クラシック界に変革がやってきた

新型コロナウイルス禍で、うかつな外出もままならない。クラシックコンサートも次々中止――と思っていたら、この週末は「中止にせず。無観客で演奏し、ネットでライブ配信する」というイベントがあいついだ。とくにびわ湖ホールがYouTubeを使ったライブ配信した『神々の黄昏』(2020年3月7日・8日)、東京交響楽団がニコニコ動画でライブ配信した演奏会(同3月8日)は、ひょっとすると、日本のクラシック界の歴史に残すべきイベントになるかもしれない。

新しい楽しみ方を増やした

どちらも、経験して初めて感じることが多々あった。『神々の黄昏』はオペラである。日本人にとって、オペラはハードルが高い。イタリア語やドイツ語の歌詞がわからないからである。友人は、こんな工夫をしていた。

友人の工夫。PCで対訳を表示しながらテレビでYouTubeライブ配信を視聴

PCでこの配信を楽しんだ人は、画面のキャプチャもできた。主催のびわ湖ホールが、「キャプチャのアップはやめてください」とツイッターで呼びかけているが、キャプチャができると、「このシーンの歌唱がすごくよかった」という話ができることもまた事実である。

東京交響楽団の演奏会は、日本のプロオケのレベルの高さを、広く周知させたという功績があると思う。メインのサン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付き」の終楽章に視聴者数をみると、61,983人! これはもう、「すげーっ。かっけー」といったツイートなどをみて、視聴をしたとしか思えない。

新しい職業が生まれるかもしれない

そしてこちらはニコニコ動画だったので、つぶやきが同時配信された。これも経験してみると、とても新しい。そして、「これは新しい職業が生まれるかもしれない」と思った。クラシックのライブ解説者である。

「もうすぐオーボエのソロですが、とても難しいことで有名なところです」と予告しながら、「すばらしい出来ばえでした」とプロの解説者がつぶやく。プロ野球でもラグビーでもサッカーでも、解説者がいいと、スタジアムでみるよりも感動が大きくなったりするものだ。これができるのは、画期的だ(そして実際、荒絵理子さんのオーボエソロは、心に残る音色だった)。

日本という国に希望をもてた

歌唱にも演奏にも感動したのだけれど、演奏会を中止にせず、急遽、ライブ配信することを決定し、それに応えた技術陣やプロデューサーなど、舞台を支えた人たちに最大限の敬意を表したい。素晴らしい。いや、すごい。

ニコニコ動画は、視聴者が6万人を越えた瞬間、配信がぐらついたように思う。おそらく想定以上の視聴者数だったろう。しかし、すぐに持ち直した。そもそもカメラワークもよかったし、音声品質もよかった。

COVID-19問題で、演奏会がどんどん中止になる中、ピンチをチャンスに変える勢いだった今週末の出来事は、日本という国に、そして日本のクラシック音楽界に「まだまだ希望はある」と思わせるに十分な出来ばえだったと感じる。

つぎは、(COVID-19との戦争に勝った上で)満員の観衆もいるライブ配信を楽しみたい。無観衆は、お気の毒というか、やりにくかったに違いない。にもかかわらず、すばらしい演奏でした。演奏されたみなさん、ありがとうございました。

追記

ニコニコ動画は、3月14日24時まで、登録すると視聴できるようだ。カメラワークのよさ、音質のよさ、ツイートがかえって臨場感をもたらすのを追体験してもらいたい(画面に流れるツイートは、右下の吹き出しマークをおせば消える)。
https://live2.nicovideo.jp/watch/lv324588340