Corsi-Rosenthal Box(コルシ‐ローゼンタールボックス。以下「CRボックス」と略記)について言及することが多いので、改めて紹介記事を書いておく。

安価でフィルタリング性能の高いものを

CRボックスなるものが登場した発端は、もちろん新型コロナパンデミックである。換気に加え、空気清浄機が新型コロナ対策に有効ではないかという知見が明確になる一方、それまでは部屋の脱臭に主眼が置かれて開発されていた市販の空気清浄機には、二つの問題点があった。それは

  • HEPAフィルタには確かな効果があるがコストが高い
  • 市販の空気清浄機は(ウイルス対策としては)風量が足りず、性能がイマイチ

である。そこで2020年8月、カリフォルニア大学デービス校(UC Davis)のリチャード・コルシ博士(Corsi, Rechard L.)が複数の市販フィルタとボックスファンを組み合わせるアイディアを思いつき、Tex-Air Filtersのジム・ローゼンタール(Rosenthal, Jim)がそれをもとに比較的安価なMERV13フィルタ*1を5枚(後に4枚に変更)使い、ボックスファンを組み合わせる形で具体化した。

ガムテープでとめていくだけだから、極めて容易に誰でもつくれるDIY空気清浄機として、CRボックスが誕生したわけだ。このDIY空気清浄機のポイントは三つある。

  • HEPAフィルタより安価なMERV13フィルタを使うこと
  • 4枚使うのでフィルタリング能力が高く、風量も確保できること
  • 特別な工具が不要で、DIYが容易であること

コルシ博士が自らつくり方を解説したYouTube動画がこちら。もうこれを見るだけで、すぐに作れる容易さだ。口の字型にフィルタを組んで、ボックスファンをのせるだけである。

効果も確認されている

ちょっと気になるのは、HEPAではなく、MERV13フィルタでも効果が期待できるのかということだが、高価なHEPAフィルタ式の空気清浄機と性能が遜色ないことが実証研究で確認されている*2

また、新型コロナウイルスのような病原体だけではない。多くの有害な化学物質が空気中から取り除けたという研究報告もある。7種類のPFAS(N-EtFOSE、N-EtFOSA、FBSA、PFBS、PFHxS、PFOS、PFNA)の濃度は28‐61%低下し、5種類のフタル酸エステル(DMP、DEP、DiBP、BBzP、DCHP)の濃度は29‐62%低下したという。これは化学物質過敏症の方にとっても朗報だろう*3

コルシ博士とローゼンタール氏らは「コルシ‐ローゼンタール財団」をつくり、啓蒙と普及活動をしている。同財団のウェブページにはわかりやすいイラストのつくり方が出ている。
cf.
How to build your own Corsi-Rosenthal Box
https://corsirosenthalfoundation.org/instructions/

イラストでとくに注目してもらいたいのが、空気の向きだ。ファンはボックスから外への排気方向にセットし、フィルタにつけられた矢印は内側に向ける。この矢印は空気の流れ方向を示している。フィルタから空気をボックスの中に吸いこんで、ファンから外に吐き出す形になる。

材料はAmazonで手に入る

CRボックスの材料は、Amazonで手に入る。「MERV13フィルタ」「ボックスファン」で検索しよう。現時点で見つくろうと、20インチ×20インチのMERV13フィルタの12枚セットが25,000円くらい。それにあうボックスファンが15,000円前後だから、4万円くらいの予算で高性能な空気清浄機(交換フィルタ2セットつき)をつくれるということだ。フィルタの寿命は1年くらいである。

MERV13フィルタは様々な大きさのものがあるので、小さいものを作るのもいい。小型タイプにはUSBファンやPCファンを組み合わせる。ローゼンタール氏がXの投稿で小型タイプのCRボックスを紹介している。

もちろん小型にすると、風量が落ち、フィルタ面積が小さくなるので、性能は落ちる。効いているかどうかを、PM2.5を検知できる粒子計で確認するといい。空気清浄機は効き目を粒子計で見える化できるのがいいところだ。粒子量が落ち切らないなら、大型タイプに変更するか、小型タイプの台数を増やすか、である。家庭でもオフィスでも教室でも、粒子計で確認しながら設置するといい。

粒子計もAmazonで手に入るが、私がお勧めしているのはIKEAのヴィンドスティルカ(VINDSTYRKA)である。USB電源で動作するので、私はCO2センサーとともに携行している(モバイルバッテリで動作させている)。
https://www.ikea.com/jp/ja/p/vindstyrka-air-quality-sensor-smart-60498233/

注記

*1
MERVはMinimum Efficiency Reporting Value(最小効率報告値)の略で、アメリカのフィルタ性能を示す規格。数字が大きいほうが高性能。1‐16までランクがあり、MERV16が最も細かな粒子も捕捉できる高級フィルタだ。Corsi-Rosenthal Boxは性能が少し落ちるがそのぶん安価なMERV13フィルタを使うところがひとつのミソである。コストパフォーマンスが高い。

*2
Can 10× cheaper, lower-efficiency particulate air filters and box fans complement High-Efficiency Particulate Air (HEPA) purifiers to help control the COVID-19 pandemic?
https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2022.155884

*3
Does Using Corsi–Rosenthal Boxes to Mitigate COVID-19 Transmission Also Reduce Indoor Air Concentrations of PFAS and Phthalates?
https://doi.org/10.1021/acs.est.2c05169