駐車監視員とJASRAC

私は駐車監視員制度の導入(2006年6月の道路交通法改正による)に反対だった。理由は、「それを仕事にすると、摘発が目的になるから」である。
大通りで、明らかに配達に行っている小型トラックの写真を撮る監視員を見かけると、うんざりした気分になる。ただのイジメとしか思えないからである。すべての配達を駐車場にとめて行うなどというのは、不可能なことだ。そして結局、配達コストがアップし、そのツケは消費者にまわってくる。

判断基準を明確にすべき

実例を挙げる。数年前のことだが、白線のパーキングエリアに停め、パーキングチケットを買いに行き、戻ってきたら、駐車監視員が駐車違反を切ろうとしていた。パーキングチケット購入の間の停車も「駐車違反」と言われるなら、もう、どう駐車すればいいのかわからない。エンジンフードに手をあてれば、チケットを買わずに長時間停めているのか、そうでないのかはわかるはず(と、抗議したら、切符を切らずに去っていった)。

そもそも、駐車しても問題のないところだからパーキングエリアに指定されているわけで、そこに停めたクルマを取り締まることは必要なのだろうか。私はこの点を問題にしたい。なぜ、駐車は取り締まられるべきなのか? その駐車が交通渋滞を巻き起こしているとか、自転車を危険な目に遭わせているとか、クルマ同士の衝突の危険性を高めているとか、一言でいえば迷惑行為になっていることが多いからだろう。

駐車監視員制度を導入するなら、その判断基準を明確にすべきだった。私に言わせれば、図のような迷惑な事例は、たとえ停車であっても、即座に、有無をも言わさず切符を切るくらいでいい(直進レーンがふさがれ、大渋滞になっていた)。しかし、こういう悪質な駐停車を取り締まっているところを目撃したことがない。

「目的」を忘れる愚

「駐車違反を摘発する仕事」をつくると、当然、成績をあげること(駐車違反摘発件数を多くすること)に熱心になる。その一方で、「なぜ駐車違反はいけないのか」という本来の(法の)目的が忘れ去られる。切符をきられた側が説明を受け、「ごめんなさい。私が悪かったです」と言うしかないような迷惑行為のみ、摘発すべきだろう。

これと共通する問題を、別の組織にも感じている。日本音楽著作権協会(JASRAC)のことだ。2017年2月、JASRACは音楽教室での講師の演奏をコンサートと同等とみなし、演奏権をもちだして、演奏の著作権料を徴収する方針を打ち出した。JASRACは「著作権料を徴収することが目的の組織」であるから、熱心に仕事をした結果の「目のつけどころ」である。

しかしながら、JASRACの本来の目的はなんだろう。著作権料をとることではなく、著作権者の権利を守り、著作物の普及につとめ、そして利益を増やすことではないだろうか。「徴収すること」に熱心になりすぎて、本来の目的を忘れているのではないかと危惧する。

教室は自衛手段をとるだろう

この件は裁判になっており、大手の音楽教室は「講師の演奏はコンサートとは違う」と争っている。私は裁判の帰趨がどうなろうと、JASRACのやり方は間違っていると考えている。著作権者にいい結果をもたらすとは思えないからである。
音楽教室が、受講料を高く設定しても行列するほどの人気を誇っているならまだしも、少子化で受講生が減る一方。そこでシニアを新しいターゲットにしているが、年金を頼りにしている世代の受講料に、JASRACに徴収される演奏料分を上乗せすると、客離れをおこしかねない状況である。
こういう構造の業界に「演奏料を徴収する」と言えば、「JASRAC管理楽曲は一切扱わない」という判断をするのが普通だろう。著作権の切れている作品や、JASRACに著作権管理を委ねていない作品だけを扱えば、演奏料は払わずに済む。

これが、著作権者の利益につながるだろうか。
教室は言うまでもなく、教育をする場である。権利者からみれば、「仕込み」の場だ。ここで扱ってくれてこそ、自分の作品が利用される機会も増える。子供向け教室からもシニア向け教室からも作品が排除されるとなると、作品が演奏される機会も、聴かれる機会も減るだろう。いや、知られる機会を喪失する可能性もある。

新規マーケットの開拓こそ重要

まさにこれは、「芽を摘む」行為である。マーケティングの常識からいえば、「生徒」をターゲットにするなど、まったくのナンセンスだ。アドビやマイクロソフトなどがアカデミックディスカウントを用意し、学生たちにソフトを安く使わせるのはなぜかを考えてみろ、と言いたい。

私も著作権者のひとりであるので、著作権は大事にしたいし、大事にしてもらいたいと願っている。しかし、もっと大切なことは「著作物が広く利用され、著作権者の利益が増えること」ではないか。日本における著作権関係の議論は、このことを忘れていることが多い。たとえ違法コピーにあふれたとしても、結果として著作権料の徴収が増えるほうが、著作権者のためになる。

現実は逆で、著作権を守ることばかりに熱心で、マーケットが縮小する一方だ。むしろ新規マーケットを開拓するために、一時的に著作権を無視する立法をしてもいいくらいだと私は考えている。