私がGSE(Grapefruit Seed Extract)という植物エッセンスの存在を知り、注目したのは2020年4月27日のことだった。GSEはグレープフルーツ種子を搾ったものだ。ゴマでもツバキでもブドウでもアボカドでもそうだが、植物の種を搾ると油がとれる。グレープフルーツも同様で、GSEはエッシンシャルオイルの一種である。
そこから過去の研究論文に目を通し、自分でできる範囲の簡易的なものだが、実証実験でその能力の確認もした。驚いたのは、ヒトに安全な抗酸化物質なのに、菌・真菌・ウイルスに対する抗菌能力が高く、かつ効果が持続することだった。
2020年4月といえば、2月には新型コロナウイルス感染症がパンデミックとなることが明白となり、欧米から人工呼吸器を奪い合うような凄まじい被害が報告されていた時期である。この段階でGSEに注目した理由は次の記事で改めて書くこととして、今回はGSEに対して投げかけられている「疑い」について説明しておきたい。
GSEへの疑念が生じた20年前の話
グレープフルーツ種子の成分に高い抗菌性があることを発見し、その抽出方法も開発し、Chemie Research and Manufacturing(現P-50 Inc.)を創業したのは、Jacob Harich博士(1919‐1996)である。ハリッチ博士は免疫学者で、晩年にはヨーロッパのエイズ研究の中心だったパスツール研究所に招聘されている。そこでは、エイズ患者のケアにGSEを利用する研究にとりかかっていたようだ(詳しくは「GSE開発物語」を参照)。
エイズ患者は免疫不全のため、さまざまな菌・真菌・ウイルスに感染しやすくなっているから、こうした病原体を生活空間から遠ざけることが必要だ。植物由来で複数の脂肪酸フラボノイドを含むGSEは、800種類の菌・真菌・ウイルスを抑制でき*1、ヒトにやさしく、頻繁に使っても手荒れをはじめとする健康被害がなく、床など広範囲の除菌に使っても問題が生じない。エイズ患者にやさしい「病原体を遠ざけた環境」をつくれる植物エッセンスなのである(ただし現在は医療が進み、HIV患者がエイズを発症することを防げるようになっているから、このニーズもなくなっている)。
一方、2000年代に入り、GSEには塩化ベンゼトニウム/塩化ベンザルコニウムなどの合成殺菌剤成分が混入しているという報告が相次いだ*2。農薬が混入(コンタミネーション)しており、それが抗菌効果を発揮しているだけではないか。したがって、ヒトに安全なはずもない、と疑われたのである。
検索すると当時の論文が出てくるから、それを論拠にいまでもGSEに対して批判的な意見を書く人がいる。普通に想像してもらいたい。これらの指摘の通り、抗菌効果は混入した合成殺菌剤成分によるもので、GSEそのものに何の効果もなく、安全でもないということであれば、業界はとっくにGSEを諦めているはずである。
現時点でアメリカのベストセラー点鼻薬・XlearはキシリトールとGSEを主成分としているし*3、イタリアの製薬会社Prodeco PharmaはGSEを主成分とする吸入薬を発売している。無印良品の敏感肌用化粧水には保湿成分としてGSEが添加されており、フマキラーのキッチン除菌剤も主成分はGSEで、「効果が一カ月続く」と宣伝している。
こうした事実と、GSE合成殺菌剤効果説とは整合性がとれない。
FDAの調査と認可
私自身、2020年に知ったGSEについて調査を開始してすぐ、合成殺菌剤成分が混入しているという論文を見つけ、関係者へのヒヤリングと資料調査をしている。結論から書くと、「GSE業界はこの指摘を受け、すぐに自分たちでも調査をし、対処した」案件だ。問題を解決したから、いまでもさまざまな製品に活用されているというわけである。調査で判明したことを私なりに整理しておく。
- 産地によっては、たしかに農薬成分がGSEに混入していた例があったので、もうその産地のものは使われていない(現在は南米産がもっぱら使われている)
- いまは抜き取り検査で混入がないか確認している
- GSEの成分に塩化ベンゼトニウム/塩化ベンザルコニウムと非常に似た波形を示すものがあり、GSEの脂肪酸フラボノイドが第4級アンモニウム化合物、または類似の物質に変質しているのではないかという説もある
この問題はガスクロマトグラフィーによる分析技術の発展で発見されたものだし、逆にこの問題が、分析技術の発展を促した面もある。たとえばこの論文はGSEの内容成分を迅速に分析する手法を報告しており、抜き取り検査もこれで可能になったと思われる。
■Development and Validation of an HPLC/UV/MS Method for Simultaneous Determination of 18 Preservatives in Grapefruit Seed Extract(2006年)
https://doi.org/10.1021/jf060543d
さて、こうしたコンタミネーションは当然、規制当局(アメリカだとFDA)も問題視をする。ハリッチ博士が創業したChemie Research and ManufacturingとFDAも、この問題でかなりやりあったようだ。工場の立ち入り検査なども経て、コンタミネーション問題がないことを確認し、改めて2016年に同社のGSE製品をGRAS(Generally Recognized As Safe)登録している。
安全性の確認は日本でも
少し時代が前後するが、日本では食品衛生法の1995年の改正で「既存添加物」というカテゴリーがつくられ、GSEもそこに含まれた。既存添加物とは、コメヌカ抽出物など「十分な使用実績があり、安全性が高いと見込まれる天然添加物」に与えられるお墨付きで、認定された添加物は製造や販売に規制がかからない。すなわち、都道府県知事の認可なく、自由に製造も販売もできる食品添加物である。
国はこうした規制緩和をする一方で、国立医薬品食品衛生研究所に既存添加物の安全性確認を委託した。2002年の報告で、成分、品質に関する研究とラット90日間反復投与毒性試験の結果、GSEは安全であることが確認されている。
■既存添加物の安全性確保上必要な品質問題に関する研究(2002年度 総括)
https://research-er.jp/projects/view/155972/163780
その後、合成殺菌剤成分のコンタミネーションが問題になったわけだ。これを受けて2009年の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会添加物部会でこの問題が話題となり、「問題があれば既存添加物名簿から消除する」という結論になっている*4。そしていまだ、消除はされていない。これが、この問題に対する解答である。
こちらの「既存添加物名簿」によれば、111番がGSEで、「グレープフルーツの種子から得られた、脂肪酸及びフラボノイドを主成分とするものをいう」とされている。
同時に「医薬部外品添加物リスト」にも「グレープフルーツエキス」として記載されている。連番:726/成分コード:520376/規格コード:51(医薬部外品原料規格2006)である。
GSEに期待した理由
詳しくは次の記事で説明するが、2020年4月、私がGSEに期待したのは、新型コロナウイルスパンデミックを端緒として、あらゆる感染症に襲われる世界がやってくることを見越してのことだった。ハリッチ博士がエイズ患者のケアにGSEを使おうとしたのと同じ発想である。
アルコールは有効だが、部屋全体をアルコールで除菌すると、可燃性ガスが充満してしまう(実際に火災が起きている)。塩素系の薬剤は匂いが問題だし、有機物に反応するから効果に限界があり、酸化物質なのでモノへの影響も大きい。部屋全体の病原体を減らそうとすると、現状、GSEしか有効な選択肢はない。「高血圧の薬を飲んでいるから、グレープフルーツは心配」という声もあるが、その問題を起こすフラノクマリンは果実や果皮に含まれるもので、種子には含まれていないから、この心配も無用である。抗菌能力をもつ薬剤の中で、GSEはトップクラスに安全だ(緑茶なみと考えていい)。
GSEは無臭で、多くの菌・真菌(カビ)・ウイルスに抗菌効果があり、かつ頻繁に使っても手荒れもせず(化粧水に保湿剤として添加されるくらいである)、そしてこれまでのところ、耐性菌ができたという報告もない。MRSA/VRSAも抑制する植物エッセンスである*5。海外ではカンジダ対策として飲用もされている。たとえばこのサイトが参考になるだろう。
■7 Grapefruit Seed Extract Uses, and the Risks to Know Before Using It
https://universityhealthnews.com/daily/nutrition/grapefruit-seed-extract-uses-and-benefits/
(University Health News)
注記
*1
GSEを512倍希釈すると、抗菌性を維持しながら毒性がなくなること、そして安全性が確認された希釈濃度において、広範囲のグラム陰性およびグラム陽性生物に対して抗菌性を有することを確認した研究。走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて、GSEが菌の細菌膜を破壊し、細胞質内容物を放出していることを確認している。
■The Effectiveness of Processed Grapefruit-Seed Extract as An Antibacterial Agent: II. Mechanism of Action and In Vitro Toxicity
https://doi.org/10.1089/10755530260128023
*2
例としてこの論文を挙げておく。
■グレープフルーツ種子抽出物および配合製品中の合成殺菌剤の調査(2008年)
https://doi.org/10.3358/shokueishi.49.56
*3
Xlearについては、新型コロナの中等症患者に治療の補助(アジュバント)として使ったら、治癒が早くなったという研究報告もあり、Xlearの成分のうち、新型コロナウイルスを抑制するのはGSEであることを確認した研究もある。本件をめぐってはキシリア社とFDAがいまなお係争中のようだ(優良誤認にあたるかどうかが争点だと思う)。
■XlearがSARS-CoV-2を死滅/不活化させると結論付けた新研究
https://www.businesswire.com/news/home/20201201005744/ja/
■新研究はXlearがSARS-CoV-2に対する死滅効果もしくは不活化効果または両効果を持つと結論、新しい変異株に対する有効性
https://www.businesswire.com/news/home/20210127005430/ja/
*4
この会議の議事録はこちら。
https://www.mhlw.go.jp/content/shingi___2009___09___txt___s0903-4.txt
*5
GSEがMRSA(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus. メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)およびVRSA(Vancomycin-resistant Staphylococcus aureus. バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)を抑制することを確認した研究はこちら。
■Grapefruit Seed Extract as a Natural Derived Antibacterial Substance against Multidrug-Resistant Bacteria
https://doi.org/10.3390/antibiotics10010085
また、GSEが菌・真菌・ウイルスを不活化するメカニズムからいって、菌・真菌が薬剤耐性をもつ可能性は小さいと言われている。私もその可能性は高いとみている。緑茶フラボノイドなどもGSE同様に抗菌性が確認されているが、現時点で薬剤耐性菌・真菌が発生した事実は確認されていない。