新型コロナ=交通事故禍論

いま日本は(世界は、と書いても間違いではない)、次の2グループにきれいに分断されている。

  1. 新型コロナウイルス感染症を「もはやただの風邪」と認識し感染対策をやめ、いまだマスクをしている人にイラついている人たち
  2. 「ただの風邪」どころか、現役世代にはLong COVID*1という厄介な病気をもたらすウイルスであることを知り、感染対策を継続し、ノーマスクで咳き込む人にイラついている人たち

互いに相手にイラついているので、本当によろしくない。科学的事実に基づいて議論し、aが正しいのか、bが正しいのかを明確にし、合意して対策にあたるのが望ましいが、国は新型コロナウイルス感染症を5類に位置づけ、その責任を放棄してしまったので、もはや混沌とするばかりである。

結論から言うと、新型コロナウイルスはヒトを騙すのがうまいウイルスのひとつだ。そしてすっかり騙されたのがa派、騙されていないのがb派である。

「茶番」が新型コロナウイルスの本番である

a派の人たちはよく「目覚めた」という表現を使う。「目覚めた」と共起関係にあって頻出するのが「茶番」だ。なんだ、感染してもたいしたことないじゃないか。あの騒ぎは茶番だったと目覚めた、ということだろう。

しかし、これこそ新型コロナウイルスの思う壺である。「感染してもたいしたことない」と思わせるのが、このウイルスの狡猾なところなのだ。茶番と思わせることが、このウイルスの本番である。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の場合、「たいしたことない」には次の2種類ある。

  1. ウイルスを早期撃退できた結果の軽症
  2. ウイルスに免疫応答を阻害されての軽症

1ならばまさにただの風邪であるといっていい。一方、2はウイルスによる被害に気づけていないだけだ。警報装置が切られていれば、盗みに入られていても気づけない。「なんだ、インフルエンザより軽かった。たいした病気じゃないね」と宿主が思っている間に、着々と健康が盗まれているのが2である。

これは新型コロナウイルスだけの特徴ではない。茶番‐本番を演じるウイルスはほかにもある。有名なのはHIVと肝炎ウイルスだ。どちらも急性期の症状はただの風邪同然であり、宿主はこの時点では、危機感すら覚えない。しかし体内でぬくぬくと過ごし、年数がたってから牙をむく。

HIVはエイズを発症すればまず助からないし、肝炎ウイルスも年数がたってから肝硬変や肝臓がんを引き起し、命を奪うことが多い。類例として、水痘ウイルスと麻疹ウイルスを出してもいいだろう。この二つは本番‐茶番‐本番なウイルスだ。急性期の症状も大変だが、ウイルスが体内に潜伏し、何年もたってから暴れ出すこともある*2。水痘ウイルスは帯状疱疹を、麻疹ウイルスはSSPE(亜急性硬化性全脳炎)を引き起す。前者は猛烈に痛い上に失明することもあるし、後者は致死性で、まず助からない。新型コロナウイルスもこれらと同類で、「後が怖い」ウイルスである。これだけでも、「ただの風邪」というのは無理だ。

ちょうどクリーブランドクリニックと南カリフォルニア大学の研究成果をまとめた記事が出ていたので、それを紹介しておこう。記事のタイトルは以下だ。
History of COVID-19 found to double long-term risk of heart attack, stroke and death
(新型コロナ既往歴がある人は長期にわたって心臓発作、脳卒中、死亡のリスクが倍になる)
https://medicalxpress.com/news/2024-10-history-covid-term-heart-death.html

急性期の症状が軽く済んだといって安心はできない。その後、心血管系の病気に命を奪われる可能性が高くなるからだ。そしてこのことは、当初から注意喚起されていた。2020年の段階から、新型コロナ感染者には広範囲にわたる血管損傷と血栓が見られることが観察されていたからである*3。それから4年が経過し、現実に亡くなる方も出てきて、新型コロナウイルスによる心血管系のリスクが明確に数字で裏付けられたということだ。

NIH(National Institutes of Health. アメリカ国立衛生研究所)がこの研究を紹介したニュースリリースのタイトルがわかりやすい。
First wave of COVID-19 increased risk of heart attack, stroke up to three years later
(COVID-19の第1波はその後の3年間で心臓発作と脳卒中のリスクを増やした*4
https://www.nih.gov/news-events/news-releases/first-wave-covid-19-increased-risk-heart-attack-stroke-three-years-later

この見出しの限定的な表現が恐ろしい。“up to three years later” とあるように、まだ3年間の総括ができただけだ。今後、up to ten years laterの研究報告では、リスクは2倍ではなく、20倍になっている可能性もある。これは2030年にならないとわからない。

そして問題なのは、こうした心血管障害が若者にもみられることである。海外では高校生やプロサッカー選手が試合中や試合後に突然死するニュースが複数流れている。例を出しておこう。

日本でも2023年10月に部活動中に中学生が倒れ死亡した例がある。死因は心臓にかかわる病気だった。いずれも新型コロナウイルス感染の影響が強く疑われる。

急性期後がウイルスの本番

こうした事実を指摘しても、まだそれを認めようとしない人がいるのは、日本が感染被害をかなり抑えてきた証拠である。2020‐2022年の貯金が極めて大きい。欧米では「もう10回感染した」という人もいるが、日本ではせいぜい1,2回感染の人が圧倒的多数だ。未感染の人もかなりいる。2024年3月時点で、成人の感染経験率は60‐65%程度。これは抗体保有調査の数字である。

だから逆に、切迫感がない。実感がわかない(これはとてもいいことなので、この状態をなるべく長く続けたいから、この記事を書いている)。しかし、このままガードを下げて無防備に感染を続けていくと、必ず怖い本番を実感する日がやってくる。

「感染したけれど、たいしたことなかったよ。もうただの風邪だね」と宿主に思わせながら、新型コロナウイルスは着々と健康を蝕んでいると考えるべきだ。これは明らかに、風邪では観察されていない現象である*5。なにしろ、心筋梗塞や脳卒中は発作が起きるまで自覚症状もほとんどなく、リスクに気づけない。水痘ウイルスの帯状疱疹、麻疹ウイルスのSSPE、肝炎ウイルスの肝硬変などと同様である。

つまり、感染し、発症してすぐ(急性期という)の症状だけでは、新型コロナウイルスの病原性はわからない。この点ではHIVや肝炎ウイルスと同じだ。そもそも、急性期の発熱や咽頭痛などの症状は、ウイルスによる被害ではない。これはウイルスと免疫の戦闘の余波であり、間接被害である。

急性期の私たちの身体は、ラグビー場の芝生みたいなものだ。ウイルスに免疫がタックルをしかけるから、ひたすら激しく踏みつけられる。痛みが出るのも当然。逆にいうと、免疫が外敵の侵入に反応できないと、急性期の症状は軽症か無症状で終わる。ウイルスはタックルされることもなく、好き放題にできるわけだ。

本当に無症状な場合は、「不顕性感染」と呼ばれる。これは免疫が無反応だったということだ。「腸チフスのメアリー」という有名な事例があるが、新型コロナウイルス感染症はとくに不顕性感染が多いと言われている。それだけ、免疫を出し抜くのがうまいウイルスだということである。

まるでトロイの木馬だ。免疫に反応されずに侵入したウイルスがこっそりぬくぬくと体内で増殖するわけだから、「症状が出ないなら問題ない」と判断するのは早計ということにしかならない。早期撃退に成功した人は別として、無症状や軽症でも、ウイルスによる被害と無縁ではないからである。

じつのところ、「新型コロナウイルス感染によって、人体で何が起きるか」については、まだ不明な点が多い。急性期が終わったあとも不調を訴える人の多さ、全身に感染するという事実*6、そして免疫システムにもダメージがあるという事実からして、今後の時間の経過とともに、思わぬ新型コロナウイルスの影響が明らかになっていくだろう。すでに若い人の2型糖尿病の増加が報告されているし*7、脳に与えるダメージがアルツハイマー症のそれに似ていることから、認知症が増加すること、多臓器にウイルスが感染することから、がんが増えることが懸念されている*8

Long COVIDはMass disabling event

なにより厄介なのは、新型コロナウイルスの感染力が極めて強いということだ。「オミクロンで弱毒化して、もうインフルエンザなみ」という言説がまかり通ったのが2022年から2023年にかけてだが、弱毒化したというのは信じられないほど死者数は多い。

新型コロナ死者数インフル死者数
2020年3,466人956人起源株・アルファ変異体
2021年16,756人22人デルタ変異体
2022年 47,635人24人オミクロン変異体
2023年38,080人1,382人オミクロン変異体


2023年は2022年より減少しているが、減少トレンドというわけではなく、2024年は再び2022年なみのペースで死者が増えている)。いくら致死率が落ちたところで、感染者数が桁違いに多いから、被害者の絶対数は多くなる。社会的インパクトを決めるのは致死率ではなく、致死率×感染力だ。

そして、この感染者数の多さが、また別の問題を生んでいる。Long COVIDである。医学界ではPost Acute COVID-19 Syndrome (PACS. 新型コロナ感染後症候群) という言い方もされる。急性期を過ぎてもすっきりと治りきらない状態だ。

症状として多いのが倦怠感、息切れ、頭痛や気分症状などである。「疲れやすい」という声もよく聞くし、頭に霧がかかったように思考力・判断力が鈍り、記憶力も落ちる「ブレインフォグ」と言われる症状も多い。新型コロナウイルスは脳にも感染するし、脳で炎症を起こすし、毛細血管の血流が微小血栓で阻害される上、脳とつながりのある腸内細菌叢も影響を受けるから、不思議なことではない。このあたりの機序の研究はかなり進んでおり、この論文がよくまとまっている。
Mechanisms of long COVID and the path toward therapeutics
https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.07.054
(2024年10月)

海外でよく出てくる表現が、”Mass disabling event” である。Long COVIDは有病率が極めて高く、大人も子どもも、おおよそ感染者の20%前後が発症している。しかも有病率は感染を繰り返すたびに高くなる傾向があるから、このまま何度も社会全体で感染を経験していくと、Long COVID率が60%‐70%という時代がやってくるかもしれない*9。まさに障碍者大量発生イベントになっている。

重度のLong COVIDになると起き上がるのもやっとで、日常生活にも仕事にも支障をきたしている。問題はその発生率だ。1000万人に1人なら無視していい(宝くじ1等の確率に近い)、1万人に1人なら気をつけたほうがいい。現状、重度のLong COVIDになるのは、海外のデータだと100人に数人だ*10。これは極めて高い数字である。

事実、イギリスではこの4年間、「長期にわたる病気のせいで失業した人(働けない人)」が年間30万人のペースで増えている*11。人口比で日本の60万人相当だ。そして現状、増える見込みしかない。感染で増加するのに対して、治療法が確立されていないからだ。

「交通事故蔓延社会」となっている現状

つまり、新型コロナウイルス感染症は、見くびられている。いや、見くびるようにウイルスが仕向けている。急性期の致死率が落ち(これはワクチンの恩恵が大きい)、症状もたいしたことなければ、当然、警戒心は薄れる。思う壺だ。どんどん感染して、宿主を食い物にできる。

2020年当初は重症肺炎を起こして死亡する人が多かった。有名人の訃報もあり、「重症肺炎で死ぬ怖い病気」というイメージが定着した。そして2022年に世界を席巻したオミクロン変異体から、重症肺炎患者は劇的に減っている。急性期が軽症という人も多い。

「重症肺炎で死ぬ病気」から「重症」をとったら、もうただの風邪ではないか?
と言いたくなるのもわからないではない。しかし、致死率が落ちたからこそ、脳を含めた全身に感染する厄介な病気であることが判明したのである。当初は厄介さを飛び越して亡くなる人が多く、病原性が目立たなかっただけだ。

そろそろ認識を改めてもらいたい。新型コロナウイルス感染症はたしかに病気だが、社会的インパクトという点で似ているのは交通事故である。いま私たちは、交通事故多発社会に生きていると考えたほうがいい。

交通事故と新型コロナウイルス感染症の類似点は多数ある。列挙しよう。

  1. 本人がどんなに注意していても巻き込まれることがある
  2. 出会い頭やすれ違いざまにも起きることがある
  3. 日頃から健康で活躍していた人が突然、死亡する
  4. 死亡せずとも後遺障害が残ることも多く、日常生活が困難になったり、仕事を継続できなくなったりもする
  5. 一度事故を経験したからといって、次に事故をするリスクが小さくなるわけでもなければ、軽く済む保証もない
  6. 事故(感染)多発地点がある

とくに問題なのは3と4である。事故も新型コロナウイルス感染症も相手を選ばない。元気な人を襲い、命や生活を容赦なく奪う。「病気になるのは自業自得」という考え方をする人も多いが、それは不規則な生活や偏った食事などが原因で発症する病気の場合であって、新型コロナほど感染力の強い感染症にはあてはまらない。新型コロナ感染は、明らかに事故だ。

病気の自業自得論は根強い。とくに新型コロナウイルス感染症が5類に変更されてから(2023年5月8日)、企業も感染を自己責任にしてしまったところが多い。「隔離などの行動制限がなくなってやりやすくなった」「もう5類だし、感染対策は必要ないし、強制もできない」と考えているようだ。

しかし、若手から幹部まで活躍している人材を突然失うのが交通事故と新型コロナである。そして規模からいうと、新型コロナは交通事故の10倍以上の規模であり、深刻さはその比ではない。なにしろ、学校内でも家庭内でも会社内でも発生するのが、新型コロナの感染事故である。

新型コロナウイルスは身体を老化させる

人はなんとなく病気と事故を区別している。そしてなんとなく、「身体の弱い人が病気になる」という先入観をもっている人が多い。これは新型コロナや麻疹のような、感染力の極めて強い感染症には通用しない、ただの先入観だ。

どんなに健康な人も新型コロナウイルスに感染するし、感染しないように免疫を鍛えることなどできない(ワクチン接種を除く)。「日頃から食事と睡眠に気をつけて、免疫を鍛えていれば問題ない」*12と豪語する人がたまにいるが、誤りである。

そして新型コロナウイルス感染症は「感染損」でしかない病気だ。おたふく風邪の急性期は大変だが、結果として終生免疫を得られるので、二度目の感染を心配する必要はなくなる。後遺症なく過ぎ去れば、免疫という利得はある*13。新型コロナ感染にそうしたメリットはなにひとつない。感染してもいい免疫がつくこともなく、短期間に何度も感染してしまうし、そのたびにLong COVIDとなる確率があがる。

「高齢者だけが死ぬ病気だ。そのために若者に我慢させる必要などなかった」
と堂々と口にする経済学者までいるが、この病気についての知見が圧倒的に不足している。たしかに現役世代の致死率は低いが、Long COVIDになる率は極めて高い。

すなわち、新型コロナウイルス感染症は、高齢者の命を奪い、現役世代の人生を奪う病気である。料理人が味覚・嗅覚を失っては仕事にならない。演奏家が難聴になっても同じだ*14。重症肺炎で肺の能力が奪われたり、心臓にダメージが残ったりすると、アスリートもパフォーマンスを発揮しづらくなる*15

この厄介なウイルスによって起きることを一言でまとめると、老化である。感染すると体内の随所で炎症を起こし、細胞や臓器や免疫機構を老化させる。軽症で済んでも10年分くらいは老化し、重症だと30年分くらいは老化する。ここでいう老化とは、「老いることで生じる損傷と同等のダメージが残る」ということだ。

60代が30年分の老化をし、90代の老衰のような症状で亡くなったり、70代が10年分の老化をして認知症を発症したり、20代が50代の身体となって、糖尿病や心筋梗塞やがんなど、中高年に多い病気を発症する。若くても目が悪くなり耳が遠くなる。そして、体力が落ちて疲れやすくなり、短期記憶を失い、判断力が鈍る*16。風邪は万病の元、という諺を思いだすなら、新型コロナは億病の元だ。それを臆病だと決めつけているのが茶番派である。

この厄介なウイルスに対抗するにはどうすればいいのだろう。次の記事で、私の考え方と対抗策を紹介したい。少なくとも、「もう感染したからいいや」と感染対策を全放棄するのは、あらゆる意味で間違っている。むしろこれから、新型コロナウイルス感染症の本番がやってくるのである。

注記

*1
急性期を過ぎても続く症状のことである。PACSと表現されることもある。Post Acute COVID-19 Syndrome(新型コロナ持続性症候群)の略だ。

*2
表現として「体内に潜伏」と書いたが、潜んでいるだけだと免疫にやられたり、新陳代謝で細胞ごと始末されたりする。ウイルスの持続感染はただひそんでいるのではなく、体内で感染と増殖を繰り返しているが、免疫に頭を押さえつけられている拮抗状態だと理解すべきである。何らかの理由で免疫のタガが外れるとウイルスが急増し、発症する。

*3
■Endothelial cell infection and endotheliitis in COVID-19
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30937-5
■Pulmonary Vascular Endothelialitis, Thrombosis, and Angiogenesis in Covid-19
https://doi.org/10.1056/NEJMoa2015432
■Doctors race to understand inflammatory condition in kids
https://doi.org/10.1126/science.368.6494.923
■COVID-19: the vasculature unleashed
https://doi.org/10.1038/s41577-020-0343-0
■Evidence of thrombotic microangiopathy in children with SARS-CoV-2 across the spectrum of clinical presentations
https://doi.org/10.1182/bloodadvances.2020003471
また、最近発表されたこの研究では、血管内皮細胞(EC)から放出されるサイトカインで、Long COVIDに関連した心機能障害を引き起こしていることを明らかにしている(ヒトACE2トランスジェニックマウスでの確認)。
■CCL2-mediated endothelial injury drives cardiac dysfunction in long COVID
https://doi.org/10.1038/s44161-024-00543-8

さらにこの研究によると、新型コロナウイルスは急性期を過ぎたあとも、致命的な心筋線維症を引き起こす可能性がある。
■Possible mechanisms of SARS-CoV-2-associated myocardial fibrosis: reflections in the post-pandemic era
https://doi.org/10.3389/fmicb.2024.1470953

*4
この研究結果はCNNも報じている。その日本語版記事がこちら。
■「新型コロナ感染による心臓発作・脳卒中の発症リスク、感染から3年後も2倍 新研究」
https://www.cnn.co.jp/fringe/35224786.html

*5
風邪ではこうした「後々に響く影響」はほとんど報告されていないが、新型コロナ禍をきっかけに、インフルエンザについても研究が行われ、程度の違いはあるものの(インフルエンザのほうが程度は軽い)、同様の影響が残ることが判明している。健康な中高年を突然襲う心筋梗塞などの心血管障害や認知症のうち、一定数は過去のインフルエンザ感染歴で説明できる可能性がある。
■Comparison of post-acute sequelae following hospitalization for COVID-19 and influenza
https://doi.org/10.1186/s12916-023-03200-2

*6
この研究によると、新型コロナウイルスは多臓器に感染して病変を起こすし、全身性の炎症性病変も引き起こしている。
■A histopathological analysis of extrapulmonary lesions in fatal coronavirus disease (COVID-19)
https://doi.org/10.1016/j.prp.2024.155373

多臓器に感染するのは、新型コロナウイルスが赤血球にのって全身に運ばれるからと推定される。たどりついた先の臓器にACE2受容体があれば、感染が成立する。
■Coronavirus pathogenesis in mice explains the SARS-CoV-2 multi-organ spread by red blood cells hitch-hiking(プレプリント)
https://doi.org/10.1101/2023.03.29.23287591

全身性の炎症が起きるのは、新型コロナウイルスが体内で増殖し、産生されたスパイクタンパク質がフィブリン(fibrin)と結合して炎症性の血栓を形成することがひとつの原因である。
■Fibrin drives thromboinflammation and neuropathology in COVID-19
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07873-4

なお、「それならワクチン接種でも血栓ができるということだろ」という意見を言う人がいるが、mRNA新型コロナワクチンで産生されるスパイクタンパク質とウイルスのそれは異なる。ワクチン設計時に特定の配列を組み込まないという工夫をしており、ワクチン由来のスパイクタンパク質がフィブリンと結合している報告は現時点で存在しない。mRNA新型コロナワクチン接種者に血栓性の病気の増加が観察されていない事実がそれを証明している。
■COVID-19 vaccines and adverse events of special interest: A multinational Global Vaccine Data Network (GVDN) cohort study of 99 million vaccinated individuals
https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2024.01.100

*7
10‐19歳で2020年1月‐2022年12月に新型コロナに感染した、もともと糖尿病のない61.4万人を対象にした研究。他の呼吸器感染症と比較して新型コロナは診断1,3,6ヶ月後の新規2型糖尿病リスクがそれぞれ1.55倍、1.48倍、1.58倍に増加。肥満者に限定するとさらに高くなるが、それ以上に入院を要した患者のリスクは高く、それぞれ3.10倍、2.74倍、2.62倍に増加。
■SARS-CoV-2 Infection and New-Onset Type 2 Diabetes Among Pediatric Patients, 2020 to 2022
https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2024.39444

また、この研究は新型コロナで死亡した患者の剖検で、ウイルスが膵臓のインスリン製造工場である膵島にダメージを与えていることを発見し、その機序を膵島オルガノイドを使ったモデル研究で明らかにしている。これは感染後に1型糖尿病が増えていることを説明する。
■Human vascularized macrophage-islet organoids to model immune-mediated pancreatic β cell pyroptosis upon viral infection
https://doi.org/10.1016/j.stem.2024.08.007

*8
Long COVID患者の脳のダメージが、アルツハイマー症のそれと類似しているという研究はこちら。
■Parallel electrophysiological abnormalities due to COVID-19 infection and to Alzheimer’s disease and related dementia
https://doi.org/10.1002/alz.14089

さらに新型コロナが認知症の進行を加速させ、神経炎症や神経細胞の喪失と因果関係のあるBBB(Blood Brain Barrier. 血液脳関門)の破壊や炎症性血栓を引き起こす可能性があることを示した研究はこちら。
■Pioneering discovery and therapeutics at the brain-vascular-immune interface
https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.09.018

新型コロナウイルス感染によってがんが増加する可能性を指摘している研究はこちら
■Possible cancer-causing capacity of COVID-19: Is SARS-CoV-2 an oncogenic agent?
https://doi.org/10.1016/j.biochi.2023.05.014

*9
2023年12月に発表されたカナダの大規模データによる報告で、感染を繰り返すたびにLong COVIDの有病率が高くなることが示され、話題となった。有病率は
1回感染:14.6% 3回感染以上:37.9%
である。この数字は、今後も大きくなる一方であることが予想される。
■Experiences of Canadians with long-term symptoms following COVID-19
https://www150.statcan.gc.ca/n1/pub/75-006-x/2023001/article/00015-eng.htm

最近発表されたこの研究でも、Long COVID率は感染回数が多くなると高くなることが示されている。3回感染で1回目の約4倍の発症リスク。
■Long COVID and associated outcomes following COVID-19 reinfections: Insights from an International Patient-Led Survey
https://doi.org/10.21203/rs.3.rs-4909082/v1

*10
重度のLong COVIDの罹患率のような数字は、調査した時期と集団によって大きく変わることが予想される。「100人あたり数人」の根拠は以下の研究で、重度のLong COVID患者は4.9%という数字だが、2022年4月‐8月のカリフォルニア州の感染者を対象にした調査であることに注意が必要だ。現状の日本はこの数字より低いことが予想されるし、2年後にカリフォルニア州で同じ調査を実施すると、もっと高い数字が出る可能性が高い。
■Defining long COVID using a population-based SARS-CoV-2 survey in California
https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2024.126358

*11
■Number of people in UK out of work due to ill health growing by 300,000 a year
https://www.theguardian.com/society/2024/oct/03/number-of-people-in-uk-out-of-work-due-to-ill-health-growing-by-300000-a-year

*12
言わずもがなだが、食事や睡眠や運動で免疫を鍛えることなどできない。ヘタに鍛えて強化すると、自己免疫疾患になる恐れすらある。生活が乱れて免疫が弱ることはあるが、強くするのは無理だ(にもかかわらず、クエン酸だの重曹だの塩だの緑汁だのなんだのを「免疫を強くする」といううたい文句で売り込む人も目立つ。この免疫幻想はエセ医学の温床である)。
こうした思い込みは世界共通のようで、X(Twitter)にもこんな投稿があった。日本人ばかりじゃないんだな、と安心する一方で、この思い込みこそが、世界中で新型コロナウイルスを軽視する要因だな、とも思う。

*13
同じように麻疹も長く続く免疫が得られるが、反面、麻疹感染によって免疫記憶がリセットされることもあるし、ウイルスが体内に潜んで、後にSSPE(亜急性硬化性全脳炎)が引き起こされることもあり、麻疹の自然感染はマイナスのほうが大きい。長く(1950年代まで)、多くの子どもが七五三を迎えることなく感染症で死亡する時代が続いたが、そのうちの半数は麻疹のせいによるものと推定されている。
新型コロナワクチンに対する反ワクチン運動の余波で麻疹ワクチンの接種率も落ちているのは憂慮すべきことである。七五三を本来の意味で祝う時代に戻ってしまう可能性があるからだ。これまでの研究成果は、「ワクチンのある感染症はワクチンで防ぐのが最も健康被害リスクが低い」ことを示している。おたふく風邪も自然感染で終生免疫が得られるが、一方で難聴になるなど深刻な後遺症のリスクがある。

*14
味覚・嗅覚の喪失に比べると難聴はあまり話題になっていないが、ポール・サイモンが新型コロナ感染後に難聴となり、演奏活動を中止してしまっている。
■Paul Simon unlikely to perform live again due to sudden hearing loss attributed to a severe case of COVID
https://www.unmc.edu/healthsecurity/transmission/2023/09/20/paul-simon-unlikely-to-perform-live-again-due-to-sudden-hearing-loss-from-covid/

また、韓国から若い人ほど難聴になりやすいという報告も出ている。
■Incidence of hearing loss following COVID-19 among young adults in South Korea: a nationwide cohort study
https://doi.org/10.1016/j.eclinm.2024.102759

内耳組織に新型コロナウイルスが感染することも指摘されており、難聴はウイルス感染によるものである可能性が高い。
■Direct SARS-CoV-2 infection of the human inner ear may underlie COVID-19-associated audiovestibular dysfunction
https://doi.org/10.1038/s43856-021-00044-w

*15
たとえばマンチェスターユナイテッドのマズラウィ選手は、2023年1月に新型コロナに感染し、心臓組織の炎症に対処するためにサッカーから遠ざかっていた。
■Man Utd’s Mazraoui has minor procedure after palpitations
https://www.bbc.com/sport/football/articles/cwy933kz128o
深刻化する前に対応でき、サッカーに復帰できるようだから、この例は不幸中の幸いな話だ。Long COVIDで引退する選手も、試合中に突然死する選手も出ている。

*16
新型コロナウイルス感染による身体のダメージは、この論文によくまとまっている。
■COVID-19: a complex multisystem disorder
https://doi.org/10.1016/j.bja.2020.06.013

また、以下の研究では、こうしたダメージで生物学的年齢が10.45±7.29歳分は老化していることを示している。
■Evidence for Biological Age Acceleration and Telomere Shortening in COVID-19 Survivors
https://doi.org/10.3390/ijms22116151