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ラグビーという競技の本質

ついにRugby World Cup Japan 2019が始まった。
長年のラグビーファンなら、こみあげてくるものがあるに決まっている。1995年の第3回大会での、あの、オールブラックスとの一戦(17対145という歴史的敗戦を喫した、ブルームフォンテーンの悲劇)を胸に刻んでいる人間であれば、なおさらだ。

あのとき、「(100点差もつくなら)もう、アジア枠はいらないんじゃないか」という議論まで巻き起こっていた。あのままの日本ラグビーだとしたら、RWCを日本に誘致できるはずもなかっただろう。選手たちだけではない。すべての日本ラグビーの関係者に、祝福と感謝の気持ちの両方を表したい。すごいことをやってのけましたよ。あなたたちは。

ところで今日は、開幕してから迎える最初の日曜日だ。朝からあちこちの番組で、ラグビーのルールの解説をしている。誰もが「難しい」「わからない」といい、「この二つだけ覚えてください」とラグビー経験者のタレントが説明をする。曰く、1)ボールを前に投げてはいけない、2)ボールを落としてはいけない――難しいから、せめてこの二つだけでも覚えておきなさい、というわけだ。

ひょっとして、説明している人間自身が、ルールどころか、ラグビーという競技の本質を理解していないんじゃないかと不安になる。これはルールを説明しているのではなくて、頻繁に起きる反則を説明しているだけだ。

ラグビーのルールは単純

ラグビーは単純な競技である。競うのは「相手を押し込んで陣地を奪うこと」だ。そして「自分の陣地内でしかボールを手で処理してはいけない」というのが、基本中の基本のルールになる。

相手陣地との境界線(オフサイドライン)はボールの位置である。ボールを手で処理できるのは、オフサイドラインより手前、すなわち自分の陣地にいる選手だけだ。そして、「ボールより前にいる味方選手」は、相手の陣地に取り残された選手であるから、プレーに関与できない。

これが基本中の基本のルールであり、ほとんどのルール・反則はここから説明ができる。やってみよう。

ラグビーの「トライ」とはなにか

対峙する相手チームを押し切ることである。相撲でいう寄り切りだ。相手のインゴールにボールを接地することを「トライ」というが、これが相手チームを寄り切ったという証拠である。自分の陣地を相手陣まで拡大することに成功したという話であり、目的を達成したから、試合が止まり、点数が入るのだ。

ところで、昔はこれによって、「ゴールポストに向かってキックする(ゴールキックの)権利」、すなわち得点への挑戦権を得たそうだ。だから “Try” といい、トライそのものは0点だった。いやいや、こんな大変な思いをするんだし、トライに重きを置きましょう、という話になって、5点となっている(ルールによって異なる。歴史的にも異なり、3点の時代もあった)。

「前にパスをしてはいけない」(スローフォワード)のはなぜか

ボールの前、すなわち相手陣地にいる選手にボールを渡しているからである。早い話が、オフサイドだ。陣地を奪い合うゲームであるから、まずボールをもった選手が1)前に突進して陣地を押し込んで自分の陣地をひろげ、2)自分の陣地内に展開している味方選手にボールを渡す。

「後ろにパス」をしているのではなく、「押し込んで陣地を拡大してから、オフサイドにならない位置にいる味方にボールを渡して敵をかわしつつ、みんなで相手のゴールをめざす」のである。

「ボールを落としてはいけない」(ノックオン)のはなぜか

まず(テレビでやっていた)この表現は間違っている。正確には、「ボールを前に落としてはいけない」である。横や後ろに落としている場合はセーフだ。

ボールを前に落とすのは、相手陣地にボールを渡す行為である。自陣内ではなくなるので、もうそのボールを手で処理できない。これがノックオンだ。

そしてこれはイーブンボールであるから、その場で敵味方がボールを奪い合う(正確には、「相手を押し込んで、ボールを自分の陣地内のボールとしてから、手で処理する」)べきものだ。

しかし、ノックオンはたいてい後ろでボールをもらった選手がしでかすもので、相手選手は遠く離れているから、ここでイーブンボールとしても、フェアな奪い合いとはならない。だから、ボールを前に落とした時点での相手ボールスクラムとしているわけだ。

スクラムとは、選抜された選手同士で押し合い、陣地の奪い合い(ボールを手で処理する権利の奪い合い)をするデザインされたマッチアップであり、とてもフェアな措置である。

なお、ノックオンには例外もある。キックチャージだ。相手がボールをキックするところに飛び込んで身体に当てた場合は、ノックオンとはしない。こういうのは、ゲームをおもしろくするためのルールである。

ハイパントのあと、ほとんどの選手が眺めているのはなぜか

ボールを高く蹴りあげて突進し、落下地点でボールを奪い合う戦術をハイパントという。ボールが落ちてきたところでマイボールにできれば、一挙に陣地を奪うことができる。

しかし、ボールが空中にある間、ほとんどの選手がボーッと立っている。誰もボールの奪い合いに参加しようとしない。ここが、類似スポーツであるサッカーやアメフトと最も異なるところだといっていい。

こうなってしまうのは、「ボールを蹴った時点で、ボールより前にいる選手はオフサイド」だからだ。プレーに関与したら反則になるから、オンサイドの選手が自分を追い越してくれるまで、突っ立っているしかないのである。

プレーしていいのは、オンサイドの選手(ボールをキャッチした選手と、その時点でボールよりも自陣よりにいる選手)のみである。だから、ハイパントを蹴った選手自身(と数名のオンサイドの選手)が、ボールの落下地点に突進する。

ハイパントというくらいで、ボールを高く蹴るのが常道だ。高く蹴るのは、オンサイドの選手がボールの落下地点にたどりつくための時間を稼ぎたいからである。「いいハイパント」は、結果論で判断する。オンサイドの選手がダッシュして、落下地点にちょうど間に合う距離と高さのパントキックが、ベストなキックである。

アクシデンタルオフサイド

ラグビーほどオフサイドラインがダイナミックに、大きく変化するスポーツはないかもしれない。味方陣地の奥にボールを蹴られてしまったら、そのボールの位置がオフサイドラインとなり、そこから相手陣までの間にいる選手はプレーに関与できなくなる。

ハイパントがあがると、大半の選手がボーッと立っているのは、これが理由であると説明した。ほかにも、なにしろ肉体のぶつかりあいばかりのスポーツで、オフサイドラインが頻繁に前後するので、いろんなことがある。

けっこう見かけるのが、ボールをもった選手が突進している間に、オフサイドポジションにいる味方選手にぶつかってしまう例だ。アクシデンタルオフサイドという反則となる。

わかりやすかったのが、RWC Tokyo 2019の開幕戦「日本 VS. ロシア」の後半のアクシデンタルオフサイドである。ボールの前に倒れ込んでいる味方選手にボールがぶつかり、はねかえったボールを処理しようとして、笛が吹かれた。意図してやったわけじゃないが、オフサイドポジションにいる味方選手がプレーに関与しちゃったね、という判定である。

アメフトとの相違

そしてこう整理すると、アメフトとの根本的な相違は、オフサイドに対する考え方の相違だということに気づく。「ラグビーからオフサイドという概念をとっぱらったのがアメフトだ」といっても、過言ではないだろう(唯一残っているのは、プレースタート時のスクリメージライン)。だから前にパスもできる。陣地の奪い合い、という概念がなくなり、かわりにボールを運ぶゲームとなっている。

伝説では、サッカーをしていた子供が、「こっちのほうが早い」と手でボールをもって走ったことから、ラグビーが生まれたという(イギリス)。だからサッカーとラグビーは兄弟ゲームなわけだが、この二つも、オフサイドの概念の相違が大きい。オフサイドラインが選手に依存して前後するのがサッカー、ボールに依存して前後するのがラグビーである。

ゲームを楽しくするためのルール

ここまで述べてきたのは、ルールというよりは、ゲームの基本デザインである。ラグビーというスポーツの骨格を決めているのが、「自分の陣地内でしかボールを手で処理してはいけない」というルールである(まあ、その意味では、タレントが「前にパスしてはいけない」「ボールを落としてはいけない」の二つを基本ルールとして紹介したのは、正しい)。

この基本ルールの上に、ゲームを楽しくするためのルールが体系化されている。基本は「相手を押し込んでボールを自陣内とし、手で処理する」ことであり、それをフェア(対等)な条件でやるためのルールが整備されている。

その代表が、「タックルされた選手はボールを離さなくてはならない」というルールだ。倒れた選手がボールを抱え込んでしまうと(ノット・リリース・ザ・ボール)、押し込んだところで、ボールを生かせない。イーブンな押し合いと、押し合ったあとのすみやかなボールの処理をさまたげるものが、反則として規定されている。

危険を避けるルール

法律もそうだが、ルールは「なぜそれが規定されるに至ったか」を考えることが、理解のためには必要である。ノット・リリース・ザ・ボールという反則は、抱え込まれるとボールを奪い合う醍醐味がなくなるから規定されている。キックについても、「蹴りあいで終わったら、おもしろくない」というルール変更が何度も行われている。

もうひとつ覚えておくべきなのは、危険を避けるためのルールだ。ラグビーはタックルが基本の激しいスポーツだが、タックルしていいのは、ボールをもっている選手のみであり、ボールをもっていない選手へのタックルは禁止されている。

また、危険なタックルも禁止である。とくにハイタックルへの笛は厳しい。プロレスのウェスタンラリアートのように、首から上に腕が入ると死に至る危険もあるから、当然だろう。

激しいスポーツに見えて、コンタクト(接触)していいのは、スクラム・モール・ラックでの押し合いと、ボールをもっている選手へのタックルくらいである。じつはとてもコンタクトが制限されている。アメフトと比べてみるといい。

基本戦略と番狂わせが起きにくい理由

相手の陣地まで押して寄り切るのが、ラグビーの戦いである。基本戦略は「押し勝つ」ことに尽きる。スクラムで押し、モールで押し、ラックで押す。選手がボールをもって走り、タックルされて倒れた次の瞬間が見どころである。ボールを奪い合うのではなく、押し合っている。マイボールにできるかどうかは、相手を押せるかどうかだ。

番狂わせが起きにくいスポーツといわれる理由は、「押し」が弱いチームは、マイボールスクラムも押されてボールを奪われたり、思い通りのプレーをさせてもらえかったりするし、ラックでも相手よりも多い人数で押し込みにいかないと対抗できないため、数的優位をつくられやすいからである。

モールで押し負けるようだと、ほんとうに厳しい。ゴール前に攻め込まれて、モールをつくられた時点でトライを覚悟することになる。今回のRWCの予選プール、オーストラリア VS. フィジーで、後半に入ってフィジーが逆転を許し、ズルズルと負けたのは、モールで負け始めたからだ。逆に、2015年のRWC England 2015の日本チームを見てびっくりしたのが、南アフリカを相手にスクラムで負けず、モールも押し込んだことだ。

ラグビーでは、世界ランキングよりも、その日の試合で押せるかどうかが重要である。あの日の日本は、けっして格下チームなどではなかった。

キックの使い道

押し合いだけで勝負が決まるのも、ちょっとおもしろくない。アタックをいくらしかけても、タックルで転がされ、歯が立たない。相手がボールをもったら、もう誰も止められない、というようなケースだ。

この局面を打開できるとすれば、キックである。敵の選手のいないところ(「スペース」という)を狙ってボールを蹴り、味方選手にキャッチさせて、いっきにトライまでもっていく。足の速い選手がいると、これを狙いやすい。

もうひとつ、相手を押し戻すのにも、キックを使う。サッカーでも、ゴール前でシュートを打たれそうな危ない場面で、大きく蹴りだすのを「クリアする」という。自分のゴールからボールを遠ざける行為である。ラグビーのキックの多くは、クリアと同じ意図だ。相手ボールになることを覚悟しても、陣地を挽回するほうが得策、という判断である。

松島、松島と言いすぎるな

最後に、ロシア戦で三度のトライを決めた松島選手をヒーロー扱いするマスコミ(とくにテレビ)に苦言を書いておきたい。キックオフのあと、ひとりで走りきってのノーホイッスルトライなら、まだ話はわかるけれども、今回のはそうではなかった。

彼自身が「みんなでとった」と言っている通りである。あそこまでボールを運んだ(オフサイドラインを押し上げた)のは全員の努力であり、彼は最後にトライをしただけだ(三本目のトライは彼でなければとれなかったかもしれないが)。むしろ松島選手にボールが渡るひとつ前、ふたつ前のプレーに注目し、そこを解説してほしい。前の段階で相手選手をひきつけているから、数的優位となり、松島選手が「余る」のである。

この試合では、FWの選手の活躍も目立った。この記事はとてもいい記事だ。
ラグビー日本代表に勢いを与えた2人のFWデータで振り返るW杯・ロシア戦
https://sports.yahoo.co.jp/column/detail/201909210005-spnavi