それは「IoT」なのか?

スマートフォンで解錠するスマートロックに不具合が生じ、「カギがあかない」というユーザーにとっては悪夢の事態が生じたことをCBS Interactiveが報じている。原因は、装置のアップデートの不具合だという。

「スマートロックが解錠不能に、顧客500人に影響–アップデートの不具合が原因」
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170817-35105860-cnetj-sci
(海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したもの)

気になったのは、しかし、カギがあかなかったことではない。この記事に、このように書かれていたことだ。

この事故からは、いわゆるIoT(モノのインターネット)と自宅での居場所を争うようにして急増しているアプリで動くガジェットや機器の、安全性(と信頼性)に対する懸念が浮かび上がる

それは、ただの「RcI」

スマートロックはたしかにインターネットにつながっている。つながっているから、スマートフォンのアプリからロックしたり、解錠したりすることができるわけだが、私はこれを「IoT」と呼ぶことに抵抗がある。

“Connected Things”ではなく、”Internet of Things”という表現である。この言葉を最初に使ったのはP&G社にいたKevin Ashtonで、1999年に社内プレゼンテーションで使ったという。Ashton氏の回想をこめたコラムが、こちらで読める。

That ‘Internet of Things’ Thing
http://www.rfidjournal.com/articles/view?4986

But what I meant, and still mean, is this: Today computers—and, therefore, the Internet—are almost wholly dependent on human beings for information.

と彼が書いているように、現在のインターネットに蓄積されている情報は「人間の営為によるもの」ばかり。いわば”Internet of Human beings”である。対して、無線タグやセンサーなどの「モノから得られる情報を集めたインターネット」を構築すれば、その(正確で、大量の)データを生かすことができるはずだ。Ashton氏は、それを”Internet of Things”と表現したのである。

スマートロックが多数に普及しても、その情報が蓄積され、分析され、なにかの役に立つことは考えられない。これはIoTではなく、”RcI” (Remote control via the Internet)である。IoTと言ってしまったほうが、IoTブームにのれるという目論見もあるのかもしれないが、やはり、私たちが区別するべきだろう。

IoTという言葉は、Thingsではなく、モノの情報が集まったInternetと、その利用に焦点があたる用語である。スマートロックの情報がサーバに蓄積される設計なら、不在情報や不在パターン情報などが分析でき、IoTというにふさわしくなるわけだが、それを喜ぶのは窃盗団だけである。