「だったら一生、マスクしてろ」とか
「そのまま一生、ワクチンをうっていろ」などという、小学生かと思うような捨てセリフにうんざりしたこの2年間である。今回もまた、医学論文に依拠しない捨て独白を書いていく。
法規制されたわけでもないのに、電車・バスの中の全員がマスクをしていた2023年3月までの日々は夢だったのかとさえ思う。正しい「個人の判断」(決して「個人の自由」ではない)によって、「人ごみでのマスク」を続けていれば、世界中でマイコプラズマ肺炎や百日咳、麻疹に結核、溶連菌などの菌感染症、アスペルギルス症のような真菌感染症が流行する中、日本は無風だったことだろう。抗菌薬が不足することもなかったはずだ。
抗菌薬不足のいまは「非常時」だ
マスコミはもっと実態を報道したほうがいい。劇症型溶連菌感染症(STSS. いわゆる「人食いバクテリア」である)の感染者も過去最悪ペースで増えているのに、抗菌薬がないという危機的な状況だ。薬が十分に足りていても、致死率30‐40%の病気である。まして薬不足なら、もっと致死率は高くなる。救命手段が腕や足など、感染部位の迅速な切除しかなくなるのも痛ましい。
どうみてもいまは非常時である。「すぐに治る軽い病気」として軽く扱われている病気の多数が、とても重いものになるのが抗菌薬不足だ。副鼻腔炎も抗菌薬が処方されなければ、炎症が耳や脳にまでひろがってもおかしくないし、慢性化してしまう可能性も高い。
「コロナ禍が明けたとばかりいうが、全然終わっていない」という話はさておくとしても、「複数の感染症が急増しており、いまや抗菌薬がありません」という危機的状況にあることをマスコミは報道するべきだ。抗菌薬不足には構造的な問題もあるが、そもそもは「一時期に集中して感染者が出ている」ことが大きい。ひとつの疾患ではない。複数の菌・真菌感染症が流行中である。
でも「しのぎ方」は知っているよね。みんな
一方、私たちは、こうした感染症の大半を封じ込められるほど減らす、とてもいい方法を体感で知っている。ユニバーサルマスクだ。その効果は、このグラフがよく示している。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の感染者グラフである(東京都)。
この病気は長く飛沫感染・接触感染といわれていたが、教室の上に設置したパネルからも溶血性レンサ球菌(溶連菌)が検出されたことから、最近はIRPs感染するといわれているものだ。そのことを裏付けるグラフでもある。
注目してほしいのは2020年のグラフだ。年初にはいつも通り感染者がいたが、ユニバーサルマスクが普及してから激減した。そして2023年・2024年は目もあてられない状態である。抗菌薬不足が解消されるまでは、「人ごみでのマスク」を継続したほうがいいだろう。
明日にはあなたも「いまは抗菌薬がないので、一刻も早く右足を切断するしか救命の方法はありません。いいですか」と医者に質問されているかもしれない。その可能性は、誰にでもある。せめて抗菌薬が余り、必要な人が必要な量を服用できる状況になるまでは、警戒を緩めないほうがいい。いまは非常時である。
HIVも最初は「ただの風邪」と思っていた
もちろん、菌感染症/真菌感染症だけでなく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)も警戒すべきである。
「オミクロンから肺炎を起こさない病気になった」
といまだに言っている人がいるが、それはBA.1変異体だけの特徴である。その後に登場した変異体にワクチン未接種者、あるいは2回接種で終わっている人が感染した場合、やはり重症肺炎を発症することが多い。決して毒性は落ちていないのだ。欧米では2024年になって、入院患者(酸素を必要とする患者)が増加傾向にある。
ただしこれは、変異体の個性というよりは、ワクチンの追加接種をやめた人がノーマスクでウイルスに大量曝露しながら、何度も感染しているせいかもしれない。このへんも含めて、SARS-CoV-2ウイルスの「病原性の全貌」がわかっていないことは事実だ。「ただの風邪」とHIV(ヒト免疫不全ウイルス)を見くびっていたのと、同じ状態である(ただの風邪ではない症状が出たことから、調べなおしてHIVを同定したという経緯)。
新型コロナについてわかっていること
現時点で新型コロナについて判明しているのは以下の通りである。
- 感染してもろくな免疫はつかず。何度も感染する。ワクチン接種の免疫のほうがはるかに良質で血栓リスクも低いが、持続性がない点では同様。その理由もわかっている
- 重い肺炎になる人は(ワクチン接種以降は顕著に)減少し、致死率はワクチン後に落ちたが、それでもインフルエンザの15倍の死者が出ている
- 急性期が軽い人と重い人がいるが、それは「予後」を保証しない。軽くてもLong COVIDになる人もいるし、合併症を発症する人もいる。現役世代の突然死も目立つ(心臓発作が多い)
- 持続感染し、炎症が続くことがある。これは自然治癒困難
- 体内にスパイクタンパク質が残り、炎症が続くことがある(とくに脳)。ひどいと短期記憶も失い、ブレインフォグという思考力の低下した状態が続く。血栓も増える
- これら中枢神経系へのダメージが関係していると疑われているが、味覚・嗅覚障害がかなり多い。また、目や耳にも感染することがあり、視覚・聴覚が失われる人もいる(エルトン・ジョンが視覚障害、ポール・サイモンが聴覚障害を報告している)
- 血栓によって毛細血管の血流障害なども出るためか、男性機能にダメージが出る人もいる(サイズ縮小や機会逸失など)。脱毛も目立つ
- 感染してもろくな免疫はつかず、何度も感染する上、感染するたびにダメージが大きくなる(Long COVIDも感染のたびに発症率が高くなる)
- 新型コロナウイルスは免疫系にダメージを与えるため、感染後は、他の感染症にかかりやすくなる
「氷山の一角」に安心してマスクをとっている
一方、新型コロナウイルスパンデミックから4年が経過しただけであり、いまだ次の点はわかっていない。
- 複数回感染者の5年生存率・10年生存率
- 小学生時代に複数回感染した子どもの発達への影響
- 免疫にダメージを受けた人の予後(いつどの程度回復するのか不明)
- 男性機能にダメージを受けた人の予後(同上)
これらのデータが出揃うには、当然、あと5年はかかる。この不都合な真実もマスコミは報道しようとしない。
いまの私たちにできることは、画期的な治療薬が出てくれることを祈りながら、ウイルスの影響を最小限にとどめる努力をすることだけだ。10年生存率・20年生存率がわからない段階で、たかをくくって無防備で感染を繰り返すのは、氷山の一角を甘くみて突っ込んだタイタニック号状態である。