[COVID-19]残念ながら「自助」は正しい

スペイン風邪の悪夢が再現されようとしている。100年前の日本も、第一波、第二波をそこそこしのいだのに、第三波で手ひどくやられた。このときも、今回も、「舐めてしまったしっぺ返し」のように思う。

市民から変わるほかない

テレビをつけると、「緊急事態宣言を出すべきだ」「検査体制が不備」だなんだと、あいかわらず国が悪者だ。緊急事態宣言を出したら出したで、今度は「なぜ発出した? 飲食店は大変だぞ」とやるのだろう。こうした一貫性のない批判の連続のどこになんの意味があるのか、私にはわからない。平和な毎日ならエンタティメントになるかもしれないが、いまはウイルスとの戦争中である。これでは勝てない。

ところで、気がつくと総理大臣は菅義偉に代わっており(2020年9月16日就任)、総理は就任時に<我々が目指す社会像は「自助・共助・公助、そして絆」です>と述べた。「まず自助というのは政府の役割を放棄しているに等しい」「いきなり自助かい、なんでも自己責任かい!」とマスコミや野党が噛みついたのをよく覚えている(せめて「自助・共助・公助の三位一体」と言えばよかったのに)。

でもこれ、「自助→共助→公助」という順番だとしても、新型コロナウイルスとの戦争においては、正しいのではないか。 ひとりひとりの行動が変わらなければ、感染拡大を防ぐことはできないからだ。なんでもかんでも国のせいにすることに、違和感がある。国がどういう態度であろうと、感染を防ぐのは、ウイルスと向き合って生活するほかない私たち市民である。

感染症は注意をしていてももらってしまうものだし、「かかってしまってごめんなさい」と謝罪する必要はないと思うけれども、うかつなことばかりやっての罹患には、喝をいれたくもなるだろう。飲食店への時短要請という事態を招いたのは飲食店ではない。客だ。

ちょうど1年前に起きた屋形船宴会のクラスターから、私たちはなにを学んだのだろう。あれは雨が降り窓を閉め切っていた狭い密室で、料理を机上に並べての酒席だった。大声で語り合って、マイクロエアロゾルを吸い込み、飛沫がさんざん降りかかった料理を肴に、乾杯をする。感染の条件がすべて整っている。

「料理が出てきたら、黙って食べる。これが新しいマナーだ」と私は周囲に言っている。話せば飛沫が飛び、料理にかかる。それをわざわざ口にすること、ないだろう。入口に消毒液を置き、席も間引き、換気を頻繁にやり、スタッフ全員が不織布マスクをしている飲食店も多かった。でもそういう努力を台無しにしたのが、昭和な宴会や会食をする客だったということだ(飲食店の対策にも不備があったと思うが、明らかに客の責任のほうが大きいと考える)。

テレビはリスクコミュニケーションの担い手という自覚を

津波が迫っているのに、「防潮堤を整備しなかった国の責任ガー」なんて議論をやるのがテレビの役割なのか。ミサイルが日本に向かっているのに、外交の失敗を議論するのか。どちらも、テレビが果たすべき役割は、「いますぐ安全な場所に逃げてください」と連呼することだろう。

「ここまで感染が拡大した責任は、自分たちにもある」という自覚が欲しい。屋形船クラスターから1年間、あなたたちは、いったいなにを視聴者に伝えてきたのか? と問いかけたい。

マスクひとつとっても、正しい知識が行き渡っていない。ウレタンマスクの性能は低いとか、マスクの外側をさわって位置をずらすのは危険だとか、そもそも「自分が感染しないためというよりは、他人に飛沫という迷惑をかけないためのもの」であるといった認識をひろめるのが、テレビの役割だろう。それどころか、効果がないことがはっきりコンピュータシミュレーションで示されているマウスシールドを出演者にさせているのだから、呆れるほかない。

マスク着用を義務づけているデパートに噛みついている人がいた。「マスクなんかで感染予防ができるわけない」「マスクを買わせる魂胆だろ。悪辣なやつらだ」と怒っている。そうじゃないでしょ。感染者が入店して、いろんな商品にウイルス入り飛沫をとばすことを防ぎたいわけだ。要するに、あなたも感染者かもしれないから、マスクをしてください、と言われているんだよ!

テレビがリスクコミュニケーションをさっぱりやらないから、結局、国は「最小のコストで、無理やり言うことをきかせる方策」を考えるほかなくなるのだ。一律の飲食店への時短要請など、本来はナンセンスきわまりない。立ち食いのお店で、食べながらおしゃべりする人はいない。こんなお店にまで時短要請する必要など、どこにもないだろう。

飲食店が正しい対策をとり、客が「孤独のグルメ」に徹すれば、飲食店の感染リスクは下げられる。「緊急事態宣言で飲食店はどうなる?」ではなく、「どうすれば、時短要請をさせずに済むか」と考えて番組をつくってほしい。鍵は正しい対策を飲食店に伝えること、客に昭和のスタイルをいったんは忘れさせ、新しい令和のスタイルを教えることだ。

現時点で、それを効率よくできるのは、テレビしかない。ウイルスに無差別爆撃を受けている戦時下のいま、評論家を出演させて右だ左だと語るのはやめて、リスクコミュニケーターに徹するべきだと思う。

いまさらエビデンス? えっ!

今日もテレビでは、「飲食店に時短要請すると効果がある、というエビデンスはあるのか」とどなたかがお怒りだ。ここでエビデンス、いる? えっ!

ちゃんとしたエビデンスって、間違いなく、数カ月後にならないと出ませんよ。データを蓄積して分析し、論文にして、査読後に掲載されて、やっとまともなエビデンスなんだ。現代社会が初めて経験するパンデミックなのに、そんなエビデンスがあるわけ、ないじゃないか。

しかも、「時短要請した場合」と「時短要請しなかった場合」を比較する研究は、ものすごく難易度が高い。そんなこと、やってる場合なの? いや、できると思っているの? 「時短要請しないグループに入ると、感染リスクが大幅にあがるかもしれませんが、研究のためなので、あなたは時短に応じないで深夜まで宴会してくださいね」って言える?

いまは弾がふりそそいでいる状態なんだよ。傍証や状況証拠で十分じゃないか。もう医療崩壊しかかっている。嘘か本当かはわからないが、「交通事故にあった男児を受け入れてくれる病院がなく、たらい回しになっている間に死亡した」なんてニュースが流れている状態なわけだ。

この危機を脱するために効果がありそうなものは、なんでもやる、ということでいいでしょう。三段論法として書くとこうなる。

  1. 互いにマスクをし、換気をしっかりやれば、感染リスクは下がる
  2. しかし飲食店では、マスクを外しておしゃべりし、換気も怪しい場合が多い
  3. ゆえに、飲食店は感染リスクが高い

なにをくだらない議論ばかり放映しているんだ。その時間を具体的な感染予防策の説明に使え。