「私のGSE活用法01」の続きで、PR記事である。手指衛生に続いて、床のケアに使っていることを説明する(注記番号は前の記事からの連番)。
塵埃感染の恐れ
これは学術的に確認された話ではなくて、現時点では推定であり、仮説の段階である。私は床に落ちたウイルス飛沫は感染源になるし、床に落ちた段階で抑制できれば、思わぬ感染を防げると考えている(「新型コロナウイルスはモノの表面で長寿命」という特徴を思いだして欲しい。落ちた飛沫中のウイルスは、何日も感染性を保っている)。
この記事で詳しく説明したが、トイレで飛び散った新型コロナウイルスが上の階に感染をひろげた中国の事例などから、床に落ちた新型コロナウイルス飛沫が乾燥するとIRPs(感染性呼吸器粒子*4)が浮き上がると推定している。そして、床などからホコリなどにのって浮き上がるIRPsを吸いこんで感染するのが塵埃感染である。
当然、床に大量に落ちるウイルス飛沫でも同じだと考えられる。乾燥してくるとIRPsが浮き上がってブラウン運動をする。ホコリに付着して舞うIRPsも多数あるだろう。全員がマスクをしていた時代は、塵埃感染が起きるのはトイレくらいのものと考えていたが、いまは違う。オフィスでも教室でも、塵埃感染のリスクがあると想定すべき状態だと私は考えているし、これが「感染対策の穴」ではないかと疑っている。「あれほど対策していたのにクラスターが起きた」という事例が多数あるが、新型コロナウイルスに対策を超越する感染力があるか、対策に穴があったのかのいずれかのはずだ。
家庭内感染対策に有効仮説
塵埃感染対策としてまずやっておきたいのが、換気と空気清浄機のコンビである。換気によって新鮮な空気を導入すると、浮遊中のIRPsが急速に感染性を失うことがわかっている*5。また、空気清浄機で空気中の粒子量を減らすと、それに付着するウイルスも、単独でブラウン運動しているウイルスも減る。換気ができる部屋なら頻繁に換気を、できない環境なら空気清浄機を使う(空気清浄機には自作が前提のCorsi-Rosenthal Boxを勧める*6。コストを安くできる)。
続いて、GSEも塵埃感染対策として有効だと考えている(仮説)。GSEは揮発しにくい成分で、効果に持続性があるからだ。週に数回でもいいから、床清掃・トイレ清掃にGSEを使うことで、菌・真菌・ウイルスが落ちてきたときに、それを不活化することが期待できる*7。浮遊したIRPsが感染性を失っているなら、ただのPs(粒子)である。
こちらの対策は、家庭内感染対策に有効と考えられる(仮説)。BNUHC-18ユーザーからは「家族に感染者が出たが、自分は逃げきれた」という報告を複数いただいている。感染者を隔離しつつ、床とトイレ、そして手で触るところをGSEで頻繁に清掃した人たちだ。
実証実験はできていないからこれは仮説に過ぎないし、この方々が実施した複数の対策のうち、どれがどの程度有効だったのかも不明だが、トイレが二か所にあって、ひとつを感染者専用にした家族のほうが家庭内感染を防げているという説も出ており、少なくともGSEによるトイレ清掃は家庭内感染対策に有効であろうと思われる(だから私は、駅やサービスエリア、コンビニなど公共の場所の個室トイレを使うときは必ずマスクをするし、まっさきに床に向けてGSEをスプレーしている)。
ノーマスクが標準となった弊害
生徒全員がマスクをして授業を受けていた時代は、当然、飛沫も落ちてはいなかった。いまは違う。この変化は極めて大きい。いまや教室の床はIRPs予備軍だらけである。
落ちた飛沫が乾燥すると浮き上がり、IRPsとして機能するという仮説が正しければ、掃除当番の子どもたちが危ない。掃き掃除でウイルスと、ウイルスが(静電気で)びっしりとついたホコリを巻きあげて吸いこむことになるからだ。せめて
「掃除をするときはマスクをしなさい」
と指導すべきだと思うが、いまの学校にそれを求めるのは難しいだろうから、自衛させるしかない。いま私に学校に通う子どもがいたら、「掃除のときは絶対にマスクをしろ。掃き掃除の前にGSEを床にスプレーしろ」と言うだろう。
余談だが、江戸時代の年末大掃除の浮世絵をみると、頭にてぬぐいをかぶっている。ホコリが付着するのを嫌ったのだろうが、これはIRPsが髪の毛に付着するのを防ぐいい方法だ。水をまいてホコリをなるべくたてないように掃き掃除をするという知恵もあった。いまの学校の清掃は江戸時代と比べても無防備に過ぎる。
cf. 江戸時代の大掃除の様子(和楽Web)
飲食店の清掃はモップを標準に
同じように、床に飛沫がたくさん落ちていると思われるのが、飲食店である。ノーマスクでおしゃべりをする場所だからだ。そして気になるのは、やはり清掃である。
HEPAフィルタのついた掃除機も出ているので、それを使う選択もあるが、それでも激しい気流がホコリを舞いあげるから、IRPsが舞う危険がある。参考になるのが病原体の存在を前提としている病院の清掃マニュアルで、掃除機ではなく拭き掃除が選択されている(たとえば自治医科大学の清掃マニュアル「日常清掃・環境整備」を参照)。
飲食店もこれを参考に、モップ清掃を基本にしたほうがいいだろう。GSEを併用していただくとさらに有効で、確実で、再汚染も避けられる(個人的には学校も、掃き掃除よりはモップ清掃のほうがいいと思っている)。
(私のGSE活用法03に続く)
注記
*4
この「浮き上がるウイルス」が完全に乾燥していれば飛沫核、乾燥しきっていなければマイクロエアロゾルである。過去は「飛沫核が感染させるなら空気感染」という定義がされていた(これは、乾燥した飛沫核になると、感染性をもたないウイルスが多いからである)。
それゆえに、「新型コロナが空気感染することをなかなか認めない」という批判がされていたが、これは誤解である。とくに日本は最初期から換気の悪い密閉空間の感染リスクが高いこと、換気がその対策になることが指摘されていた(3密の指摘。2020年3月)。空気を媒介として感染はするが、専門的には「マイクロエアロゾル感染」であって、空気感染ではない、というややこしい状態だったのである。
この混乱を解消するために、WHOは2024年4月18日、「IRPs」(Infectious Respiratory Particles. 感染性呼吸器粒子)という概念を導入して飛沫核とマイクロエアロゾルを統一した。病原体が乾燥しきっているか否かは問わない。「空気中を浮遊して感染させる粒子」をIRPsと呼ぶことにしたわけである。
■Leading health agencies outline updated terminology for pathogens that transmit through the air
https://www.who.int/news/item/18-04-2024-leading-health-agencies-outline-updated-terminology-for-pathogens-that-transmit-through-the-air
*5
この研究によれば、空間中のCO2濃度が高いと新型コロナウイルスが感染性を保つ時間も長くなる。逆にいうと、清浄な空気は太陽光よりも早くウイルスを不活化する。換気は「IRPsを外に逃がすことで感染リスクを下げる手段」と思われているが、IRPsの活性を奪う優秀な空間除菌手段だったということだ。しかも、コストがかからない。
■Differences in airborne stability of SARS-CoV-2 variants of concern is impacted by alkalinity of surrogates of respiratory aerosol
https://doi.org/10.1098/rsif.2023.0062
*6
Corsi先生のアイディアを具体化したRosenthal氏がブログでいろんなCorsi-Rosenthal Boxのつくり方を紹介しているので、こちらをみるといい。
■https://www.texairfilters.com/category/articles/
基本的にこのシステムは、低価格の中性能のフィルタ(MERV13フィルタ)を4枚使って空気清浄機にしようというもので、高価なHEPAフィルタを使う空気清浄機と遜色のないリスク低減効果があることも確認されている。MERV13フィルタはAmazonで様々な大きさのものが入手可能。
■Can 10× cheaper, lower-efficiency particulate air filters and box fans complement High-Efficiency Particulate Air (HEPA) purifiers to help control the COVID-19 pandemic?
https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2022.155884
*7
スチレンボードの表面をa)BNUHC-18、b)アルコール、c)弱酸性次亜塩素酸水で拭き取り乾燥させたあと、1)室内に3日間放置し、2)そのあと菌検査した結果の写真を出しておく。bcはいずれも落下菌によるコロニーが育っているのに対して、aのBNUHC-18にはコロニーは見られない。