中学生のみなさんへ

「新型コロナワクチンをうったほうが感染しやすくなるし、ほかの病気にかかりやすくなるし、がんになったり心筋炎になったりするリスクも高くなる」
という「先生」の授業を受けた中学生のみなさんへ。
心配することはありません。ワクチンをうったことを後悔する必要はありません。Q & A形式で、詳しく説明していきましょう。

Q: この先生が言ったことは本当?
A: 間違っています。ほかの病気にかかりやすくなることもないし、がんや心筋炎を心配する必要もありません。ただね、「うったほうが感染しやすい」というのは、少しだけ本当です。それは「ワクチンをうったからもう安心」と誤解して、すぐにマスクもせずに遊んでしまう人がいるから。ワクチンはヒトの免疫に刺激を与えて感染の予行演習をするものなんだけれど、それにだいたい2週間くらいかかるんだ。

Q: でも先生は、ワクチンをうつと、感染者がわっと増えているグラフを見せてくれたんだよ。
A: 新型コロナウイルスは変異をするたびに流行するから、それに備えてワクチンを接種しただけのことだよ。海水浴客が増えるタイミングで監視員を配置するのと同じ。監視員が水の事故を増やすわけじゃない。
「そこでワクチンをうっていなかったら、感染者が増えなかったと信じるに足りる根拠はありますか」
と質問したいところだね。ワクチン接種の早い国と遅い国、早い州と遅い州を比べた研究をみると、遅い国や州のほうが、接種の早かった国や州よりも、感染者も死者も多いんだ*1。そのタイミングで接種したから、被害がその程度で済んでいると理解するべきグラフだよ。
中国はmRNA新型コロナワクチンではなく、自国開発の不活化全粒子ワクチンを接種していたんだけれど、2022年12月から翌1月までの2か月間に新型コロナが大流行して、187万人も亡くなっているんだ*2。日本がmRNA新型コロナワクチンを選択したのは、大正解だったということ。
じつのところ、「ワクチンをうつたびに感染者が増えている」ように見えるのは、ワクチンをうつたびに行動制限をゆるめたことと関係がある。2020年、国は全国一斉休校をし、飲食店の営業も制限し、「ステイホーム」を呼びかけ、甲子園の高校野球も中止になり、東京オリンピックも延期した。ワクチンのせいで感染者が増えたというよりは、ワクチンをうって免疫をつけたことを背景に、行動制限をゆるめたことが大きいんだよ。

Q: アメリカの病院のデータらしいけれど、何度もワクチンを接種している人のほうが、よく感染しているというグラフも見せてくれたんだ。
A: クリーブランド病院の研究論文に出ているグラフだね。病院勤務者のうち、頻繁にワクチンを接種するのは、新型コロナの患者の治療にあたる医師たちだ。日常的に新型コロナウイルスにさらされて仕事をしているから、感染リスクが高いんだよ。
タクシー会社で調査したら、シートベルトをよく締める人のほうが、よく事故にあっているだろうね。だからといってシートベルトが事故を増やしているわけじゃない。締めない人はオフィスにいて運転していないというだけのこと。

Q: 「麻疹のワクチンをうてばもう感染しないのに、新型コロナワクチンだと感染してしまう。これは欠陥ワクチンだ」という説明だったんだ。私もこれは不思議に思っています。
A: それはね、ワクチンの性能の違いではなく、ウイルスの違いなんだ。麻疹ウイルスは遺伝的に安定している一方、新型コロナウイルスは変異を繰り返している。この違いが大きいんだよ。一冬に二度、インフルエンザに感染したお友達がいたりしない? 感染しても免疫はつくから、一冬に二度はちょっとヘンでしょ。これは、インフルエンザウイルスも変異しているからだよ。
麻疹やおたふく風邪は一度感染すると、何10年も免疫がもつんだけれど、それは相手のウイルスも大きな変異はしないということなんだよね。インフルエンザや新型コロナは何度も感染してしまう病気だから、ワクチンによる感染予防効果には限界があるんだよ。

Q: でも、感染予防に効かないなら、ワクチンをうつ意味なんかあるんでしょうか。
A: ここで改めて、ワクチンの役割を説明しておこう。ヒトの免疫は賢くて、二つの記憶をもっている。ひとつは相手の顔つきの記憶、もうひとつはそいつに効いた武器(抗体)の記憶なんだ。これを獲得免疫という。この二つを覚えることで、次に侵入してきたときは、すぐにやっつけにかかるんだよ。
この記憶を利用するのがワクチン。新型コロナウイルスの表面にあるタンパク質(Sタンパク質)の顔つきを教え、やっつける予行演習をさせるわけ。海外に比べて、日本の新型コロナ被害が小さい大きな理由は、国民の大半が感染する前にワクチンうって、予行演習できたからだよ。獲得免疫が迅速にウイルスをやっつけることができれば、重症化を防げるし、後遺症になるリスクも下がるんだ。

Q: 先生は「中学生にとっての新型コロナはごくごく一部の例外を除いて、寝ていれば治るただの風邪。感染して免疫をつければ十分。ワクチンで心筋炎になったり、がんになったりしやすくなるだけ損」ということでした。私はうってしまっていたので、これを聞いて本当に悲しかったです。
A: 悲しむ必要はないよ。先生の言っていることはデタラメだから。
中学生でも、新型コロナの後遺症(Long COVIDという)になりやすいから、「ただの風邪」というのは大間違い。そしてワクチンをうっていたほうが、Long COVIDになるリスクは下がるんだ*3。つまり、うったあなたが正解だ。
「ワクチンで心筋炎になるけれど、新型コロナに感染しての心筋炎はいない」という説明をされたと思うけれど、「練習試合でケガをすることがあるけれど、ぶっつけ本番では誰もケガしない」と言われているようなもの。おかしいと思うでしょ。
じつは、mRNA新型コロナワクチンでまれに軽い心筋炎になることがあるが*4、新型コロナに感染すると重い心筋炎になりやすいんだ*5。練習と本番の関係ね。そして、重い心筋炎になる人はたいてい亡くなってしまうから、「感染しての心筋炎患者」は少ないんだよ。いないんじゃなくて、数えられないわけ。

mRNA新型コロナワクチン接種で「がんになりやすくなる」というのも眉唾だよ。そういう傾向は見られない。2020年から2021年にかけては、突然のパンデミックで医療も混乱し、定期検診などが中止になっていたので、2022年以降にそれが発見されると、増えたように見えてしまうだけだったりする。
がん細胞の増殖を抑えるのは免疫の役割なんだけれど、新型コロナウイルスはそれにダメージを与えるので、もしもがんが増えるとしたら、新型コロナ感染の影響を心配するほうが妥当だろうね。新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスが肺がんの休眠細胞を活性化して転移を促進するという研究もでている*6。

Q: 「厚生労働省や学会の発表を鵜吞みにするな。情弱になるな」と教えられました。この説明も鵜吞みにはできません。
A: 鵜吞みにせずに済むように、根拠論文を注記で示してあるんだよ。研究者たちがプライドを賭けて調べ上げた科学的コンセンサスで説明しています。その「先生」に読んでもらうといいかもね。
「厚生労働省の発表は尊重したほうがいい」とは言っておくよ。理由は、国民を騙したら、国は責任を問われ、巨額の国家賠償をする羽目に陥るからです。裁判になっても勝てるだけの根拠をもって情報を発信している。一方で、言論の自由という建前があるから、デマをSNSでふりまいて、それを信じた人がひどい目にあっても、賠償責任は生じない。この違いはとても大きいよ。

Q: うちは親が小児科学会や厚労省のウェブページを読み込んで、子ども向け接種が始まったらすぐに接種させてくれました。なんだか親をバカにされたみたいな気がして、悔しかったです。
A: 世の中にはそういう「権威」と違うことを言って目立ちたいという大人がいること、そういう大人はたいていデリカシーがなくて、接種したあなたや、あなたの親を小馬鹿にするような言い方を平気ですることがわかって、いい勉強になったね。そんな大人にならないために、しっかり勉強しておこうな。

若者も二度三度と感染すると、Long COVIDを発症するリスクが高くなることがわかっている。なるべく感染しないようにね。そして、こういう「先生」の言うことを鵜吞みにしない教養を身につけてください。英語・数学・国語がやっぱり大事だよ。

注記

*1
■Comparison of vaccination and booster rates and their impact on excess mortality during the COVID-19 pandemic in European countries
https://doi.org/10.3389/fimmu.2023.1151311

■The impact of delayed access to COVID-19 vaccines in low- and lower-middle-income countries
https://doi.org/10.3389/fpubh.2022.1087138

■Vaccination rates and COVID outcomes across U.S. states
https://doi.org/10.1016/j.ehb.2022.101201

■Higher COVID-19 Vaccination Rates Are Associated with Lower COVID-19 Mortality: A Global Analysis
https://doi.org/10.3390/vaccines11010074

■Assessing the Influence of COVID-19 Vaccination Coverage on Excess Mortality across 178 Countries: A Cross-Sectional Study
https://doi.org/10.3390/vaccines11081294

*2
■Excess All-Cause Mortality in China After Ending the Zero COVID Policy
https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2023.30877

*3
■Preventive effect of vaccination on long COVID in adolescents with SARS-CoV-2 infection
https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2025.127907

■Vaccine Effectiveness Against Long COVID in Children
https://doi.org/10.1542/peds.2023-064446

*4
■Myocarditis after Covid-19 Vaccination in a Large Health Care Organization
https://doi.org/10.1056/NEJMoa2110737

■Outcomes at least 90 days since onset of myocarditis after mRNA COVID-19 vaccination in adolescents and young adults
https://doi.org/10.1016/S2352-4642(22)00244-9

■Myopericarditis following COVID-19 vaccination and non-COVID-19 vaccination: a systematic review and meta-analysis
https://doi.org/10.1016/S2213-2600(22)00059-5

*5
■Risks of myocarditis, pericarditis, and cardiac arrhythmias associated with COVID-19 vaccination or SARS-CoV-2 infection
https://doi.org/10.1038/s41591-021-01630-0

*6
■Respiratory viral infections awaken metastatic breast cancer cells in lungs
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09332-0

*7
■Long COVID associated with SARS-CoV-2 reinfection among children and adolescents in the omicron era (RECOVER-EHR): a retrospective cohort study
https://doi.org/10.1016/S1473-3099(25)00476-1