2021年から新型コロナウイルスとの闘いは次のフェーズに移行している。ワクチン接種が始まったからだ。日本が導入したファイザーとモデルナのmRNAワクチンは少なくとも短期的には明らかな効果があり、ゲームチェンジャーになっている。2022年にはノババックスの組み換えタンパクワクチンも認可され、mRNAワクチン以外の選択肢も増えた。
私は「反・反ワクチン派」
一方でワクチン導入は、反ワクチン派と言うべき人たちからの論争も巻き起こした。曰く、「こんなに副作用がある」「複数回うつと、逆に感染しやすくなる」など。こうした意見に、「ワクチン接種は怖い」と迷っている人も多いだろう。HPVワクチンでも見た光景だ*1。
私の立場を明らかにしておく。私は「反・反ワクチン派」である。そして、私の結論は
「黙って3回うて」
「子どもには一刻も早くうたせたほうがいい」
である。ただし、私は「ワクチン接種推進派」ではない。接種を推進する立場にはないからである。それは国と日本小児科学会・日本内科学会・日本感染症学会・日本産婦人科学会など専門家の仕事である。
自分がワクチンを接種するか、子どもにうたせるかという判断は、個人がなすべきもの。私の判断を他人に押しつけるような傲慢さは持ち合わせていない。単にこれから、なぜ私が反ワクチン派の言い分を棄却し、接種する判断をしたのかのみを記す。判断の参考にしていただければ幸いである。
比較がアンフェア
反ワクチン派の言説で最も納得できないのは、語られていない部分である。ワクチンの危険性を切々と訴えるが、COVID-19感染の危険性については知らん顔をしている。これはあまりにもアンフェアだ。
COVID-19という病気は、いずれは全国民が感染する病気である。欧米ではもう感染率が60%を越えた国もある。そして何度も感染する病気だ。インフルエンザや風邪をみればわかる*2。
パンデミックから2年半以上が経過し、感染した人がどのような被害を受けるかが、続々と論文報告されている。注目はLong COVIDとよばれる後遺症の厄介さだ。アメリカでは労働人口(18‐65歳)のうち、1600万人がLong COVIDに悩み、200‐400万人がそのために失業している*3。
私たちの選択肢は二つしかない。
- ワクチン未接種で感染するか
- ワクチンを接種して感染するか
である。リスク比較もこの二つでなければフェアではない。しかし、「ワクチンを接種しての副反応のリスク」はさんざん書くが、「未接種のまま感染した場合のリスク」には触れない。
反ワクチン派がよく指摘する「ワクチン接種による心筋炎のリスク」がわかりやすい。たしかに最初、心筋炎は副反応として目立った。しかし、mRNAワクチンで心筋炎が起きやすいということは、同じ塩基配列を含むRNAが体内で大量に複製されるCOVID-19感染では、もっと心筋炎が起きやすいということにならないか。
事実、2022年8月22日付のこの記事では、未接種で感染すると、28日以内に心筋炎を発症するリスクが11倍高くなる一方、ワクチンを1回接種したあとの感染では、そのリスクは半減するという。
Cf.
American Heart Association News: COVID-19 infection poses higher risk for myocarditis than vaccines
軽症で、大半が自然治癒するワクチンの心筋炎リスクをアピールしながら、重症化することもある「感染しての心筋炎リスク」について頬かむりするのは、アンフェアでバランスを欠いている。
つまり、<接種したらこんな副反応のリスクがあるから、未接種で感染しないのがベスト>と言っているだけだ。感染しない保証があるなら、未接種のほうがいいに決まっている。発熱など接種の副反応を経験することもない。
<ワクチンにマスク? そんなにコロナが怖いなら家にこもっていろ>
なんていうセリフが多いが、反ワクチン派こそ家にこもるか、無人島にでも行ったほうがいい。感染することを前提に考えていないからだ。
いま、日本はウイルスとの戦争中である。このまま座して待っているだけだと、多数が感染して医療崩壊一直線だ。かといって、すぐに避難(ワクチン接種)すると、何人かは犠牲になる。どちらを選択するべきか、ということである。
交通事故が弱毒化すると言う人たち
いまの私の一言に、
<何を言っている。オミクロンで新型コロナは弱毒化して、もうただの風邪だ。その証拠に重症者病棟はあいているじゃないか>
なんて反論がきっとくる。いや、これはあまりにずるい。重症者病棟があいているのは、ひとつはオミクロン変異体の個性によるが(次の変異体ではどうなるかわからない)、さらに要因として大きいのが、国民のほとんどがワクチンを2回以上接種していることである*4。緊急ブレーキなど高度な安全装置の普及で交通事故死者が減ったのを見て、「ほら見ろ、交通事故は弱毒化しているじゃないか」というようなものだ*5。
ワクチン未接種者にとって、オミクロン変異体はけっして弱毒化などしていない。それは研究論文からも、現場の医師たちの発言からもわかる*6。ワクチンの成果にフリーライドして「弱毒化している」と言いながら、ワクチン反対と言っているわけだ。
逆に言うと、ノーワクチンにした瞬間、デルタ変異体に蹂躙された当時を思い出す被害が出るということである。そうなると確信できるのは、オミクロンの第6波以降、子どもの感染者が急増し、これまでにない被害が出ているからである。多くの子どもたちは、いまだ1回の接種すらもしていない(2022年8月28日時点で、5‐11歳の接種率は20%に満たない)。
2022年8月30日に報道された日本集中治療医学会の調査によると*7、2022年3月以降8月15日までにオミクロン変異体に感染し、酸素の投与を受けたり人工呼吸器を装着したりして、中等症や重症として登録された患者は220人もいる(しかも、小学生以下が90%以上を占める)。そのうちの約2/3は基礎疾患がなかった。
重症化しづらい子どもでも、ワクチン未接種だとこの結果のだ。死者も出ている。2021年9月‐2022年8月の1年間で、10歳未満の子どもの死者は男子8名・女子9名の17名だ(厚生労働省の集計。2022年8月30日現在。ご家族の心痛を思うと、子どもの死亡は耐えがたい。ご冥福をお祈りします)。
資料を意図的に悪用する
さすがにギクリとした。反ワクチン派が示す数字は心臓に悪い。
<ワクチン接種による死者1,571名!>
これまでに1,571名も接種が原因で亡くなっているなら、さすがに接種に賛成するわけにはいかない。でも新聞もテレビも騒いでいない時点で、おかしいと思うべきだろう*8。
これは「有害事象報告」を悪用したデマである。すでに記事「PCRと死因のデマに踊る人々」で指摘したが、現場が「関係ない」と思うものでも、ともかくワクチン接種後に死亡した事例は、たとえ交通事故でも報告することになっている。その数字が1,571名ということだ。
その報告を、定期的に開かれる審議会*9で確認し、審議し、因果関係を確認している。つまり、この段階では1)ワクチン接種後に、2)なんらかの原因で死亡したという「前後関係」であるに過ぎない。
<ファイザーの極秘文書が流出>系の話のカラクリは、すべてこれである。製薬会社がつくった「事前チェック項目リスト」をもって、「こんなに副反応が出ている」と拡散している。クルマの整備点検も、ブレーキパッドだのエンジンオイルなど多数の確認をするが、そのすべてが不具合だというわけではない。確認しているだけである。
ここで、少し想像力を働かせて欲しい。いや、記憶力か。
ワクチン接種は、感染した場合の重症化リスク・死亡リスクの高い高齢者から接種を始めた。当然、有害事象報告には、老衰を含めた死亡報告が多くなる。逆に子どもから接種していれば、これほど死亡報告はなかったに違いない。
でも、この順番でいいのだ。世界中がこの順番で子どもが最後だ。その意味は、想像すればわかるだろう。
「まだ治験中」なんて言っている。情けない
<まだ治験中のワクチンなのに>という表現をよく目にする。これもかなり悪質な言説だと思う。セットになっているのが、<特例承認されたもの>だ。この二つで、つまりは
<mRNAワクチンという新顔ワクチンの安全性をロクに確認もせず、慌てて承認し、無理やりうっている>
という意味になる。256歩譲って、その通りだとしよう。でも新型コロナワクチンは世界中でのべ数10億回接種され、その成果が多数、論文報告されている。重大な副反応で何人も命を落とした、といった安全性の問題を指摘する論文もニュースも、いまのところ出ていない。つまり、新型コロナ向けmRNAワクチンは、空前絶後の規模での「治験」を無事にパスしている。
下の図版は、インフルエンザワクチンの治験計画書の一部である。注目は「200人」のところだ。治験参加者数である。
これに対して、新型コロナワクチンは2回接種済が世界で4,919,900,728人いる(Our World in Dataより。2022年9月1日現在)。200人の治験は信用するのに、49億人への接種実績を認めないなんて、65,536歩譲っても理解不能だ。治験参加者数は2459万9504倍ですよ(ただし、49億人の中にはmRNAワクチン以外の人も含むので、この数字よりは若干下がる)。
「治験中」というのは、事実ではある。ただしこれは、中長期的に経過を見るという意味での治験が続いているだけで、効果や安全性の評価という意味での治験ではない。接種開始後も中長期的に観察するのは、他のワクチンでも同じこと。これをもって「治験中のワクチンだ」と批判するのは、悪意以外の何者でもないだろう。
そもそも一刻を争う事態であるから(300人/日規模で死亡する感染症への対応が100日遅れたら3万人が死亡する*10)、通常は何カ月もかかる作業を、全員で必死にやって、早く承認しましたというのが特例承認だ。効果の確認や安全性の確認を省略したわけではない。
これをもって欠陥ワクチンをなんの確認もしないで承認したかのように言う人たちは、関係者の名誉毀損も甚だしい。被害を少しでも減らしたいという願いのために、何人が何日、睡眠を削ったと思っているのか。
そもそも終生免疫がつく病気ではない
反ワクチン派は、感染が爆発するとうれしそうだ。
<ワクチンをうっているのに、こんなに感染するんだから意味ない>
と元気になる。恥ずかしいから、このツッコミはやめたほうがいい。「病気のことは何も理解していません」と自白しているようなものだ。
ウイルス感染症はヒトの免疫のつき方でも分類できる。流行性耳下腺炎(おたふく風邪)は、一度感染したら、二度と感染することはないと言われている(終生免疫がつく)。麻疹や水痘は、一度感染したら、20年くらいは感染することがない。獲得した免疫が長く持続する病気だ。
対して風邪やインフルエンザはどうか。毎年のように感染するし、一冬に複数回感染することさえある。感染して免疫をつけても、日数が経過するとまた感染する病気だ。
新型コロナウイルスはコロナウイルスの仲間であるし、COVID-19も短期間に複数回感染するタイプの病気だろうと想定された。果たしてその通りだった。パンデミックから時間がたつにつれ、二度、三度と繰り返し感染する人が多数、観察されたのである。
この事実を踏まえれば、「新型コロナワクチンをうっても感染する」のは、別に不思議なことではないし、だからといってワクチンの価値が落ちるわけでもない。<ワクチンを接種したら、もう感染することはないはず>なんていうのは、虫がよすぎる。
本来、反ワクチン派が相手にしなくてはならないのは、国であり厚生労働省であるはずだ。ワクチン接種会場にデモしたり、SNS上で接種を勧める医師に<なにかあったら責任をとれるのか>と詰め寄ったりする人たちがいるが、お門違いもいいところ。プロ野球のヤクルトが強すぎるからと、ヤクルトレディに詰め寄るくらい頭がおかしい(かといって厚生労働省にクレームの電話をいれたりするのは、もっと間違っている*11)。
責任をとるのは国だ。こんな批判をする前に、まずは正面の敵である厚生労働省の言い分を確認してはどうか。キャプチャはファイザー製ワクチンの説明文だが、どこにも「感染予防効果」はうたわれていない。これって、つまり、濡れ衣を着せて批判しているということだよ。
免疫の知識も怪しい
病気の知識以上に、免疫の知識が怪しいのも気になる。ヒトの免疫に対する正確な理解なく反ワクチン運動をするのは、福島原発のALPS処理水を「放射能汚染水」と言いはって海洋放出反対運動をするくらい有害な無知だ*12。
以下、気になる「怪しい免疫の知識」をざっと挙げていく。感染制御という点では最も重要なヒトの免疫システムに対する理解がこの程度の人から、「ワクチンなんか不要」と言われても、なかなか納得するのは難しい。
<自己免疫を高めれば問題ない>
自己免疫は自分の身体を敵だと思って攻撃する疾患であり、自己免疫を高めたら病気になるだけである。
<ワクチンなんか不要。自然免疫力でウイルスを撃退すればいい>
上の方は「自然免疫」と「自己免疫」を混同してしまったのだろう。自然免疫は人がもともと基本機能として備えている外敵から我が身を守るシステムである。玄関の鍵みたいなものだ。
この発言は、一見はまっとうそうだ。しかし、まるでナンセンスなのである。新型コロナウイルスはヒトの免疫機構にとって未知のウイルスであり、自然免疫は新型コロナウイルスを敵だと思わず見逃してしまうから、このようなパンデミックとなったのだ。
つまり、自然免疫力をいくら高めたところで、ウイルスを撃退することはできないから、感染が爆発しているのである。ガードを固めても、敵がフリーパスをもっている(ヒトの身体には新型コロナウイルスの侵入を手引きするやつがいる)。「免疫力を高める食事」など、いくら食べてもムダだ。
基本の自然免疫に対して、特定の外敵にやられた結果、身につく免疫を獲得免疫という。自然感染して治癒すると、獲得免疫が身についている。それを感染させずに実現するのがワクチンだ(ただし、生ワクチンは例外で、軽く感染させて獲得免疫をつける。新型コロナ用の生ワクチンは開発されていない)。
<感染を予防できないなら、意味がない>
ここまでトンチンカンだと、そもそも新型コロナウイルス感染症とはどのような病気で、体内で何が起きているのかも理解していないのではないかと不安になる。この一言でもそうだ。
ウイルスは単独では増殖することができない。つまり生き残れない*13。宿主にとりつき、宿主の細胞の機能を乗っ取って増殖し、外に飛び出て、次の宿主を見つける。この間に、ウイルスに細胞を破壊される上、とりついてきたウイルスをやっつけようとする免疫の反応の両方で、身体にダメージが出る。
身体にとってのウイルス対策は二つある。第一は、水際で侵入を防ぐこと、そして第二は、身体内で好き放題させない(増殖させない)ことだ。どちらも免疫システムがそれを担う。ヒトの自然免疫では、どちらにも対応できない。
そこで、ワクチンを使って身体の免疫システムに予習をさせておく。これで、万全ではないが侵入を防ぐ能力と、増殖を抑える能力がつく。フリーパスで侵入を許し、好き放題暴れていたウイルスを、自由にさせない能力が身につくわけだ。
つまり、ワクチン接種でしっかり予習が済んでいれば、厚生労働省が言う発症予防効果と重症化予防効果が身につく。これだけでもワクチン接種のベネフィットは十分にある。
体内でのウイルス増殖を抑えることができれば、当然、体外に出るウイルス量も減る。家族全員がワクチンを接種していれば、一人が感染してしまっても、家族に感染させにくいということである。
「エビデンス」がしょぼい
そしてうんざりするのは、反ワクチン派が提示する「エビデンス」がしょぼいことである。
<お前はワクチンについて不勉強にすぎる。これを見ろ>
と言われるのだが、どこの誰かもわからない個人が書いたブログ記事だったり、すごい顔つきのオッサンが出てくるYouTube動画だったり、若い女性が早口でしゃべるTikTok動画だったりする。
申し訳ないが、それらはすべて、「エビデンス」として認めるわけにはいかない。理由は、私たち市民に判断を迫るものだからだ。記事「私が某ウイルス学者を肯定していない理由」に書いた通りである。医学は信用取引でなければならず、医学界は論文をベースに白黒つけている。
本当にワクチンがそれほど危険なものなら、まずは査読付の定評ある医学論文誌に論文を出して、世界の科学界・医学界を説得するところから始めてもらいたいのだ。そうしてくれない限り、私たちは自己責任で判断する必要に迫られる。はっきり言って、主張を裏付ける論文のないYouTube動画やブログは、デマ扱いするしかない。
と言いつつ、念のため最初のうちは、これらのブログや動画もチェックはした(途中からはやめている。アクセスするほど広告料が入る仕組みだ。反ワクチンをネタにした金儲けに加担したくない)。外国の博士がしゃべっている動画、テレビ番組などもみたが、内容はすべてデマであった*14。「海外にも反ワクチンで儲ける人がいるんだな」という以上の感想はない。
前提条件を無視して、都合のいい解釈をして騒ぐ
「健康のため飲み過ぎに注意しましょう」
という注意喚起をもって、「ほら見ろ。お酒は毒だ。いますぐ飲むのをやめろ」こと大騒ぎする人に会ったことはない。おっちょこちょいというか、軽率というか、まあ、ろくでもない。狼少年よりひどい。
しかし、マスコミにも、この手の人が多いから驚く。たとえばこの記事である。
ブースター接種の繰り返し、免疫反応に悪影響も-EU当局(2022/1/13)
内容を読むと見出しがおかしい。「4か月ごとに接種」のような、頻繁なブースター接種はよろしくないと言っているだけだ。過ぎたるは猶及ばざるが如し、というだけの内容である。しかし、この記事をSNSやブログでシェアしては、鬼の首をとったように<ほら見ろ、ワクチンのブースターは危険だ>と騒ぐ人が多数だ。疲れる。
感染者データでもそうだ。未接種の感染者より、接種済の感染者のほうが多いといって騒ぐ。その前に、そのデータが、どんな人を対象に、どのような状態で取得されたものかを確認することもしない*15。
専門家であるはずの人たちにも、いろんな論文をひっぱってきては独自の解釈をし、<ワクチンをうてばうつほど感染しやすくなる>などと主張する人がいる。我田引水×牽強付会×厚顔無恥と3要素が揃っている。
「我田引水と牽強付会まではわかる。なぜ厚顔無恥がついているのだ?」と疑問に思った方は、この方がコメントで事実訂正をしたあとのコメントに注目してもらいたい。
論文の解釈の誤りや事実誤認などを訂正してもらっているのに、お礼の一言も、訂正コメントも、あるいは反論コメントもない。そしてまた、別の牽強付会をツイートする。科学者・研究者・医学者のあるべき態度ではない。
コロナ禍を早く終わらせたい、犠牲者を最小限にしたいといった動機ではなく、単にアクセスを稼ぎたい、注目を集めたいというだけで発言しているように見える
責任の所在
ワクチン接種を決め、進めているのは国だ。明らかに接種の責任は国にある。ワクチン接種を批判する前に、予防接種法くらいは確認してもらいたいのだ。たとえば、第15条にはこのような規定がある。
(健康被害の救済措置)
第十五条 市町村長は、当該市町村の区域内に居住する間に定期の予防接種等を受けた者が、疾病にかかり、障害の状態となり、又は死亡した場合において、当該疾病、障害又は死亡が当該定期の予防接種等を受けたことによるものであると厚生労働大臣が認定したときは、次条及び第十七条に定めるところにより、給付を行う。
2 厚生労働大臣は、前項の認定を行うに当たっては、審議会等(国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第八条に規定する機関をいう。)で政令で定めるものの意見を聴かなければならない。
これに基づいて、新型コロナワクチン接種においても、健康被害の救済措置がある。事実、2022年7月25日の厚生労働省の審査会は、91歳女性の死亡についてワクチン接種との因果関係を認め、死亡一時金が遺族に支払われることとなった。この女性は脳虚血発作や高血圧症などの基礎疾患があり、接種後に急性アレルギー反応と急性心筋梗塞を発症して死亡したという。
一方、反ワクチンのブログや動画、書籍を信用した結果、感染して死亡したり、重大な後遺症が残ったりした場合、誰か補償してくれるだろうか。民事裁判の余地は残すが、基本的には責任をとってくれたりはしない。だったら、せめて科学論文で主張を展開し、科学的に確かなエビデンスをもって語ってもらいたいと思う。このままでは騙っているだけだ。
もちろん、国がやることがいつも正しいわけではない。間違ったことをしでかすこともあるのは事実だ。贈収賄事件もある。なんだそれは、と言いたくなる政策をとることもある。
重要なのは、情報がどれほど公開されているかである(透明性)。すべてが密室で行われていると、国民が不正に気づくのも難しい。ワクチン関係については、厚生労働省は徹底して情報を公開している。<1,571名の死者>という反ワクチン派の主張も、審議会の資料も討議内容も情報公開されているからわかることだ*16。あらゆる関連情報が公開されており、その点で、とても安心できることは事実であるし、この官僚の仕事ぶりは、評価するべきだろう。
私の結論:ワクチンは3回うて/子どもには一刻も早くうて
あくまでも私見であるが、2021年にワクチン接種が始まってから今日にいたるまでに、あれこれ見聞した反ワクチン派の言説と国の情報公開ぶり、そして時々刻々と発表される医学論文をみて、私はワクチン接種を決めたということである。参考になれば幸いだ。
本記事を読んだ段階で特効薬ができていないなら、私の結論は「黙って3回うて」である。2回接種と3回接種では効果が異なり、3回接種のほうが、成績がいいことが判明している。免疫学者はこれをsomatic hypermutation(体細胞超変異)という現象だと説明している。免疫システムがいわば応用問題を解けるようになる現象で、新しい変異体がやってきても、「体内で自由にさせない」という部分では、免疫システムが活躍できるという話である。
これについては、今後も科学界では議論が続くだろう。しかし、我々は結果がよければいいのだ。2回で終わらせている人が多いが、それはもったいない。3回うって様子を見るべきだ。いますぐうつべきだ。オミクロン対応ワクチンを待っている間に感染してしまっては、元も子もない。
お子さんがいるなら、子どもへの接種をぜひ検討してもらいたい。医学的にはど素人の芸人が、「子どもへの接種は狂気の沙汰」などと発言しているが、この夏の第7波で小児科に殺到した20歳未満の子どもは、たった一カ月半で200万人にものぼる*17。小児科医によると、高熱と激しい咽頭痛で水ものめず、脱水症状を起こしてぐったりしている子が多く、脳症や肺炎など快復しても重い後遺症が懸念される状態になった子や、死亡した子、1型糖尿病やMIS-Cになった子もいる(無念だ)。
多くはワクチン接種で防げるのだから、やれることはやっておいたほうがいいと私は思う。判断はリスクの比較である。
- 感染した場合の重篤化リスク、後遺症リスク、家族が感染するリスク、および患者が殺到して診てもらえないリスク
- ワクチン接種した場合の副反応リスク
を比べて、よりリスクが小さいほうを選択するしかない。私は、「かわいそうだから、子どものマスクを外せ」というなら、接種を推進するべきだと思う。ノーワクチン・ノーマスクでは、この冬に想定される第8波をきっと乗り切れない。インフルエンザ被害もあいまって、第7波以上の小児科マヒが起きるだろう。そうなると、「診てもらえずに重篤化する子ども」が増えてしまう。ワクチンの無料接種は、いまのところ、2022年9月末で終了する。やるならいまだ。
フォローしておきたいアカウント
最後にツイッターのアカウントを紹介しておく。医学は信用取引でなくてはいけないが、しかし、これだけデマが多いと、信じきるのも不安がある。最新の医学論文から、最新の知見を紹介してくださっているツイッターアカウントがあるから、こちらをフォローしておくといい(順不同)。
免疫系の話題
最新医学論文の紹介
新型コロナ治療の現場
注記
*1
HPVワクチンには多数の副反応があるとしてワクチン反対運動が激しくなり、いったん厚生労働省は接種勧奨を差し控えたが、その後の科学的な知見の積み重ねで安全であることが確認されたため、2021年11月26日、積極的な接種勧奨の差し控えが解除された。
差し控えた2000~2003年度生まれの女子のほとんどは接種しないまま対象年齢を越えている。接種しなかったことによる被害見積は約17,000人の罹患者、死約4,000人の死者である。しかし、激しく反対運動をした人たちは、この被害に対する責任を負わないどころか、今度は新型コロナワクチンでまた反対運動を展開している。
被害見積はこちら
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2020/20201021_1
*2
富田林市の小児科医のところには、第7波に入り、COVID-19に二度感染した子どもが6名いるという(Facebookの投稿)。また、この記事でも複数回の感染がレポートされている。
「”軽症”でも入院が必要な子が増えている」現役小児科医が警鐘…子供の感染を急増させた「BA.5」の実態
https://president.jp/articles/-/60782
*3
New data shows long Covid is keeping as many as 4 million people out of work
(2022/8/24)
*4
2022年8月29日時点で、5-11歳の子どものワクチン接種は20%に満たないが、それ以上の世代では接種が進んでおり、2回以上でほぼ全世代80%以上の接種率だ。
*5
交通事故死者は、
1990年: 11,227人/2000年: 9,073人
くらいの水準だったが、スバルのアイサイトなど、緊急ブレーキ機構も備えた安全装置の導入が始まってから減り始め(アイサイトは2008年導入)、
2009年: 4,979人(5,000人を切る)
2016年: 3,904人(4,000人を切る)
2020年: 2,839人(3,000人を切る)
と順調に減っている。
*6
たとえばこちらを参照。
REUTERS: Omicron as severe as other COVID variants -large U.S. study(2022/5/5)
また、最前線でCOVID-19患者の治療にあたる複数の医師が、「自分の範囲内では、デルタ変異体のとき同様な肺炎を起こして、人工呼吸器やECMO装着となる患者は、ワクチン未接種者ばかり」と言っている。
*7
この報告によると、6/26-8/28(第7波)に中等症以上の子どもは131人(79人は集中治療室)出ており、内訳は急性脳症: 26%、肺炎: 20.6%、けいれん: 16.8%。急性脳症と肺炎は後遺症が残ることも多く、本当に子どもにとって大変な状況になる。
NHKの記事はこちら
https://www.nhk.or.jp/shutoken/newsup/20220831a.html
*8
「こんなに亡くなっているのに、新聞もテレビも騒いでいない。おかしい」
からの、「ワクチンは政府の人口削減計画」という稚拙だが壮大な陰謀説なのかもしれない。
1)人口減少に悩み、内閣府特命担当大臣(少子化対策担当)を2008年から設置していることと矛盾する
2)ワクチンをうたない、つまり政府を信用しない不都合な人材ばかりを選択する結果になるから、望ましい施策とは思えない
という2点から、私はそのような計画はないと判断する。
*9
厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会/薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会として開催されている。
*10
G7各国の死者数をみると、だいたい人口の0.3%が亡くなっている。日本が同じくらいの感染被害を受けたとすると、36万人が亡くなることになる。ちなみに、1918‐1921年にインフルエンザでパンデミックが起きており(スペイン風邪)、日本の死者数は約39万人だ(45万人説もある)。
なお当時の人口は0.54655億人。いまの人口は1.258億だから、人口換算するといまでいう90万人ほどが亡くなったことになる。
*11
個人が行政の個人にクレーム電話をいれて、それで国のワクチン政策が変わるようなら、日本はもはや民主主義国家ではない。国会議員に働きかけて、国会で論戦をしてもらうのが正しい。クレーム電話はただの業務の妨害行為にすぎない。たまたま電話をとった相手をいじめて憂さ晴らしをしているだけだ。
*12
ALPS処理水の海洋放出については、IAEAタスクフォースという第三者に調査を要請し、客観性と透明性を確保した上で科学的に作業が進められている。放射能への正しい理解もない素人が出る幕はない。
経済産業省のニュースリリース
IAEAは2月に行われた東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水の安全性に関するレビューについて報告書を公表しました
https://www.meti.go.jp/press/2022/04/20220429002/20220429002.html
*13
したがって、「マスクでウイルスが増殖するから、かえって危険」などと言っている人たちは、まるで理解していないということである。マスクにはウイルスが増殖に利用する代謝機構がない。同じく、菌やカビ(真菌)がマスクに付着していると騒ぐ人もいるが、こちらは水分と栄養と適切な温度がなければ増殖しないので、これも気にする必要はまったくない。おろしてから使い捨てにするまでの間に、増殖環境が整うことは皆無だ。
*14
Google検索に「— fact check」とか「— fake」などといれて検索してみると、動画やドイツ語書籍など元ネタになっているもののデマがしっかり暴かれているから、すぐにデマだとわかる。
*15
たとえば未接種者はアレルギー疾患などのリスクがあって接種できない人で、そのために感染予防には細心の注意を払って過ごしていたとする。一方で接種者が「これでもう感染することはない」と思い込んで、ヒャッハーと遊び歩いていたら、接種者の感染数が多くなって当たり前だ。「コロナなんて風邪と一緒」と未接種のまま宴会を繰り返す人が多い集団なら、結果は逆になるだろう。こうした母集団の事情なども考慮にいれて、データを批判的に読む必要がある。生データだけでは何も語れない。つまり、数字だけではエビデンスにはならない。
*16
たとえば、ファイザーワクチンを接種しての有害事象リストは、このように厚生労働省のウェブサイトで公開されており、誰でも読むことができる。
新型コロナワクチン接種後の死亡として報告された事例の概要(ファイザー)
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000915119.pdf
*17
小児科への患者殺到が始まった2022/7/12から8/30までの陽性者数をみると、
10歳未満:980,649人
10代:1,019,968人(合計2,000,617人)
となっており、すさまじい数の患者が小児科をマヒさせたことがわかる。
データは
https://covid19.mhlw.go.jp/
を参照