[COVID-19]感染者に感謝しよう

どうも日本人は病気を共同体に対する「ケガレ」とみて忌避する習性があるようだ。感染者の家への投石といったイヤガラセも、「ケガレの忌避」だと考えると理解できなくもない。「明日は我が身」という想像力がない、まるでお話にならない反応だが、「そんなものをムラに持ち込んでくるな」という怒りが根底にありそうだ。

感染者は感謝すべき存在

投石を非難するマスコミも、感染者に謝罪させているのだから、似たようなものだ。「病院を抜け出して遊び歩き、大勢に感染させてごめんなさい」ならまだわかるが(実際、傷害罪だろう)、「感染ってしまってごめんなさい」などと言う必要が、どこにあるのか。

私は逆だ。「私のかわりに感染してくれて、ありがとう」と言いたい。理由は二つある。第一に、感染者がいてこそ、ワクチンや治療薬の開発も進む。完全に抑え込んでしまうと、感染者もおらず、研究も進まない。そのままインフルエンザウイルスが猛威をふるう秋冬を迎えてしまうのは、かなり危険だ。

第二に、感染事例に学ぶことができる。同じ轍を踏まなければいいのだ。私のかわりに失敗してくれたのである。

いま私たちに求められているのは、ロックダウンすることなく、社会的活動を再開しながら、感染を爆発させない、という高等な技だろう。ここで感染者をケガレとして忌避し、謝罪させているようでは、1ミリも進歩できない。高等な技を体得するために、感染事例を「感染実験」と読み替えて、その情報を社会的常識にするべきなのだ。

すなわち感染者は、我が身をもって実験してくれた人たち、である。

事例紹介が甘すぎる

しかし、報道する側に「感染実験としてとらえ、事例として紹介する」という気持ちがあるのだろうか、と疑問に思うこともまた事実だ。思わず笑ってしまったのが、「マスクをせずに会食して感染」という記事だった。マスクをしたまま会食せよとでも言うのか。内容もひどい。「感染者と会食したから感染した」とあるだけである。

教えてほしいのは、どんな料理をどんなふうに食べたか、である。私は、料理がテーブルの上に長くのったまま、という会食が、最もリスクが高いと思っている。飛沫が料理に飛ぶからだ。宴会でクラスターが起きやすいのは、

  • 酒が入ると声も大きくなり、盛大に飛沫を飛ばす
  • 酒肴が長くテーブルにのっている
  • 手にウイルスをつけたまま、手づかみでポテトなどを食べる
  • グラスも最後には誰のものかわからなくなる
  • 酔うと人との物理的な距離も縮まる(やたら抱きつくなど)

といった要素の集合体だと考えている。その会食が、どこまで宴会例に近かったのかを知りたい、ということだ。

「リスクの小さい会食」を常識に

かなり安全だな、と思っているのが、焼肉である。無煙ロースターでは換気扇がぶん回るから、換気がいい。肉にウイルス入りの飛沫が飛んだとしても、焼いて消毒し、すぐに口にいれる。

食べることと話すことを分けるのも効果はあるはずだ。懐石料理など、会話しながら待ち、料理がくると舌鼓をうち、また話す。ラーメンやうどんも、熱いうちにひたすら食べるのが普通である。飛沫が飛ぶ前にお腹にいれてしまえば、そのぶん、感染リスクは下がる。

では、「マスクをせずに会食した」という事例では、どのような料理をどのように食べていたのか。そこを報道してこそ、事例研究になる。

考察が甘いと、不安を増大させるだけ

フィットネスクラブのクラスターも、研究者が詳細に調査すると、じつは更衣室のおしゃべりが原因だった、という例がある。ここまで解明できれば、ムダに怖がることもなくなる。「更衣室は黙々と利用し、長居しない」というだけで、感染リスクを小さくできる。

みんなが悩んでいるのはカラオケだろう。金沢市のカラオケ大会の事例など、もっと詳細に研究し、報道すべきもののように思える。「カラオケが悪い」なんてことは、本来、あり得ない。カラオケの「どの行為で感染がひろがった」かを明らかにすべきだと思う。

当該記事には、マイクもアルコール除菌ティッシュで消毒し、空気清浄機を導入していたのに感染した、とあった。まずマイクの消毒に疑いがある。いい加減な拭き方をしていたのではないか。同じティッシュを何度も使いまわし、消毒するパワーがなくなっていたのではないか、などだ。

つぎに、空気清浄機に疑義がある。効果があるとされているのは、HEPAフィルタータイプのみだ。マイナスイオンを拡散、なんていうタイプは、空気清浄機とは言わない。

そして記事によれば、弁当を食べたという。ウイルスの飛び交う部屋で、である。甘い消毒に、効果のない「空気清浄機」、そして歌うのと同じ部屋で飲食、という3点が怪しい。そこをきちんと調べて、「どこが悪かったのか」を共通知識化すべきである。

ふつうに考えれば、1)飲食は別の部屋でする、2)マイマイク制にする、3)ひとりが歌い終わるたびに換気する、4)HEPAフィルターを備えた空気清浄機をぶんまわす、5)カラオケ大会後、なるべく早くシャワーを浴びる、などの対策をすれば、クラスターは発生しにくいはず。どこがこれと異なったのかを知りたい。

「枕」に多かったのはなぜか

ダイヤモンドクルーズ船の調査結果を目にした人も多いだろう。どこにウイルスがいたかという調査がある。いちばん多かったのはバス・トイレの床だ。糞口感染する証拠である。

注目は二番目に多かったところである。それが「枕」だった。枕に多数のウイルスがいたということは、髪の毛についていた、ということである。空気中を漂うウイルスを髪の毛につける。あるいは、飛沫を髪の毛にかぶる。

これがわかっていれば、美容室・理髪店のクラスター分析で気にすべきところもわかるはずだ。洗髪してからカットなのか、洗髪をせずにカットなのかが、かなりのポイントである。後者はカットの最中にウイルスをまきちらすことになる可能性が高い。しかも、まきちらすのは感染者とは限らない。たんに、頭にウイルスをかぶっただけの人かもしれない。

報道する側も、正しい知識をもって、つっこむべきところをつっこんでから、記事にしてほしいと切に願う。飛行機の前後に座った客が感染したというニュースは、人を怖がらせるのに十分だ。「もう飛行機には乗らない」という人も出てくるだろう。感染者からの空気感染(マイクロエアロゾル感染)しか思い浮かばないからである。

だからこそ、慎重に、調査してからの報道を望む。私はいまのところ、「頭から服からウイルス飛沫をかぶったことに気づかないまま、ふつうに行動したから感染した説」である。ここをはっきりさせてくれれば、「感染しにくくなる飛行機の乗り方」が書ける。いまの報道では、「飛行機は怖い」にしかならない。

世界のサッカー少年が助かる方法

島根県の高校サッカー部(合宿制)でクラスターが出ているが、それへの対応がまさに民度を示すと私は思っている。校長に謝罪させたところで、誰がトクをするというのか。

そんなことより、どんな行為によって感染がひろがったかを詳細に検討し、広く公表すべきなのだ。水分補給のボトル、更衣室の密、タオルの管理、勝ったときの喜び方など、疑えるところは多数ある。「部活動で感染がひろまった」では、「マスクをしないまま会食して感染した」と、なんら変わらない。そんな大雑把な報道しかしないのであれば、なにも報道しないほうがマシというもの。

詳細な研究とその公表は、世界のサッカー少年を救うかもしれないのである。