CSRとCSV

CSR(Corporate Social Responsibility)の実例として、発表されたばかりの花王の取り組みを紹介しよう(2020年3月17日付ニュースリリース)。容器につけているアイキャッチシール(プラシール)を廃止する、というもの。百聞は一見にしかず。こういうことだ。

CSRへの誤解

もちろんこれは、いま問題になっているプラスチックゴミ対策である。いい判断だと思う。アイキャッチシールは即座に剥がされ、最終的にゴミとして海までたどりつく可能性が高い。買ってしまえば、たんなる邪魔者だ。花王の製品は海辺や川岸で使われることも多いだろう。

このように、企業が「よりよき社会」のために意思決定するのは、とても望ましい。この考え方を「社会的責任」(CSR)と言っているわけだが、この用語は矮小化されて「社会貢献」という形で理解されていることが多く、「木を植えよう」といった特別な社会貢献活動がCSRだと思われているフシがある。

特別な活動は、続かない。経営に余裕がなくなると、真っ先に削られる。この花王の判断がいいのは、けっして特別な貢献活動ではなく、間違いなく続けられるからである。これが本来のCSRだと思う。

CSVのほうがわかりやすい

その意味では、CSV(Creating Shared Value)という概念のほうが、わかりやすいかもしれない。マイケル・ポーターが2011年に提唱したもので、企業が本業で社会とともに共通価値を創造し、社会貢献していくという考え方だ。ルイ・ヴィトンで有名なLVMHグループが発表した、これなどその典型だと思う。

https://www.bbc.com/news/business-51868756

2020年3月16日の記事だ。LVMHが化粧品工場を使い、除菌ハンドジェルを製造するという発表である。もちろん、新型コロナウイルス対策だ。この判断は、本来的な意味でのCSRだが、CSVとして理解するほうが、素直に受け止められる。

化粧品工場という自分たちのリソース(すなわち本業の設備)を使って、得意な製品を作るだけのことだが、それがすなわち、新型コロナウイルス対策として求められるものの提供であり、社会貢献となっている。さらに、

“These gels will be delivered free of charge to the health authorities,” LVMH announced on Sunday.

(「保健当局には、このジェルを無償提供する」)

という徹底ぶり。センスいい。日本でもシャープがクリーンルームというリソースを使ってマスクを製造するという話題があったが、そこに一言、「病院には無償配布する」とあれば、人々の反応はまた変わったことだろう。