないように中枢神経系(脳)を守るために、大きな役割を果たしているのがBBB(Blood Brain Barrier. 血液脳関門)だ。新型コロナウイルスがBBBを損傷し、機能不全にすることが判明しているのは、気になる情報である。
■Differential effects of SARS-CoV-2 variants on central nervous system cells and blood–brain barrier functions
https://doi.org/10.1186/s12974-023-02861-3
■Blood–brain barrier disruption and sustained systemic inflammation in individuals with long COVID-associated cognitive impairment
https://doi.org/10.1038/s41593-024-01576-9
*3
大リーグやサッカーのスタジアムはほぼオープンエア環境であり、感染リスクは高くないと見込まれるので、ノーマスクが多数なのは不思議なことではない。欧米でも飛行機や教室などの閉鎖空間でマスクをする人はけっして少なくないし、マスク着用を義務づける施設もある。このXの投稿をみるといい。マスクと自作の空気清浄機で、オフィスの感染リスクを減らそうとしていることがわかる。
またこのアカウントは、至極もっともな理由をつけて「マスクをしよう」と呼びかけるポスターを継続的に投稿している(メディアタブで一覧できる)。
https://twitter.com/scott_squires
*4
イギリスの学校の例を出す。2023/24年春学期の欠席率は7.2%で、半数強が病気によるものである。常に教室の1割近い机が空席ということだ。そして、2023/24年秋学期と春学期に長期欠席(10%以上の欠席)をした生徒は、19.2%にものぼる。
Pupil absence in schools in England
https://explore-education-statistics.service.gov.uk/find-statistics/pupil-absence-in-schools-in-england
*5
https://x.com/UKHSA/status/1847182098697732526
なお、NHS(National Health Service. イギリス国民保健サービス)は2024年10月21日に、10日間の期限で「新型コロナ警報」(10-day Covid warning)を出している。これは大雨警報のようなもの。いまは危険だから感染しないように注意せよ、という話だ。イギリスでは直近1週間で感染者が17.8%増加し、死者が27.3%も増加しているからである。
*6
ここでいう「入院者」は酸素を必要とするような中等症患者が多数だ。オミクロンになってから、相変わらず「重症者数」は少ない。しかしこれは、「重症者」の定義による。重症者はICU(集中治療室)で人工呼吸器を使って救命しなければ、生命を維持できない状態の人をいう。人工呼吸をしなければ亡くなる人ということである。
初期は重症者が死亡していたが、オミクロン以降は軽症や中等症からの死亡が多数である。病態が変化していることに留意が必要だ。すなわち、もはや重症者が少ないことは、被害が小さいことを意味しない。
*7
ワクチンや感染による免疫の持続性は、長寿形質細胞(LLPC)を定着させられるかどうかにかかっている。
■The secret to longevity, plasma cell style
https://doi.org/10.1038/s41590-022-01340-w
しかし、mRNA新型コロナワクチン、インフルエンザワクチン、破傷風ワクチンの接種後を調べた研究によると、mRNA新型コロナワクチンのみが、LLPCを定着させることができなかった。これが、新型コロナワクチンの効果が長続きしない理由と考えられている。
■SARS-CoV-2-specific plasma cells are not durably established in the bone marrow long-lived compartment after mRNA vaccination
https://doi.org/10.1038/s41591-024-03278-y
*8
感染前にワクチンを接種するのと、感染してから接種をするのとでは、効果が違うことがわかっている。前者のほうが、効果が高い。これは新型コロナウイルスが免疫応答を阻害するからである。
■SARS-CoV-2 infection weakens immune-cell response to vaccination
https://www.nih.gov/news-events/news-releases/sars-cov-2-infection-weakens-immune-cell-response-vaccination
日本は2020年に国民全員で感染拡大を抑え込むことに成功し、いち早くワクチンを確保し、2021年2月接種できたことで、多くの人が感染する前にワクチンをうてた。これは2020‐2021の政権(安倍政権・菅政権)のファインプレーだと評していいだろう。
*9
2類相当の時代は法的義務で、5類化から推奨となった新型コロナの療養期間は、以下の3条件である。
1)発症日を0日として5日間は最低でも療養
2)症状軽快日を0日として1日経過すれば終了
3)発症日を0日として10日が経過するまではマスクなど感染対策をする
悲しいことに、このルールは2類相当時代から勝手な解釈をする人が続出し、ろくに履行されていないのが現実だ。発症日を0日として7日が経過していても、平熱に戻っていないなら療養期間だし、10日を経過するまではマスクとされているのに、発症日から5日目に熱があってもノーマスクで出社している。
文科省・教育委員会も全国の経営者も、再度このルールを徹底することを検討してもらいたい。子どもたちを、そして社員を守るためである。
*10
新型コロナウイルスは宿主の抗ウイルス自然免疫応答を阻害する能力をもっていることが明らかになっている。
「新型コロナウイルス感染症の病原性発症機序を解明」(神戸大学)
https://www.kobe-u.ac.jp/ja/news/article/20241022-66157/
当該論文
SARS-CoV-2 papain-like protease inhibits ISGylation of the viral nucleocapsid protein to evade host anti-viral immunity
https://doi.org/10.1128/jvi.00855-24
*11
アメリカ・CDCは肥満も重篤化因子だと発表しているが、日本人は肥満といっても多くはBMI=30前後で、BMI=40以上の肥満(WHO基準で3度、日本肥満学会基準で4度)は少ないから、目立つリスクにはなっていないと思われる。
■Obesity, Race/Ethnicity, and COVID-19
https://www.cdc.gov/obesity/data/obesity-and-covid-19.html
ほかにも心臓病やダイアベティス(糖尿病)などの基礎疾患が重篤化因子とされているが、新型コロナウイルス感染症を悪化させるのか、ウイルスがこれらの基礎疾患を増悪させるのかは微妙なところである。
*12
この記事では不眠症、持続する頭痛、胸痛、息切れ、運動不耐性、速い動悸、めまい、筋肉や関節の痛み、味覚や嗅覚の変化などのLong COVIDに悩む子どもがいること、すでに多数の症例があるが、果たしてどういう子がそうなるかわかっていないことが述べられている。
■’It Sort Of Felt Like I Was Crazy’: Long COVID In Kids Is Easy To Miss And Hard To Treat
https://www.wgbh.org/news/local/2021-09-24/it-sort-of-felt-like-i-was-crazy-long-covid-in-kids-is-easy-to-miss-and-hard-to-treat
*13
■SARS-CoV-2 infection: Initial viral load (iVL) predicts severity of illness/outcome, and declining trend of iVL in hospitalized patients corresponds with slowing of the pandemic
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0255981
■The persistence of SARS-CoV-2 in tissues and its association with long COVID symptoms: a cross-sectional cohort study in China
https://doi.org/10.1016/S1473-3099(24)00171-3
*14
■Control of nuclear localization of the nucleocapsid protein of SARS-CoV-2
https://doi.org/10.1016/j.virol.2024.110232
*15
新型コロナウイルスの増殖はSタンパク質の増加を意味するが、Sタンパク質がフィブリンやフィブリノーゲンに結合し、炎症性血栓をつくり、Long COVIDの様々な病態を誘発することがマウス実験で示されている。つまり、ウイルスの増殖量が多いと、炎症性血栓の量も多くなるということだ。
■Fibrin drives thromboinflammation and neuropathology in COVID-19
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07873-4
なお、mRNA新型コロナワクチンによって産生されるSタンパク質は、ウイルスのそれと変更してあり、安定していて、こうした結合は起きないように工夫されている。上の論文でも、「ワクチンでは起きない」と書かれているが、これはこうした工夫によるものだ。
*16
■TLR2/NF-κB signaling in macrophage/microglia mediated COVID-pain induced by SARS-CoV-2 envelope protein
https://doi.org/10.1016/j.isci.2024.111027
*17
innate immunityは「自然免疫」と訳されることが多いが、自己免疫と混同されることも多いことから、この記事では「生得免疫」を使った。adaptive immunity(適応免疫)は病原体と闘った記憶に基づいて得られる、その病原体によく効く適応した免疫である。acquired immunity(獲得免疫)と表現されることも多い。
*18
人形劇『サンダーバード』のこと。最初に放映されたのは1965年(イギリス)である。宇宙空間のサンダーバード5号がSOSをキャッチして災害を伝え、サンダーバード1号はいち早く現場に駆けつけ、指示を出す。サンダーバード2号はその災害の救助に向いたツールを搭載して後を追う。YouTubeで検索すると、すぐに出てくる。お勧めはこれだ。
『HD完全版サンダーバード』
https://www.youtube.com/playlist?list=PLOg0EhVNQg2w0_BX9fqR_NEGFOSH6SvJo
まったくの余談だが、サンダーバードはバリー・グレイ作曲による劇中音楽も素晴らしい。しかし、初回放送時のマスターテープも楽譜も紛失しており、再現することが困難だった(耳コピーで採譜に挑戦する人はいた)。バリー・グレイ協会の代表者であるラルフ・ティタートン氏がそれを10年以上も探し続け、執念でイギリスの地方テレビ局の倉庫に眠るマスターテープと楽譜を発見。これは音楽業界では大きなニュースになった。
このニュースに小躍りしたのが指揮者の広上淳一氏で、バリー・グレイ協会にかけあってオリジナル楽譜をレンタルしてもらい、コンサートも開き、録音もしている(2015年)。そのCDがこちらだ。サンダーバード好きなら買うしかない。
*19
ノーワクチンで感染した場合、免疫は新型コロナウイルスがどれほど悪いやつかを知らないので、痛い目にあうまでは適応免疫が起動しない。当然、ウイルスの増殖量は多くなる。
*20
新型コロナウイルスは生得免疫(innate immunity)にダメージを与えるから、感染しても症状が出にくいことがある。
■Innate immune evasion strategies of SARS-CoV-2
https://doi.org/10.1038/s41579-022-00839-1
また、新型コロナ重症者を対象にした研究で、新型コロナウイルスはT細胞に感染し、著しいリンパ球減少を引き起こすことも確認されている。
■ACE2-independent infection of T lymphocytes by SARS-CoV-2
https://doi.org/10.1038/s41392-022-00919-x
こうした免疫不全状態は、感染7か月後でも観察されている。
■Dendritic cell deficiencies persist seven months after SARS-CoV-2 infection
https://doi.org/10.1038/s41423-021-00728-2
*21
感染先進国のひとつであるイギリスの調査では、2022年6月からの1年間において、全死因による超過死亡は50‐64歳が相対的に最も多く(予想より15%高い)、25‐49歳と25歳未満では11%高く、65歳以上では約9%高いという結果である。そして、50‐64歳の超過項目は
・心血管系疾患死:33%増
・虚血性心疾患死:44%増
・脳血管疾患死:40%増
・心不全死:39%増
・急性呼吸器感染症死:43%増
・糖尿病死:35%増
となっている。これも明日の日本の姿である。
■Excess mortality in England post COVID-19 pandemic: implications for secondary prevention
https://doi.org/10.1016/j.lanepe.2023.100802